FOMCってニュースでよく耳にするけど、イマイチなんのことかよくわかんない
FOMCってわたしの積み立て投資になにか影響あるの?
いつ開かれるのか知らないし、どうせ日本株には関係ないんでしょ?
こんな感じの人、きっと多いのではないでしょうか。
FOMC(エフオーエムシー)とは米国の中央銀行にあたるFRBが開く重要な会議のこと。その会議で決まることは、米国の金融経済を動かし、それが全世界の経済へと波及します。もちろん米国とつながりの深い日本の経済や投資市場とも無関係ではありません。
投資を始めたばかりの初心者だとFOMCの重要性や影響がなかなか見えにくいと思いますが、FOMCはあなたの投資成績、ひいては生活やフトコロにまでかかわってきます。
知らなくても日常生活に支障はありませんが、投資家ならできれば知っておいたほうがいい重要イベントなのです。
そこで本記事では、お金の学校GFS(グローバルファイナンシャルスクール)の監修のもと、個人投資家として米国の金融政策を長年ウォッチしてきた筆者が、このFOMCについて、
- 大まかな仕組み(組織や役割)
- 何が決まるのか(重要ポイント)
- いつ開催されいつ結果が発表されるか(日程スケジュール)
- 投資にどう活かせばいいか
といった内容で、初心者にもわかりやすく解説していきます。
FOMCを知ることで、難しく複雑な金融経済の世界が少しわかるようになってくると思いますので、この際ぜひポイントを押さえておきましょう。
監修者:市川雄一郎
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長
第1章 FOMCとは何か
1-1 FOMCとは米国金融経済政策の大元締め
FOMCとは米国の大事な金融政策を決定する「連邦公開市場委員会(Federal Open Market Committee)」のこと。
米国には中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会、本部ワシントン)があり、その方針や政策を話し合う最高意思決定の場がFOMCです。
金融政策とは、巨大なお金を動かすことで国の経済を安定させたり回復に導いたりする政策のこと。
つまりFOMCは、この金融政策をコントロールする大元締めみたいな存在と思えばいいでしょう。
メンバーはFRBの理事7人と、全米に12ある地区連銀(連邦準備銀行)の総裁5人で構成。
会議は年8回の定期開催の他、必要に応じて随時開催されます(くわしくは第2章参照)。
1-2 FOMCで決まること
FOMCでは主に、FF金利(フェデラル・ファンド金利)の誘導目標が決定されます。金利の上限と下限を決めて、その幅の中にFF金利がおさまるように誘導するのです。
FF金利とは銀行間で資金を融通し合う際の金利のこと。具体的には、民間銀行が連邦準備銀行に預けた残高を他の預金機関に一日貸し出す際の金利を指します。
各金融機関はこのFF金利をもとに預金金利や貸し出し金利を決めていくことから、FF金利は最も基準となる金利となるわけです。
FOMCは他に、市場に出回る貨幣の量を増やす「量的緩和(QE)」、資金を減らす「量的引き締め(QT)」についても議論します。
FOMCはこれら金利と貨幣量をコントロールすることで、景気や物価を安定的な状態に誘導する役割を担っています。
1-3 FOMCの発表になぜ世界中の注目が集まるのか
上記で見たFOMCの決定は、金利、為替レート、株価など、金融市場全体に大きな影響を与えます。
そのため、投資家や金融機関、企業は、自らの投資戦略や経営方針にFOMCの決定内容を素早く反映させる必要があります。これがFOMCの発表内容が注目される理由です。
たとえば景気が過熱して物価が上がりだした場合、FOMCはFF金利を上げたり量的引き締めに踏み切ります。金利が上がるとお金は借りにくくなり、投資や消費を冷え込ませます。国債の金利が上がれば、リスクを負って株式に投資をするメリットが薄れるため、株式市場の資金が債券市場に流れ、株価が下落します。一般的に金利が上がれば米ドルが強くなり、為替レートはドル高方向に動きます。
