「スタートアップ・ネーション」の実力 世界市場で戦うイスラエル企業4社

「スタートアップ・ネーション」と称されるイスラエルは、人口約1,000万人という小国でありながら、世界有数のイノベーション大国として知られている。軍事技術から派生した先端技術、高水準の教育、豊富なベンチャーキャピタル、そして起業家精神を背景に、IT、サイバーセキュリティ、医療、再生可能エネルギーなど幅広い分野で世界をリードする企業を数多く輩出してきた。その技術力は世界中の大企業から高く評価され、イスラエル企業はNASDAQをはじめとする海外市場でも存在感を示している。

一方で、イスラエル株は地政学リスクが注目されることも多く、市場では短期的な値動きが話題になりやすい。しかし、その裏側には世界市場を相手に事業を展開し、最先端技術で成長を続ける企業群が存在する。投資先としてイスラエルを考える際には、政治情勢だけではなく、企業が持つ競争力や技術力、グローバル市場でのポジションを見極めることが重要である。

AIを活用した顧客対応ソフトウェアで世界をリードする「ナイス」、世界最大級のジェネリック医薬品メーカー「テバ・ファーマシューティカル・インダストリーズ」、独自の創薬技術で難治性疾患に挑むバイオベンチャー「キャン-ファイト・バイオファーマ」、そして波力発電という次世代エネルギーの実用化を目指す「エコ・ウェーブ・パワー・グローバル」の4社を取り上げる。それぞれ異なる分野で事業を展開しながらも、イスラエル企業らしい革新性と世界市場への挑戦という共通点を持つ企業である。

ナイス──イスラエル発ソフトウェア企業が切り拓くデジタル社会の未来

イスラエルは人口約1,000万人余りの小国でありながら、「スタートアップ・ネーション」と呼ばれるほど世界有数の技術立国として知られている。軍事技術を民間へ転用する文化、高度な理工系教育、豊富なベンチャー投資などを背景に、多くのIT企業が世界市場で存在感を示してきた。その代表格の一つがナイス(NICE Ltd.)である。

ナイスは、日本ではそれほど知名度が高くないかもしれないが、企業向けソフトウェア市場では世界的なリーディングカンパニーである。同社のADR(米国預託証券)は米国市場で取引されており、多くの海外投資家がイスラエル企業へ投資する際の代表的な銘柄となっている。

同社の事業を理解することは、AIやクラウド、DX(デジタルトランスフォーメーション)の未来を理解することにもつながるのである。

ナイスの創業は1986年。当初は音声録音システムを中心に事業を展開していた。航空管制や警察、金融機関など、高度な記録・分析技術が必要とされる分野で実績を積み重ねた。

その後、通信技術の発展とともに事業領域を拡大し、現在ではクラウド型コンタクトセンターソリューションやAIによる顧客対応支援ソフトウェアが収益の中心となっている。

企業の顧客対応は、従来の電話だけではない。メール、チャット、SNS、ビデオ通話など、顧客との接点は急速に多様化している。ナイスは、それらを一元管理し、AIが最適な担当者を選び、問い合わせ内容を分析し、応答品質を高めるプラットフォームを提供している。

世界中の大手銀行、保険会社、通信会社、小売企業などが導入しており、顧客体験(CX:Customer Experience)の向上に大きく貢献している。

現在、ナイス最大の成長ドライバーとなっているのが「CXone」と呼ばれるクラウドプラットフォームである。

CXoneは、コンタクトセンターに必要な電話システム、AIチャットボット、音声認識、感情分析、ワークフォース管理などを一つのサービスとして提供するSaaS(Software as a Service)である。

企業は高価な設備を自社で保有する必要がなくなり、クラウド経由で必要な機能を利用できる。そのため導入コストを抑えながら、常に最新のAI機能を利用できる点が大きな魅力となっている。

近年では生成AIの進化によって、問い合わせ内容をリアルタイムで要約したり、オペレーターへ回答候補を提示したりする機能も実装されている。

顧客満足度向上だけでなく、人手不足への対応や業務効率化という観点からも需要は拡大している。

ナイスの強みは、単なるAI企業ではない点にある。

AIだけでは十分ではなく、それを活用するための大量の顧客データ、業務ノウハウ、クラウド基盤が必要となる。ナイスは数十年にわたり蓄積した膨大な運用データを保有しており、そのデータをAI学習へ活用できる。

