着物は再び輝くか――京都きもの友禅、一蔵、日本和装に見る和装業界の現在

縮小する着物市場、新たな価値を探る和装業界

日本の伝統文化を象徴する着物は、長い歴史の中で日本人の暮らしとともに発展してきた。しかし、戦後の洋装化やライフスタイルの変化によって、かつての日常着としての役割は大きく縮小している。現在では成人式や卒業式、結婚式、七五三など人生の節目に着用する「晴れ着」としての存在感が中心となり、国内の呉服市場も縮小傾向にある。

一方で、着物を取り巻く環境には変化の兆しも見られる。振袖のレンタル、リユース着物、EC、着付け教室、写真撮影、観光地での着物体験など、従来の「着物を購入する」という消費スタイルにとどまらない新たな市場が広がっている。2025年の国内呉服小売市場は2,030億円と前年比で減少したものの、着物そのものの文化的価値が失われたわけではない。むしろ現在の着物業界では、限られた着用機会をどのように新しい需要へつなげるかが重要になっている。

今回取り上げた京都きもの友禅ホールディングス、一蔵、日本和装ホールディングスは、それぞれ異なるアプローチでこの変化に対応している。振袖を軸に人生の節目を支える企業、販売・レンタルやウエディングまで事業を広げる企業、着付け教室を通じて「着物を着る人」を増やす企業など、そのビジネスモデルはさまざまである。3社の取り組みを通して見ると、着物業界が単なる呉服販売から、レンタル、体験、教育、イベントなどを含む総合的な和装ビジネスへ変わりつつあることが分かる。

コード企業名着物・呉服との主な関係
7615京都きもの友禅ホールディングス振袖を中心とした高級呉服の販売・レンタル、写真スタジオなど 
6186一蔵振袖・着物の販売、レンタル、着付け教室など
2499日本和装ホールディングス着付け教室、着物・和装品の販売仲介など
7571ヤマノホールディングス着物・和装品の販売、着付け教室など 

着物の現在地――伝統文化から「体験する和装」へ、新たな市場を切り拓く

日本人の伝統衣装として長い歴史を持つ着物が、いま大きな転換期を迎えている。日常着として着物を身につける人は減少し、呉服店の数も縮小している一方、成人式や卒業式、結婚式、七五三、観光など、特別な日の装いとして着物を楽しむ文化は根強く残っている。さらに、リユース着物やレンタル、ネット通販、インバウンド需要など、新しい市場も生まれている。着物は「衰退する伝統産業」という一面だけでは捉えきれない、変化の途中にある産業といえる。

着物の歴史を振り返ると、その原型は古代からの衣服文化にさかのぼるが、現在につながる「着物」の形が確立していったのは江戸時代以降とされる。特に江戸時代には小袖が広く普及し、染織技術の発達とともに、友禅染や絞り、刺繍など多彩な表現が発展した。町人文化の成熟によって着物は単なる衣服ではなく、色や柄、素材によって季節感や身分、趣味を表現するファッションへと進化したのである。

明治時代になると、西洋化の進展によって洋服が徐々に普及した。しかし、着物がすぐに姿を消したわけではない。戦前までは日常生活の中で着物を着る人も多く、和服と洋服が併存していた。大きな転換点となったのが戦後である。生活様式の洋風化、既製服の普及、女性の社会進出などによって、着物は日常着から冠婚葬祭や式典などの「特別な衣服」へと役割を変えていった。

その結果、着物市場は長期的な縮小傾向をたどっている。矢野経済研究所が2026年4月に公表した調査によると、2025年の国内呉服小売市場規模は2,030億円で、前年比95.8%となった。市場規模は2年連続で減少しており、コロナ禍からの回復局面を経た後、再び縮小基調に入っている。

市場縮小の背景には、着物を日常的に着る人の減少に加え、人口減少や高齢化、着付けの難しさ、保管や手入れの手間、高額商品に対する消費者の慎重姿勢などがある。特に若い世代にとって、着物は「購入して何度も着る服」というより、「成人式や卒業式など人生の節目にレンタルするもの」という位置付けが強まっている。

