日銀が利上げしたら、株価はどうなる?影響をわかりやすく解説

2024年8月5日、日経平均株価が前日終値ベースで-4,451円も下落するという、前代未聞の大暴落が発生しました。

これは、70年以上続く日経平均の長い歴史の中で見ても、「下落幅上位ランキング1位」そして「下落率上位ランキング2位」を記録するほどの下落規模であり、目の当たりにして大きな不安を抱えた投資家も非常に多かったことでしょう。

まさに、記録にも記憶にも残る、歴史的な大暴落だったといえます。

この歴史的大暴落は、同年7月31日の日銀による政策金利の引き上げ、いわゆる利上げに関する発言がトリガーになったと言われています。

ここで考えることは

「なぜ日銀の利上げによって株価が下落したのか」
「利上げは必要だったの?」
「金利と株価の関係って、結局どうなっているのだろう」

といった疑問ではないかと思います。

また、経済状況を勘案しながらではありますが、今後も段階的に利上げを進めていくとの日銀の方針もあるため、「日銀の利上げによって株価がどう動くのか、それによってどのような投資戦略を取れば良いか」と気になっている方もいると思います。

そこで本記事では、金利政策や、金利が株価へ与える影響についておさらいし、日銀の利上げがあったらどのような投資戦略を取ることが考えられるか、という点について深掘りして行きます。

ぜひ最後まで読み進めてみてください。

監修者:市川雄一郎 監修者:市川雄一郎 
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)

公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長

日銀の金利政策を理解する

まずはじめに、日銀の金利政策を理解するために、金利の理解や、日銀の役割について、改めておさらいしていきましょう。

そもそも金利とは 

「金利」という言葉自体は比較的聞き慣れたものではありますが、改めてどのような理解となるのでしょうか。

辞書で調べてみると、定義としては以下の内容であることがわかります。

【金利】

  • 貸金・預金に対する利子。利息。
  • 元金に対する利子の比率。利率。

(引用:デジタル大辞泉)

つまり、お金の貸し借りの際に発生する利子のことを指します。もっと簡単に「お金のレンタル料」という言葉でイメージするとわかりやすいかもしれません。

例えば、レンタカーを利用した場合、その後、車の現物の返却はもちろんですが、レンタル料金も当然支払います。

お金に関しても同じで、お金を借りた後、返す際には元金に「利子=レンタル料金」をプラスして返すことになります。このレンタル料金が金利、ということになります。

そしてレンタル料と考えると、借りる側からすれば当然安い方がありがたく、反対に、貸す側からすれば、高い方が儲けに繋がるのでありがたいことになります。

このように、金利には、どの視点に立つかによって、高い安いのどちらがいいか、印象が変わる側面があります。

  • 金利=お金のレンタル料
  • 視点によって、高い方がいいか安い方がいいか、が変わる。

まずはこの点をイメージの土台として持っておきましょう。

金利の種類

金利は、貸し出す期間によって「短期金利」「長期金利」の大きく2つに分けることができます。

具体的には1年以内の貸し出しに適用する金利を「短期金利」1年以上の貸し出しに適用する金利を「長期金利」といいます。

先ほどのレンタカーの例で言えば、借りる期間が1年以内であれば、短期レンタルプラン、1年以上であれば、長期レンタルプランの料金が適用される、というイメージです。

ここで、「なぜ短期と長期と、2種類あるのか」という疑問が出てくると思いますが、これは「お金には時間的価値がある」ことによります。

もし、自分が誰かにお金を長期間貸すとなった場合、その期間中は、自分の手元にお金がない状態になるので、その分、色々我慢をしなければならなくなります。

貸す期間が長くなるほど、その我慢も続きストレスも溜まるので「長く貸すなら、それなりに見返りがないと、割に合わない」と感じるのも頷けるのではないでしょうか。

この時間的価値の一つの線引きとして、1年を基準に、金利を2種類設けているのです。

具体的には以下のように分類されています。

短期金利は、銀行同士のお金の貸し借り時に適用される「無担保コール翌日物取引」が、長期金利は「10年物の国債」が、それぞれ代表例です。

日銀が金利を決める理由・目的 

これまで金利について確認してきましたが、この金利を決定しているのが、国の中央銀行である日銀(日本銀行)です。

具体的には、短期金利を調整する権限を与えられています。

日銀は、国の中央銀行として、物価と経済を安定させる役割を担っていて、その実現のために状況に応じて適切に金利を設定していきます。

経済には一定の波や景気サイクルがあり、好況や不況を繰り返すという特徴があります。

また、好況時には人々や企業は積極的にお金を使うので、様々なモノへの需要が生まれるので物価は上昇しやすく、反対に不況時には、お金を使わなくなってモノへの需要が減るため、物価は下落しやすい、という性質があります。

