
脱ハンコが映す、日本企業のDX最前線
契約書や申請書に印鑑を押し、紙の書類を回覧・郵送・保管する――日本企業で長く続いてきた「紙とハンコ」の文化が変わり始めている。テレワークの普及や人手不足、業務効率化への要請を背景に、電子契約や電子署名、クラウド型のバックオフィスサービスが急速に浸透しているからだ。脱ハンコは単なる印鑑の廃止ではなく、紙を前提としてきた業務プロセスをデジタルへ移行するDXの入り口といえる。今回は、電子契約の普及をけん引する弁護士ドットコム、GMOグローバルサイン・ホールディングスに加え、会計や請求、経費、人事労務などバックオフィス全体のクラウド化を進めるマネーフォワードに注目する。ハンコをなくすという身近な変化が、企業の契約・経理・管理業務をどこまで変えていくのか、関連企業の事業展開から探っていきたい。
| 順位 | 証券コード | 企業名 | 脱ハンコとの関係 | 注目ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 6027 | 弁護士ドットコム | 電子契約「クラウドサイン」 | 電子契約の本命銘柄 |
| 2 | 3788 | GMOグローバルサイン・ホールディングス | 電子契約「GMOサイン」、電子認証 | 電子署名・電子認証に直結 |
| 3 | 3994 | マネーフォワード | 「マネーフォワード クラウド契約」など | 契約・会計・請求などバックオフィス全体を電子化 |
| 4 | 4443 | Sansan | 契約・請求書などのデジタル化 | 紙の業務を幅広くDX化 |
| 5 | 4478 | フリー | バックオフィス業務のクラウド化 | 会計・請求・人事などを一体的に電子化 |
脱ハンコが変える日本の仕事――電子契約から始まる「紙のない社会」への転換
日本のビジネス現場で長年当たり前の存在だった「ハンコ」が、大きな転換点を迎えている。契約書や申請書、稟議書などに印鑑を押し、紙を回覧し、必要に応じて郵送・保管するという業務は、日本企業の事務作業を支える基本的な仕組みであった。しかし、デジタル化や働き方改革の進展によって、こうした慣行は少しずつ見直されている。特に新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、出社しなければ押印できない「ハンコ出社」が問題視されたことで、脱ハンコは単なる業務効率化ではなく、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を象徴するテーマとなった。
脱ハンコの本質は、単純に印鑑を使わなくすることではない。紙の書類を電子化し、オンライン上で承認・契約を完結させ、その記録をデジタルで管理することにある。つまり、ハンコをなくすことは、従来の業務プロセスそのものを見直すきっかけになる。紙の契約書を印刷し、担当者が押印し、上司が確認し、相手企業に郵送して返送を待つという流れを電子契約に置き換えれば、郵送費や印刷費を削減できるだけでなく、契約締結までの時間も短縮できる。さらに、契約書をデータとして一元管理すれば、必要な書類を探す手間も減らせる。脱ハンコは「印鑑のデジタル化」という狭いテーマではなく、企業活動全体の効率化につながる入り口なのである。
その代表格が電子契約市場だ。電子契約では、契約当事者がオンライン上で内容を確認し、電子署名などを用いて契約を締結する。紙に押印する代わりに、電子署名やタイムスタンプなどによって契約の真正性や締結時点を確認する仕組みである。これによって、契約書の印刷、製本、押印、郵送、返送、ファイリングといった一連の作業をデジタル化できる。企業間取引だけでなく、雇用契約、業務委託契約、不動産関連契約、金融関連書類など、幅広い領域で活用余地が広がっている。
この市場で注目される上場企業の一つが、弁護士ドットコムである。同社の「クラウドサイン」は、電子契約サービスの代表的な存在となっており、公式サイトによると導入社数は250万社以上、累計送信件数は4000万件を超えている。大企業だけでなく、金融、製造、食品、不動産、IT、人材など幅広い業種で導入事例が掲載されており、電子契約が特定業界だけのサービスではなく、企業活動のインフラへと近づいていることが分かる。
