世界最大の経済大国であり数多くの成長産業を有する米国。
その株式市場から安定的な収入(インカムゲイン)を得るには、高配当株や高配当ETFを活用したポートフォリオの構築が必要になってきます。
でも、ただ漫然と配当利回りの高い銘柄を買い集めるだけではポートフォリオとしては不十分で、むしろ資産を失う恐れもあります。
景気に左右されにくく、長く安定して収入をもたらしてくれる銘柄選びと組み合わせが不可欠なのです。
そこで本記事では、お金と投資の学校GFS(グローバルファイナンシャルスクール)監修のもと、高配当株投資経験も長い個人投資家の筆者が、米国高配当株の魅力や注意する点、メリットとデメリット、高配当株の具体例や効果的なポートフォリオの作り方について詳しく解説していきます。
世界一の経済大国から安定的かつ持続可能な収入をもらうために、理想的な高配当株ポートフォリオをつくっていきましょう。
監修者:市川雄一郎
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長
目次
第1章 米国高配当株投資の魅力と基礎知識
この章では改めて米国高配当株投資の魅力を考えていきます。
その魅力を知るには、米国株と米国株式市場についての基礎を知っておく必要があります。
1-1 米国高配当株投資の魅力
世界最大市場の成長性と強固な市場基盤
米国株式市場はニューヨーク株式市場とナスダック市場という二大市場があり、両者を合わせた取引量は世界一の規模を誇ります。
米国市場を代表するS&P500やダウ平均、ナスダック平均などの株価指数の構成銘柄には、世界的に知られるグローバル企業ーーアップル、マイクロソフト、Amazon、ビザ、コカ・コーラ、P&G、等々ーーが多数含まれており、強固な基盤の安定性と成長性を兼ね備えた市場だと言えるでしょう。
株主還元重視の文化
米国企業は伝統的に株主還元を非常に重視しています。
これは、投資家が企業を見るときに株主還元を大きく重視しているという事情があります。
株主から調達した資金を使ってどれだけ効率的に稼いだかを示す指標ROE(自己資本利益率)が重視されるのもそのためです。
利益を出してもこれを株主還元しないと、ROEの数値が下がります。これはROEの計算式(当期利益÷自己資本×100)の分母である自己資本が増えてしまうからです。
ROEが低いと株主にそっぽを向かれるため、米国の経営者はこの数値にとても敏感なのです。
ROEを高めるには配当を上げるほか、自社株買いを進める方法もあります。
自社株買いは株価上昇に直接つながる一方、企業にとってもメリットが多いことから、これも米国企業では盛んです。
近年日本でもROE数値を意識する企業改革が進んでいますが、米国企業はこれに対する意識が歴史的に非常に高いのです。
連続増配の企業が多い
株主還元を重視するお国柄、配当増やす増配を何年も連続している企業の数でも米国は突出しています。
たとえば増配連続25年以上の企業を「配当貴族」と言いますが、日本がわずかに1~2社なのに対し、米国には70社近くもあります。
このうち50年以上連続増配の企業が40社以上あり、これを「配当王」と呼んだりもします。
あとでご紹介しますが、配当貴族や配当王だけを集めた投資信託やETFもあります。
四半期ごとの配当
米国株の大きな特徴は、原則として配当が年4回(四半期ごと)支払われる点です。
米国企業は配当回数が増えることで、より決算との連動性が高まり、キャッシュフロー管理がしやすくなります。
一方、株主にとっても次項1-2で示すようなメリットがさらに広がるという恩恵があります。
この点、日本企業の配当は半年に一度、もしくは1年に一度のところが大半です。配当重視の米国株投資家からはちょっと物足らなさを感じるかもしれません。
1-2 米国高配当株投資のメリット
安定的な収入を生み出せる
高配当株は、配当収入を通じて定期的なキャッシュフローを生み出します。
米国株は四半期ごとの配当なので、より収入の見込みが立てやすく、安定性が高まることで日常的な支出を補填する糧となります。
年金生活をしている年配者にとっては、四半期ごとの配当をもらえる銘柄をいろいろ組み合わせることで、毎月のように配当収入を得ることも可能でしょう。
配当再投資で複利効果が得られる
得た配当を再投資することで、複利の力を活かして資産を効率的に増やせます。
これも四半期ごとの配当頻度があることで、短期的にも長期的にも再投資の大きな複利効果が狙えます。
ドル資産への分散が図れる