このサイクルや波が適度に繰り返されることで、国の経済は成長していくのです。

例えば、好況時の物価上昇が目の前で過度に進んでしまうと、私たちの目の前の生活は当然苦しくなってしまいます。その場合、お金の供給量を減らしてモノへの需要を落ち着かせるために、日銀は金利を上昇させます。(利上げ)

一方、不況時の物価の下落が著しければ、企業の収益が減少し、経済成長に繋がりません。この場合、お金の供給量を増やして需要を再度着火させるため、日銀は金利を下げようとするのです。(利下げ)

このように、どちらかに過度に傾いてしまって、経済が過熱・停滞してしまうことのないように、銀行同士のお金の貸し借りの金利である短期金利を適切に上下調整して、市場に出回るお金の量と、ひいてはモノの需要と供給をもうまくコントロールしています。

この状況は「インフレ率を適切に維持するため」という言葉で、ニュースなどでよく表現されます。

インフレとはモノの値段が上がることです。順調な経済成長のためには、このインフレが毎年2%程度で進むことが良いとされており、これを維持するために、状況を見ながら日銀は金利をうまく調整している、ということになります。

日銀の利上げと株価の影響

前章で、金利や日銀の役割について深掘りしてきました。

本章では改めて金利と株価の関係にフォーカスし、利上げになると株価にどのような影響があるのか、を紐解いていくことにします。

金利が株価に影響する理由 

日銀の利上げや利下げは、株価が動く一つの要因となります。どのような構造か、確認していきます。

1章で触れたとおり、金利は「お金のレンタル料」なので、金利の上下によってお金の借りやすさが変わってきます。つまり「お金の供給量」に影響が出るのです。

経済の成長には各企業が活発に事業を行うことが必須ですが、そのためには元手になる資金が当然必要になります。なので、お金の供給量によって、企業も事業を活発に行いやすいかどうかが決まることになります。

企業の事業活動の緩急によって、次に影響が出るのが「業績」です。

積極的な事業活動ができればそれだけ売上や利益が積み重なり、反対に事業活動を抑制すれば、当然、それに伴い業績は下がるわけです。

業績が変動すると、株価にも当然影響が出てくると言えます。これが金利の影響が株価まで派生する流れです。

なお、実際に金利が調整され、その影響が企業の業績実態に数字として出てくるまでには、もちろんタイムラグがありますが、市場に参加している投資家たちは、常に経済や企業の業績を先読みして投資をしています。そのため、金利が動いた段階で、先読みして株価もすぐに反応する、ということがよくあります。

利上げすると株価は下落しやすい 

金利と株価の影響の構造がわかったところで、実際に「利上げ」になったら株価はどちらに動くと言えるのでしょうか。

結論として、利上げになった場合は、株価は下落方向に動きやすいです。

一般的に、金利と株価はシーソーのような関係にあるといわれていて、利下げなら株価上昇、利上げなら株価下落につながる傾向があります。

以下、利上げ時の例を、前項の構造に当てはめて少し深掘りして見てみましょう。

利上げになれば、物価の上昇は押さえられ、企業の活動も控えめになります。すると、過熱した経済にブレーキがかかり、それに伴って業績もそれなりに低い数字になることが予想できるでしょう。

業績が下がる見込みであれば、株価は当然下落方向に反応します。先に述べた通り、今後の株価の下落可能性を予測して、利上げから程なくして、あるいは利上げの発表とともに、すでに織り込んで下落することもあります。

このような流れによって、一般的には「利上げによって株価は下落しやすい」と考えられているのです。

(引用:日本取引所グループ「会社の株価の決まり方」)

過去の事例 

実際に過去利上げが行われた際、株価がどのように反応したのかも確認してみます。

前回利上げが行われたのは、2006年7月14日。
無担保コール翌日物取引の金利が「おおむね0%」から「0.25%前後」へ。その後2007年2月21日には「0.5%前後」への引き上げが実施されました。

該当期間前後の日経平均の動きを見てみると、一時的に下落が発生していることがわかります。

(2006年3月〜2007年3月の日経平均ヒストリカルデータを下に、筆者作成)

もちろん、金利だけでなく、他の外的要因も複雑に絡み合った結果であることは前提ですが、日銀の利上げや利上げの姿勢が、株価の下落要因の一つになりうる、と言えます。

日銀利上げ時の投資戦略アイデア

ここまで日銀の利上げと株価の影響について確認してきました。ここで、「利上げで株価が下がりやすいなら、どう投資に活かしたらいいのか」と考えた人もいるかと思います。

そこで、日銀が利上げを行った際に考えられる投資戦略アイデアをご紹介します。

あくまで、参考の一つであり、必ずこの手法のみが有効、というものではありませんが、目先の利上げ可能性を前に「不安に思っているがどうしたらいいか迷っている」という人は、ぜひ参考にしてみてください。

