
過去最高水準の訪日客、免税店に広がる商機
訪日外国人の増加を背景に、日本の免税店市場が再び活況を呈している。2025年の年間訪日外客数は4,268万人を超えて過去最高を更新し、2026年も高水準の訪日需要が続いている。空港の免税店だけでなく、百貨店、家電量販店、ディスカウントストアなど街中の店舗にも外国人旅行者が押し寄せ、化粧品、家電、食品、医薬品、ブランド品など幅広い商品が購入されている。こうしたインバウンド消費の拡大は、小売企業にとって新たな成長機会となっている。
今回取り上げた日本空港ビルデング、ラオックスホールディングス、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスはいずれも免税販売との関係が深いが、そのビジネスモデルはそれぞれ異なる。空港を基盤に免税店を展開する企業、免税店そのものを成長事業として位置付ける企業、そしてドン・キホーテの店舗網を活用して訪日客の買い物需要を取り込む企業など、インバウンド消費へのアプローチには違いがある。免税店市場の拡大は、こうした企業の戦略や収益力を見極めるうえでも重要なテーマとなっている。
| コード | 企業名 | 免税店との関係 | 関連度 |
|---|---|---|---|
| 9706 | 日本空港ビルデング | 羽田空港を中心に免税店を運営。成田・関西・中部でも免税店運営・卸売を展開 | ★★★★★ |
| 8202 | ラオックスホールディングス | 免税店事業を展開し、訪日外国人向けのインバウンドビジネスを強化 | ★★★★★ |
| 7532 | パン・パシフィック・インターナショナルHD | ドン・キホーテなどで訪日客向け免税販売。免税売上が大きい | ★★★★★ |
| 3099 | 三越伊勢丹HD | 百貨店で免税販売を展開。グループに「Japan Duty Free Fa-So-La 三越伊勢丹」 | ★★★★☆ |
| 8233 | 高島屋 | 百貨店で化粧品、ブランド品などを中心に訪日客向け免税販売 | ★★★★☆ |
| 3048 | ビックカメラ | 家電・時計・医薬品などを訪日外国人向けに免税販売 | ★★★★☆ |
訪日客増加で活況続く免税店市場、2026年11月の制度変更が新たな転機に
訪日外国人の増加を背景に、日本の免税店市場が再び大きな注目を集めている。新型コロナウイルス禍によって一時はインバウンド需要が大きく落ち込んだものの、その後は急速な回復を見せ、現在では空港や百貨店、家電量販店、ディスカウントストアなど、外国人観光客が訪れるさまざまな場所で免税販売が定着している。特に2026年は訪日客数が高水準で推移しており、免税店を展開する企業にとって追い風となる状況が続いている。
日本政府観光局(JNTO)が2026年8月19日に発表した最新データによると、2026年7月の訪日外客数は344万2,100人となった。前年同月比では0.1%増とほぼ横ばいだったものの、7月としては過去最高を更新した。さらに韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、米国、カナダ、英国、フランスなど17市場で7月として過去最高を記録している。台湾からの訪日客は単月で初めて70万人を突破した。
2026年上半期の訪日外客数は2,108万4,800人に達した。6月単月は前年同月比6.8%減の314万8,600人だったものの、台湾、韓国、米国、インドなど15市場では6月として過去最高を記録しており、特定地域に依存しない訪日需要の広がりが見て取れる。
そもそも日本のインバウンド市場は、2025年に年間訪日外客数4,268万3,600人という過去最高を記録している。2024年の3,687万148人から約580万人増え、前年比15.8%増となった。2026年も高水準の訪日客数が続いていることから、免税店を含むインバウンド関連消費は引き続き日本の小売業にとって重要なテーマとなっている。
免税店市場の魅力は、訪日客数の増加がそのまま小売消費の拡大につながりやすい点にある。免税販売の対象となるのは、一定の要件を満たす外国人旅行者などの非居住者で、日本国内で消費せず国外へ持ち出す物品について消費税が免除される仕組みだ。現在は空港の免税店だけでなく、街中の百貨店、家電量販店、ドラッグストア、ブランドショップなどにも免税店が広がっている。
