空売りを買い戻しできない?買い戻しできない場面と注意点をご紹介

株価が下落した局面でも利益を狙える「空売り」

株式投資のイメージとして「買い」から入って「値上がり益」を狙うことが通常と捉える中、下落局面でも利益を狙える点に魅力を感じて「自分もやってみよう」と、空売りに挑戦してみたという人も多いと思います。

しかし、いざ空売りをやってみて、その後買い戻しをしようとしたところ、なぜか「買い戻しができない」という状況に陥り、理由もわからず焦った、という経験をしたことはありませんか。

実は、空売りには「買い戻しができない」状況がいくつかあります。
空売りは、うまく買い戻しができれば大きく利益をとれる可能性がある反面、失敗してしまうとかなり大きい損失を受けるリスクもある取引です。

そういったリスクの高いものにおいて「あまりよくわからない」という状態で取引をしてしまうのは望ましくなく、どういった状況が起こりうるのか、想定されるのか、ということをできるだけしっかり把握しておくことが重要です

では、空売りを買い戻しできない状況とは、具体的にどのようなことがあるでしょうか。
また、買い戻しができない状況にならないために、どのようなことに気をつければ良いでしょうか。

本記事では、空売りや買い戻しについて改めて確認し、上記のような疑問の解決に繋がる内容をお伝えしていきます。
ぜひ最後まで読み進めてみてください。

【この記事でわかること】
  ・空売りとは?買い戻しとは?
  ・空売りの買い戻しができないって、どんな状況がある?
  ・買い戻しできない状況を回避するために、何に注意すれば良い?

監修者:市川雄一郎 監修者:市川雄一郎 
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)

公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長

空売りについて解説 

空売りのイメージ図

まず、「空売り」や空売りの「買い戻し」について改めて確認していきましょう。

 空売りとは

「空売り」とは信用取引の1つで、手元に保有していない株式を、証券会社などから「借りて売却する」ことを指します。

初めて空売りについて聞いた方は、「借りて売却する」という部分が、少しイメージしづらい部分かと思います。

そもそも私たちの日常生活で考えた場合、例えば「100万円の商品を買おう」と思ったら、手元に100万円を用意してから購入することが前提となります。
同じように、「商品を100万円で売ろう」と思ったら、そもそもその商品を自分が手に入れていることが前提となるので、「借りたものを売ってしまう」というのがイメージしづらいのも頷けます。

しかし、株式投資においては、株を買うお金が少し足りなくても株を買ったり、持っていない株でも、他に持っている人から借りてきて売る、ということができるようになっているのです。これを信用取引といいます。

信用取引を行う場合、取引する金額の30%以上(最低30万円)の現金もしくは有価証券を委託保証金として担保に入れる必要があります。つまり、取引しようと思う金額の約3分の1の資金があれば、それを担保に取引が可能となるのです。

信用取引を利用して株を買うことを信用買い株を先に売ることを信用売り、という言い方をしますが、特に信用売りのことを、実際には持っていないものを売ることから「空売り」と言う呼び方をします。

 買い戻しとは

買い戻しとは、「一度売却した株を、再度買い直すこと」を指します。

株を空売りする場合、あくまでもそこで売る株は「証券会社から借りた株」なのです。借りたものは当然、後で返さなくてはいけません。返すためには、改めて自分で株を市場で購入する必要があります。

このように、市場で売った株を、改めて市場で買い直すことが買い戻しです。

この時、売った値段より安く買い戻しができれば、その差額が利益になります。これが空売りで利益を得る仕組みです。
そのため、空売りでは、売った値段からいかに安く買い戻しができるか、という部分が重要視されます。

以上が空売り、買い戻しの概要です。

なお、本章では空売りの概要を簡単にお伝えしているところとなりますが、以下の記事で、空売りについて詳細に深掘りした内容を、わかりやすく解説しています。

「空売りについて、まず丁寧に勉強したい」という方は、理解が深まるかと思いますので、ぜひこちらも目を通していただくことをおすすめします。

空売りの「買い戻しができない」場面とは

前章で、空売りと買い戻しの基本的な理解をお伝えしました。
以降改めて、空売りの買い戻しができない状況について深掘りしていきます。

空売りの買い戻しが「できない」という状況においては具体的に、以下の状況が考えられます。

  • 買い戻しを指値注文で入れておいたが、その指値まで株価が下落してこなかった。
  • 逆指値注文で、指定していた金額を一気に超えてしまった。
  • ストップ高になっている
  • 「買い戻し」ではなく「新規買い」になっている
  • 証券会社や取引所のシステムトラブルで、操作不能となっている