しかし、ここで注目したいのが「着物を所有する」から「着物を体験する」への変化である。レンタルサービスの普及によって、高価な着物を購入しなくても本格的な和装を楽しめるようになった。成人式の振袖や卒業式の袴だけでなく、観光地で着物や浴衣をレンタルして街歩きを楽しむスタイルも定着している。着物に対する消費者の関わり方が変化したことで、従来型の呉服販売とは異なるビジネスモデルが成立しつつある。

さらに存在感を増しているのがリユース市場である。新品の高級着物に比べて手頃な価格で購入できる中古着物は、若い世代にも入り口として受け入れられやすい。着物は仕立て直しや帯・小物との組み合わせによって現代的なコーディネートができるため、「古い服」ではなく「一点物のファッション」として再評価される可能性もある。

デジタル化も着物の可能性を広げている。ネット通販では浴衣、洗える着物、振袖、袴、帯などを購入でき、SNSでは着物のコーディネートや着付け方法を発信するユーザーも増えている。文化財の分野でもデジタル技術の活用が進んでおり、文化庁は東京国立博物館所蔵の着物をデジタル上でアレンジし、バーチャル試着できる取り組みを紹介している。伝統文化とデジタル技術を組み合わせることで、これまで着物に接点がなかった層にも魅力を伝えられるようになっている。

また、インバウンド需要も着物業界にとって重要なテーマとなっている。訪日外国人にとって着物は、日本らしさを体験できる象徴的な存在である。観光地でのレンタルや着付け体験、写真撮影などは、着物そのものを販売する以上に「体験価値」を提供できる。訪日観光客が日本各地を訪れるなか、着物を単なる衣料品ではなく、観光、文化、エンターテインメントを組み合わせた体験型サービスとして展開する余地は大きい。

上場企業にも、こうした変化を取り込もうとする企業が存在する。京都きもの友禅ホールディングスは振袖などの呉服販売を中心に、レンタルや写真関連サービスにも事業領域を広げている。一蔵は着物の販売やレンタル、着付け教室などを展開し、成人式や卒業式といった人生のイベントとの接点を持つ。日本和装ホールディングスは着付け教室を通じて、着物を「買う」だけではなく「着る」文化を広げる事業モデルを構築している。2026年夏には「和装家アカデミー」「きもの一灯塾」を開講し、着付け技術だけでなく、着物文化を次世代へ伝える人材育成にも取り組んでいる。

こうした動きを見ると、着物業界の未来は「昔ながらの呉服販売を維持できるか」だけで決まるものではないことが分かる。重要なのは、着物を現代の生活の中でどのような価値に変換できるかである。レンタル、リユース、EC、観光、写真、イベント、教育など、着物を入り口として周辺サービスを広げることで、新しい顧客との接点を作ることができる。

一方で、伝統技術の継承という課題は残る。着物は生地を織る、染める、刺繍する、仕立てるといった多くの工程によって成り立っており、職人の高齢化や後継者不足は産地の存続に直結する問題である。市場が縮小すれば、優れた技術を持つ職人が仕事を続けることも難しくなる。着物を文化として残すためには、需要を創出すると同時に、産地や職人が適正な対価を得られる仕組みも必要になる。

着物は、決して「昔の服」になったわけではない。日常着としての役割は大きく縮小したものの、成人式や卒業式、結婚式、観光、文化体験など、現代ならではの新しい居場所を獲得している。2025年の呉服小売市場が2,030億円まで縮小したという数字は厳しい現実を示す一方、市場の内側ではレンタルやリユース、デジタル、インバウンドなど新たな可能性が生まれている。

江戸時代にファッションとして花開き、明治・大正・昭和を通じて洋装化の波を乗り越え、現在まで受け継がれてきた着物。その歴史は、変化しながら生き残ってきた歴史でもある。これからの着物に求められるのは、伝統をそのまま保存するだけではなく、現代の価値観やライフスタイルに合わせて新しい楽しみ方を提案することである。「着物を買う時代」から「着物を着る・借りる・見る・学ぶ・体験する時代」へ――。日本文化を代表する着物は今、次の時代に向けた新たな市場づくりの段階に入っている。

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京都きもの友禅ホールディングス――振袖から広がる「きもの文化」の新たな可能性