訪日客に人気の商品も幅広い。化粧品や医薬品、家電、時計、ブランド品、日本酒など、日本ならではの商品や品質への評価が高い商品が免税販売の重要なカテゴリーとなっている。特に円安局面では、海外から見た日本の商品価格が相対的に割安になりやすく、免税による消費税分の価格メリットと合わせて、訪日客の購買意欲を刺激する要因となる。
株式市場で免税店関連銘柄を見る場合、最も直接的な企業の一つが日本空港ビルデングである。羽田空港を中心に空港ターミナルを運営するだけでなく、免税売店などの物品販売や免税品卸売なども展開しており、国際線利用者の増加が店舗需要につながりやすい。空港という訪日客の玄関口を事業基盤としていることから、「空港×インバウンド×免税店」というテーマで捉えやすい銘柄だ。
また、ラオックスホールディングスも免税店との結び付きが強い。インバウンドビジネスを牽引する免税店事業を展開しており、訪日外国人の買い物需要を取り込む企業として注目される。免税店そのものへの直接的な関連性を重視する投資家にとっては、チェックしておきたい存在である。
さらに、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスも重要だ。同社は「ドン・キホーテ」などを展開し、訪日外国人の買い物需要を積極的に取り込んできた。空港内の狭義の「Duty Free」だけを免税店関連と考えるのではなく、街中の免税販売まで含めれば、同社はインバウンド消費の代表的な関連銘柄の一つといえる。
百貨店も免税店市場を考えるうえで外せない。三越伊勢丹ホールディングスや高島屋、エイチ・ツー・オー リテイリングなどは、化粧品、宝飾品、時計、ブランド品などを扱う大型百貨店を展開している。訪日外国人の購買単価が高まれば、免税売上だけでなく、店舗全体の売上や高付加価値商品の販売にも波及する可能性がある。
家電量販店ではビックカメラも関連銘柄の一つだ。家電製品は訪日客の買い物需要と親和性が高く、免税販売の対象となる店舗も多い。カメラや美容家電、ゲーム関連商品など、日本の商品を目的に来店する外国人も多く、免税販売とインバウンド消費を組み合わせたテーマとして見ることができる。
こうした免税店市場にとって、2026年は制度面でも大きな転換点となる。現在の免税制度では、一定の要件を満たせば免税店で購入時に消費税を免除し、税抜価格で販売する仕組みとなっている。しかし、2026年11月1日からは「リファンド方式」へ移行する予定だ。新制度では購入時に税込価格で販売し、訪日客が出国時に税関で購入品を国外へ持ち出すことが確認された後、消費税相当額を返金する仕組みとなる。
制度変更の背景には、免税購入品の国内での横流しなど、不正利用への対応がある。一方で、税関による持ち出し確認を前提とすることで、免税販売に関する要件が見直され、免税店側の事務負担軽減や旅行者の利便性向上も期待されている。
つまり、2026年の免税店市場は「訪日客数の高水準」と「制度変更」という二つの大きなテーマが同時進行している。訪日客が増えれば免税販売の市場そのものが拡大する一方、11月からのリファンド方式への移行では、店舗側のシステム対応や返金業務への対応力が問われることになる。免税販売を単純に「外国人観光客が増えれば儲かる市場」と捉えるのではなく、制度対応や購買単価、国籍別の需要、商品カテゴリーなどを含めて見ることが重要になる。
今後のポイントは、訪日客数の増加がどこまで消費額の拡大につながるかである。2025年に年間4,000万人を超え、2026年も7月まで高水準の訪日客数が続いていることを考えれば、免税店は日本のインバウンド消費を映す重要な市場の一つとなっている。空港免税店を直接運営する企業だけでなく、百貨店、家電量販店、ディスカウントストア、化粧品メーカーなど、訪日客の財布を取り込む企業まで視野を広げることで、免税店関連銘柄の裾野はさらに広がる。今後は2026年11月の制度変更を経て、免税販売がどのように進化し、訪日客の旺盛な購買需要を企業業績へ結び付けていくのかが注目される。
訪日客増加で追い風、免税店が成長を支える日本空港ビルデングの現在地