脱ハンコ関連銘柄としてもう一つ重要なのが、GMOグローバルサイン・ホールディングスである。同社が展開する「GMOサイン」は、電子契約だけでなく電子署名や電子証明書など、デジタル社会における本人確認や意思確認を支えるサービスへと領域を広げている。公式サイトによれば、2026年時点で累計送信件数は5000万件を突破し、350万社以上の事業者が利用している。また、2026年3月末時点でGMOサインの利用企業数は3276社としている。
ここで重要なのは、脱ハンコが「電子契約」という一つの市場だけにとどまらないことである。契約書を電子化すると、次に必要になるのが、社内承認、請求、会計、文書管理、人事労務など周辺業務のデジタル化である。契約書だけが電子化されても、最終的に紙で稟議を回したり、請求書を紙で処理したりすれば、業務全体の効率化には限界がある。そのため、脱ハンコはバックオフィスDXを押し上げる起点にもなっている。
その意味で注目できるのがマネーフォワードやfreeeである。会計、請求書、経費、人事労務などの業務をクラウド上で処理できる環境が整えば、企業は紙を前提とした事務処理から徐々に離れていくことができる。Sansanも同様で、企業間の情報や請求書など、これまで紙や個別管理に依存していた情報をデジタル化するサービスを展開している。脱ハンコを「押印の廃止」だけで捉えるのではなく、「企業活動に残る紙の削減」と考えれば、関連市場は一段と大きくなる。
企業側にとって脱ハンコのメリットは多い。まずコスト削減である。紙、印刷、郵送、保管などの直接的な費用を抑えられる。次に時間の短縮だ。電子契約なら相手先との書類の往復を待つ必要がなく、契約締結までのリードタイムを短縮できる。また、テレワークとの相性も良い。担当者や上司がオフィスにいなくても、オンライン上で契約や承認を進められるため、場所に縛られない働き方を実現しやすくなる。
さらに見逃せないのが管理面である。紙の契約書は、保管場所を確保しなければならず、必要な書類を探すにも時間がかかる。電子化すれば検索性が高まり、契約期限や更新時期などの管理もしやすくなる。電子契約サービスの中には、承認フロー、文書管理、外部システムとのAPI連携などを備えるものもある。GMOサインでもワークフローや文書管理、外部サービスとの連携機能が提供されており、単純な「電子印鑑」から業務基盤へと進化している。
一方で、脱ハンコには課題もある。企業ごとに契約や承認のルールが異なるため、電子化するだけでは業務改革にならないケースもある。また、電子署名を利用するための社内ルール整備や、従業員への教育、セキュリティ対策も必要になる。特に重要なのは、紙の業務をそのまま電子化するだけではなく、「そもそもこの承認は必要なのか」「この書類を作る必要があるのか」といった業務プロセスそのものを見直すことである。
今後は、脱ハンコとAIの組み合わせも重要になるだろう。電子契約によって契約書がデータ化されれば、AIによる契約内容のチェックや検索、リスク分析などにつなげやすくなる。さらに、電子契約、会計、人事、請求書管理などのクラウドサービスが連携すれば、契約締結から請求、入金、会計処理までを一気通貫でデジタル化することも可能になる。脱ハンコは、単独のDX施策ではなく、AI時代の企業データ活用を支える基盤づくりという意味でも重要性を増している。
投資テーマとして見た場合、脱ハンコ関連銘柄には大きく二つの層がある。第一は、弁護士ドットコムやGMOグローバルサイン・ホールディングスのように電子契約・電子署名そのものを手掛ける企業である。第二は、マネーフォワード、Sansan、freeeのように、契約や請求、会計、人事など企業のバックオフィス全体をデジタル化する企業である。前者は脱ハンコへの直接的な関連性が高く、後者は脱ハンコを起点とするDX市場の拡大という観点から注目できる。
紙と印鑑を中心とした日本企業の業務慣行は、一朝一夕には変わらない。しかし、電子契約の利用拡大やクラウドサービスの普及によって、企業が「紙でなければならない」「ハンコがなければ承認できない」と考える場面は着実に減少している。GMOサインでは2026年5月にeシール(電子社印)への対応も発表されており、個人の電子署名だけでなく、企業としてのデジタルな意思表示へと領域が広がっている。