1つずつみていきましょう。

買い戻しの指値注文まで、株価が下落しなかった

買い戻したい金額で指値注文を入れていたのに約定されていなかった、という場合は、単純に指値で指定した株価まで下落しなかった、ということが考えられます。

これは空売りの買い戻しに限ったことではなく、普通に株を購入しようと思って安い値段に現物で指値注文を入れておいた場合も同じです。自分が指定した値段で必ず買い戻しができるわけではなく、株価が指定した価格まで下落して初めて約定(やくじょう=株の売買が成立すること)となります。

なので、買い戻しの指値注文をしていたけど買い戻しができなかった、という人は、まず、「株価がそもそも指値まで下落したのか」という部分を確認してみましょう。

逆指値注文で、指定していた金額を一気に超えてしまった。

株価の上昇による損失に備えて、買い戻しの逆指値注文を入れておいたが、株価が逆指値の値段に達したのに、買い戻しが実行されていなかった、という場合、逆指値注文での指定していた金額を大きく超えて動いてしまった、という状況が考えられます。

具体的に例を挙げて説明します。
株価や注文状況が以下のような状況があったとします。

 

株価:1048円で空売りを入れ、損切りラインとして、1050円で逆指値(注文:指値1050円)設定し、買い戻しをしようとしたとします。

この後、大きな買いが入り、1053円まで株価が一気に上昇した場合、以下のようになります。

逆指値で設定した1050円に達したので、1050円の買い戻しの指値注文が発動しているのですが、株価がすでに1053円まで一気に上がってしまっているので、1050円の買い戻しの指値はそのまま市場に残ることになります。

この後、1050円までもう一度下落してくれれば、買い戻しが成立しますが、さらに株価が上昇してしまった場合、1050円の指値の買い戻し注文は残されたままになってしまい、買い戻しが完了しない、といった状況になることがあります。

このように、設定した逆指値の株価を一気に超えるような場合、発動する注文を指値で入れていると、注文が約定しないケースがあります。

ストップ高になっている

空売りした銘柄がストップ高になってしまったので、慌てて買い戻しの注文を入れた、という場合も、その買い戻しが約定しないケースがあります。

買いが売りを圧倒的に上回りストップ高になっている場合、買いを満たす売りが出てくるまで、売買が一旦停止となります。
そのため、空売りの買い戻しをしようと思って注文を入れてもその場ですぐ約定しないのです。

また、同じ状態が続き、そのままマーケットが終わってしまった場合、出ている分の売りはストップ配分といって注文数の多い証券会社順に1単位ずつ分配される方法に基づき、約定します。
つまり、ストップ高の場合、買い戻しの注文を出しても、全体の買いを満たす売りが出ていないので、約定しないケースが多いです。

なお、銘柄がストップ高になった場合、どうなるか、については以下の記事で解説しているので、併せて読んでいただくと理解が深まるかと思います。

「買い戻し」ではなく「新規買い」になっている

買い戻しのつもりで入れていた注文が、「信用新規買い注文」になっていたなど、項目選択時の操作ミスなどにより、買い戻しができていないケースもあります。

信用取引で、反対売買(買ったものを売る、売ったものを買い戻す)をする場合、言葉としては「返済売り」「返済買い」、もしくは「売埋」「買埋」などの文言で選択項目に表示がされています。
空売りの買い戻しをしたいのであれば「返済買い」「買埋」を選択するわけですが、これをうまく選択できておらず、「信用新規買い」や「現物買い」など、別の項目を選択し、購入してしまっていることがあります。

項目を間違えて選択してしまっている以上、買い戻しとは別の注文とみなされるので、空売りは決済されず、残ってしまうことになります。

証券会社や取引所のシステムトラブルで、操作不能となっている

買い戻しができない物理的な要因として、証券会社や証券取引所側でシステムトラブルが発生し、操作ができない、という状況も考えられます。

システム障害自体はそこまで頻繁に発生するものではありませんが、過去の例として

  • コンピュータプログラムミスで、全銘柄取引停止。(2005年 11月1日)

  • ライブドア事件の大量の売り注文で処理不能となり、全銘柄取引停止。(2006年 1月18日)

  • 大規模システム障害により終日全銘柄取引停止。(2020年 10月1日)

といったものがあります。

このようなシステム障害があると、注文しようと思ってもそもそも操作ができず、空売りにおいても買い戻しができない、という事態が発生することになります。

買い戻しができないとどうなる

前章で、買い戻しができないケース、場面について確認してきました。
では、実際にそのような場面に該当してしまい、買い戻しができないとなった時、どうなってしまうのでしょうか。

