投資をする際に気になるのは、やはり「リターン」
せっかく大切なお金を使って投資をするのであれば「できるだけリターンが大きいところに投資したい」と誰もが考えますよね。
そんな中、「大きなリターンの可能性がある」として話題になっているのが、インドなどを始めとする新興国株式。経済発展途上の新興国ですが、ここ最近、著しい成長を見せている面もあり、株価も上昇しています。
このように、新興国の盛り上がりを知り、今後の投資先の一つとして検討している方も多いのではないでしょうか。
しかし一方で、調べてみると「新興国株式への投資はおすすめしない」などという情報もあり、なかなか投資判断に迷うようなところもあります。
なぜ、最近話題の新興国株式なのに、おすすめしないと言われるのか、気になりますよね。
そこで本記事では、「新興国株式はおすすめしない」と言われる理由と、投資先に選ぶ場合の注意点について解説していきます。ぜひ、最後まで読み進めてみてください。
監修者:市川雄一郎
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長
新興国株式とは
はじめに「新興国株式」とは何かについて、改めておさらいしていきましょう。
まず、「新興国」について、明確な定義が存在せず、その時の経済の流れによって新興国に分類されるかどうかが変わりますが、一般的に「先進国に対し、現在の経済水準はまだ低いものの、高い成長可能性を持った国」のことを言います。
今では日本も先進国の仲間入りを果たしていますが、1900年代前半までは新興国と呼ばれていました。
現在、新興国といえば 中国やインド、東南アジア、中南米、東欧、ロシアなどの国が該当します。
そして、新興国株式とは、その新興国の企業が発行する株式のことを言います。
新興国株式で構成される代表的な株価指数として「MSCIエマージング・マーケット・インデックス」があります。
【MSCI エマージングマーケットインデックス】
アメリカのモルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)社が算出している、新興国の株価動向を示す代表的な株価指数。
2024年現在、中国やインドなどを始めとする24カ国に上場している大・中型株、約1,400銘柄で構成されています。
[構成比率]
「新興国株式へ投資する」と言った場合、このインデックスを軸にした文脈で説明していることも多いので、覚えておくと良いです。
「新興国株式はおすすめしない」と言われる理由
さて、そんな成長の可能性を秘めた、魅力的な新興国株式ですが、なぜ「おすすめしない」という情報があるかというと、デメリットの面が大きいことがあげられます。
具体的に、以下の点がデメリットとしてあげられます。
パフォーマンスがアメリカの方が高い
- 流動性が少なく、価格の変動性であるボラティリティが高い
- カントリーリスクが高い
- 為替の影響を大きく受ける
- 他の金融商品に比べ、手数料が少し高め
- 情報が集めにくい
一つずつ解説していきます。
過去データでは、パフォーマンスがアメリカの方が高い
まず一つ目に、過去データから読みとる場合、アメリカに投資した方がパフォーマンスが高いと言えることがあります。
以下は、アメリカを代表する株価指数のS&P500と新興国株式の、過去30年のリターンを比較したものです。
(引用:マイインデックス)
上記からわかる通り、これまでのリターンを比較した場合、S&P500の方がリターンが高くなるのです。
そのため「投資するなら新興国株式よりもS&P500の方が良い」という文脈で「新興国株式はおすすめしない」と語られることがあります。
流動性が低く、価格の変動性であるボラティリティが高い
2つ目に流動性の少なさや、ボラティリティが高いことがあげられます。
流動性とは「取引のしやすさ」のことを指します。
「自分が思ったタイミングや価格で取引ができるか」という言葉でイメージするとわかりやすいかと思います。
つまり、流動性が低い場合「株を売って換金したい」と思っても、買ってくれる相手がいないため、換金できないというケースが発生する割合が高くなるのです。
新興国株式の場合、市場規模がまだ小さいことなどから、流動性が低い傾向にあります。
一方、ボラティリティとは「価格が変動しやすさやその変動幅」のことで、ボラティリティが高い場合、何かあったときに株価が乱高下しやすい、ということを指します。
新興国株式は、経済発展中という不安定な状況であるので、ボラティリティが高くなる傾向があります。