訪日外国人の増加が続くなか、空港と免税店を一体で捉える「インバウンド関連株」への関心が高まっている。その中でも注目度が高いのが、羽田空港のターミナル運営を手掛ける日本空港ビルデングである。同社は空港施設の管理運営だけでなく、国際線売店や免税店などの物品販売事業を展開しており、訪日外国人が日本で消費する「入口」と「出口」の双方に近い企業といえる。訪日客数が過去最高水準で推移する現在、免税店事業は同社の成長を考えるうえで重要なテーマとなっている。
日本のインバウンド市場は、新型コロナウイルス禍による大幅な落ち込みを経て急速に回復した。2025年には年間の訪日外客数が4,268万人を超え、過去最高を更新。2026年も高水準が続いており、日本政府観光局(JNTO)によると、2026年上半期の訪日外客数は2,108万4,800人となった。6月単月は314万8,600人と前年同月を下回ったものの、台湾、韓国、米国、インドなど15市場で6月として過去最高を記録している。
こうした訪日客の増加は、空港にとって単純に旅客数が増えるという意味だけではない。国際線を利用する外国人旅行者が増えれば、空港内の飲食、物販、広告、サービスなど幅広い事業に消費機会が生まれる。なかでも免税店は、出国前の旅行者が最後に日本の商品を購入する場所として重要な役割を担う。日本空港ビルデングにとって、空港利用者数の回復と免税店売上の拡大は密接に結び付いているのである。
同社の2026年3月期決算を見ると、物品販売業の外部顧客向け売上高は1,540億5,300万円となり、前期の1,476億6,600万円から4.3%増加した。このうち国際線売店売上は971億7,400万円で、前期比2.0%増となっている。国際線売店は物品販売業の売上高の大きな部分を占めており、国際線旅客の回復が同社の物販事業を支える構造が鮮明になっている。
ただし、免税店市場は「訪日客が増えれば必ず売上が増える」という単純な構図ではない。日本空港ビルデングの2026年3月期上期の資料では、羽田免税店の売上が前年好調の反動などから減少した一方、成田や銀座ではインバウンド増加を背景に売上が増加したことが示されている。また、ブランドブティックの回復が鈍く、購買率や購買単価が当初予想を下回ったことも明らかになった。上期の免税店購買単価は1万4,500円、購買率は28.8%だった。
この点は、免税店関連銘柄を見るうえで非常に重要である。訪日客数だけでなく、「一人当たりいくら使うのか」「何を購入するのか」が企業業績を左右するからだ。例えば化粧品、時計、ブランド品などの高額商品が伸びれば客数以上に売上が拡大する可能性がある。一方で、訪日客が増えても購買率や購買単価が低下すれば、売上の伸びは限定的となる。日本空港ビルデングは、まさにこうしたインバウンド消費の変化を空港という場所で捉えられる企業なのである。
さらに注目されるのが、空港間・店舗間の違いである。羽田空港は日本の首都圏を代表する国際空港であり、訪日外国人の利用も多い。一方、成田空港も国際線旅客の重要な拠点である。日本空港ビルデングは羽田だけでなく、成田や関西、中部などにも免税関連の事業を展開しており、空港免税店の運営や免税品の卸売などを手掛けている。こうした事業基盤は、訪日客の地域分散や地方空港の国際線回復が進む場合にも成長機会となる。
一方で、免税店事業を取り巻く環境には変化もある。日本空港ビルデングは2026年2月、連結子会社のJapan Duty Free Fa-So-La三越伊勢丹が運営する銀座三越の市中免税店から撤退する方針を公表した。市中免税店については今後の方向性を協議するとしており、免税店だからすべての立地で成長できるわけではないことも示している。
この動きからも、今後の免税店市場では「どこで販売するか」が重要になると考えられる。空港免税店は、出国前の旅行者が必ず立ち寄る可能性が高く、購入した商品をそのまま海外へ持ち出せるという利便性がある。これに対して市中免税店は、わざわざ店舗まで足を運んでもらう必要がある。訪日客の行動パターンや購買目的が変化するなか、空港という強固な集客基盤を持つ日本空港ビルデングの強みは相対的に大きい。
