有望な銘柄を多数抱える米国のナスダック市場。
将来の資産形成をしていく上で魅力が大きく、NISAで「ナスダック100」に連動するインデックスファンド(投資信託)をつみたて投資している人も多いのではないでしょうか。
このナスダック市場がなぜこれほどの成長をとげてきたのか、そしてこの先もちゃんと上がり続けるのか、気になりますよね。
そこで本記事では、お金と投資の学校GFS(グローバルファイナンシャルスクール)の監修のもと、米国株歴10年以上となる個人投資家の筆者が、ナスダック市場が上がり続ける理由を過去の歴史からひもとくと同時に、さまざまな観点から将来のパフォーマンスを予測していきたいと思います。
本記事を読むことで、これからナスダックをどのように自身のポートフォリオに加えていけばいいのか、投資戦略を練る参考にしていただければ幸いです。
監修者:市川雄一郎
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
目次
①ナスダックの過去のパフォーマンス
1-1 過去の動向とその背景
ナスダックの過去のパフォーマンスは、テクノロジー業界の発展と密接に関連しています。
下図は「ナスダック総合」の30チャートです(TradingViewにて筆者作成、配当調整済み、以下同)。
これを見ると、ナスダックは何度かの急落や暴落を経験しているものの、そのつどそれを超えてリバウンドし、長期的には右肩上がりの成長を遂げていることが分かります。
ナスダックには全体の値動きを示す「ナスダック総合」のほかにも、大型株100銘柄のみを指数化した「ナスダック100」があります。
このナスダック100はナスダック総合のパフォーマンスを上回ります。
この「総合」と「100」の2つの指数は、米国を代表する「ダウ工業株30種平均(ダウ平均)」と「S&P500」を大きくしのぐ成長を続けています。
下図は4つの指数の10年チャートです。上から順にナスダック100(オレンジ)、ナスダック総合(赤)、S&P500(白)、ダウ平均(青)です。
パフォーマンスを比べると、ダウが10年で約2.4倍(+142%)、S&P500が約2.8倍(+184%)なのに対し、ナスダック総合は約4倍(+301%)、ナスダック100に至っては約5倍(+408%)も上昇しており、他の指数に大きく差をつけて上がっているのがわかります。
1-2 歴史的な暴落・急落時のナスダック
ナスダックは過去に数回の大きな暴落を経験しています。
特に大きかったのは、2001年のドットコムバブル崩壊、2008年のリーマンショック、2020年のコロナショック。
ドットコムバブルの崩壊はテクノロジー企業の過剰な評価、リーマンショックは金融システムの脆弱性が原因で、いずれも1~2年にわたって下落し続けました。
さらに近年では2021年秋から2022年秋までの約1年にわたる調整局面がありました。
これはコロナ対策のための金融緩和やバラマキで生じた高インフレ(物価高)に対し、米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度)が急激な利上げを続けたことで、コロナ後の大きなリバウンドが急速にしぼんだのが原因でした。
ナスダック市場は他の指数に比べボラティリティ(上昇幅と下落幅)が非常に大きくなる傾向があります。
下図はその2021~2022年の利上げ局面の下落相場でナスダック100(赤)とS&P500(下)がどれくらい下落したかを比較したチャートです。
ざっとですが、S&P500はマイナス25%。これに対し、ナスダック100は最大でマイナス35%も下落しました。
下落が始まる直前に100万円投資していたら、35万円失っていたことになりますね。それも1年間かけてじわじわと。
ナスダックはそれまでの上昇が大きかった分、落ち込むときの下落幅も大きく、暴落や急落の直前に集中投資しようものなら短期で一気に損失がふくらむ可能性があります。
また、直前にナスダック100の積み立てを始めた人も、2022年早々に含み益が含み損に転じ、さらに秋まで資産が減り続けるのですからたまりません。
ゆくゆくはリバウンドして高値を上回ってくると見越していても、このじわじわと長い下落は心理的にきつく、途中で積立をやめてしまう人が続出したことでしょう。
実はこの下落のときこそ積み立て投資にとっては飛躍のチャンスなのですが、ここまで下落期間が長引くと人は冷静に考えられなくなってしまいますよね。
1-3 それでも上がり続けた理由
ナスダックが前項で見てきたような暴落や急落の後も上昇を続けられた理由は、米テクノロジー業界の急成長と、常に新しい銘柄が古い銘柄に取って代わる新陳代謝があるからです。
たとえばインターネットの普及によってマイクロソフトが、スマートフォンの登場でアップルが、eコマースの利用拡大でアマゾンが、SNSの広がりでグーグルやメタ(旧フェイスブック)が、電気自動車の普及でテスラが、そして生成AIの普及によってエヌビディアが、それぞれナスダック上昇に寄与してきました。