京都きもの友禅ホールディングスは、着物・呉服をテーマにした上場企業を考えるうえで、代表的な存在の一つである。成人式などで着用される振袖を中心に、着物の販売やレンタル、前撮り写真など、人生の節目と着物を結びつけた事業を展開している。着物市場そのものは長期的に縮小しているものの、同社が対象とする振袖市場には、成人式という大きなイベント需要が存在する。さらに、単純な呉服販売から、レンタルや写真撮影などを組み合わせた総合的なサービスへと事業の形を変えている点も注目される。

着物は日本を代表する伝統文化である。江戸時代には小袖を中心とした和装文化が発達し、友禅染や絞り、刺繍などの高度な染織技術が花開いた。明治時代以降は洋装化が進み、戦後になると洋服が日常着として定着したことで、着物は日常的に着る衣服から、成人式、結婚式、卒業式、七五三などの特別な日に着る衣装へと役割を変えていった。現在の呉服業界は、この「日常着から晴れ着へ」という市場構造の変化を前提にビジネスを組み立てる必要がある。

その中で京都きもの友禅ホールディングスが強みとしてきたのが振袖である。振袖は未婚女性の礼装として知られ、特に成人式との結び付きが強い。成人式は人生に一度のイベントであり、本人だけでなく家族も含めて着物を選ぶ機会となる。普段は着物を着ない若い世代であっても、成人式をきっかけに初めて本格的な着物を選ぶケースは少なくない。つまり振袖は、縮小する着物市場の中で、新しい世代を和装文化に引き込む重要な入り口なのである。

同社の事業で重要なのは、着物そのものを販売して終わりではない点だ。振袖選びでは、着物本体だけでなく、帯や草履、バッグ、髪飾りなどの小物、着付け、ヘアメイク、前撮り写真など、多くのサービスが関連する。成人式というイベントを軸にすれば、一着の着物を販売するだけではなく、準備から当日までの一連の体験を提供することができる。これは、従来の「呉服店」というビジネスモデルを、イベント・ライフスタイル型のサービスへ転換する動きと見ることができる。

近年、着物業界で存在感を高めているのがレンタルである。高額な振袖を購入して保管するよりも、必要な時だけ借りたいという消費者は増えている。特に若い世代にとって、着物は日常的な衣料品ではないため、購入よりレンタルの方が合理的と考えられやすい。そこで、販売とレンタルの双方を用意することは、顧客の選択肢を広げることにつながる。

さらに、写真撮影との組み合わせも重要である。成人式では当日だけでなく、事前に振袖を着て写真撮影を行う「前撮り」が一般的になっている。着物を着ることそのものに加えて、写真として思い出を残すことに価値を感じる消費者は多い。ここには、SNS時代ならではの需要もある。振袖姿を家族や友人と共有したり、写真や動画として残したりすることで、着物は単なる衣服から「思い出を形にするコンテンツ」へと変化している。

こうした市場環境を考えるうえで、国内呉服市場の縮小は避けて通れない。矢野経済研究所によれば、2025年の国内呉服小売市場規模は2,030億円で、前年比95.8%となった。市場は長期的な縮小傾向にあり、人口減少や少子高齢化、洋装化、着物を着る機会の減少などが背景にある。

ただし、これは着物関連企業にとってすべてが悲観材料というわけではない。市場全体が縮小する一方で、成人式や卒業式など、着物を必要とする特定のイベントには安定した需要が残っているからだ。むしろ今後は、限られた着用機会に対して、どれだけ魅力的な商品とサービスを提供できるかが重要になる。京都きもの友禅ホールディングスにとっても、振袖という強いカテゴリーを軸に、顧客との接点をどこまで広げられるかがポイントになる。

また、着物市場ではリユースやECの拡大も進んでいる。新品の高級着物だけでなく、中古品、洗える着物、比較的手頃な価格の商品など、消費者が選択できる商品が増えている。若い世代にとっては、「高価な着物を一式購入する」という従来型の消費だけでなく、レンタル、リユース、ネット購入など、自分のライフスタイルに合った方法で着物を楽しむことが重要になっている。

この点では、京都きもの友禅ホールディングスが持つブランド認知や、長年培ってきた振袖販売のノウハウが強みになる可能性がある。着物に詳しくない若い顧客に対しても、成人式という明確な目的を起点に、着物選びからコーディネート、写真撮影までを案内できれば、着物に対する心理的なハードルを下げることができるからだ。