これらの要素は、投資をした場合のリスクが高いことを意味します。
つまり、うまく投資ができれば利益を狙える反面、損をする可能性も高い、ということになるため、「おすすめしない」と言われるのです。
カントリーリスクが高い
3つ目に、カントリーリスクが高いことがあげられます。
カントリーリスクとは政治・経済・社会情勢の変化など、「国や地域の事情」によって、企業が損失を被るリスクのことを指します。
具体的には以下のようなものがあります。
政治リスク:政権交代による政策や規制の変更
- 経済リスク:通貨の下落、国債の債務不履行
- 社会情勢リスク:紛争、内乱、テロ行為
- 自然災害リスク:地震、台風、洪水
新興国は、経済をはじめ、インフラや防災、社会制度など、様々な面で発展途上であるため、上記の項目に関わる有事が発生する確率が低いとは言えず、また、発生した時の影響も大きく出やすい面があります。
為替の影響を大きく受ける
4つ目に為替の影響が大きいことがあげられます。
経済の発展と深く関係するのが物価が上昇する「インフレーション(インフレ)」です。通常、経済発展の過程においては、このインフレを伴うケースが多いです。
インフレが発生した場合、その国の通貨の価値は下がります。
仮に新興国株式に投資していて、株が上昇したとしても、最終的に円に換算する時に通貨が安くなっていれば、その分利益が相殺され減ってしまう、ということになります。
「為替は常に動いているので、もちろん多少は上下するだろう」と思う部分もありますが、新興国通貨の場合、通貨の価値が大きく、かつ長い期間、下落し続けることも少なくありません。
(引用:Googleファイナンス)
上記はインドルピーと円の為替の推移です。直近こそ、少し上昇の兆しもありますが、過去10年以上、通貨安の状態が続いています。
このように、新興国の通貨はインフレによる影響で、価値の変動が大きく、新興国株式に投資した場合もこの為替変動の影響を強く受けることになるため、「おすすめしない」と言われます。
他の金融商品に比べ、手数料が少し高め
5つ目に、手数料が他の商品よりも高めであることがあります。
例えば、人気のS&P500や全世界株式(オルカン)などのインデックスファンドと比較すると、保有期間中にかかる「信託報酬」の手数料が、新興国株式のインデックスファンドの方が0.5%〜1%程高い傾向があります。
数字だけ見れば微少の差とも捉えられますが、長く持つほど手数料の差も大きくなります。
投資で利益を出すなら、なるべくコストの安いものを選ぶのが鉄則である中、比較的高めの手数料は、やはり選びにくく、おすすめできないとされがちです。
情報が集めにくい
6つ目として、新興国やその企業の情報が集めにくいことがあげられます。
投資をした後、ほったらかしにできたら一番楽ですが、投資先は健全に成長しているか、今後の見通しなどどのようになりそうか、など、都度、投資先の情報を確認していくことが望ましいです。
この点、新興国企業の情報については、検索しても情報が少なかったり、現地の言葉の資料しかなく、読解に苦労したり、また情報自体が古いものしかなかったりと、情報の取得の側面で難しい部分があります。
「海外で働いていた」など、投資している新興国や企業について、深い知見がある場合は別ですが、基本的にはその情報の取りづらさゆえ、おすすめされないと言われます。
新興国株式のメリット
前章で、新興国株式はおすすめしないと言われる理由について確認してきました。
では「新興国株式は全くいいところがないのか」というと、そんなことはありません。
新興国株式への投資にもメリットがあります。どのような点がメリットなのか、説明していきます。
長期的には経済成長が期待できる
長期的な視点で捉えると、新興国は将来大きく経済成長する期待と可能性を秘めています。新興国株式に投資することで、その成長の恩恵を受けられるという点は、非常に大きなメリットです。
1900年前半までは新興国と呼ばれていたかつての日本も、その後、急速な高度経済成長等を経て、わずか20年程度の間に先進国の仲間入りを果たしました。
そんな日本では、トヨタやソニー、三菱UFJなど、世界的にも有名な企業も多く誕生しています。
このように、大きく成長する可能性がある国へ投資ができる新興国株式は、投資先として魅力的と言えます。
投資先の分散ができる
第1章で確認した通り、新興国株式は、24カ国、10種類以上のセクターの企業で構成されています。また、組み入れ比率なども随時リバランスされるので、その意味では安定した運用も期待できます。