また、コンタクトセンター市場は一度導入すると他社製品へ乗り換えるコストが高い。

いわゆるスイッチングコストが高い業界であり、一度契約した顧客との長期契約につながりやすいビジネスモデルとなっている。

SaaS企業として安定したサブスクリプション収益を積み上げられることも、投資家から高く評価される理由の一つである。

競争環境を見ると、ナイスのライバルにはSalesforce、Genesys、Five9、Microsoft、Ciscoなど巨大IT企業が並ぶ。

特にクラウド型コンタクトセンター市場では競争が激化しているが、ナイスはAI分析機能や豊富な導入実績、高いセキュリティ性能で差別化を図っている。

金融機関や医療機関、政府機関など、情報管理が厳格に求められる分野では信頼性が重要であり、その点はナイスの強みとなっている。

一方で、投資家が注意すべきリスクも存在する。まず、企業向けIT投資は景気の影響を受けやすい。不況局面では企業がシステム投資を先送りするケースもある。

さらに生成AI市場では新規参入企業も急増しており、競争環境は今後さらに厳しくなる可能性がある。加えて、イスラエル企業であることから、中東地域の地政学リスクが株価へ影響する場面も少なくない。

もっとも、ナイスの売上の大半は欧米市場であり、事業自体は世界中へ分散している。そのため、地域情勢による短期的な株価変動と、企業の本質的な競争力は分けて考える必要がある。

近年ではAI市場全体への期待が高まり、企業向け生成AIサービスへの投資も拡大している。ナイスは単なるチャットボット企業ではなく、「顧客との接点すべてをAIで最適化する企業」というポジションを築きつつある。

電話応対の自動化だけでなく、顧客満足度分析、感情解析、業務効率化、従業員教育まで包括的なソリューションを提供できる点は、競争優位性につながっている。企業活動において「顧客体験」の重要性は今後さらに高まると考えられる。製品や価格だけでは差別化が難しくなる中、迅速で質の高い顧客対応は企業価値そのものを左右する時代となっている。

その基盤を支えるナイスは、AI、クラウド、データ分析という三つの成長分野を兼ね備えた企業である。イスラエル発のテクノロジー企業として培ってきた技術力と、長年にわたる企業向けソフトウェア事業の実績は、今後も世界市場で存在感を発揮する可能性が高い。

ナイスADRは、AIブームだけでなく、企業のDXやクラウドシフトという長期的な潮流に投資したい投資家にとって注目すべき銘柄の一つである。短期的には競争や景気動向、地政学リスクによる変動も避けられないが、企業向けAI市場の拡大が続く限り、その成長余地はなお大きいと言えるだろう。

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テバ・ファーマシューティカル・インダストリーズ――世界最大級のジェネリック医薬品メーカーが挑む再成長への道

医療費の増加は、世界各国が抱える共通の課題である。高齢化の進展や慢性疾患の増加、革新的な新薬の登場によって医療技術は飛躍的に進歩した一方、その恩恵を社会全体が享受するためには、医薬品をできるだけ低コストで供給する仕組みも欠かせない。その中で重要な役割を担っているのがジェネリック医薬品(後発医薬品)である。

この分野で世界最大級の存在として知られる企業が、イスラエルのテバ・ファーマシューティカル・インダストリーズ(Teva Pharmaceutical Industries)である。創業から100年以上の歴史を持つ同社は、世界60カ国以上で事業を展開し、数千種類に及ぶ医薬品を製造・販売している。新薬開発を手掛ける製薬会社とは異なるビジネスモデルを築きながら、世界の医療インフラを支える存在となっている。

テバの歴史は1901年、現在のイスラエルで創業した小さな薬品販売会社に始まる。当時はオスマン帝国の統治下にあり、医薬品の供給体制も十分ではなかった。地域医療を支える目的で事業を開始した同社は、その後イスラエル建国や経済発展と歩調を合わせながら成長を続け、数多くの企業買収を通じてグローバル企業へと変貌を遂げた。