米ドルは世界の基軸通貨であり、米国株に投資することで資産の一部をドル建てで保有することができます。
配当もドル建てとなるため、通貨リスクの分散になるほか、ドルによる資産増強を図ることが可能になります。
1-3 米国高配当投資のデメリット
「高配当」にはワナもある
これは米国株に限ったことではありませんが、高配当株の中には残念な高配当もあります。
配当利回りは株価に占める配当の比率なので、業績悪化によって分母である株価が下がれば、見かけ上の配当利回りは上がります。
また、業績が芳しくないのに無理に高配当を維持している企業もあります。
高配当だからいいわけではなく、高配当ほど危険かもしれないことを肝に銘じて銘柄選定する必要があります。
高配当株は成長しにくい
高配当株はすでに成長期をすぎた企業が多いです。
成長企業なら配当を出さず、資金を事業拡大のために投資するからです。
高配当企業はこの事業への再投資が少なくてすむぶん、株主に配当還元できるという側面があるのです。
S&P500などのインデックスと比べても高配当株のインデックスは長期で株価成長が劣るものが多いです。
また、いったん業績不振で減配や無配になると株価が急落することになり、投資家にとってはダブルショックとなります。
税金・為替リスクがつきもの
米国株は日本円をドルに変換して買い付けることになり、株を売却して再び円に戻すときに購入時より円高が進んでいれば、当然為替差損が生じます。
また、米国株売却時の利益には米国の税金と日本の税金が両方課せられます(確定申告で米国分は変換されます)。
この税金と為替のリスクが伴うことを考慮に入れて投資戦略を練ることが重要です。
第2章 米国高配当株選びの注目ポイント
メリット・デメリットがわかったところで、ここでは高配当株に実際投資をする上でどんなことに注意して銘柄を選べばいいのか、注目すべきポイントを説明していきましょう。
2-1 財務健全性
高配当を維持するには企業の収益が安定し、配当の原資となるキャッシュが潤沢である必要があります。
自己資本比率が極端に低かったり、有利子負債が大きすぎたりする企業は今がよくても将来減配に転じる可能性があります。
決算の折など定期的に財務状態をチェックし、これらが健全であることを確認しましょう。
具体的には、売上・利益が順調に伸びているか、売り上げに対する利益率が落ちていないかは要チェック。
また、ROE(自己資本利益率=return on equity)など企業の稼ぐ力を示す指標が高いかどうかも配当重視の場合は大切になってきます。
ROEについては以下の記事に解説があります。
2-2 配当成長率
過去の増配実績のある企業を選ぶことで、将来的な配当収入の増加が期待できます。
一度出した配当を下げない、あるいは上げていくことを「累進配当」と言います。
高配当重視の場合、一時的な配当利回りよりも長期で安定して配当を増やしていく累進配当銘柄を選ぶようにしましょう。
累進配当かどうかは、過去の配当実績を見ることで確認できます。
米国株の場合、「株探」の米国株専用ページが無料で使えます。銘柄で検索し、「決算」タブをクリックすると、「業績推移」の欄で過去5年の配当実績が確認できます。
以下は「株探・米国株」で調べたアップル(AAPL)の配当実績です(右から2列目の「1株配」)。0.80ドルから0.98ドルへ順調に伸びていますね。
2-3 配当性向
配当性向とは最終利益のうちどれくらいの割合を配当に回しているかを示す値です。
配当性向が高い場合、企業は株主還元に積極的であると考えられます。
企業の中には、株主還元強化のためこの配当性向を30%とか50%などと決めているところもあります。
ただし、配当性向が高すぎる場合は要注意です。利益を無理に配当に回している可能性があり、そうなるとこの先高配当を維持し続けられなくなる可能性があるからです。
個々の企業や業種にもよりますが、一般的に配当性向70%以上になると危険水域ですので、これが一時的な要因なのか、業績悪化が懸念されるのかよく見極める必要があります。
また、配当とは別に自社株買いも米国株ではかなり重要な株主還元です。
配当と自社株買いを合わせた金額の純利益に占める比率を「総還元性向」と言います。
配当性向も総還元性向も残念ながら日本の証券会社の米国株アプリなどでは一覧が出ません。
いずれも各企業のIRページで財務諸表から必要な数値を抜き出し計算しなくてはなりません。英語に自信がある方は挑戦してみてはいかがでしょうか。