一方、課題もある。少子化によって成人式の対象となる若年人口そのものが減少していけば、振袖市場にも長期的な影響が及ぶ。また、着物は購入単価が高く、保管や手入れにも手間がかかるため、若い世代の価値観に合わせた商品設計や価格設定が欠かせない。単に伝統を守るだけではなく、「今の若者が着たいと思う着物」をどう提案するかが問われている。

さらに、着物は日本文化として海外からの関心も高い。訪日外国人が観光地で着物をレンタルして街歩きを楽しむなど、着物はインバウンド市場でも体験型コンテンツになっている。成人式という国内需要に加えて、観光や文化体験という新しい需要を取り込むことができれば、着物市場の裾野を広げることにつながる。

社名に「京都きもの友禅」とあるように、同社を考えるうえでは「友禅」という日本を代表する染色文化との関係も興味深い。友禅染は江戸時代に発達した染色技法で、繊細な絵柄や鮮やかな色彩を表現できることから、振袖をはじめとする華やかな着物に用いられてきた。着物は単なる衣料品ではなく、染織、職人技、デザイン、地域文化が融合した総合的な文化産業である。同社の事業も、こうした文化的背景を持つ商品を現代の消費者につなぐ役割を担っている。

これからの京都きもの友禅ホールディングスに求められるのは、「着物を売る会社」から「着物を着る機会を創る会社」への進化であろう。振袖販売を入口として、レンタル、写真、着付け、イベント、ECなどを組み合わせれば、一人の顧客との接点を長期化することも可能になる。成人式で初めて着物を着た若者が、その後の卒業式や結婚式、観光などで再び和装を楽しむようになれば、縮小市場の中でも新たな需要を掘り起こせる。

着物市場は確かに厳しい局面にある。しかし、着物そのものの価値が失われたわけではない。むしろ、日常着ではなくなったからこそ、「特別な日を彩る衣装」という価値は高まっている。京都きもの友禅ホールディングスは、成人式という日本人にとって重要な人生イベントを接点に、伝統文化と現代の消費者を結び付けている。着物市場が「所有」から「レンタル」「体験」「思い出」へと変化する中、同社が振袖を起点にどのような新しい和装文化を提案していくのか、今後の展開が注目される。

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一蔵――振袖・着物から広がる「人生の節目」を彩るビジネス

着物市場が長期的な縮小傾向にある中、振袖や着物を中心に事業を展開する一蔵は、伝統的な呉服販売と現代的なライフイベントビジネスを融合させている企業である。東証スタンダード市場に上場する一蔵は、和装事業を中心に、成人式や卒業式などの需要を取り込みながら、着物の販売・レンタル、着付け教室などを展開している。さらに、和装だけにとどまらず、結婚式やウエディング関連事業も手掛けており、「着物を売る会社」から「人生の節目をプロデュースする会社」へと事業領域を広げている点が特徴だ。

着物の歴史を振り返ると、日本の衣服文化は長い時間をかけて変化してきた。江戸時代には小袖を中心とした和装文化が成熟し、友禅染、絞り、刺繍などの技術が発展した。着物は単なる衣服ではなく、季節や身分、趣味などを表現するファッションでもあった。しかし明治時代以降、西洋化とともに洋服が普及し、戦後になると生活様式そのものが洋風化した。現在では着物を日常的に着る人は少なく、成人式、卒業式、結婚式、七五三など、特別な日の衣装という位置付けが中心となっている。

一蔵にとって、この「日常着から晴れ着へ」という着物市場の変化は重要な意味を持つ。なかでも大きな柱となるのが振袖である。振袖は未婚女性の第一礼装として知られ、成人式との結び付きが非常に強い。成人式は一生に一度のイベントであり、本人だけでなく家族も含めて着物を選ぶ機会となる。普段は着物に関心がない若者でも、成人式をきっかけに振袖を着るケースは多い。つまり振袖は、縮小する着物市場において、若い世代を和装文化へとつなぐ重要な入口なのである。

一蔵の和装事業では、振袖などの着物販売だけでなく、レンタルや着付け教室など、着物に関連する幅広いサービスを展開している。ここには現在の着物市場を考えるうえで重要なポイントがある。それは、消費者のニーズが「着物を所有する」ことから、「必要な時に着物を楽しむ」ことへ変化していることである。