当然、米国の景気動向や為替変動は貿易相手国である日本や中国、EU諸国にも影響しますので、結果的にFOMCの決定はグローバル経済にも及ぶことになります。これがFOMCが世界中から注目を集める理由です。
第2章 FOMCのスケジュール
2-1 FOMCは年8回、FRB本部で開催
FOMCは通常年に8回(6週に1回の頻度)、2日間の日程で開催されます。場所はワシントンのFRB本部とされます。
2024年の開催日程は以下の通りです。
- 1月30日〜31日
- 3月19日〜20日
- 4月30日〜5月1日
- 6月11日〜12日
- 7月30日〜31日
- 9月17日〜18日
- 11月6日〜7日
- 12月17日〜18日
2-2 FOMCの政策発表は日本時間の未明
FOMCで決定した政策は通常、会議2日目の午後2時ごろ(米国東部時間)、日本時間では翌日の午前3時ごろに発表となります。
ただし11~2月は米国は冬時間となるため、この間の発表は1時間遅い午後3時ごろ、日本時間では翌午前4時ごろに変更されます。
この時間は米国の株式市場がまだ動いているため、金利の決定や声明文が公表されることで市場が大きく反応することがあります。
もちろん24時間動いている為替市場なども大きく反応します。
2-3 FOMC後の記者会見は政策発表の30分後
FRB議長(現在はジェローム・パウエル氏=写真)による記者会見は、政策発表から30分後に開かれます。
通常のサマータイムでは午後2時30分(日本時間翌午前3時30分)、11~2月の冬時間は1時間後の午後3時30分(日本時間午前4時30分)となります。
記者会見では金融政策の決定の背景や今後の見通しについて詳細に説明され、内容次第ではここでも市場が動きます。
2-4 FOMC議事録発表は3週間後
FOMC会合の議事録は、会合から3週間後に公表されます。
例えば、1月30日〜31日の会合の議事録なら、2月21日に公表されます。
議事録には、会合での議論の詳細が記載されており、市場参加者にとって重要な情報源となっています。
第3章 FOMC発表の注目ポイント
3-1 金利決定と今後の見通し
FOMCの最も重要な決定事項は、1-2でも挙げたFF金利の目標レンジ(幅)です。
金利を引き上げるか引き下げるか、あるいは据え置くのか、引き上げ/引き下げならどの程度にするのかが決定されます。
また、この決定の背景を説明するため、景気動向やインフレ率の推移、そこから考えうる金利の推移などをまとめた「経済見通しの要約」も発表されます。
その中に年4回(3月、6月、9月、12月)公表される「ドットチャート(金利予測分布図)」があります。
ドットチャートとは、FOMCメンバーが予想する将来の政策金利水準を点の分布で示した下の図表のこと。
右の目盛りが金利(%)、下の目盛りが西暦を示していて、これから数年、どのように金利が推移するかをFOMCメンバーが予想しているのです。
金利はこの中央値・最頻値に向かって推移すると考えられており、今後の動向を見通す上で市場参加者(投資家やアナリストら)もとても注目しています。
3-2 経済指標の解釈と予測
FOMCは、インフレ率、雇用状況、GDP成長率などの経済指標を分析し、今後の見通しを示します。
毎月発表される下記の統計はFOMCが政策決定するために必ず参考にしています(どれを見ているとは言っていませんが)。
PMIは世界各国が発表している「購買担当者景気指数」のこと。企業の購買担当者に新規受注や生産、雇用の状況などを聞き取り、景況感(景気いいか悪いか)を指数化。50を上回れば景気拡大、下回ると景気減速を示します。米国では全米供給管理協会(ISM)が製造業と非製造業に分けてアンケート結果を発表しています。
雇用統計は米労働省が発表する「失業率」「雇用者数」「週労働時間」「平均時給」など計10数項目の指標のこと。このうち特に「失業率」と「非農業部門雇用者数」が注目されます。
CPIは「消費者物価指数」のこと。米労働省労働統計局(BLS)が、都市部の消費者が購入する商品やサービスの価格の変化を調査して指数化したものです。
その他個々の統計についてはここではくわしく解説しませんが、いずれも景気の強さや物価の高さを判断する大事な指標です。