日本人のだれもが知るこれらの銘柄は「GAFAM」とか「FAANG」とか最近では「マグニフィセント7」などと呼ばれ、ナスダックのみならず米国経済全体をけん引しています。
以下は過去10年のナスダック100(オレンジ)とその上昇に寄与し巨大テック企業に成長した銘柄群のチャートです。
銘柄と10年間の株価パフォーマンスは、下からグーグル(ピンク)で約5.7倍、アップル(赤)10.6倍、Amazon(緑)11.3倍、マイクロソフト(黄)11.4倍、テスラ(水色)14.9倍です。
先述した4つの米国株指数で最も上昇率の高かったナスダック100(オレンジ)がここでは小さく、物足らなく感じますね。
こうした新興成長企業が次々と台頭し、彼らのイノベーション(技術革新)とそれに恩恵を受ける関連企業が伸びることで、ナスダック市場は上がり続けてきたのです。
② ナスダック市場の現況と上昇理由
2-1 ナスダックの最新データと現在の市場動向
今度は少しレンジを短くして、最新の動向をデータとともに見ていきましょう。
下図はナスダック100(オレンジ)・ナスダック総合(赤)・S&P500(白)の2024年年初来チャートです。
年初から4月半ばごろまで一気に上昇、途中軽い調整をはさみ、7月上旬までさらに高く上がり続けました。
ナスダック100と総合はこの7月上旬の高値までに、年初から40%超の上昇を記録していました。
この高値から8月5日まで、ナスダック100と総合は約13%、一気に下落しました。
8月5日といえば、日経平均がマイナス4451円と1日の下落幅としては過去最大を記録した日です。この急落がアジアや欧米にも波及しました。
ナスダックほか世界の株式市場はこの日の急落でいったん底を打ってリバウンドを開始。これを書いている8月21日時点では、まだ回復途上にあります。
2-2 ナスダックはどこまで下落する可能性がある?
上記で見たように、2024年後半のナスダックは上半期のけん引役であった半導体株の調整による下落から始まりました。
FRBによる急速な利上げが先行きの景気後退懸念を募らせ、“産業のコメ”とも称される半導体の需要減が不安視されたものと見て取れます。
また、巨大テック企業が進めてきた巨額の生成AI向け投資、すなわちデータセンター建設に必要なエヌビディア製の大量のGPU(画像処理半導体)購入が、投資に見合うビジネスにつながっていないのではないかという疑念もちらほら聞こえてきます。
下は上記3指数にエヌビディア(紫)を加えたチャートです。年初来から株価は2.6倍(+164%)と大きく成長しています。
製品が市場をほぼ独占しているエヌビディアの快進撃は長期的にはまだ続きそうです。
しかし、エヌビディアは1社でナスダック100の構成比の8%強を占めます。これまでの上昇が非常に大きかっただけに、決算でアナリスト予想を下回る業績が示された場合、短期でどれだけ下げるか反動が気になるところです。
エヌビディアが急落した場合、他の半導体関連やこれを買っている巨大テック企業にも売りが波及することが考えられ、ナスダックは8月5日の底値付近かそれより下まで一気に調整が進む可能性も捨てきれません。
またマクロ経済の視点で見ると、本格的な景気後退が指標などで示された場合、あるいはインフレ(物価)が思ったように鈍化せず、すでに織り込まれている利下げが延期になった場合には、やはりテック企業が売り込まれ、ナスダックは下落トレンドに移行するかもしれません。
2-3 ナスダックの2024年後半の見通し
それでは2024年後半、ナスダックの見通しはどうなっていくのでしょうか。
今のところ前項で挙げた景気後退懸念はあくまで「懸念」にすぎず、個人消費は堅調なことから、利上げに伴う米国景気の行方は「ソフトランディング(穏やかな着地)」となるという見方が支配的です(筆者がこれを書いている8月時点では)。
そうなると、生成AIの発展に欠かせない半導体関連はまだまだ伸びが期待でき、ナスダック市場は小さな調整を繰り返しながらも年末に向けて上がり続ける、というのがメインの楽観シナリオです。
しかし、予想に反して「ハードランディング(=景気後退)」する可能性もまだくすぶっています。
さらに11月の米大統領選の結果次第では、米中貿易摩擦がエスカレートしてテック企業の業績が悪化することも考えられます。
そうなると、短期では8月5日の底値付近、200日移動平均線の18000ポイント前後まで落ち込み、これを突き抜けて下落すると年末に向かって本格的な下落トレンドに入る、というのが悲観シナリオです。
両方のシナリオの間をとり、200日移動平均で跳ね返されてダブルボトムを形成、そこから年後半に向けてじわじわと再上昇していくけれど、上値は重く、2024年前半のような大きな上昇は期待できない、というのが筆者の予想です。
いずれにしても数か月~半年くらいのスパンでは何が起きてどう株価が推移するか誰にもわかりません。
③ ナスダックの未来予測と投資戦略
3-1 ナスダック未来予測のメインシナリオ
これまで見てきた通り、テクノロジーの進化とそれに伴う新興企業の成長によって、ナスダック市場は何度かの暴落と無数の下落調整を乗り越え、約半世紀にわたって大きく成長してきました。
