財務諸表のうちの一つである「キャッシュフロー計算書」
損益計算書、貸借対照表と合わせて「財務3表」と呼ばれるほど、財務諸表の中でも特に重要視されています。
キャッシュフロー計算書を読むことでわかるのは「実際のお金の流れ」です。
これを知ることで「一見して資産があるように思えるが、実は倒産の危険がある」という企業や、反対に「あまり利益が出ていないように見えても、実は潤沢な資金があり、増配の可能性なども考えられる」といった状況に気づくきっかけにすることができます。
そのように聞けば「早速、キャッシュフロー計算書を分析してみよう」と思うところですが、実際に見てみると項目がいくつもあって少しわかりづらいと感じた人もいるでしょう。
特に投資を始めたばかりの初心者の方であれば、このキャッシュフロー計算書について「どのように読めば良いか」という悩みを抱えやすいのではないかと思います。
そこで本記事では、「キャッシュフロー計算書とはどのようなものか」という部分から改めておさらいし、構造や他の書類との関係性、分析する際のポイントについて、投資初心者にもわかりやすく解説していきます。
ぜひ最後まで目を通してみてください。
監修者:市川雄一郎
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長
目次
キャッシュフロー計算書とは
まず始めに、改めて「キャッシュフロー計算書とは何か」という部分を紐解いていきます。
・「お金の実際の流れ」が把握できる書類
冒頭でも触れたとおり、キャッシュフロー計算書には「実際のお金の流れ」の情報が記載されています。
ここでのお金とは「現金」を指すとイメージしてください。
キャッシュフロー計算書は、会社に入ってくる現金である「キャッシュ・イン・フロー」と、出ていく現金である「キャッシュ・アウト・フロー」の2つの情報で記載されます。
ここで「現金の流れをわざわざ一つの書類にまとめる必要があるか」と疑問を持った人もいるかもしれません。
確かに、現金の流れといえば、損益計算書をみることで「一定期間の間にどのくらい稼ぎがあったのか」を読み取れることや、貸借対照表で「決算日時点での現金がどのくらいあるのか」を確認することができるので、一見するとそれらの書類だけでも把握できるとも言えそうです。
しかし、例えば損益計算書では、売掛金のように「売上としては上がってくるが、実際にまだ手元に現金は入ってきていない」という数字があり、実際の手元のお金の状況と必ずしも一致しないことがあります。また、貸借対照表でも、現金の増減があったこと自体は確認できますが、それがどのような原因で起こったのかという情報までは把握が困難です。
それらの不足する情報を正確に把握するために、このキャッシュフロー計算書が非常に重要となってきます。
・キャッシュフロー計算書を分析するメリット
投資先の分析において、キャッシュフロー計算書を分析するメリットとして、以下の点が挙げられます。
経営の安全性を判断できる
一つ目は経営状況が安全であるか、を判断できる点です。
会社の経営においては、「そもそも手元に資金がある」ということが実はとても重要と言えます。
例えば、いくら売掛などで売上の数字が上がっていたとしても、社員への給与や税金の支払いなど、どうしても目の前に現金が必要な場面があるでしょう。その時に現金がなければ、いくら見かけ上の数字が良くても経営を続けていくことができず、場合によっては書類上は黒字なのに倒産してしまう、というリスクさえあると言えます。
反対に、手元に潤沢な現金があるのであれば、売上が少ないとしても事業の継続はひとまず可能なので「今すぐに経営が立ち行かなくなる」といった心配を小さくできます。
投資対象の選定において、経営状況が悪い企業を避けたい、あるいは安定している企業を選びたいと当然考えるところ。その判断をするためにキャッシュフロー計算書は非常に有効なのです。
・成長可能性を判断できる
企業の成長性の判断に繋げられることも、キャッシュフロー計算書を分析するメリットの一つです。
企業が成長するためには積極的に事業や設備へ投資することが不可欠ですが、そのためにはやはり先立つ現金が必要です。手元に現金があれば、それらの投資資金とすることもできますし、またその現金を信用力の担保として金融機関から借入を行うことで、さらに大きな設備投資を検討する、という手段をとることも可能になります。つまり手元に現金が潤沢にあれば、成長のために取ることのできる経営戦略が増える、と言えるのです。
企業の株価は、長期的には業績に収束すると言われています。企業の成長に伴い、業績が上昇すれば、株価の上昇も狙うことも可能です。その判断のために、キャッシュフロー計算書は非常に役立つと言えます。
キャッシュフロー計算書の種類
前章でキャッシュフロー計算書の概要や分析するメリットについて確認できたところで、本章では、具体的にどのような書き方がされているか、という部分を深掘りしていきます。
キャッシュフロー計算書では「実際のお金の流れ」が以下の3つの種類に分けて記載されます。
営業キャッシュフロー
- 投資キャッシュフロー
- 財務キャッシュフロー
以降一つずつ確認していきます。