特に1990年代以降は積極的なM&A戦略を展開し、世界各国のジェネリックメーカーを傘下に収めることで事業規模を急拡大した。その結果、現在ではジェネリック医薬品市場における世界有数の企業として知られるまでになっている。

ジェネリック医薬品とは、先発医薬品の特許期間が終了した後に製造・販売される医薬品である。有効成分や効能、安全性は基本的に先発品と同等でありながら、開発費を大幅に抑えられるため価格が安いことが最大の特徴だ。

各国政府にとって医療費抑制は重要な政策課題であり、日本でもジェネリック医薬品の普及率向上が進められてきた。米国や欧州でも同様の流れが続いており、テバはこうした需要を取り込むことで成長してきた。

同社の製品は高血圧、糖尿病、感染症、中枢神経疾患、がん治療補助薬など幅広い領域をカバーしている。多くの医療機関や薬局に医薬品を安定供給することが、テバの社会的使命でもある。

一方で、テバはジェネリックだけの会社ではない。研究開発型製薬企業として独自の新薬開発にも力を入れている。代表例として知られるのが、多発性硬化症治療薬「コパキソン(Copaxone)」である。この薬は長年にわたりテバ最大の収益源となり、同社の成長を支えてきた。

近年では片頭痛治療薬「Ajovy(アジョビ)」や、統合失調症治療薬「Uzedy(ユゼディ)」など、中枢神経系を中心としたスペシャリティ医薬品にも注力している。

ジェネリック事業による安定収益と、新薬による高収益事業を組み合わせることが、現在のテバの経営戦略である。

しかし、同社は順風満帆だったわけではない。2016年、テバは米国のジェネリックメーカーであるアラガン・ジェネリクス事業を約400億ドルという巨額で買収した。この大型買収によって市場シェアはさらに拡大したものの、多額の有利子負債を抱えることとなった。

その後、米国市場ではジェネリック医薬品価格の下落競争が激化し、利益率が大幅に悪化した。さらに、コパキソンの特許切れによって高収益事業も縮小し、経営環境は急速に厳しさを増していった。追い打ちをかけたのが、米国で社会問題となったオピオイド(医療用麻薬)訴訟である。

鎮痛剤の販売を巡って多数の訴訟が提起され、テバも和解金の支払いを余儀なくされた。これらの問題から株価は長期間低迷し、かつて世界有数の製薬企業として高い評価を受けていた姿から、大きな転換点を迎えることとなった。

それでも近年のテバは再建を着実に進めている。

経営陣は事業の選択と集中を進め、不採算事業の整理や工場の統廃合、人員削減などを実施した。その結果、収益性は徐々に改善し、有利子負債も着実に圧縮されている。さらに、新薬事業では片頭痛や神経疾患、免疫疾患など成長市場への投資を継続し、ジェネリック事業では複雑な製造技術を要する高付加価値ジェネリックやバイオシミラー(バイオ後続品)の拡充を進めている。

医薬品業界では、単純な価格競争だけでは利益を維持することが難しくなっている。そのため製造難易度が高く、競合が参入しにくい分野へのシフトは、テバにとって重要な成長戦略となっている。

投資家の視点から見ると、テバの魅力は依然として世界トップクラスのジェネリック供給能力にある。世界中で高齢化が進む中、医療費抑制の必要性は今後も高まると考えられ、低価格で高品質な医薬品への需要は底堅い。

一方で、リスクも少なくない。ジェネリック市場は価格競争が激しく、各国の薬価制度や規制変更が業績に与える影響は大きい。また、新薬開発では臨床試験や承認審査の成否が企業価値を左右するため、不確実性も伴う。さらに、グローバル企業であるがゆえに、為替変動や地政学的リスク、各国の医療政策変更なども注視する必要がある。

それでも、テバ・ファーマシューティカル・インダストリーズは単なるジェネリックメーカーではなく、世界の医療を支えるインフラ企業としての側面を持つ。100年以上にわたり培ってきた製造技術と供給網、そして研究開発力を武器に、変化する医療市場への適応を続けている。

華やかな新薬開発企業ほど注目を集めることは少ないかもしれない。しかし、「誰もが必要な医薬品を手頃な価格で入手できる社会」を実現するためには、テバのような企業の存在が不可欠である。経営再建を進めながら新たな成長戦略を描く同社は、医薬品業界の構造変化を映し出す象徴的な企業であり、今後の動向は投資家だけでなく、世界の医療政策を考える上でも注目に値するといえる。