買い戻しができないとは、つまり決済が遅れるということです。
決済が遅れると、その間の値動きによっては、発生していた含み益がなくなったり、含み損だったものがさらに大きくなってしまう可能性があることを意味します。

含み損が大きくなった場合、空売りを含む信用取引では「追証(おいしょう、「追加保証金」の略)」と言って、「追加で委託保証金を入金しなさい」という通告が証券会社からくることになります。
この追証を受けてから、必要な金額が入金できない場合、強制的に決済が実行され、損が確定することになります。

また、信用取引には返済の期限が決まっているものと決まっていないものがあります。

【返済期限が決まっている信用取引】
・制度信用
・1日信用 など

【返済期限が決まっていない信用取引】
・一般信用

期限が決まっていないものであれば、保有し続けることは可能ですが、期限が決まっているもので取引をしている場合、期限までに反対売買をしないと、こちらも強制的に決済が実行されます。この時含み損であれば損が確定してしまいますし、また強制決済の手数料などもかかってしまいます。

空売りをやる場合、買い戻しができないことで、こういったリスクがあることは覚えておくと良いです。
なお、空売りの信用取引の種類や追証の計算などについては、第1章でも紹介した以下の記事で詳しく説明していますので、改めて、空売りについて深掘りしたい方はぜひ目を通してください。

買い戻しができない場面をなくすために

前章までで、空売りの買い戻しができない場面や、買い戻しがでいないことでどうなるか、について確認してきました。
これらを受け、実際に「買い戻しができない」という状況になってしまわないようにするために、どのようなことができるでしょうか。

以下、「買い戻しができないことで損をするリスクが高まってしまう」ことを避けるために、注意すると良い点について説明していきます。

逆指値注文を「成り行き」で入れておく。

まず、空売りについてはリスクが高い取引なので、必ず損切りが自動的にできるよう逆指値注文を設定しておくと良いです。

また、その時には「〇〇円になったら△△で指値買い注文」とするのではなく「〇〇円になったら”成り行き買い注文”」というように、注文部分を成り行きに設定しておくことで、確実に反対売買を実行することができます。

成り行き注文の場合、金額の指定ができないことで、想定よりも乖離がある金額で約定するデメリットはありますが、買い戻しができないリスクを優先してカバーしたい場合は、成り行きで逆指値をしておくと良いです。

上昇が強いものはそもそも空売りをしない

上昇の勢いが強いものは、空売りをしても安く買い戻せない確率が高く、むしろさらなる上昇に巻き込まれてしまう(踏み上げられる)こともあります。上昇の強い銘柄に安易に空売りを実行したところ、ストップ高になってしまい、翌日以降で大きな損切りをすることになった、という経験がある方も多いです。

そのため、上昇が強く、買い戻しができないリスクが高そうと判断できる場合は、そもそも空売りしないことが、一番のリスクヘッジとなります。

株価を目の前にすると「もしかしたら空売りで利益を取れるかもしれない」という気持ちにもなりますが、勇気を持って見送り、下落の兆しが確認できている銘柄を別途ピックアップするなど、戦略を切り変えることが賢明と言えます。

「返済買い」や「買埋」など正しく選択できているか、確認する。

単純ですが、注文をする際、正しく項目を選択できているか、今一度確認する癖を身につけましょう。

買い戻しに限らず、誤操作や誤発注などは、実はプロでもやらかすことがあります。売買の判断を誤って出た損失なら、いくばくか「やむを得ない」と思えますが、それが誤発注によるものとなると、心理的にもダメージが大きいです。

例えば「注文の確認画面で指差し確認をする」など、初歩的な話ではありますが、慣れてくるとどうしても確認を軽視してしまいがちになります。
基本的なことを改めて忠実に行うよう、注文操作時の行動やルーティンを見直してみると良いです。

まとめ

いかがでしたか。空売りを含む信用取引には、実はこんな怖い言葉があります。

「買いは家まで、売りは命まで」

これは「信用買いでは家をなくすほど大損することがあるけど、信用売りは、さらに命をなくすほどの大損をする可能性がある」という意味で、信用取引のリスクと、特に空売りのリスクが高いことを表しています。

そのようにリスクの高い空売りで、買い戻しができない、となると「どうしたらいいんだ」かなり焦ってしまうかと思います。そのように冷静さを欠くことで、さらに正常な判断ができない、という悪循環に陥ることにも繋がります。

空売りをするにも、買い戻しができない状況とは何か、その状況が発生しないようにどのようにすれば良いか、を事前にしっかり把握しておけば、ある程度リスクコントロールが可能となるので、ぜひ本記事を読んで、今後の投資戦略の参考にしていただけましたら幸いです。

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