株式投資に興味を持ち、証券口座の開設も終わって「さぁここから株を購入しよう」と思った際、疑問が出やすいのが「株の注文方法」についてです。
いざ注文しようと思ったら、「成り行き注文」と「指値注文」の2つの注文方法があって「何が違うんだろう?」と、悩んだ人も多いのではないでしょうか。
また、この2つの注文方法について少し調べてみると「成り行き注文を選ぶ場合は、注意した方がいい」など、成り行き注文について、少し警鐘を鳴らすような記載が各所でされていることにも気がつくと思います。
上記のような内容を受け、これを読んでいるあなたは、おそらく
「結局、どっちの注文方法を選んだらいいんだろう?」
「成り行き注文が危険って、なぜ?どういうこと?」
と、疑問に思っているのではないでしょうか。
そこで本記事では、指値注文や成り行き注文がそれぞれどのような注文方法なのかを改めて理解し、注文方法の使い分けや、成り行き注文を使うと危険な場面について解説していきます。
監修者:市川雄一郎
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長
目次
成り行き注文と指値注文
まずはじめに、成り行き注文と指値注文の2つについて、確認していきます。
前提としてこの2つの大きな違いは「購入(または売却)する際に、希望の値段を指定するかしないか」といった部分です。
1-1 成り行き注文とは
成り行き注文は「売買の際に、値段を指定せずに注文する」方法のことを言います。
「いくらでもいいから買いたい(売りたい)」という言葉にするとイメージしやすいかと思います。
値段については、自分が買い注文を行った場合は、その時に売りに出されている中で一番安い金額に、売り注文を行った場合は、買いが出ている中で一番高い金額、となります。
【メリット】
・約定スピードが速い:注文を出した時点で、売買可能な価格で即座に約定する。
・機会損失を防ぐ:基本的に注文すれば確実に約定するので、市場に乗り遅れることがない
【デメリット】
・想定外の価格で約定する可能性:注文を出したタイミングによっては、不利な価格で約定することがある。
※約定(やくじょう):株式取引が成立すること
約定の実際のイメージを1-3で、また、成り行き注文を使うと危険な場面についてを3章で解説しているので、ぜひ読み進めてください。
1-2 指値注文とは
指値注文は、「売買の際、値段を指定して注文する」方法のことを言います。
「〇〇円になったら買いたい(売りたい)」という言葉でイメージしてみると良いでしょう。
値段を指定しているので、同じ金額で売ってくれる人や買ってくれる人がいれば、その金額で売買成立となります。
【メリット】
・約定価格が想定と乖離することがない:希望する価格で売買できるので、思わぬ価格で約定してしまうリスクがない。
・値動きを気にしなくてよい:注文をしたら待つだけなので、注文後の値動きを気にしなくて済み、心理的負担が減る。
【デメリット】
・約定しない可能性がある:指値注文は、希望する価格にならないと約定しないため、注文機会を逃してしまう可能性があります。
こちらも、約定の実際のイメージを次項で解説していきますので、ぜひ読み進めてください。
1-3 成り行き注文と指値注文での違い
前項までで、成り行き注文と指値注文について確認しました。
この2つの注文方法について、同じ状況の時に、注文方法によって実際にどのように違いがあるか、例を参考に、詳しく確認してみましょう。
上記は、AZ-COM丸和ホールディングス(9090)のある日の注文状況(「板(いた)」と言います)です。
画面中央が株価、右側が買い注文の数、左側が売り注文の数(いずれも100株単位)を表しています。
このような注文状況を前にして、100株の売買注文をした時、成り行き注文と指値注文でどのような違いがあるかを確認します。
【成り行き注文の場合】
- 買い注文時
一番安く売りに出ているのが1199円のため、「1199円」で即約定。 - 売り注文時
一番高く買いが出ているのが1198円のため、「1198円」で即約定。
【指値注文の場合】
- 買い注文時
例えば、1198円と値段指定をした場合は「順番まち」となり、自分より先に買い注文が出ている300株が買われたあと、さらに売ってくれる人がいれば、「1198円」で約定する。1199円を指定した場合は「1199円」で即約定。 売り注文時
例えば、1199円と値段指定をした場合は「順番まち」となり、自分より先に売り注文が出ている900株が売れた後、さらに買ってくれる人がいれば、「1199円」で約定する。1198円を指定した場合、「1198円」で即約定。