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キャン-ファイト・バイオファーマ――イスラエル発、低分子創薬で難治性疾患に挑むバイオベンチャー

バイオテクノロジー産業は、世界の医療を大きく変えつつある。がんや自己免疫疾患、希少疾患など、これまで十分な治療法が存在しなかった病気に対して、新たな創薬技術が次々と生み出されている。その一方で、研究開発には長い年月と莫大な資金が必要であり、成功確率も決して高くない。そのため、バイオ企業への投資は「ハイリスク・ハイリターン」の代表格ともいわれる。

イスラエルのキャン-ファイト・バイオファーマ(Can-Fite BioPharma Ltd.)は、まさにそうしたバイオベンチャーの一社である。同社は世界的な製薬企業ほどの規模は持たないが、独自の作用機序を持つ低分子医薬品の開発に特化し、炎症性疾患やがん、肝疾患など幅広い分野で研究を進めている。研究開発型企業としてNASDAQにも上場し、世界中の投資家から注目を集めている。

キャン-ファイトは1994年にイスラエルで設立された。創業以来、一貫して「アデノシン受容体」を標的とした創薬を進めている点が最大の特徴である。

アデノシンは、人間の体内に自然に存在する物質であり、細胞同士の情報伝達や炎症反応、免疫機能の調節などに重要な役割を果たしている。このアデノシンが結合する受容体には複数の種類が存在するが、キャン-ファイトはその中でも「A3アデノシン受容体(A3AR)」に着目した。

A3ARは炎症細胞や一部のがん細胞で高い発現が確認されており、この受容体を標的とすることで、正常な細胞への影響を抑えながら病変部に作用する可能性があると考えられている。同社はこのメカニズムを活用し、副作用の少ない新しい治療薬の開発を目指している。

現在、同社が開発を進める代表的な候補薬が「ピカリリデノン(Piclidenoson)」である。

この薬剤は乾癬や関節リウマチ、新型コロナウイルス感染症に伴う炎症などを対象に研究が進められてきた。特に乾癬は慢性的な皮膚炎症を引き起こす自己免疫疾患であり、近年では生物学的製剤など高額な治療薬が普及している。

ピカリリデノンは経口投与が可能な低分子化合物であることから、患者の利便性向上や医療費抑制にもつながる可能性が期待されている。

もう一つの主要開発品が「ナムデノソン(Namodenoson)」である。

こちらは肝細胞がんや非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、進行性肝疾患などを対象として開発が進められている。肝臓疾患は世界的に患者数が増加しており、有効な治療薬が限られる分野でもあるため、市場規模は非常に大きい。

ナムデノソンもA3ARを標的とする薬剤であり、炎症抑制や細胞死誘導を通じて病気の進行を抑えることが期待されている。

キャン-ファイトの最大の特徴は、大手製薬会社のように数十種類もの候補薬を抱えるのではなく、A3ARという一つの創薬プラットフォームを軸に複数の疾患へ応用を広げている点にある。

一つの作用機序が複数の病気へ適用できれば、研究開発効率を高められるだけでなく、臨床データを相互活用できる可能性もある。

このような「プラットフォーム型創薬」は近年のバイオ業界でも注目される戦略の一つであり、成功すれば企業価値が大きく高まる可能性を秘めている。

もっとも、バイオベンチャーには特有のリスクも存在する。

新薬開発では、基礎研究から上市まで通常10年以上を要するとされる。臨床試験では有望視されていた薬剤でも、第Ⅲ相試験で十分な有効性を示せず開発中止となる例は珍しくない。