また、2026年11月には日本の免税制度が大きく変わる予定である。現在の免税制度では、一定の要件を満たす外国人旅行者などに対して購入時に消費税を免除する仕組みが基本となっているが、2026年11月1日からはリファンド方式へ移行する。購入時には消費税を含む価格を支払い、出国時に税関で購入品の持ち出しが確認された後、消費税相当額が返金される仕組みとなる。
制度変更は店舗側のシステムやオペレーションにも影響するため、空港免税店を大規模に運営する企業にとっては重要な対応テーマとなる。一方で、不正利用への対策強化や免税制度の適正化につながる可能性もあり、長期的には免税販売市場の健全化が期待される。日本空港ビルデングにとっても、制度変更を円滑に乗り切りながら、訪日客の利便性を高める店舗づくりが求められることになる。
2027年3月期について同社は、物品販売業の売上高を1,542億円と予想している。そのうち国際線売店は942億円を見込み、羽田国際線の直営店舗などでの売上増加を期待する一方、成田空港の店舗改装や銀座市中免税店舗閉鎖による減収を織り込んでいる。
日本空港ビルデングを免税店関連株として見る際には、単に「空港会社」として評価するだけでは不十分である。国際線旅客数、訪日外国人数、免税店の購買率、購買単価、為替、ブランド品や化粧品などの商品動向、さらに2026年11月の免税制度変更まで、多くの要素を総合的に見る必要がある。
訪日客数については、2026年も高水準が続いている。上半期だけで2,100万人を超えたことを考えれば、年間を通じたインバウンド需要の底堅さは明らかだ。 その恩恵を受ける企業はホテル、百貨店、外食、鉄道、小売など幅広いが、その中でも日本空港ビルデングは「訪日客が日本に到着し、そして日本を出国する場所」を事業基盤としている点が大きな特徴である。
免税店は単なる物販店舗ではなく、日本を訪れた外国人が最後に日本の商品やサービスに触れる重要な接点でもある。訪日客数の拡大に加えて、一人当たり消費額の増加や購買体験の向上が進めば、空港免税店の存在感はさらに高まるだろう。日本空港ビルデングは、空港インフラと商業施設、そして免税店を組み合わせた独自の事業モデルを持つことから、今後のインバウンド消費を考えるうえで引き続き注目度の高い銘柄といえる。
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「爆買い」から次のステージへ、ラオックスHDが挑む免税店ビジネス再成長
訪日外国人の増加を背景に、免税店ビジネスが再び注目を集めている。新型コロナウイルス禍でインバウンド需要が消失した際には大きな打撃を受けたラオックスホールディングスだが、現在は訪日客の回復を追い風に、免税店を含むリテール事業の再成長を目指している。かつて「爆買い」の象徴ともいわれたラオックスは、コロナ禍を経て事業ポートフォリオを変化させながら、インバウンド需要をどのように取り込むかが改めて問われている。
ラオックスの免税店事業を語るうえで欠かせないのが、訪日外国人市場の急拡大である。2025年の年間訪日外客数は4,268万3,600人となり、過去最高を更新した。さらに2026年も訪日客の高水準が続いており、上半期だけで2,108万4,800人に達している。2026年7月の訪日外客数も344万2,100人と、7月として過去最高を記録した。インバウンド市場そのものがコロナ禍前を上回る規模へ成長するなか、訪日客向けの販売網を持つ企業には大きな商機が生まれている。
ラオックスは、もともと家電量販店として知られていた企業である。しかし、2000年代後半以降、訪日外国人向けの総合免税店として存在感を高めた。秋葉原などの大型店舗を中心に家電、化粧品、時計、食品、日用品など日本の商品を幅広く扱い、中国人観光客を中心とする「爆買い」需要を取り込んだことは記憶に新しい。訪日外国人旅行者の増加を背景に業績を大きく伸ばした時期もあり、ラオックスは日本のインバウンド消費を象徴する企業の一つとなった。
しかし、2020年以降のコロナ禍は、このビジネスモデルを直撃した。海外旅行そのものが制限され、訪日外国人が急減したことで、インバウンド需要を前提としていた免税店の店舗運営は大きな影響を受けた。ラオックスも一部地域の店舗閉店などを余儀なくされ、従来のインバウンド依存型モデルからの転換を進めることになった。こうした経験は、訪日客数の変動が免税店事業の業績にいかに大きな影響を与えるかを示す象徴的な出来事だった。