ポイントはやはり、成り行き注文は「即約定」すること、指値注文は、安く買おう(もしくは高く売ろう)とすると「順番待ちになる」と言う部分と言えます。
さて、上記の売買例は100株ということもあり、比較的イメージしやすいのではないかと思います。
ではここで、売買数が「1000株」だった場合はどうなるでしょうか。同じように見ていきましょう。
改めて、AZ-COM丸和ホールディングス(9090)の注文板を例に、考えていきます。
【1000株 成り行き注文の場合】
- 買い注文時
一番安い1199円で売りに出ている900株は「1199円」で即約定。残りの100株は、その次に安い「1200円」で即約定。(1199円×900株 + 1200円×100株 ) 売り注文時
一番高い1198円で買いが出ている300株は「1198円」で即約定。残りの700株は、その次に高い「1197円」で即約定。(1198円×300株 + 1197円×700株 )
【1000株 指値注文の場合】
買い注文時
例えば、1198円と値段指定をした場合は「順番まち」。1199円を指定した場合は、売りに出ている900株は「1199円」で即約定。残りは「1199円で100株の買い注文」として、板に残る。売り注文時
例えば、1199円と値段指定をした場合は「順番まち」。1198円を指定した場合は、買いが出ている300株は「1198円」で即約定。残りは「1198円で700株の売り注文」として、板に残る。
ここは、成り行き注文と指値注文で、少し違いがはっきり出てくる形となります。
成り行き注文の場合は、基本的に注文した1000株全部が確実に即約定します。
ですが、指値注文の場合は、即約定するのは、その指値で板に出ている株数分だけになり、残りはすぐには約定せず、誰かがそれを売ってくれる(あるいは買ってくれる)のを待つことになります。
この違いを覚えておきましょう。
成り行き注文と指値注文の使い分け
前章で、成り行き注文と指値注文、それぞれの約定の違いを見てきました。
違いを理解したところで、出てくる疑問としては、「どう使い分けたらいいの?」というものではないかと思います。
結論としては大きく
「約定」を優先する場合には成り行き注文
- 「値段」を優先する場合は指値注文
と分けて考えると良いです。一つずつ説明していきます。
2-1 「約定」を優先する場合は成り行き注文
「何としてでも、このタイミングで、この株を買いたい」
「今のうちに手持ちの株を売却して整理しておきたい」
など、「とにかく売買を成立させたい」と言う考えがある場合は、成り行き注文を使うと良いです。
1章でもお伝えしたとおり、成り行き注文は基本的には、注文と同時に即約定します。ある程度株数が多くても、買いが遅れる、売れ残る、ということがなく、全て約定させることが可能です。
その分、株価を指定できない面はありますが、スピード感や確実性を重視したい場合は成り行き注文が大いに役立ちます。
ここで「スピード感や確実性を重視したい場合」とは、具体的にどういった状況があるでしょうか。
以下、例をご紹介します。
【例1】
狙っていた株が上昇を開始。もちろん安く買いたいけど、それよりも「買えなくて上昇相場に乗れず、利益を取れない」方が機会損失と感じる。だったら、値段は指定できないけど、これ以上高くなる前に、今のうちに一定数の株を買っておきたい。
【例2】
保有している株が、下落し始めた。このまま持っているとさらに下がりそうな状況。資産が減っていくのを防ぎたいので、損失がこれ以上広がらないうちに、とにかく全て手放しておきたい。
投資家それぞれの感覚による部分もあるので、上記はあくまで一例ではありますが、成り行き注文の使い所に迷う方は、参考にすると良いでしょう。
2-2 注文の値段を優先する場合は指値注文
「投資に回している資金を、できるだけ徹底して管理したい」
「自分が思う値段で売買できた方がいい」
など「納得する値段で売買したい」と言う場合は、指値注文を使うと良いです。
指定する値段によっては約定しないこともある、といった面はあるものの、想定外の値段で約定することはないため、株価を常々気にする、との心理的負担を減らすことができます。
「値段を優先させたい」との具体的な状況・考えの例としては以下のようなものがあります。
【例3】
現在、配当利回りが3.5%の株がある。これがもう200円下落したら配当が4%を超える。配当4%以上の銘柄でポートフォリオを組みたいので、4%となる株価で指値で買い注文をして、株を購入したい。