かつては成人式の振袖を購入し、姉妹や親族へ受け継ぐというスタイルも珍しくなかった。しかし、少子化やライフスタイルの変化によって、必ずしも高額な着物を購入して保管する必要性を感じない家庭も増えている。そこでレンタルが選択肢となる。レンタルであれば、購入費用を抑えながら好みの振袖を選ぶことができ、着用後の保管やメンテナンスの負担も軽減できる。

さらに一蔵にとって重要なのが、着付け教室である。着物は洋服と違って、着るために一定の技術が必要になる。帯の結び方や着物の種類、季節による使い分けなど、初心者には分かりにくい部分も多い。着付け教室は単なる技術習得の場ではなく、着物そのものへの関心を高める入口となる。着物を自分で着られるようになれば、成人式などの特別な日だけでなく、観劇や食事、旅行など、より幅広い場面で和装を楽しめるようになる。

この「着る人を増やす」という視点は、縮小する着物市場にとって非常に重要である。着物市場が縮小した理由の一つは、着物を着る人そのものが減少したことである。販売店が商品を売るだけでは市場拡大につながりにくい。着物の着方を教え、着る機会を提案し、着物を楽しむ文化そのものを広げる必要がある。一蔵の着付け教室などは、こうした市場の課題に対応する役割を持っている。

国内市場そのものは厳しい。矢野経済研究所によると、2025年の国内呉服小売市場規模は2,030億円で、前年比95.8%となった。市場は長期的に縮小しており、人口減少や少子高齢化、洋装化、着物を着る機会の減少などが背景にある。一蔵にとっても、こうした市場環境への対応は大きなテーマとなる。

そこで重要になるのが、着物と人生のイベントを結び付けるビジネスモデルである。成人式、卒業式、結婚式などには、「一生に一度」「大切な記念日」という明確な需要がある。着物そのものの着用頻度が低くても、特別な日には多少費用をかけてでも華やかな衣装を選びたいという消費者心理が働く。一蔵はこうした需要を取り込むことで、日常着としての着物市場とは異なる価値を提供している。

また、結婚式・ウエディング関連事業を手掛けていることも同社の特徴だ。着物と結婚式は相性が良く、和装婚や前撮りなど、着物を着る機会を生み出すことができる。成人式から卒業式、結婚式まで、人生のさまざまな節目に接点を持つことができれば、顧客との関係を一度きりで終わらせず、長期的なものにしていく可能性が生まれる。

さらに近年は、写真やSNSとの相性も着物市場の重要なポイントとなっている。振袖姿を写真に残すことは成人式文化の一部になっており、前撮り写真への需要も存在する。着物は色彩や柄が華やかで写真映えしやすく、SNSで共有するコンテンツとしても魅力がある。着物を「衣料品」としてだけでなく、「思い出」「写真」「体験」として提供することが、今後の成長には欠かせない。

一方で、少子化は振袖市場にとって避けられない課題である。成人式を迎える人口が長期的に減少すれば、振袖需要にも影響が及ぶ。また、着物業界全体では職人の高齢化や後継者不足も問題となっている。販売会社だけでなく、織り、染め、仕立てなどの産地や職人が持続的に事業を続けられる環境を作ることも、着物文化を維持するうえで重要になる。

その一方で、レンタル、リユース、EC、インバウンドなどには新たな可能性がある。特に訪日外国人にとって着物は日本文化を体験できる象徴的な存在であり、観光地での着物レンタルや着付け体験など、従来の呉服販売とは異なる市場が広がっている。着物を「買う」だけではなく、「借りる」「着る」「撮影する」「学ぶ」「体験する」という多様な消費行動を取り込むことが、業界の成長には重要となる。

一蔵の存在意義は、こうした着物市場の変化を象徴している。伝統的な呉服販売を基盤としながら、振袖レンタルや着付け教室、ウエディングなどを組み合わせることで、着物を現代の生活の中に取り込もうとしているからだ。

着物市場は決してかつての規模をそのまま取り戻すだけの産業ではない。むしろこれからは、人口減少や価値観の変化を前提に、新しい需要をどのように創出するかが問われる。一蔵にとっても、振袖という強みを生かしながら、若い世代が着物に触れる機会を増やし、人生の節目を彩るサービスをどこまで広げられるかが重要になる。長い歴史を持つ着物文化が次の時代へ受け継がれていくためには、「着物を売る」だけではなく、「着物を着たくなる理由」をつくることが必要だ。一蔵は、その新しい和装ビジネスの可能性を探る企業として、今後の動向が注目される。