現在のラオックスホールディングスは、かつての「家電中心の大型免税店」というイメージから変化している。会社は現在のリテール事業について、従来のインバウンド店舗運営に加えて、紳士服、婦人服、洋品雑貨などのカテゴリーを展開し、ショッピング体験そのものを提供する方向へ事業領域を広げている。また、免税店事業については、メイド・イン・ジャパンの高品質で安心感のある人気商品を中心に品ぞろえを行い、店舗拡大を推進するとしている。
ここに現在のラオックスを見るポイントがある。単純に「訪日客が増えれば免税店が儲かる」という旧来型のモデルではなく、訪日客の多様化や購買ニーズの変化に対応しながら、商品構成や店舗の役割を変えていくことが重要になっているのである。
訪日外国人の国籍も多様化している。以前のインバウンド市場では中国人観光客の存在感が非常に大きかったが、現在は韓国、台湾、香港、東南アジア、米国、欧州など幅広い地域から旅行者が訪れている。2026年7月には台湾からの訪日客が単月で70万人を突破するなど、特定市場だけに依存しない訪日需要の広がりが確認されている。ラオックスにとっても、こうした旅行者の多様化に対応した商品・サービスづくりが成長のカギになる。
特に重要なのが、日本製品への評価である。訪日客にとって日本旅行は観光だけでなく、日本の商品を購入する機会でもある。化粧品、医薬品、理美容家電、食品、時計、雑貨など、日本国内では比較的身近な商品が海外から見ると魅力的な「日本土産」になる。ラオックスがメイド・イン・ジャパンの商品を軸に免税店の魅力を高めようとしているのは、こうした需要を取り込む狙いがあると考えられる。
一方、業績を見ると、インバウンド回復がそのままラオックスの業績改善につながっているわけではない。2026年12月期第1四半期は売上高105億9,900万円、営業損失8億5,500万円となったと報じられており、中国からの訪日需要の回復の遅れなどが影響したとされる。リテール事業も減収となっており、訪日客数全体の増加だけではなく、どの国から旅行者が来て、どのような商品を購入するのかが重要になっている。
これは免税店関連銘柄を見る際の重要なポイントでもある。訪日外国人が増加している局面では、ホテルや空港、百貨店、ドラッグストアなど幅広い企業が恩恵を受ける。しかし、企業によって訪日客の取り込み方は大きく異なる。ラオックスの場合は、免税店という店舗そのものを訪日客の購買拠点として位置付けてきた歴史があり、インバウンド市場の変化が業績に表れやすい企業といえる。
また、2026年11月には日本の免税制度が大きく変わる予定だ。現在の免税制度は、一定の要件を満たす旅行者が対象店舗で購入時に消費税を免除される仕組みだが、2026年11月1日からはリファンド方式へ移行する。購入時はいったん消費税込みの価格を支払い、出国時に税関で購入品の持ち出しが確認された後、消費税相当額が返金される仕組みとなる。
制度変更によって、免税店側にはレジやシステム、返金対応など新たなオペレーションへの対応が求められる。一方で、不正な免税購入への対策強化という側面もあり、免税制度の健全化につながる可能性がある。免税店を運営するラオックスにとっても、この制度変更への対応力は今後の店舗運営を左右する要素となる。
さらに、ラオックスの強みは免税販売だけに限定されない。現在のリテール事業では、衣料品や洋品雑貨なども取り扱い、従来型の総合免税店からより幅広い小売業態への転換を進めている。これは、訪日外国人の需要が「大量購入」から「体験や品質を重視した買い物」へ変化していることへの対応とも捉えられる。爆買いという言葉が象徴した時代とは異なり、現在の訪日客は旅行目的も年齢層も国籍も多様である。
したがって、今後のラオックスを考える際には、単なる「免税店復活」だけではなく、インバウンド需要を取り込む総合リテール企業としての変化を見る必要がある。日本製品の品ぞろえ、店舗での購買体験、多言語対応、訪日客のニーズに合わせた商品開発など、免税価格以外の魅力をどこまで高められるかが重要になる。