米国のハイテク企業は、力強い米国経済とグローバルな成長に支えられ、今後数十年にわたって成長し続けると見られます。
その根拠としては、国際基軸通貨である米国ドルの地位が安泰である点、世界共通言語である英語がビジネスコミュニヶーションの言語として支配的である点、さらに移民の流入などにより今後も米国の労働人口が増え続けていく点などが挙げられます。
また、現在ある米国の巨大テック企業は、内外で稼ぎ出した巨大な利益を次世代テクノロジー獲得のための設備投資や研究開発、そして世界中の優秀な人材獲得に惜しみなくつぎ込んでおり、その優位性が揺らぐことは考えにくいということもあります。
1-1で図示したチャート通りの伸びを期待するなら、ナスダック総合は年平均30%、ナスダック100は年平均40%の上昇が見込めます。
2004年までさかのぼれば、ナスダック100は、リーマンショックの大きな下げを挟んでも20年の間に約13.4倍(+1240%)に上昇しました。これは年換算で平均60%超の上昇を意味します。
ここから考えれば、控えめに見積もっても、遅くとも2024年末までに20,000は回復し、5年後には2倍の40,000、10年後の2034年には5倍の100,000にまで到達していても不思議ではありません。あくまで机上の計算ですが、、、。
3-2 ナスダックの未来投資戦略
ナスダック市場が上記のような長期的成長をまだまだ続けられると仮定した上で、われわれはこれをどうポートフォリオに組み込んでいったらいいでしょうか。
まず最初に言えることは、ナスダック市場が長期的に成長すると言っても、構成銘柄が1つ1つ安泰というわけではなく、業績が悪化した銘柄が指数の足を引っ張る事態もあるということ。
テクノロジーの盛衰は激しく、古びていく技術にしがみついてイノベーションを起こせずにいる企業はすぐに落ちぶれていきます。
たとえば半導体業界では、ひところPCプロセッサで独占状態にあったインテルの製品は、もともとインテルの互換製品を作っていたAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)の製品に処理能力で追い抜かれ、あっという間に時価総額でも逆転されました。
EV(電気自動車)で一世を風靡したテスラも、政府の環境問題への取り組みや貿易問題、安価な中国EVの台頭などで業績が伸び悩み、急騰したかと思うと長く低迷期が続いています。
ChatGPTの登場以来GPUの売り上げが独占状態にあるエヌビディアも、もしかしたら次世代半導体の競争に敗れ、数年後には上位銘柄から姿を消しているかもしれません。
つまり、強いナスダック、強い最先端企業でも、個別銘柄の株を集中して長く保有するのはリスクが大きいのです。
一方、「ポストGAFAM」と目される次の急成長株を今から仕込むのは、英語の決算書などの資料やニュースが読み込めないわれわれ日本人には、かなりハードルが高いです。
となると、答えは1つ。
ナスダック総合、またはナスダック100に連動する投資信託またはETF(上場投資信託)をひたすら愚直に積み立てていくこと。
雨が降ろうと槍が降ろうと(笑)。
いきなり大きく急落したり、長期で下落トレンドが続いても決して積み立てをやめてはいけません。
「ドルコスト平均法」という投資戦略にのっとれば、それは長期では株数(口数)を増やせるチャンスです。
ただし、ボラティリティの大きい投資先なので、ナスダック一極集中の投資は精神衛生上よくありません。
景気が悪くなる時期や政策金利が上がっていくような時期には、テック株は売られやすいということを思い出しましょう。
まして「ナスダック3倍レバ」のような投資信託を買うのはギャンブルでしかありませんので絶対やめましょう。30%超の下落が来たら終わってしまいます。
資金をきちんと管理し、極端な投資をしなければ、ナスダックは必ずあなたの資産を向上させてくれます。
筆者のおすすめは、NISAの積み立て投資枠でナスダック100の投信、あるいはNISAの成長投資枠でナスダック100連動のETF(QQQ、QQQM)を積み立てていくこと。
その場合でも、ポートフォリオ全体の2~3割程度にとどめ、全部をナスダックにしてはいけません。
残りの7~8割はオルカン(全世界株ファンド)やS&P500連動の投信や、債券や金などの保守的な資産に投資にしておくのが資産防衛につながります。
ナスダックをどのように買っていくか、どのような連動商品(投資信託、ETF)があるかは下の記事を参考にしてください。
まとめ
ナスダック市場の上昇トレンドは、過去のデータや現在の市場動向をもとに、将来も続くと一応結論づけました。
テクノロジーの進化と銘柄の新陳代謝に支えられた米ナスダックは、今後数十年にわたって大きな成長を期待できる投資対象であり続けるでしょう。
ただし、ボラティリティの高さから、一度に集中投資すると資産を失いかねないリスクの高い投資先であるのも事実です。
チャートで繰り返し解説した過去と現在の値動きをよく理解した上で、無理のない投資を心掛けてほしいと思います。
コメント