米国株への投資を始めた初心者がおそらく真っ先にとまどうのは、大きく下落したときにそれが何によって引き起こされ、どれ程続くのか、自分はどう対処したらいいのか、ということでしょう。
特に米国市場は日本時間の夜23時半から翌朝6時(サマータイムは夜22時半から翌朝5時)という時間帯なので、急落を知るのが翌朝目が覚めたときということがよくあります。
さらに、日本株市場のような値幅制限がないため、銘柄によっては一晩のうちに30%も40%も一気に下がってしまう可能性もあり、下落ショックが半端なく大きいといった特徴があります。
そこで本記事では、投資の学校GFS(グローバルファイナンシャルスクール)監修のもと、10年以上の米国株投資歴がある個人投資家の筆者が、過去の米国株の暴落・急落の事例をもとに下落する主な原因を5つ挙げて解説。
さらに下落リスクから資産を守る最適な方法を5つ書きました。
世界屈指の成長市場である米国株式市場にはとりわけ注意すべき原因があり、この下落が日本を含む世界全体に波及する大きな影響があります。
この記事に書かれた過去の事例と原因、下落率、回復までに要した期間などを参考に、米国株式市場にどう向き合うべきか、リスク管理や投資判断を行う際の参考にしていただければ幸いです。
監修者:市川雄一郎
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長
目次
第1章 米国株が下落する5つの主な原因
1-1 経済指標悪化とFRBの金融政策
米国株式市場が下落する主な原因のひとつに、経済指標の悪化とFRB(連邦準備制度)の金融政策があります。
経済指標は、経済全体の健康状態を示す重要なデータであり、失業率や小売売上高、消費者物価指数(CPI)、ISM製造業指数などが含まれます。
たとえば、2008年の金融危機では失業率が急上昇し、経済不安が拡大したことから株式市場は大幅に下落しました。
また、2020年にはコロナウイルスの流行によって小売売上高が急減し、経済活動の停滞を示したことが暴落の引き金の1つとなりました。
さらに、2022年にはCPIの急上昇が高インフレを示し、FRBはインフレ抑制のため積極的な利上げを行いましたが、これが株式市場に売り圧力をもたらしました。
年 | 下落理由となった経済指標の変化 |
2008年 | リーマンショック後の失業率急上昇 |
2016年 | 雇用者数(非農業部門)の急減 |
2018年 | 12月のISM製造業指数の悪化 |
2019年 | コロナ世界的感染初期の小売売上高急減 |
2020年 | コロナ禍の小売売上高の急減 |
2022年 | コロナ禍後高インフレを示すCPI上昇 |
経済指標とFRBの金融政策は、投資家心理と市場動向に大きな影響を与える重要な要素と考えて間違いありません。
FRBの金融政策の重要性については、以下の記事にもくわしく書きましたので参考にしてみてください。
1-2 企業業績の悪化
米国市場に限らず、四半期ごとの決算発表は株価に大きな波及効果をもたらします。
売上、1株利益(EPS)、通期見通しなどが予想を下回ると、企業の収益性や成長見通しが疑問視され、投資家が株を売る傾向が強まります。
代表的な企業の業績が悪化すると、業界全体の株価が下がることもよくあります。
また、経済の先行き不透明感が強まると、リスクの高い小型成長株や景気敏感株で売り圧力が強まりやすくなります。
1-3 ハイテク株バブルとその崩壊
いつの時代も、先進的なハイテク株は人気となり、ときに実力以上に買われる“バブル”の様相を呈することがあります。
こうしたバブルが何かをきっかけに弾けると、市場全体が急落することになります。
有名なのは2000年代初頭の「ドットコムバブル」の崩壊。インターネット関連企業の過大評価と将来への過剰な期待に現実企業の収益が追いつかず、破たんする企業も出たことで一気にバブル崩壊につながりました。
近年も大型ハイテク株が市場全体をけん引していますが、そこに他のセクターとのひずみも出ており、このハイテク株が急落すると市場全体が大きく下げるとの懸念も出ています。
1-4 地政学リスクの高まり
地政学リスクとは、戦争や地域紛争の発生、外交問題の悪化などのこと。市場の不安材料となり、投資家がリスクを避けるために株を売る傾向が強まります。
2022年から続くロシアによるウクライナ侵攻は、原油や天然ガス、小麦などの急騰を招き、物価上昇とそれを抑え込もうとする中央銀行の金融引き締め策が株式市場の下落要因となりました。
こうした地政学リスクはまた、モノや人の流通を阻害し、原材料コスト上昇にもつながることから、企業の業績にも直接影響してきます。
1-5 個人投資家の動向
SNSなどを通じて個人投資家の動向が活発になると、過剰な売買や投機行動が市場に影響を与えることがあります。
たとえば、SNSで拡散された情報をもとに特定の銘柄が一気に買われ、それが急落するケースが多々あります。
個人投資家が短期的な利益を狙って売買を繰り返すことは、株価の急変動にもつながります。
また、急落を見て理由もわからず売ってしまう「狼狽売り」のような個人の投資行動も、市場に波及すると大きな下落につながります。
第2章 米国株式市場で過去に発生した主な下落
この章では過去に起きた米国株式市場の暴落・急落の歴史を紹介します。
下図は過去50年の主な暴落とS&P500のピークから安値の下落率、回復に要した期間をまとめた表です。
主な下落(年代) | S&P500下落率 | 原因 | 回復までの期間 |
ブラックマンデー(1987年10月) | 34% | プログラム取引による急激な売り、金利上昇、不安心理の拡大 | 2年 |