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日本和装ホールディングス――「着物を売る」から「着物を着る人を増やす」へ、和装文化を次世代につなぐ挑戦

日本和装ホールディングスは、着物・和装関連の上場企業の中でもユニークな事業モデルを持つ企業である。東証スタンダード市場に上場する同社は、きものや帯の販売仲介を手掛ける一方、全国で無料の着付け教室を展開している。単純に着物を販売するのではなく、「着物を自分で着られる人を増やす」ことを起点に、和装市場そのものの裾野を広げようとしている点が特徴だ。2026年には無料着付け教室が開講40周年を迎え、2025年12月時点で卒業生は累計22万5,000人を超えている。

着物の歴史を振り返ると、日本の衣服文化は長い時間をかけて発展してきた。江戸時代には小袖を中心とした和装文化が成熟し、友禅染や絞り、刺繍などの高度な染織技術が発達した。着物は単なる衣服ではなく、季節感や美意識、身分、趣味などを表現する文化でもあった。しかし明治時代以降、西洋化とともに洋服が普及し、戦後になると生活様式の洋風化が急速に進んだ。現在では着物は日常着というより、成人式や卒業式、結婚式、観劇、茶道など、特別な機会に着用するものという位置付けが強くなっている。

こうした環境の中で、日本和装が着付け教室を重視してきた意味は大きい。着物は洋服と違い、ただ購入すればすぐ着られるわけではない。襦袢、帯、帯締め、帯揚げなど、複数のアイテムを組み合わせ、着付けの技術も必要になる。着物を着ること自体にハードルがあることが、市場縮小の一因ともなっている。そこで「自分で着られるようになる」という入口を提供することで、着物に対する心理的な壁を低くすることができる。

日本和装の無料着付け教室は、受講料を無料とし、週1回2時間、6回のカリキュラムで着付けを学ぶ仕組みを採用している。袋帯の結び方など本格的な着付けも学べる点が特徴で、初心者でも着物を自分で着られるようになることを目指している

このビジネスモデルの興味深いところは、着付け教室そのものが和装市場への入口になっていることである。着物を着られるようになれば、着物そのものへの関心も高まりやすい。最初は教室に通うだけだった人が、帯や着物を購入したり、季節ごとの装いを楽しんだりする可能性が生まれる。つまり「着物を売るために人を集める」のではなく、「着物を着る人を増やすことで市場を広げる」という発想である。

もちろん、国内の呉服市場を取り巻く環境は厳しい。矢野経済研究所によると、2025年の国内呉服小売市場規模は2,030億円で、前年比95.8%となった。市場は長期的な縮小傾向にあり、人口減少や少子高齢化、洋装化、着物を着る機会の減少などが影響している。

日本和装ホールディングス自身も、2025年12月期について和装業界の市場規模が縮小しているとの認識を示している。同社の2025年12月期は売上高44億8,500万円、営業利益3億7,500万円、経常利益3億2,400万円、親会社株主に帰属する当期純利益2億3,100万円となった。前年と比べて減収減益となったものの、同社は市場縮小下でも独自のビジネスモデルによって営業利益を確保していると説明している。

そして2026年の日本和装を語るうえで注目したいのが、「着付けを教える会社」から「和装文化を伝える会社」への展開である。2026年夏には「和装家アカデミー」と「きもの一灯塾」を開講。単なる着付け技術だけではなく、きものを美しく装い、その魅力を次世代へ伝える人材を育成することを目的としている。

これは同社の事業にとって大きな意味を持つ。着物市場が縮小している最大の問題の一つは、商品を購入する人が減っていることだけではない。着物の着方やTPO、素材、産地、染織技術などを知る人が少なくなっていることも問題である。着物文化を維持するには、商品を販売するだけではなく、文化そのものを理解し、次の世代に伝えられる人を増やす必要がある。

さらに2026年は、同社の無料着付け教室にとって開講40周年という節目の年でもある。累計卒業生が22万5,000人を超えるという実績は、単なる教室事業の規模を示す数字ではない。40年間にわたって「着物を自分で着る」という文化を広げてきたことを示すものでもある。2026年1月からは菅野美穂さんを起用した新CMも全国で放映され、無料着付け教室の認知拡大にも取り組んでいる。