訪日外国人市場は、すでに日本経済にとって無視できない規模となっている。2025年に4,000万人を突破し、2026年も月間300万人を超える訪日客が訪れる状況が続くなか、免税店はインバウンド消費を取り込む重要な接点である。ラオックスホールディングスは、コロナ禍によって事業モデルの弱点を経験したからこそ、現在は免税店事業を軸にしながらも、より柔軟なリテール事業への転換を進めている。
「爆買い」の象徴だったラオックスが、次のインバウンド時代にどのようなポジションを築くのか。訪日客数の増加だけでなく、旅行者の国籍、購買単価、商品ニーズ、そして2026年11月の免税制度変更までを含めて見ていくことで、同社の今後の成長余地がより明確になってくるだろう。
免税売上が過去最高!PPIHが取り込む訪日客の「爆買い」から体験消費へ
訪日外国人の増加を背景に、免税店をはじめとするインバウンド関連市場が活況を呈している。そのなかで存在感を高めているのが、ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)である。空港内のいわゆる「Duty Free」だけが免税店ではない。街中で訪日外国人が買い物をする店舗も免税販売の重要な舞台となっており、全国に店舗網を持つPPIHは、その代表的な企業の一つである。
日本のインバウンド市場は、コロナ禍による急減を乗り越え、過去最高水準まで回復している。2025年の年間訪日外客数は4,268万3,600人となり、過去最高を更新した。2026年もその勢いは続いており、上半期の訪日外客数は2,108万4,800人に達した。さらに2026年7月には344万2,100人が日本を訪れ、7月として過去最高を記録している。訪日客の増加は、宿泊、交通、外食だけでなく、買い物需要を通じて小売業にも大きな波及効果をもたらしている。
そのなかでPPIHが注目される理由は、ドン・キホーテの店舗そのものが訪日外国人の観光スポットになっている点にある。ドン・キホーテは食品、飲料、化粧品、医薬品、日用品、家電、衣料品、玩具など、極めて幅広い商品を取り扱う。深夜まで営業している店舗も多く、観光客が旅行中の空き時間に立ち寄りやすい。さらに、商品を探す楽しさや独特の店内演出も含めて、日本ならではの買い物体験を提供している。
PPIHはこの特徴を「観光地化・目的地化」という戦略につなげている。単に商品を売るだけでなく、「日本に来たらドン・キホーテに行きたい」と思ってもらえる店舗を目指すことで、訪日客の来店そのものを増やそうとしているのである。同社の2026年6月期第2四半期決算説明資料によると、免税売上は1,071億円となり、前年同期比34.1%増で過去最高を更新した。訪日客に対する客数シェア率も27.6%まで上昇している。
この数字は、PPIHにとって免税販売が単なる付随的なサービスではなく、国内リテール事業を成長させる重要な要素になっていることを示している。特に興味深いのは、免税売上の伸びが特定の国だけに依存していない点だ。2026年6月期第2四半期単体では、韓国からの免税売上が前年同期比29.7%増、台湾が48.3%増、米国が29.9%増、欧州が79.2%増となるなど、幅広い地域からの需要が伸びている。中国大陸・香港も25.7%増となっている。
かつての日本のインバウンド市場では、中国人観光客による「爆買い」が大きな話題となった。しかし現在は、韓国、台湾、東南アジア、米国、欧州など訪日客の出身地が多様化している。PPIHも特定地域に依存しないプロモーションを強化しており、訪日前の情報発信や店舗での販売促進などを通じて、幅広い国・地域の旅行者を取り込んでいる。これは免税店ビジネスの安定性を高めるうえでも重要な戦略といえる。
商品面でも変化が起きている。従来、訪日外国人が日本で大量購入する商品といえば、化粧品や医薬品、家電などが代表的だった。しかし現在は、食品や日用品、キャラクター商品、玩具、菓子など、より幅広いカテゴリーが買い物の対象になっている。PPIHでは、メーカーとの協業やプライベートブランド(PB)商品の強化も進めており、2026年6月期第2四半期の免税売上に占めるPB構成比は15.5%まで上昇した。前年同期から2.9ポイント上昇している。