脱ハンコは、印鑑という一つの道具をなくすだけの話ではない。それは「紙を使うことが前提だった仕事」を、「データを使うことが前提の仕事」へと変えていく大きな流れである。電子契約、電子署名、クラウド会計、電子請求書、文書管理、AIによる業務自動化――これらは別々のテーマに見えて、実は一つのDXの流れでつながっている。日本企業の生産性向上が求められるなか、脱ハンコは今後もバックオフィス改革を象徴するテーマとして存在感を高めていきそうだ。
脱ハンコの本命株?弁護士ドットコムが切り拓く「契約DX」の現在地
日本企業の業務風景を長年支えてきた「ハンコ」が、いま大きな転換期を迎えている。契約書を印刷し、製本し、押印し、郵送して相手先の押印を待つ――。こうした一連の作業は、日本のビジネスにおいて当たり前の光景だった。しかし、テレワークの普及や人手不足、業務効率化への要請を背景に、紙と押印を前提とした仕事の進め方は急速に見直されている。その象徴ともいえるのが「脱ハンコ」であり、その中心に位置する企業の一つが弁護士ドットコムである。
弁護士ドットコムは、法律相談などのサービスで知られる企業だが、企業向け事業では電子契約サービス「クラウドサイン」を展開している。クラウドサインは、契約書をオンライン上で取り交わし、電子署名によって契約を締結するサービスである。紙の契約書に印鑑を押す代わりに、インターネット上で合意の証跡を残すことで、契約業務そのものをデジタル化する。公式サイトによると、クラウドサインは導入社数250万社以上、累計送信件数4000万件超を掲げており、国内シェアNo.1の電子契約サービスとされている。
脱ハンコという言葉だけを見ると、「印鑑を電子的なものに置き換える」という単純な話に思える。しかし、企業にとってのメリットはそれだけではない。紙の契約書を使う場合、書類を作成して印刷し、製本して押印し、郵送し、相手先が押印して返送し、その後にファイルへ保管するという複数の工程が発生する。電子契約を導入すれば、こうした作業の多くをオンライン上で完結させられる。印刷費、郵送費、保管スペースなどのコストを抑えられるだけでなく、契約締結までの時間も短縮できる。クラウドサイン自身も、電子契約のメリットとして印紙代や郵送費などのコスト削減、締結までのリードタイム短縮を挙げている。
さらに重要なのが、契約情報をデータとして扱える点だ。紙の契約書は、必要になったときに書庫やキャビネットから探し出す必要がある。一方、電子化された契約情報は検索や管理が容易になり、契約期限や更新時期などの管理にもつなげやすい。企業にとって契約は単なる書類ではなく、取引条件や権利義務を記録した重要な経営データである。紙を電子化することで、この「眠っていた情報」を業務改善に活用できる可能性が生まれる。
この点で、弁護士ドットコムのクラウドサインは、単なる「電子ハンコ」のサービスから、契約業務全体をデジタル化するプラットフォームへと進化しようとしている。2026年現在、クラウドサインは電子署名だけでなく、AI契約書管理や契約レビュー、契約管理などの機能を提供している。同社は2026年5月の発表で、「電子契約ベンダー」から企業統治のパートナーへと事業領域を広げる方向性を示しており、電子署名を契約DXの入り口と位置付けている。
ここには、弁護士ドットコムの強みが表れている。一般的なIT企業が電子契約システムを提供するのとは異なり、同社は法律・契約という専門領域を事業の中心に置いている。契約は単なる事務処理ではなく、企業活動における法的な意思決定そのものである。そのため、電子契約の普及が進めば進むほど、「契約を電子化する」だけでなく、「契約をどう管理するか」「契約内容にどのようなリスクがあるのか」「契約更新をどう管理するのか」といった新たなニーズが生まれる。クラウドサインが契約管理やAIによる契約レビューへと領域を広げているのは、こうした市場の変化を捉えたものといえる。
特に注目されるのがAIとの組み合わせだ。契約書がデジタルデータとして蓄積されれば、AIによって契約内容を分析したり、重要条項を抽出したり、契約期限を管理したりすることが可能になる。クラウドサインでは、AIを活用して契約書情報を自動解析・入力する「AI契約書管理」や、契約書のレビューを支援する「クラウドサイン レビュー」などが展開されている。