一方で、今後の課題も多い。着物は洋服に比べて着用までの準備が複雑で、保管やクリーニングにも手間がかかる。また、若い世代にとっては「着物は高価」というイメージも根強い。成人式や卒業式などではレンタルが一般化しており、購入を前提とした従来型の呉服市場だけでは顧客を取り込みにくくなっている。

そこで重要になるのが、着物を「所有するもの」だけではなく、「楽しむもの」「学ぶもの」「体験するもの」として捉える視点である。自分で着付けができれば、観劇や食事会、旅行など、着物を着る場面を増やすことができる。日本和装も、自分で着物を着られるようになることで日常のお出かけなど楽しみの幅が広がると訴求している。

また、訪日外国人の増加によって、着物はインバウンド観光との親和性も高まっている。着物を着て街を歩く、和装で写真を撮影する、伝統的な染織について学ぶといった体験は、日本文化に関心を持つ外国人にとって魅力的なコンテンツとなる。着物市場の国内需要が縮小する中、こうした文化体験としての和装に新たな市場を見いだすことも重要になるだろう。

さらに、着物産業を考えるうえでは、職人や産地の継承も欠かせない。着物は織り、染め、仕立てなど数多くの工程によって成り立っており、消費者が着物を着なくなれば、こうした伝統技術を支える市場も縮小する。「着る人」を増やすことは、単に販売数量を増やすだけでなく、日本各地の産地や職人を支えることにもつながる。

日本和装ホールディングスの特徴は、こうした着物文化の入り口を「無料の着付け教室」に置いていることにある。着物を知らない人に商品を売り込むのではなく、まず着物を着られるようになってもらう。その結果として、着物への興味や購入、着用機会を生み出す。市場縮小という逆風の中ではあるが、従来の呉服販売とは異なるアプローチで和装文化の裾野を広げる可能性を持っている。

2026年には「和装家アカデミー」「きもの一灯塾」という新たな教育事業にも踏み出し、「きものを着る」から「文化を伝える」へと事業の方向性を広げている。今後は、無料着付け教室で培ってきた顧客基盤をどのように次世代へつなぎ、着物を現代のライフスタイルに取り込んでいくのかが注目される。

着物は、かつて日本人の日常着だった。しかし現在は、人生の節目や特別なイベント、文化体験などで選ばれる衣装へと変わった。市場規模だけを見れば厳しい状況にあるが、着物そのものの魅力が失われたわけではない。むしろ重要なのは、現代人が着物を楽しむための「きっかけ」をどう作るかである。着物を着る人を増やし、その先にある文化を伝える。40年にわたって着付けを通じて和装文化と向き合ってきた日本和装ホールディングスは、縮小する着物市場の中で、次の時代の和装文化を形づくる企業として注目される存在である。

まとめ――「着物を売る」から「着物文化を体験する」時代へ

着物市場を取り巻く環境は、人口減少や少子高齢化、洋装化などによって決して楽観できるものではない。日常的に着物を着る人が減少する中、従来型の呉服販売だけで市場を維持することは難しくなっている。しかし、成人式や卒業式、結婚式などの晴れの日需要に加え、レンタル、リユース、観光、写真、着付け教室など、新しい着物との接点は着実に増えている。

京都きもの友禅ホールディングスは振袖を中心とした晴れ着需要、一蔵は和装とウエディングを組み合わせた人生のイベント需要、日本和装ホールディングスは着付けを通じた和装文化の普及という、それぞれ異なる強みを持つ。共通しているのは、着物を単なる「衣料品」としてではなく、人生の節目や文化、体験と結び付けている点である。

これからの着物業界に必要なのは、過去の市場規模をそのまま取り戻すことだけではない。若い世代が「着てみたい」と思える商品やサービスを生み出し、外国人観光客にも日本文化としての魅力を伝え、さらに職人や産地の技術を次世代へ継承していくことが重要になる。「買う着物」から「借りる着物」「着る着物」「学ぶ着物」「体験する着物」へ。長い歴史を持つ着物は今、時代に合わせて新しい価値を獲得しようとしている

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