ここにはPPIHならではの強みがある。免税店というと、空港のブランドショップや化粧品店をイメージしやすいが、ドン・キホーテは「何でも売っている」ことそのものを強みにしている。訪日客にとっては、日本の定番商品を探すだけでなく、店内を歩きながら面白そうな商品を発見することも買い物の目的になる。PPIHが掲げる「アミューズメント性」は、こうした偶発的な購買を促すうえで重要な要素だ。
実際、同社が実施した顧客アンケートでは、ドン・キホーテを訪れる理由として「品揃え」が1位、「面白そう」が2位、「深夜営業」が3位となった。単純な価格競争だけではなく、品ぞろえ、店舗体験、営業時間など複数の魅力を組み合わせて訪日客を呼び込んでいることが分かる。
また、PPIHは免税旗艦店だけに頼るのではなく、免税対応の売り場を広げている。インバウンド衛星店の新規出店などを進め、訪日客が集まるエリアで買い物の接点を増やしている。全国に広がる店舗網を生かせることは、空港免税店専業企業とは異なるPPIHの強みである。
一方、免税販売を取り巻く制度環境も変化する。2026年11月1日から、日本の免税制度はリファンド方式へ移行する予定だ。現在は対象商品について購入時に消費税を免除する仕組みが基本だが、新制度では購入時に税込価格を支払い、出国時に税関で購入品の持ち出しが確認された後、消費税相当額が返金される方式となる。免税販売を大規模に展開するPPIHにとって、店舗システムやオペレーションの対応は重要なテーマになる。
もっとも、制度変更への対応だけでなく、訪日客の消費行動そのものを捉えることが重要だ。訪日外国人数が増えても、すべての旅行者が同じ商品を購入するわけではない。国籍、年齢、旅行目的、滞在期間などによって購買行動は異なる。そのため、PPIHが進める国・地域別のプロモーションや商品構成の最適化は、今後の免税売上を左右するポイントになる。
業績面でも、インバウンドはPPIHの成長を支える重要な柱だ。2026年6月期について同社は、2026年2月時点で売上高2兆4,350億円、営業利益1,740億円などの通期予想を示しており、国内リテール事業では免税売上の貢献も成長要因として挙げている。
今後の注目点は、訪日客数の増加をどこまで客単価や購買頻度の上昇につなげられるかである。2025年に4,000万人を超え、2026年も月間300万人を超える訪日客が訪れる状況が続くなか、インバウンド消費は日本の小売市場における重要な成長領域となっている。PPIHはそのなかでも、免税店を単なる「外国人向けの安売り店舗」とするのではなく、日本でしか味わえない買い物体験そのものを商品化しようとしている。
免税売上が過去最高を更新したことは、同社のインバウンド戦略が一定の成果を上げていることを示す。今後は訪日客のさらなる増加に加え、欧米や東南アジアなど新たな市場の開拓、PB商品の拡充、店舗の観光地化・目的地化がどこまで進むかが焦点となる。空港免税店とは異なり、街中のドン・キホーテを訪日旅行の目的地へと変えるPPIHの戦略は、免税店市場の新たな成長モデルとしても注目されそうだ。
まとめ:免税店は「爆買い」から新たなインバウンド消費の舞台へ
免税店市場は、かつての中国人観光客による「爆買い」だけに依存する市場から、国籍や旅行目的、購買ニーズが多様化した新たな段階へ移行している。訪日客数そのものが過去最高水準となる一方、今後は一人当たりの購買額や購買率、商品のカテゴリー、店舗での体験価値などが企業業績を左右する重要な要素になるだろう。
日本空港ビルデングは空港という訪日客の玄関口を生かし、ラオックスホールディングスは免税店事業を軸にリテール事業の再構築を進め、PPIHはドン・キホーテの豊富な品ぞろえと店舗体験を武器に免税売上を拡大している。なかでもPPIHでは免税売上が過去最高を更新するなど、街中の小売店がインバウンド消費を取り込む存在感も高まっている。
さらに2026年11月からは免税制度がリファンド方式へ移行する予定であり、免税店各社にはシステムや店舗オペレーションへの対応が求められる。制度変更を乗り越えながら、増加する訪日客をどこまで売上・利益につなげられるかが今後の焦点となる。訪日外国人が4,000万人を超える時代を迎えた今、免税店は単なる「外国人向けの安売り店舗」ではなく、日本の観光・小売市場を支える重要な成長分野へと進化している。今後も訪日客の増加と消費行動の変化を追いながら、免税店関連銘柄の動向に注目したい。