また、医薬品の承認は各国規制当局による厳格な審査を受けるため、研究成果がそのまま収益につながるとは限らない。

キャン-ファイトもこれまで複数の臨床試験を実施してきたが、期待された結果が得られなかったケースや、試験デザインの見直しを迫られたケースもある。

そのため同社の株価は、臨床試験結果や提携契約、資金調達などのニュースによって大きく変動する傾向がある。

一方で、成功した場合のリターンは非常に大きい。

特に肝疾患や自己免疫疾患は世界的な患者数が多く、有効な新薬への需要は今後も拡大すると予想される。

近年では高齢化や生活習慣病の増加に伴い、脂肪肝や慢性肝疾患の患者数が急増しており、新たな治療薬市場への期待も高まっている。

さらに、製薬業界では有望なバイオベンチャーを大手企業がライセンス契約や買収によって取り込む動きも活発である。

キャン-ファイトも、自社単独で販売網を構築するだけではなく、開発段階で世界の製薬企業と提携することで事業価値を高める戦略を採っている。

こうしたライセンス収入や共同開発契約は、バイオベンチャーにとって重要な収益源となる。

投資家の視点から見ると、キャン-ファイトは安定した利益を生み出す企業ではなく、「将来の医薬品承認」に企業価値が大きく依存する典型的な研究開発型企業である。そのため、売上高や利益だけでは企業の将来性を評価しにくく、開発パイプラインの進捗や臨床試験データ、知的財産、提携先の状況などを総合的に分析する必要がある。

イスラエルは「スタートアップ・ネーション」と呼ばれるように、医療・生命科学分野でも数多くの革新的企業を輩出してきた。キャン-ファイト・バイオファーマも、その代表的なバイオベンチャーの一つとして、独自技術を武器に難治性疾患への挑戦を続けている。

もちろん、創薬ビジネスには高い不確実性が伴い、研究成果が必ず実用化される保証はない。しかし、一つの新薬が承認されれば世界中の患者の生活を大きく変え、企業価値も飛躍的に高まる可能性がある。キャン-ファイトは、イスラエルが持つ研究開発力と創薬技術を体現する企業であり、その挑戦は世界のバイオ医薬品市場の未来を映し出す存在として、今後も注目を集め続けるだろう。

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エコ・ウェーブ・パワー・グローバル――波の力を電力へ変える、イスラエル発の海洋エネルギー企業

脱炭素社会の実現に向けて、世界では再生可能エネルギーへの投資が加速している。太陽光発電や風力発電はすでに普及段階へ入りつつある一方で、それらを補完する「次世代の再生可能エネルギー」として期待されているのが海洋エネルギーである。地球の表面の約7割を占める海は、波や潮流、潮汐、海流など膨大なエネルギーを秘めており、その活用は長年の研究テーマとなってきた。

その中でも、波力発電の実用化に挑戦している企業として注目されるのが、イスラエルのエコ・ウェーブ・パワー・グローバル(Eco Wave Power Global AB)である。同社は、既存の港湾施設や防波堤を活用した独自の波力発電システムを開発し、「海の波を安定した電力へ変える」という壮大なビジョンを掲げている。まだ事業規模は大きくないものの、世界各国で実証プロジェクトを進めており、海洋エネルギー市場の先駆者として期待されている。

エコ・ウェーブ・パワーは2011年に設立された比較的新しい企業である。創業者であるインバル・クレイスナー氏は、幼い頃から環境問題に関心を持ち、海洋エネルギーの可能性に着目した。設立以来、同社は「既存インフラを活用する波力発電」という独自のコンセプトを磨き続け、欧州を中心に研究開発を進めてきた。

現在はイスラエルを拠点としながら、スウェーデンにも本社機能を置き、NASDAQにも上場している。海洋エネルギーというニッチな分野ながら、世界中の再生可能エネルギー関連投資家から注目を集める存在となっている。

波力発電そのものは決して新しい技術ではない。しかし、これまで実用化が進まなかった最大の理由は、設備コストの高さと海洋環境の過酷さにあった。

沖合に大型設備を設置すると、建設費や保守費用が膨らむだけでなく、台風や高波による損傷リスクも大きくなる。また、海中設備は腐食や塩害の影響を受けやすく、長期間の安定運転が難しいという課題も抱えていた。

エコ・ウェーブ・パワーは、この課題に対して発想を大きく転換した。

同社は沖合ではなく、防波堤や港湾施設、護岸など既存の海岸インフラにフロート(浮体)を設置する方式を採用している。波が上下するたびにフロートが動き、その運動エネルギーを油圧システムへ伝達し、最終的に発電機を回して電力を生み出す仕組みである。