FRBが他国の中央銀行と決定的に違うのは、「物価安定」のほかに「雇用の最大化」を役割として担っていることです。その意味ではCPIとともに、雇用統計が最もFOMCの決定に重要な影響を与える指標と言えるでしょう。
これらの統計の数値の意味や強さ弱さ、推移を注視しておくと、FOMCの方針がある程度理解できるようになります。
3-3 声明文や会見の文言変化
FOMC声明文の文言や後で発表になる議事録には、委員たちの意見や将来の政策方針の微妙な変化が示唆されることがあります。
例えば、「忍耐強く」や「適切に」といったちょっとした表現が使用されたり削除されたり、これまであった「経済は回復基調」といった表現が削られて「やや弱さが感じられる」と変えられたりします。
このちょっとした表現のさじ加減、ニュアンスの変化により、市場参加者はFRBが経済見通しを後退させた、あるいは強気になったと判断し、それが債券、株式、為替の取引に反映されます。
ちなみに金融政策の緩和(利下げ)を支持するメンバーを「ハト派」、引き締め(利上げ)を支持する側は「タカ派」と呼びますが、声明文や議長の会見内容がハト派的なのかタカ派的なのかはけっこう重要です。
議長に限らずFOMCメンバーは日ごろからその発言が注目されており、そのニュアンスがハト派的かタカ派的かによって市場が大きく反応することもあります。
第4章 FOMCから考える投資戦略
4-1 発表前後の市場動向を知る
FOMC前には、市場が神経質になり、ボラティリティ(株価などの変化の幅)が高まる傾向があります。
大きな方針転換などの発表が予想されるときにはFOMC開催日に向かって株価が上昇/下落していく一方、直前にはリスクオフ(危険回避)のため、資金を引き揚げて様子見する投資家も多くなり、一時的に株価が不安定になります。
そして発表後にももちろん、決定内容に応じて急激な価格変動が起こることがあります。
逆にFOMCの内容が事前に予想され、その予想に沿った取引がすでになされていた場合、市場は結果をすでに織り込んでいるため、FOMC終了後には大して値が動かないことになります。
また、注目のFOMCが終わったことで投資家が安心し、結果がどうあれ、リスクオフのために引き揚げていた資金が戻って株価が上昇するといったこともあります。
さらに、FOMC後の結果公表の声明文で激しく値が動いたのに、その30分後の議長会見によって一気に値を戻す超短期的な値動きも起こりえます。
たとえば、声明文が利上げに前向きと感じられるタカ派的な内容だったのに対し、記者会見の内容では前向きではなくハト派的な説明がなされたような場合です。
わたしたち投資家は、まずはこのような市場の短期間の激しい変化やそれに引っ張られてしまう市場の投資家心理をある程度予測しておく必要があります。
そうしないと、激しいボラティリティ(値動き)に巻き込まれ、無理な取引で損失を被ってしまうからです。
4-2 金融政策で変わる金利・為替・債券
FOMCのFF金利誘導や緩和/引き締めの決定は、長期金利、債券価格、為替レート、株式市場に直接的な影響を与えます。
さらには金や原油価格、最近ではビットコインのような暗号資産にまで波及するようになっています。
これらは独立して動いているのではなく、お金でつながって、それぞれ関係しあって動いているのです。
たとえば利上げの決定は通常ドル高につながり、株価や債券価格を下落させます。逆に利下げはドル安を招き、株価と債券価格を上昇させる傾向があります。
必ずこうなるとは限りませんが、これらの関係性を頭に入れておくと、ご自身のポートフォリオのどんな資産がどう動くかをあらかじめ把握することができます。
株やFXの短期トレードしている人にはもちろん、長期投資している人も知っておくとなにかと投資判断の役に立ちます。
GFS(グローバルファイナンシャルスクール)では金融がご専門の宿輪純一先生(経済学博士)の講義で、このあたりをとてもわかりやすく解説しています。
宿輪先生が考案した景気・金利と株・債券の相関を一覧にした早見表は筆者も常に頭に入れて考えるようにしています(写真は宿輪先生の講義動画「一覧表で見る金融市場」より)。
4-3 FOMCの政策から長期の投資計画を立てる