第3章 米国高配当株ポートフォリオの作り方
高配当株の見るべき点が理解できたところで、さっそく銘柄選びとポートフォリオ作りに取り掛かりましょう。
3-1 どの程度の資金を振り分けるか考える
まずは現在の投資資金のうちどれくらいを米国高配当株に割くのかを考えましょう。
個別株投資となれば投資信託への積立などに比べ難易度が上がります。
また1章でも触れた通り、将来的に売却して日本円に戻すときに、為替差損が生じることもあります。
これらを検討し、ご自身の年齢や資金力も加味した上でどれくらいの資金を回すのかを決めてください。
リスクを抑えたいなら資金の半分とか4分の1にしておくのが妥当です。
3-2 銘柄分散をはかる
米国高配当株にあてる資金が決まったら、次にいくつの銘柄を買うかを考えましょう。
個別株を配当目的で購入する場合、あまり1銘柄に集中投資するのは危険です。
個々人のリスク許容度にもよりますが、できれば1銘柄にあてる資金は全体の4〜5%くらい、多くとも10%を上限にするのがいいでしょう。
100万円なら1銘柄あたり4万円×25銘柄、5万円×20銘柄、10万円×10銘柄といった具合です。
こうすることで1銘柄がダメになったときのダメージを小さく抑えられ、資産を守ることができます。
3-3 セクターを分散させる
米国高配当株のポートフォリオを組む場合、まず考えてほしいのは安定性です。
上記で銘柄分散について触れましたが、それだけではまだ足りません。
安定性向上には十分なセクター分散も必要です。
まずは、景気に左右されやすい景気敏感株(金融、一般消費財、エネルギーなど)とされにくいディフェンシブ株(生活必需品、公益、ヘルスケアなど)のバランスを考えましょう。
また、株式は景気動向や金融環境(金利が高いか低いか)によって変われる株と買われにくい株がどんどん変わります。
下は景気の強弱と金利動向の4つ循環とそれぞれの局面で買われやすいセクターをまとめた図です。
このように保有株が1つの業種に偏っていると、同じ景気局面で同時に下落して資産全体が大きく減ってしまう危険があります。
どんな景気のときでも資産全体が守れるように、できるだけ業種を分散させたポートフォリオを構築することが大事です。
第4章 米国株の主な高配当銘柄
ここからは米国株投資家にもよく言及される銘柄やETF、投資信託を紹介していきます。
配当利回りは執筆時点(2024年11月末)のものですので、購入する際にはご自身でご確認ください。
4-1 注目の米国株高配当銘柄
銘柄(ティッカー) | セクター | 配当利回り(%) |
AT&T (T) | 通信 | 4.79 |
ベライゾン(VZ) | 通信 | 6.28 |
エクソンモービル (XOM) | エネルギー | 3.25 |
シェブロン(CVX) | エネルギー | 4.02 |
フォードモーター(F) | 一般消費財 | 5.37 |
コカ・コーラ(KO) | 生活必需品 | 3.04 |
P&G(PG) | 生活必需品 | 2.28 |
アルトリアグループ(MO) | 生活必需品 | 7.19 |
アッヴィ(ABBV) | ヘルスケア | 3.71 |
ジョンソン&ジョンソン(JNJ) | ヘルスケア | 3.20 |
ファイザー(PFE) | ヘルスケア | 6.55 |
バンクオブアメリカ(BAC) | 金融 | 2.21 |
JPモルガン(JPM) | 金融 | 2.01 |
IBM(IBM) | IT | 4.05 |
S&P500採用銘柄の中から高配当として人気の高い銘柄をセクター別にピックアップしました。
1-3で触れたとおり、配当利回りは高ければいいというものではありません。
先々も業績が安定し、累積配当を続けていけるかをきちんと調べましょう。
4-2 米国高配当ETF
ETF名称(ティッカー) | 構成比上位5銘柄 | 分配利回り(%) | 経費率(%) |
バンガード米国高配当株式ETF (VYM) | ブロードコム、JPモルガン、エクソン、P&G、ホームデポ | 2.74 | 0.06 |
SPDRポートフォリオS&P500高配当株ETF(SPYD) | ケラノバ、エンタジー、ケンビュー、ブリストルマイヤーズ、ウィリアムズ・カンパニーズ | 3.99 | 0.07 |
iシェアーズ・コア米国高配当株ETF(HDV) | エクソン、シェブロン、ジョンソンエンドジョンソン、アッビイ、フィリップモリス | 3.29 | 0.08 |