・営業キャッシュフロー
「営業キャッシュフロー」とは、企業のキャッシュフローのうち、商品の仕入や販売などといった、営業活動や取引によって発生した現金の流れを表すものです。
具体的な項目としては以下の通りです。
【営業キャッシュフローの構成要素】
・商品等販売による現金の収入(プラス)
・商品等仕入による現金の支出(マイナス)
・人件費の現金の支出(マイナス)
・現金支出した経費(マイナス)
・投資活動・財務活動以外(プラス・マイナス)
主に、商品等の販売によって実際に手元に入ってきた現金収入がプラス要素に、商品材料の仕入を始め、商品を作るためにかかった人件費や諸経費など含め、実際に支出した現金があればマイナス要素になります。
上記の純粋な営業活動に伴う現金の流れに加え、投資分の利息の受取や支払い、法人税等の支払なども加え、最終的な営業キャッシュフローを割り出します。
最終的に割り出した営業キャッシュフローは、プラス・マイナス、どちらのケースもあり、本業の稼ぎより支払ったキャッシュが少なければプラス、多ければマイナスとなります。
1章で、手元に残る現金の重要性について触れましたが、企業の本業によってどのくらい手元に現金が残るのか、を表したものがこの営業キャッシュフローです。つまり「本業での稼ぐ力」や「本業の健全性」を示していると言えます。
営業活動によって手元に現金がどんどん残るような体制を取れている方が、「稼ぐ力があり、本業として健全である」と当然判断すると思います。そのためプラスになっていること、またはプラスが多い方が基本的には良い状態と認識できます。
・投資キャッシュフロー
「投資キャッシュフロー」とは、企業のキャッシュフローのうち、将来の利益獲得目的や資産運用を目的とした、投資に使った、あるいは回収したことで発生した現金の流れを表したものです。
具体的な項目としては以下の通りです。
【投資キャッシュフローの構成要素】
・有価証券や有形固定資産の売却による収入(プラス)
・有価証券や有形固定資産の購入による支出(プラス)
・貸付金の回収による収入(プラス)
・貸付金の実行による支出(マイナス)
有価証券や固定資産の購入にお金を使うとマイナス、持ってる資産を売却して現金を回収した分があればプラスとして記載されます。そのほか、貸付金による資産運用や流動性の低い定期預金などもこの投資キャッシュフローにて計算されることになります。
つまり、投資を拡大していると投資キャッシュフローはマイナスになり、投資によって回収した分が多いとプラスになるのです。一見すると投資によって回収する分が多い方が良い、とも考えるところですが、企業が成長し続けるためには、事業投資や設備投資などにしっかり資金を回して、営業活動の維持や活性化、将来の利益拡大に繋げることが重要です。そのため、投資キャッシュフローがマイナスになっていれば、積極的に投資を行っている、と捉えられるので、必ずしもネガティブな判断にならないことを覚えておくと良いです。
・財務キャッシュフロー
財務キャッシュフローとは、企業のキャッシュフローのうち、外部からの資金調達や金融機関の融資によって流入、あるいはその返済によって支出した現金の流れを表すものです。株主への配当金の支出もこの項目に含まれます。
具体的な項目としては以下の通りです。
【財務キャッシュフローの構成】
・借入金による現金収入(プラス)
・社債発行による現金収入(プラス)
・株式発行による現金収入(プラス)
・借入金返済による現金支出(マイナス)
・社債償還による現金支出(マイナス)
・自己株式取得による現金支出(マイナス)
・配当金の支払による現金支出(マイナス)
財務キャッシュフローがプラスになるのは、主に「新規に借入れを行った」場合ですが、重要なのは「その借入を行った理由」です。
例えば設備投資のためであればポジティブな要因として捉えられますが、一方、「手元の運転資金が足りない」などの理由であればネガティブな印象となると言えます。つまり、プラスなのかマイナスなのか、という部分だけでは良し悪しの判断はできないため、その使途までをしっかり確認することが大切です。
財務3表との関係
前章にて各キャッシュフロー計算書の構造や種類について確認しました。加えて1章でも触れましたが、ここで改めて、損益計算書や貸借対照表との関係や違いについても確認しておきましょう。
・貸借対照表との関係・相違点
キャッシュフロー計算書が「一定期間におけるお金の流れ」を表すのに対し、貸借対照表が表すものは「決算日時点での資産状態」です。
言うなれば、キャッシュフロー計算書は動画、貸借対照表は静止画とイメージするとわかりやすいかもしれません。
例えば貸借対照表の推移を確認し「2つの時点を比較して、現金が増えている」ということはわかったとしても、それがどういった理由によるものなのか、という部分までは読み取ることができません。もっと言えば、その増減が正常なものか、しっかり辻褄が合っているかどうかすらも、場合によっては疑う余地があるとも言えるのです。
そうした現金の増減の理由や整合性をキャッシュフロー計算書によって把握していくこととなります。営業活動によるものか、はたまた投資の回収や借入など、現金が増える要素は様々です。