ドットコムバブル崩壊(2000年) | 46% | IT企業の過剰評価と収益の乏しい企業への投資の集中とバブル崩壊 | 6年 |
リーマンショック(2008年) | 53% | 住宅ローンのサブプライム危機、金融機関の破綻、信用収縮 | 5年 |
世界同時株安(2018年) | 16% | 金利上昇と米中貿易摩擦 | 1年 |
コロナショック(2020年) | 34% | コロナウイルス感染拡大による経済活動停止と不確実性の増大 | 半年 |
ウクライナショック(2022年) | 25% | ロシアのウクライナ侵攻に端を発する高インフレとFRBの積極的な利上げ政策 | 2年 |
これ以前だと世界大恐慌(1929年)やオイルショック(1972年)などが有名です。
世界大恐慌は数年の下落が続き、期間中80%以上もダウ平均株価が下落し、破産者が続出しました。
とはいえ、現代では当時ほど株への資産集中はないと考えられ、実体経済もそこまで弱くはないため、米国が存亡の危機にでも陥らない限りは80%もの下落が起きるとは考えらません。
ただし、30~50%くらいの暴落は定期的に訪れると考えた方がいいでしょう。日本株のように一日の値幅制限がないため、落ちるときには一日で一気に落ちます。
でも、下落の原因如何にかかわらず、上記の表を見るとほぼ5年以内に株価が回復しています。
日本のバブル崩壊が回復までに30年以上要したことを考えれば、米国経済は底堅い強さがありますね。
第3章 米国株の暴落・下落に備える対策5選
3-1 分散投資を行う
米国株に100%投資することは、米国経済と米ドルに全部のお金を賭けることにほかなりません。
いくら成長力や信用力が高くても、落ちるときには落ちるため、やはり米国株オンリーは危険でしょう。
暴落急落は米国市場から波及することが多いため、他国の株式に分散してもリスクはさほど変わりません。
日本株は特に米国市場との連動が高いので、米国株と日本株半々に分散したといってもあまり意味がないのです。
株式だけでなく、他の資産クラス、たとえば債券や金など、株式とは異なる値動きをする資産に資金を分散することが大事です。
3-2 キャッシュポジションを増やす
暴落急落はいつ何が原因で起こるかわかりません。起きたときに資金をすべて投資につぎ込んでいたら、なすすべもなく落ちていくのを見ているだけになってしまいます。
なので資金の一部を現金のまま持っておき、下落したときにすぐに欲しい株が買えるよう、資金の流動性を確保しておくことが大事です。
上記でも紹介した、株式とは異なる動きをする債券や金などのETF(上場投資信託)を買っておくのも、いざというときすぐ売って現金にできるのでいいかもしれません。
3-3 ストップロス(損切りライン)の設定
株価が一定水準を下回った際に自動的に売却するストップロス(損切りライン)を設定することで、大幅な損失を避けることができます。
証券会社のアプリなどで簡単に設定でき、これによって機械的なリスク管理が可能です。
ストップロス(損切りライン)の入れ方は人ぞれぞれの含み損に対しての耐性によります。
よく聞くのは「買い値の10%下」ですが、5%や20%下とか、買い値で入れたり、「ピークをつけた株価から15%下」に設定をする人もいます(株価が上がるごとに設定変更は必要になります)。
損切りが苦手で、眺めている間にどんどん含み損が増えてしまう人は特に設定しておくことをおすすめします。
3-4 ディフェンシブ銘柄や高配当株への投資
不況時でも需要が安定的な生活必需品や公益事業(電力、ガス、鉄道会社など)をディフェンシブ銘柄といいます。
これらの株や高配当銘柄は暴落・急落時でも総体的に売られにくく、株価の変動が比較的小さい傾向があります。
成長株に100%投資するのではなく、リスク分散のためにもこうした株をポートフォリオに加えておくのがいいでしょう。
3-5 ポートフォリオの定期的な見直し
経済状況やトレンドは日々刻々と変化しています。
自分の投資行動や購入した銘柄を過信することなく、常に最善のポートフォリオになるように定期的に点検しましょう。
過度にリスクの高い資産を安全な資産に置き換えるなど、柔軟な対応が必要です。
まとめ
本記事では、米国株式市場における主要な下落事例とその原因を見てきました。
オイルショックやブラックマンデー、ドットコムバブル、リーマンショック、コロナショックなど、それぞれの下落には独自の経済的、政治的原因が見られます。
筆者個人の投資歴は十数年ですが、リーマンショックのころはまだ資産も少なく、どちらかというとその下落期間の経済取材が大変だったという感じでした。
怖かったのは2018年の世界同時株安。だいぶ資産も増えてきた一方、少ない銘柄に集中投資していたため、理由がはっきりとはわからないまま短期間のうちに保有株がドッカンドッカンと下がって含み損が拡大し、ナンピン(下で買い増すこと)したらさらに下がってしまって含み損を増やしてしまった苦い経験があります。
突き詰めれば、すべてに共通してあるのはやはり、下落に対して大きく揺れる投資家心理でしょう。
市場がパニックに陥ると売りが売りを呼び、短期的には大きな損失を被るリスクがある一方で、長期的に見ると米国市場は必ず大きく回復してきました。
過去の事例を学ぶことは、現代の投資家が将来のリスクを理解し、備える助けになります。
投資家がこれらの教訓を生かして対策を打つことで、市場の下落リスクに冷静に対処できるようになることを願っています。
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