プロシェアーズS&P500配当貴族ETF(NOBL) | ケンビュー、クロロックス、エアプロダクツ&ケミカルズ、WWグレインジャー、ペンテア | 1.99 | 0.35 |
ここでは代表的なETFを紹介しています。
ETFは個別株と同じように市場売買できる上場投資信託のこと。
年4回の配当があり、経費率がとても安いのがメリットです。
4-3 米国高配当投資信託
投資信託商品名 | 説明 | 経費率(%) |
SBI・V・米国高配当株式インデックス・ファンド | バンガードETF(VYM)に連動する分配再投資の成長型商品 | 0.1238 |
SBI・V・米国高配当株式インデックス・ファンド(年4回決算型) | バンガードETF(VYM)に連動し年4回分配金を出す分配重視型商品 | 0.1238 |
楽天・米国高配当株式インデックス・ファンド | バンガードETF(VYM)に連動する分配再投資の成長型商品 | 0.192 |
iFreePlus 米国配当王 | 連続増配年数50年以上の配当王40銘柄に投資。成長型/4回決済型の両方あり | 0.286 |
eMAXIS S&P500クオリティ高配当インデックス | S&P500クオリティ高配当指数(円換算、配当込み)に連動。 | 0.33以内 |
投資信託は日本で発売されている日本円で買い付ける商品です。
ここでは年間の経費率が0.5%以下の安い商品をピックアップしました(商品名をクリックすると当該商品の説明ページに飛びます)。
ほとんどが4-2のETFに連動するようつくられており、年4回の分配金を出す商品のほか、分配金を出さずに自動で再投資する資産成長型商品があるのが特徴です。
100円から購入することができ、NISAの成長枠だけでなくつみたて枠で買える商品もあり、資金が小さい人も無理なく資産形成に使えるのがメリットです。
ここで挙げた投信は一部以下の記事でも紹介しました。興味があったらお読みください。
米国高配当株のETFや投資信託は、そもそもが銘柄分散・セクター分散された投資商品ですので、個別株を買うよりもリスクが少ないというメリットがあります。
ほかにもたくさんありますので、証券会社のホームぺージなどで自分に合うものを探してみましょう。
将来分配金で生活したいと考えている方は、以下の記事でも米国はじめいろいろな高配当株投信を紹介していますのであわせてお読みください。
第5章 米国高配当ポートフォリオの運用戦略
理想的なポートフォリオが組めたら、あとはできるだけ長期で資産成長/配当を待つのみです。
一般的には以下の3点に気を付けて運用しましょう。
5-1 長期投資の視点を持つ
高配当株投資は、短期的な利益よりも長期的な安定収益を目指すのが狙いです。
配当が維持されている限り、市場の短期的な変動に惑わされず、冷静に運用を続けましょう。
5-2 定期的なポートフォリオ見直し
ポートフォリオの銘柄や配分は、半年〜1年に1度は定期的にチェックし、必要があれば銘柄の入れ替えを行いましょう。
長期視点が大事とは言え、ほったらかしにしていると業績が当初想定していなかった悪化を見せたり、肝心の配当が減配・無配に転落するケースもあるからです。
なるべく四半期決算がどうなったかチェックして、長期の改善見込みが立たない銘柄や、減配無配になった銘柄を、好業績が続く配当株に買い換えるなどの見直しが必要です。
5-3 配当再投資で複利成長を狙う
配当を年4回受け取れるのは魅力ですが、受け取って使ってしまうだけでは資産は成長しません(配当税を取られるだけ)。
それをこまめに再投資することで、複利効果で資産成長させることができます。
すぐに配当を生活資金に充てる必要がない場合、資金をプールしておいて買い増ししたり、新しい高配当銘柄を買うなどして資産を成長させましょう。
また4章で紹介した投資信託は配当再投資(=資産成長型)のプランが必ずありますので、個別株やETFで配当再投資が面倒な人は投資信託を活用するのも手です。
まとめ
米国高配当株投資は、アメリカという成長市場からの安定した収入と長期的な資産成長が期待できる魅力的な投資手法です。
そのためにはセクター分散や配当成長率の確認、ETFの活用などを通じて、自分の理想に近づけるポートフォリオを構築することが大事であることをお伝えしました。
適切な運用戦略と長期的な視点を持つ高配当ポートフォリオで、将来に資する安定的な資産を築きましょう!
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