発電機や制御装置は陸上に設置されるため、メンテナンス性が高く、設備保守のコストも抑えられる。また、荒天時にはフロートを持ち上げて波の影響を避けることができ、設備の耐久性向上にもつながっている。

この「陸上設置型」に近い構造こそが、同社最大の技術的特徴である。

同社はこれまでイスラエルだけでなく、ポルトガル、スペイン、ジブラルタル、スウェーデンなどで実証試験を重ねてきた。近年ではアメリカ市場への進出も進めており、ロサンゼルス港でのプロジェクトが注目を集めている。

港湾施設は世界中に数多く存在するため、新たな海上構造物を建設する必要がなく、既存インフラを活用できる点は大きな強みである。

また、港湾周辺は送電網との接続も比較的容易であり、発電した電力を効率的に利用できるというメリットもある。

再生可能エネルギー市場では、太陽光発電や風力発電が急速に普及している。しかし、これらには天候や時間帯によって発電量が変動するという課題がある。

一方、波力は気象条件の影響を受けるものの、波は風よりも変化が緩やかで、夜間でも発電できる可能性がある。また、沿岸地域では比較的安定したエネルギー源として期待されており、将来的には再生可能エネルギーの多様化を支える存在になる可能性を秘めている。

もっとも、波力発電市場はまだ黎明期にある。

設備コストの低減や発電効率の向上、長期間の耐久性実証など、多くの課題が残されている。現時点では太陽光発電や陸上風力発電ほど発電コストが低いわけではなく、商業化にはさらなる技術革新が必要とされている。

また、各国政府の再生可能エネルギー支援制度や補助金政策に左右される側面も大きく、政策変更が事業計画へ影響を与える可能性もある。

投資家の視点から見ると、エコ・ウェーブ・パワーは典型的な成長企業である。現段階では大規模な利益を生み出す企業というより、研究開発と実証プロジェクトを積み重ねながら市場拡大を目指している段階にある。

そのため、受注案件や実証試験の成功、新たな提携契約、政府支援策などによって株価が大きく変動する傾向がある。一方で、波力発電が本格的に普及すれば、先行企業として大きな成長機会を得る可能性もある。

世界では2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みが本格化し、再生可能エネルギーへの投資は今後も拡大が見込まれる。太陽光や風力だけでは電力需要をすべて賄うことは難しく、エネルギー源の多様化は不可欠である。その意味で、波力発電は「第三の再生可能エネルギー」として期待される分野の一つだ。

エコ・ウェーブ・パワー・グローバルは、イスラエルらしい独創的な発想とエンジニアリングを武器に、この未開拓市場へ挑戦している。既存インフラを活用するという現実的なアプローチは、従来の波力発電が抱えていた課題を克服する可能性を秘めており、商業化への道筋を切り開こうとしている。

もちろん、技術開発企業である以上、事業には高い不確実性が伴う。しかし、世界が脱炭素社会へ向かう中で、海洋エネルギーへの関心は着実に高まっている。エコ・ウェーブ・パワー・グローバルは、波という自然の力を持続可能な電力へ変える挑戦を続ける企業として、今後の海洋再生可能エネルギー市場を占う存在であり、その技術と事業展開は長期的な視点で注目する価値がある。

まとめ

今回紹介した4社は、それぞれ事業内容も成長ステージも大きく異なる。ナイスは企業向けAI・クラウドサービスで安定成長を続ける成熟企業、テバ・ファーマシューティカル・インダストリーズは世界の医療インフラを支える製薬大手として再建と成長を目指す企業である。一方、キャン-ファイト・バイオファーマは革新的な創薬技術に挑む研究開発型企業であり、エコ・ウェーブ・パワー・グローバルは波力発電という新たな再生可能エネルギー市場の開拓を目指す成長企業である。

企業の成熟度やリスクは異なるものの、いずれも「技術で世界の課題を解決する」というイスラエル企業ならではの姿勢を体現している。AI、医療、創薬、クリーンエネルギーはいずれも長期的な成長が期待される分野であり、世界経済の変化とともに今後も注目を集める可能性が高い。イスラエル株は地政学的なニュースだけで評価するのではなく、それぞれの企業が持つ技術力や競争優位性、世界市場での成長戦略に目を向けることで、新たな投資機会を見いだせるかもしれない。

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