つまり、「紙をなくす」という脱ハンコの取り組みが、最終的には「契約データをAIで活用する」という次世代の法務DXにつながっていく可能性がある。これはテーマとして非常に大きい。日本企業では人手不足が深刻化する一方、法務部門にも契約チェックや管理業務の効率化が求められている。電子契約によって契約情報をデータ化し、そのデータをAIで処理できれば、少ない人員でもより多くの契約を効率的に管理できるようになる。
また、脱ハンコの波は民間企業だけにとどまらない。自治体でも電子契約の導入が進んでいる。弁護士ドットコムによると、クラウドサインは2026年4月時点で全国380を超える自治体に導入され、自治体への導入シェア率は約70%としている。2026年4月には群馬県もクラウドサインを導入し、同県では同月から電子契約サービスの運用を開始した。
行政分野での普及は、脱ハンコというテーマを考えるうえで重要である。企業間契約だけでなく、自治体と企業の契約まで電子化されれば、地域企業にとっても電子契約が日常的なインフラになっていく。契約相手によって「紙とハンコ」と「電子契約」を使い分ける必要がなくなれば、電子化のメリットはさらに大きくなる。自治体への普及は、電子契約を社会全体に定着させるうえで一つの追い風となるだろう。
もちろん、脱ハンコには課題も残されている。企業によっては長年の業務慣行が残っており、電子契約を導入するだけでは社内に定着しないケースもある。取引先が紙の契約書を求める場合には、完全な電子化が難しいこともある。また、契約データをオンラインで管理する以上、情報セキュリティやアクセス権限の管理も欠かせない。クラウドサインは2026年4月版のセキュリティホワイトペーパーを公開し、契約書などの機密文書を扱うサービスとして情報セキュリティへの取り組みを説明している。
こうした課題を考えると、脱ハンコ市場で重要になるのは、単に電子署名の機能を提供することではない。企業が実際に紙の業務から移行し、社内で定着させ、さらに契約管理や法務業務全体を効率化できるところまで支援できるかが競争力を左右する。その意味で、250万社以上の導入実績を掲げるクラウドサインは、既存ユーザー基盤を生かして周辺サービスを拡大できる可能性がある。
投資テーマとして弁護士ドットコムを見る場合、「脱ハンコ」という言葉だけに注目するのは少しもったいない。より大きな視点では、「電子契約→契約管理→リーガルテック→AI法務」という市場拡大がポイントになる。ハンコをなくすこと自体が最終目的なのではなく、契約業務をデジタル化することで企業の法務部門をより効率的かつ戦略的な組織へ変えていくことが、次の成長領域になり得る。
弁護士ドットコムにとって、脱ハンコはゴールではなくスタート地点である。紙の契約書を電子化することで顧客との接点を作り、その後、契約管理、AIレビュー、法務支援などへサービスを広げることができれば、電子契約市場の成長を企業価値につなげる余地は大きい。日本企業のDXが「紙をなくす段階」から「データを活用する段階」へ進むなか、クラウドサインを擁する弁護士ドットコムは、脱ハンコという身近なテーマの先にある「契約DX」という大きな市場を取り込めるかが注目される企業である。
≫ 無料講座:お金のプロが教える「初心者が毎月収入を得る投資の始め方」
脱ハンコから電子契約へ――GMOグローバルサイン・ホールディングスが描くデジタル契約社会
日本のビジネスシーンで長く根付いてきた「ハンコ文化」が、大きく変わりつつある。契約書や申請書を印刷し、押印し、郵送して相手先の返送を待つという業務は、これまで企業活動の中で当然のように行われてきた。しかし、テレワークの普及、人手不足、業務効率化への要請、そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展を背景に、紙とハンコを前提とした仕事の進め方は見直されている。こうした「脱ハンコ」の流れを直接的に取り込む企業として注目されるのが、GMOグローバルサイン・ホールディングスである。
同社は、GMOインターネットグループの中で、クラウド・セキュリティ事業などを展開する企業である。脱ハンコという観点で特に重要なのが、電子契約サービス「GMOサイン」だ。従来の契約では、紙の契約書を作成し、印刷、製本、押印、郵送、返送、保管という複数の工程が必要だった。GMOサインを利用すれば、契約相手とオンライン上で契約内容を確認し、電子署名によって契約を締結できる。つまり、ハンコを単純に電子的なものへ置き換えるのではなく、契約業務そのものをデジタル化する仕組みである。