キャッシュポジションを多くする 

一つ目はキャッシュポジション(資産の現金比率)を高めておくことです。

前章で確認した通り、金利と株価はシーソーのような逆相関性があり、金利が上昇する場合は、株式相場は下落に繋がりやすいと言えます。

もしそれを前提にするのであれば、株式を保有していると、当然下落の影響を受けることになります。

長期保有であれば問題なさそうですが、短期での投資をしている人にとっては、資産が目減りしたり、場合によっては含み損を抱えることに繋がるかもしれません。

それであれば、利上げが実行される前に、今保有している株式を一部、もしくは全部売却して現金にしておき、相場が落ち着くまで様子見しておくのが賢明と言えます。

キャッシュポジションが多ければ、相場の下落があっても資産は守られるので、冷静さも保つことができますし、その後にチャンスが来たら、機会を逃すことなく投資することも可能です。

このように、ある程度現金比率を高めておくことは、利上げ時の投資の考え方として有効な手段の一つと言えます。

利上げの影響を受けにくいセクターや銘柄に投資する   

先述の通り、基本的に利上げは株式相場にとっては下落要因となりますが、銘柄やセクター(業種)によっては、影響を特に受けやすいものや、比較的影響を受けにくいものがあります。

例えば、成長著しいグロース株の場合、基本的にその成長期待の強さから、株価は少々割高になりがちです。そのため、利上げされると、その割高感から特に売られやすい傾向があります。

一方、割安で放置されているバリュー株や長期保有向けの高配当株などは、グロース株に比べると売られにくく、相対的に有利になる傾向があります。

そのため、利上げの際はグロース株を避け、バリュー株や高配当株への投資を検討するのも一つです。

また、セクターでみると、一般的に以下のような傾向があると言われています。

医療や生活必需品、公共事業などは、金利や経済の状況にかかわらず一定の需要が必ずある業界で、外部要因の影響を受けにくいことから「ディフェンシブ銘柄」と言われます。

もちろん「全く下落しない」ということではありませんが、比較的落ち着いた値動きになることも多いので、ディフェンシブ銘柄を中心としたセクターへ投資するのも、一つの手段として有効です。

債券のショートポジションをとる 

少々高度なテクニックですが、株式ではなく、債券に注目しショートポジションを取る(信用取引で債券を売る)ことも、戦略としては有効です。

金利が上昇する場合、債券の価格は下がっていきます。以前の安い金利の時に発行された債券(既発債)よりも、これから発行される債券(新発債)の方が金利が高く魅力的となり、既発債の価値が下がるためです。

債券価格が下がる局面でショートポジションをとれば、直接利益を狙うということも可能です。

手段としては、債券先物を売るインバース型の債券ETFを買う、等があるので、これらを利用してみるのも一つではあります。

ただし、これは手段としてあまり一般的でなく、ハイリスクかつ高度な債券の知識やテクニックを持つことが前提となるので、注意が必要です。

長期目線であれば、気にせず積立する 

投資信託での積立投資や、株式でも配当や優待などを目的に長期戦略で保有している場合であれば、利上げによる株式相場の下落を気にせず、そのまま積立や保有を継続すると良いです。

なぜなら、経済や相場というものは、金利を始め、その時々の、様々な金融事情を巻き込みながら続き、成長していくものだからです。

景気が良いか悪いかで言えば、もちろん「良い方がいい」と誰もが考えるところですが、かといって放置していると、経済の過熱を招き、いつ崩壊してしまうかもわからない危険な状態になります。

今後も長く安定した経済成長を目指すのであれば、「適度にブレーキを踏みつつ、安全な速度で」進んでいくことが望ましいと言えます。そのために行われるのが利上げなのです。

なので、利上げによって、目先の景気が停滞したとしても、長い目線で見るのであれば、それも通過点と捉えて気にせず投資を継続するのがおすすめです。

投資の本質を勉強したいあなたに

資産運用や投資の結果を自分にとって良いものにするためには、運用するための「正しい知識」を学ぶことが重要です。「なんとなく」の運用のままでは、適切な投資の判断ができず、損につながってしまうこともあります。

これから資産運用や投資で成果を出し、お金の不安を解消したいと思っている人は、以下の講座をぜひ見てほしいです。実績ある講師が監修した2時間の講座が、今だけ期間限定無料で受講できます。

→2時間の無料講座はこちら

まとめ

いかがでしたか。

日銀の追加利上げの姿勢が垣間見える昨今、「また次に利上げがくると、株価はどうなってしまうのだろう」と不安に思う部分も多いでしょう。
特に2024年8月の暴落をリアルに目の当たりにした人であれば、なおさら不安になるのも頷けます。

しかし、金利や日銀の役割を始め、利上げによって株価にどういった影響があるかをしっかり理解しておけば、どのような作戦をとろうか、と焦らずに冷静に判断することも可能になるはずです。

本記事の内容が、今後の投資戦略の参考になれば幸いです。

記事一覧はこちら

コメント