例えばアメリカなどの先進国を主な投資先にしている場合、リスクヘッジで投資先を分散させるため、新興国株式もポートフォリオに加える、などすることで、分散の効果を得やすくなります。
このように、分散投資の効果を得られることが、新興国株式を選ぶメリットの一つと言えます。
新興国株式を選ぶならここに注意しよう。
前章までで、おすすめしない理由やメリットなど、新興国株式を複数の視点から見てきました。それらを踏まえた上で「魅力ある新興国株式に投資してみようと思う」と考える人もいるでしょう。
そこで本章では、新興国株式に投資をするなら、「ここは注意しておこう」というポイントについてお伝えしていきます。
自分のポートフォリオへの組み入れ比率を大きくしすぎない
一つ目の注意ポイントは「ポートフォリオの組み入れ比率を大きくしすぎない」ことです。
インドなどをはじめ、新興国は大きく成長する可能性や兆しがあるので、投資する比率を大きくしたり、一括で大きく投資したくなる気持ちになるかもしません。
しかし、2章で解説したとおり、高いリスクも内在しています。
新興国株式自体、24カ国に分散されているとはいえ、ここだけに大きく投資比率を振ってしまうと、それだけ内在するリスクがより顕著に現れてくることになります。
「アメリカと新興国」など、あくまで「分散先の一つ」としてポートフォリオに組み込むよう検討すると良いです。
時間軸はある程度長めにとる
注意ポイントの2つ目は「時間軸を長めにとる」ことです
新興国の急成長が目覚ましい、とは言っても、数ヶ月や数年で一気に成長する、ということではありません。
経済とは、過熱すると、適正水準になるまでは、ー旦は冷却期間に入るなど、上下を繰り返し、その中で成長していきます。この成長、発展には10年、20年と、やはり長い時間軸が必要です。
そのため、新興国株式を選ぶ場合、短期間で利益を狙うことを目的とするのではなく、長期的な目線で投資をする方が良いでしょう。
新興国に投資ができる投資信託
最後に、新興国株式に投資ができる投資信託をご紹介します。
eMAXISSlim 新興国株式インデックス
(引用:eMAXISSlim 新興国株式インデックス 目論見書)
(※2024年6月末時点)
S&P500や全世界株式など、様々なインデックスファンドがある「eMAXISSlim」シリーズ。新興国株式も、もれなく展開しています。
1章でご紹介した「MSCI エマージング マーケット インデックス」をベンチマークとして運用され、運用管理費も約0.15%と、低めの手数料設定のため、初心者でも選びやすいファンドといえます。
たわらノーロード 新興国株式
(引用:たわらノーロード 新興国株式 目論見書)
(※2024年6月末時点)
アセットマネジメントOneの「たわらノーロード新興国株式」も、新興国株式インデックスファンドの中で人気があるものの一つです。
先に紹介した「eMAXISSlim 新興国株式インデックス 」とほぼ同じ内容なので、こちらも初心者の方で選びやすいものと言えます。ほんの若干ですが、手数料がこちらの方が高めなので、その点は注意が必要です。
SBI・新興国株式インデックス・ファンド
(引用:SBI・新興国株式インデックス・ファンド 目論見書)
(※2024年6月末時点)
SBIの「雪だるま」シリーズから出ているのが、「SBI・新興国株式インデックス・ファンド」です。
ベンチマークは「FTSE エマージング・インデックス」という、「MSCI エマージング マーケット インデックス」と同等に有名な指数を採用しています。
MSCIとFTSEで、構成国に若干違いはありますが、初心者の方はそこまで大きく気にする必要はないと言えます。
また、運用管理費が年0.066%と、新興国株式インデックスファンドの中でもかなり安い手数料設定になっているので、長期運用に向いています。
まとめ
いかがでしたか。
「新興国株式はおすすめしない」と言われるのには、確かにそれなりの理由があります。しかし、新興国株式ならではのメリットや魅力が存在することも、また然りです。
リスクをしっかり把握し、ポートフォリオや資金管理を徹底するなど、注意すべき部分を注意すれば、新興国株式への投資も、妙味があると言えます。
ぜひ本記事の内容が、あなたの今後の投資戦略の参考になりましたら幸いです。
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