脱ハンコのメリットは、押印作業がなくなることだけではない。紙の契約書を扱う場合には、印刷費、郵送費、収入印紙、書類の保管スペースなど、目に見えるコストが発生する。さらに、契約書を郵送して相手の押印・返送を待つため、契約締結まで数日から場合によってはそれ以上の時間がかかる。電子契約なら、契約内容の確認から締結までをオンラインで進められるため、契約業務のスピードを大幅に高めることが可能になる。
GMOサインは、この電子契約市場の拡大を背景に利用を伸ばしてきた。GMOグローバルサイン・ホールディングスによると、GMOサインは2026年時点で累計送信件数5000万件を突破し、350万社以上の事業者が利用している。また、2026年3月末時点の利用企業数は3276社とされている。こうした利用実績は、電子契約が一部の先進企業だけが利用する特殊なサービスから、一般的な企業活動を支えるインフラへと変化していることを示す材料の一つだろう。
ここで注目したいのが、「脱ハンコ」の先にある市場である。紙の契約書を電子化するだけなら、電子契約サービスの市場は一定規模で頭打ちになる可能性がある。しかし、契約書をデータとして扱えるようになれば、契約管理やワークフロー、本人確認、電子証明書など、周辺サービスとの連携が可能になる。GMOグローバルサイン・ホールディングスは、電子契約だけでなく、SSLサーバー証明書や電子証明書などのセキュリティ関連サービスも展開している。この点が、同社を「電子ハンコ企業」ではなく、「デジタル上の信頼を支える企業」として見る理由になる。
そもそもハンコには、単に紙に印影を残すという役割だけではなく、「誰が意思決定したのか」「その書類が正式なものなのか」を確認する意味があった。電子契約の普及には、紙の印鑑と同じように、デジタル上で本人性や文書の真正性を担保する仕組みが必要になる。そこで重要になるのが電子署名や電子証明書である。GMOグローバルサイン・ホールディングスは、まさにこの「デジタル社会における信頼」を事業領域としてきた企業であり、脱ハンコとの親和性が高い。
さらに、電子契約の普及は企業のバックオフィスDXを加速させる可能性がある。契約書だけが電子化されても、稟議書は紙、請求書も紙、会計処理も手入力という状態では、業務全体の効率化には限界がある。そこで電子契約を起点に、電子請求書、クラウド会計、ワークフロー、文書管理などへデジタル化の範囲が広がっていく。脱ハンコは単独のテーマではなく、企業の業務プロセス全体をクラウドへ移行する「バックオフィスDX」の入り口なのである。
この流れは、人手不足が深刻化する日本にとっても重要だ。企業は限られた人員でより多くの業務を処理しなければならなくなっている。契約書の印刷や製本、押印、郵送、ファイリングといった定型業務をデジタル化できれば、従業員はより付加価値の高い仕事に時間を振り向けられる。特に中小企業では、少人数で総務や経理、法務などを兼務するケースも多く、バックオフィス業務の効率化は経営課題になりやすい。電子契約は、こうした企業にとって導入効果を実感しやすいDXの一つといえる。
また、今後の注目材料として「eシール」がある。eシールは、個人ではなく企業や組織による電子的な意思表示・発行元の証明を支える仕組みである。GMOグローバルサイン・ホールディングスは2026年5月、GMOサインでeシールに対応することを発表している。これは、電子契約市場が「個人の電子署名」だけでなく、企業活動そのものをデジタル上で証明する方向へ広がっていることを示す動きとして注目される。
一方で、電子契約が普及すれば自動的に紙とハンコがなくなるわけではない。取引先が紙の契約書を求める場合や、社内に古い業務慣行が残っている場合、電子化への移行には時間がかかる。また、電子契約では重要な契約情報をオンラインで管理するため、セキュリティやアクセス権限、本人確認などへの対応も欠かせない。だからこそ、単純な電子印鑑機能だけではなく、認証やセキュリティまで含めたサービスを提供できる企業の重要性が増している。