現金が増えたこと自体を貸借対照表の分析から察知した後「何が起因したのか」という部分を具体的に把握するためにキャッシュフロー計算書を読み込む、と組み合わせて読むと効果的と言えます。
・損益計算書との関係
キャッシュ・フロー計算書と損益計算書では「一定期間の実績」を表すことは共通しています。異なるのは前者が「実際のお金の流れ」を表すことに対し、後者が「経営成績」を表している部分です。
損益計算書ではまず「売上高」が何よりも起点となります。そのため、例えば費用を考える際には実際に仕入れに支払った額ではなく「売上に対してどのくらいの費用かかったのか」といった視点になるのです。
イメージしやすいのは「在庫や原料をある程度まとめて仕入れた場合」でしょう。
例えば、1個100円の原料を10個仕入れた場合、実際に手元から支出する額は「1000円」です。これを1個200円で販売し、5個売れたとします。すると売上は1000円です。
ここで「かかった費用は?」と考えると「1000円」と言いたくなるところですが、実際に売れたのは5個分なので、損益計算書に計上する費用は5個分の費用である「500円」と計上されます。
しかし、実際に手元からは1000円の支出があったはずです。損益計算書のみではそれを読み解くことができません。また、ビジネスにおいては、売掛や買掛と言った数字と現金の動きがズレる取引を行うことも常であり、その差異を知るためにキャッシュフロー計算書が必要となってくるのです。
一方、キャッシュフロー計算書だけでは「1000円払って1000円回収した」という文脈になり、その事業が有益なのか、が判断できません。しかし損益計算書で確認することで、しっかり「一つ売れるごとに100円の利益が生まれる」ことがわかるのです。
そのため、損益計算書で「利益」という経営成績を確認しつつ、キャッシュフロー計算書でその経営を継続する体力があるか、と言った視点で確認すると有効です。
キャッシュフロー計算書を見る際のポイント
前章まででキャッシュフロー計算書の見方や他財務3表との活用など、改めて理解が深まったのではないでしょうか。最後に、キャッシュフロー計算書を使った分析のポイントをご紹介します。
・フリーキャッシュフローを確認してみる
一つ目は「フリーキャッシュフローの確認」です。
フリーキャッシュフローとは「企業が自由に使える現金の流れ」を表すもので、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを合計することで求められます。
フリーキャッシュフローがプラスであれば「自由に使えるお金が増えた」ということになり、その後の設備投資や配当の支払いに繋げやすくなります。
つまり、フリーキャッシュフローのプラスが大きければ、その分手元の現金が増えるので、安定した経営に繋げることができます。また、取れる経営戦略の選択肢も多くなるので、事業成長の可能性も高いと判断できる一つの要素となります。
・キャッシュフローの状態から企業の成長フェーズを読む
キャッシュフローの状況が、その企業の成長にあったものとなっているか、という視点も分析において重要です。
実はキャッシュフロー自体、企業の成長期の推移によって非常に特徴が出やすい性質があります。一般的に捉えられる、企業の状態とキャッシュフローの特徴の関係は以下の通りです。
安定企業
営業CF:プラス、投資CF:マイナス、財務CF:マイナス
本業で得たお金を設備投資や借入金の返済に充てている状態。大きな借入を伴う設備投資を行う段階を既に終えた、安定企業に多い型と言えます。
成長企業
営業CF:プラス、投資CF:マイナス、財務CF:プラス
本業で得たお金に加え、外部から調達したお金を設備投資に充て、事業規模を拡大している状況。成長著しい企業によく見られる特徴と言えます。
・事業縮小企業
本業で得たお金と、保有資産を売却して得たお金を、借入の返済に充てている状況。新規で設備投資などを行わず、事業を縮小している企業によく見られる型と言えます。
・ベンチャー企業
営業CF:マイナス、投資CF :マイナス、財務CF:プラス
積極的な資金調達を実施しているが、本業の稼ぎがまだ不安定な状況。ベンチャーやスタートアップ企業に非常によく見られる特徴です。
・倒産の危険がある企業
営業CF:マイナス、投資CF:プラス、財務CF:プラス
本業で稼げなかった分を、設備の売却や借入金で賄っている状態。資金繰りがうまくいかず倒産可能性がある企業に見られる特徴と言えます。
なお、必ずしも上記までの種類が企業の状態に当てはまるというわけではないことが前提です。しかし、企業の成長フェーズを判断する材料の一つにはなると言えます。ぜひ覚えておくと良いでしょう。
まとめ
いかがでしたか。
キャッシュフロー計算書は上場企業のみ作成が義務付けられているものであり、株式投資をするのであればこそ、分析した方が良い書類と言えます。
本記事の内容が、キャッシュフロー計算書への理解と今後の投資戦略の参考となりましたら幸いです。
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