【例4】
保有している株を分析し、業績や財務状況から判断して、あと100円程度の上昇が見込めると考えた。100円の上昇を達成までをずっと見ていることができないので、指値で注文をしておき、上昇したタイミングで売れるようにしておきたい。
こちらもあくまで一例ではありますが、参考にしていただくと良いでしょう。
成り行き注文が危険なのは、こんな場面
ここまで、成り行き注文と指値注文について、深掘りをしてきました。違いや使い分けのイメージがついたかと思います。
さて、ここで冒頭でも少し触れましたが、「成り行き注文は危険なの?」という部分について紐解いていきたいと思います。
ここまで解説したように、成り行き注文はスピード感や確実性を優先できる注文方法です。それと引き換えに値段を指定できないデメリットがあります。
このデメリットの部分について、実は「かなり顕著に出やすい」と言える場面がいくつかあります。
そういった状況の時に、成り行き注文を使うと、
「確かに素早く約定できたのでよかったし、ある程度の金額の誤差は覚悟していたけど、それにしてもこんなに想定外の価格で約定するなんて、、、」といったような思いになることもあります。
では「成り行き注文のデメリットが顕著に出やすい」とは、具体的にどのような状況が考えられるでしょうか。
ここでは、2つの場面をご紹介・解説します。
①激しく売買が行われている時
1つ目は「とても活発に売買が行われている時」です。
例えば、何か好材料の発表や、ニュースで取り上げられたなどで、一気に投資家の注目が集まると、売買がかなり活発に行われる場面が発生します。
この場合、コンマ1秒以下の単位で、大口の売り買いが行われるほど活発になるようなこともよくあります。株式投資とは、そういう世界です。
私たちが、注文操作をしているという物理的な時間軸の間にも、株価は実は目に見えない範囲で、コンマ1秒を争って動いているのです。
そうした最中、成り行き注文を使うと、自分が注文完了したタイミングで、大口の注文にバッティングし、大きく動いた株価で約定してしまう、ということも発生します。
これは必ず発生するというものではもちろんありませんが、売買が活発な時ほど、巻き込まれる確率は高くなります。
そのため、激しい売買が行われている場合、慣れていない方は、「成り行き注文のデメリットが顕著に出やすく危険かもしれない」と一つ指標にしていただくと良いです。
②板の注文状況が極端に少ない時
①とは対照的に、「板の注文状況が極端に少ない場合」も、成り行き注文のデメリットが出やすく、危険な場面と言えます。
一つ例を出します。
上記は、ある日のニッソウ(1444)の注文板です。
株価の表示は現在「2921円」となっていますが、板の注文状況をよく見ると、株数も少なく、さらに注文と注文の間の価格がかなり開いていることがわかるかと思います。
ここで、「2920円前後で100株売却したい」と考えて、成り行き売り注文をした場合、どのようになるでしょうか。
この場合、一番高い買い注文である「2890円」で約定することとなり、現在の株価表示から30円もズレることとなります。
100株単位なので、利益にして、想定と約3000円のズレが発生することになるのです。
また、「2920円の株価付近で1000株購入しよう」と、成り行きで買い注文した場合はどうなるでしょうか。
この場合、売りに出ている注文を下から数えて1000株になるまで購入することになります。
つまり、2923円から2989円までの注文を全て買わないと1000株に達しないので、そこまで一気に購入することになります。
2920円付近と考えていたところ、3000円近くまでの高値を買い上げることになってしまい、かなり想定外な状況と言えます。
このように、板の注文状況が極端に少ない場合も「株価を指定できない」という成り行き注文のデメリットが顕著に出やすいので、こちらも慣れていない方や、資金が限られている方などは特に注意した方が良いです。
まとめ
いかがでしたか。「これから株式投資をもっとやっていこう」という初心者の方にとっては、注文方法の違いや使いどころなどは、疑問に思いやすい部分と言えます。
特に「成り行き注文もうまく使っていけるようになりたいけど、どんなことに気をつければいいか、あまりイメージができなかった」という方も結構いらっしゃるのではないかと思います。
本記事の内容が、そういった疑問の解決や参考になりましたら幸いです。
コメント