投資テーマとしてGMOグローバルサイン・ホールディングスを見る場合、「脱ハンコ」という言葉だけに注目するのではなく、「電子契約」「電子署名」「電子認証」「企業DX」という複数のテーマが重なっている点に注目したい。電子契約の普及が進めばGMOサインの利用拡大が期待できるだけでなく、企業活動のデジタル化が進むほど、本人確認や電子証明、セキュリティといった周辺領域の重要性も高まるからである。
脱ハンコは、紙の書類からデジタルデータへ、押印から電子署名へ、郵送からオンラインへと、企業活動の基本動作を変える取り組みである。そして、その先には契約データを活用した業務効率化、AIによる契約管理、電子請求書、クラウド会計など、より大きなDX市場が広がっている。GMOグローバルサイン・ホールディングスにとって、電子契約サービス「GMOサイン」はその入り口に位置する重要な事業といえる。
「ハンコをなくす」という一見シンプルな変化は、実は企業活動における「信頼の証明」を紙からデジタルへ移す大きな変革でもある。脱ハンコが進むほど、誰が、いつ、どの文書に同意したのかを安全かつ確実に証明する技術の重要性は高まる。電子契約と電子認証を両輪とするGMOグローバルサイン・ホールディングスは、こうしたデジタル社会の「信頼」を支える存在として、今後の脱ハンコ・DX市場でどこまで存在感を高められるか注目される企業である。
脱ハンコからバックオフィスDXへ――マネーフォワードが進める「紙のない経営」
日本企業の業務現場で長年当たり前だった「紙とハンコ」の文化が、大きく変わり始めている。契約書を印刷して押印し、請求書を郵送し、領収書を紙で保管し、経費精算のために申請書を回覧するといった業務は、企業活動に欠かせないものとして定着してきた。しかし、テレワークの普及、人手不足、働き方改革、そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展によって、こうした業務をデジタルへ移行する動きが加速している。その象徴の一つが「脱ハンコ」であり、この流れをより広いバックオフィスDXへとつなげる企業として注目されるのがマネーフォワードである。
マネーフォワードは、個人向け家計簿サービスからスタートし、現在では法人向けに「マネーフォワード クラウド」を展開している。会計、請求書、経費、人事労務、給与、債務支払など、企業経営に必要なバックオフィス業務をクラウド上で処理できるサービス群をそろえている。脱ハンコというテーマだけを見ると、電子契約サービスを直接展開する企業ほど分かりやすい関連性はない。しかし、脱ハンコを「紙を前提とした業務からデジタルを前提とした業務への転換」と捉えれば、同社との関係は非常に深い。
そもそも、企業の業務におけるハンコは単独で存在しているわけではない。例えば経費精算では、紙の領収書を集め、申請書を作成し、上司が確認して押印し、経理担当者が処理するという流れがある。請求書でも、紙の書類を受け取り、内容を確認し、承認を経て支払い、その後に保管するという工程が発生する。つまり、ハンコをなくすには、その前後にある紙の業務も同時にデジタル化しなければならない。ここにマネーフォワードの事業機会がある。
「マネーフォワード クラウド」は、こうしたバックオフィス業務をクラウド上でつなげることを目指している。会計ソフトだけを導入するのではなく、請求書、経費精算、給与、人事労務、債務支払などを一つのデジタル環境にまとめることで、企業の事務作業を効率化する。脱ハンコが単なる押印廃止ではなく、「紙をなくして業務プロセスそのものを変える」取り組みであるなら、同社はその周辺領域を幅広く取り込めるポジションにある。
特に重要なのが、請求・支払い業務のデジタル化である。契約書を電子化しても、請求書が紙で届き、担当者が手作業で入力し、紙の申請書にハンコを押して承認するのであれば、企業全体のDXは完成しない。電子契約から請求、経費精算、会計処理までがデータでつながって初めて、バックオフィス全体の効率化が実現する。マネーフォワードはこの「契約後」の業務領域を押さえる企業として見ることができる。
脱ハンコによるメリットは、単にハンコを押す時間を削減することではない。紙の書類を扱うためには、印刷、郵送、保管、ファイリングなどのコストが発生する。さらに、書類を担当者から担当者へ回す時間も必要になる。クラウド上で業務を完結できれば、こうした物理的なコストと時間を削減できる。テレワークや出社制限があった時期に「ハンコを押すためだけに出社する」という問題が注目されたことも、企業の意識を変えるきっかけになった。