FOMCの決定は短期的な市場変動を引き起こします。これを予測したり決定をもとに資産運用を図ることもできます。
が、個人投資家はこれらの短期の変動にあまり踊らされることなく、もっと長期で全体的な経済トレンドを見ていく必要があります。
FOMCは2024年9月の会合でFF金利の誘導目標を0.5bps(ベーシスポイント)引き下げ、目標レンジを4.75~5.0%としました。
これはコロナショック対策で大幅な利下げに踏み切った2020年3月以来、実に4年半ぶりの引き下げだったのです(チャートの青い線)。
これは世界経済をおびやかしてきた高インフレが徐々に収まってきたことを統計で確認できたからでしょう。
ではここから先はどうなっていくのか。
今後の見通しとしては、FOMCは2024年末から25年にかけてさらに金利を引き下げ、正常化に近づけていくものと考えられます。
短期のFF金利を下げれば、当然長期金利も下げに転じます。上記チャートの黄色線は米10年国債の金利の推移ですが、おおむねFF金利に沿って動いていることがわかります。
金利が今後も下げていくなら、長い目で見て金利が高止まりしている今は米国債の絶好の買い場と言えるかもしれません(以下の記事で解説しています)。
では株価はこの先どう動くのでしょう。一般的に株式市場は金利上昇時に下落しやすく、金利下落時に逆に上昇しやすいという特性があります。
つまり、今後FOMCが利下げを進めていく場合、株価にはプラスに働くと予想できます。
金利や景気動向と株価が上がりやすい業種(セクター)には相関関係があります。下のセクターローテションの図から見当をつけ、上がりやすい業種に資産配分を多めに調整していくと高いリターンが得られるかもしれません。
ここまでは楽観的な見通しです。
債券も株価も果たして期待通りに動いてくれるのかというと、その確信はありません。
上に掲載したチャートをもう一度ごらんください。米国を代表するS&P500指数(チャートの赤線)の動きを金利の動きと重ねてあります。
長期で利上げが続くとふつうはお金の流れが引き締められ、景気後退が懸念されて株価は落ち込むはずですが、高金利が続く中でもおおむねS&P500指数は上昇してきました。2022年後半から上がり続け、最高値も更新し続けていいます。
株価が上昇を続ける理由として、米国経済が底堅く推移していることが挙げられます。それは企業決算や雇用統計などからもうかがえます。
でもこの上昇の流れが途切れずにこの先も続いていくとは限りません。「山高ければ谷深し」と相場格言にもある通り、高く上がった株は必ず大きく落ち込みます。
たとえば11月の大統領選の結果ひとつで株価が大きく動く可能性があります。
金利を4年半ぶりに下げたとはいえ、米国では依然として物価が高止まりしていますから、よほど景気が減速しない限り、みんなが待ち望むFOMCの利下げスピードはそんなに上がらないと予想できます。
また、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの紛争に端を発する中東問題などがくすぶり続けており、これが株価急落やインフレ再燃につながる可能性もないわけではありません。
こうした悲観的な状況も踏まえ、FOMCの2024年年末から2025年にかけての政策がどうなっていくかを考えることが、投資脳を養っていくことにつながります。
まとめ
「なんでこんなに何日も株価が落ち込んでいるんだろう」
「なんで今日は為替がこんなに突然円安に動いているんだろう」
と疑問や不安を感じたときは次のことを想像してみましょう。
世界には大きなお金の流れがいくつもあり、それに乗ってあっち行ったりこっち行ったりしているのだと。
そのすべての源流にアメリカのFOMCがあるのです。
大げさに聞こえるかもしれませんが、FOMCがそれくらい大きな存在だと考えたほうが、これだけ世界の注目を集める理由にも納得がいくかもしれません。
FOMCのたてる波がどんな流れを生み、どこへ向かうのかをぜひ想像しながらお金の世界を眺めてみてください。
それだけであなたのマネーリテラシーは飛躍的に高まり、投資判断に磨きがかかるはずです。
コメント