そして現在は、人手不足が脱ハンコ・バックオフィスDXを後押しする新たな要因になっている。少子高齢化によって企業の労働力確保が難しくなるなか、経理や総務などの定型業務を人手だけで処理し続けることには限界がある。紙の書類を確認して転記する、申請内容をチェックして承認する、会計システムへ入力するといった作業を自動化・効率化できれば、限られた人材をより付加価値の高い仕事へ振り向けられる。バックオフィスDXは、コスト削減だけでなく人材不足への対応策としても重要性を増している。
マネーフォワードにとってさらに大きいのは、クラウドサービスを複数導入することで顧客との接点を広げられる点だ。会計から利用を始めた企業が、経費、人事労務、請求書、債務支払などへ利用範囲を拡大すれば、1社当たりの利用価値が高まる。これは脱ハンコを入口とした「業務全体のデジタル化」という流れと相性が良い。企業が紙を減らすほど、複数のバックオフィス業務をクラウドへ移行する必要性も高まるからである。
また、AIの進化もこの市場を大きく変える可能性がある。バックオフィス業務がデジタル化されれば、そこには大量の会計データ、請求データ、経費データ、人事データなどが蓄積される。これらのデータをAIが分析できるようになれば、単なる記帳や集計だけでなく、異常値の検出、経営分析、業務の自動化などへ用途を広げられる。紙の書類では難しかったデータ活用が、クラウド化によって可能になるのである。
一方、マネーフォワードと脱ハンコの関係を考える際には、同社が電子契約専業企業ではない点にも注意が必要だ。電子契約そのものをテーマに投資するなら、弁護士ドットコムやGMOグローバルサイン・ホールディングスなど、より直接的な関連企業が存在する。一方でマネーフォワードは、脱ハンコを含むバックオフィス全体のデジタル化という、より広い市場を取り込む企業として位置付ける方が適切だろう。
つまり、脱ハンコというテーマを「ハンコをなくすこと」と狭く捉えるか、「紙を前提とした企業業務をクラウドへ移行すること」と広く捉えるかで、マネーフォワードの見え方は大きく変わる。後者の視点に立てば、同社は会計ソフト企業という枠を超え、企業のバックオフィスをデジタル化するプラットフォーム企業として見ることができる。
今後、日本企業のDXが進めば、「紙を使わない」「ハンコを押さない」こと自体は特別な取り組みではなくなっていく可能性が高い。重要になるのは、その先にあるデータ連携と業務自動化である。契約、請求、支払い、経費、会計、人事労務といった企業活動の情報がクラウド上でつながれば、経営者はリアルタイムに近い形で会社の状況を把握できるようになる。マネーフォワードが狙う市場は、まさにこの領域にある。
脱ハンコは、日本企業の「紙中心の仕事」を変える第一歩である。そして、その先にはバックオフィス全体のクラウド化、AIによる業務自動化、経営データの高度活用という大きなDX市場が広がっている。マネーフォワードは電子契約そのものよりも、その周辺に広がる会計・請求・経費・人事労務などを押さえることで、脱ハンコの波をバックオフィスDXの成長へとつなげられる企業といえる。ハンコをなくすことから始まった変化が、企業経営そのものをデジタル化する流れへ発展するなか、同社の今後の事業展開に注目が集まりそうだ。
まとめ:脱ハンコは「紙をなくす」から「業務を変える」段階へ
脱ハンコの本質は、印鑑という一つの道具をなくすことではない。契約書の電子化を起点として、請求、経費精算、会計、人事労務、文書管理など、企業活動に残る紙の業務をデジタルへ置き換え、最終的にはデータを活用して業務そのものを効率化することにある。弁護士ドットコムやGMOグローバルサイン・ホールディングスは電子契約・電子署名という直接的な領域で存在感を高め、マネーフォワードはその先に広がるバックオフィスDXを幅広く取り込もうとしている。今後はAIとの連携によって、デジタル化された契約や会計データを分析・活用する動きも加速するとみられる。「ハンコを押すための出社」が象徴した旧来型の業務から、クラウド上で仕事を完結させる時代へ。脱ハンコは、日本企業の生産性向上とDXを考えるうえで、今後も注目すべきテーマの一つとなりそうだ。




