新NISAが短期売買に向いていないと言われる4つの理由

初心者の中には金融商品の投資において「値が上がったら即売却する」というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか? 

しかし、数年・数十年といった長い時間をかけて、じっくりと積み立てていく方法も有効です。では、昨今ビギナー投資家が投資を始めるきっかけとして利用している新NISA制度を有効活用するために短期売買は理にかなっている手法と言えるのか? 

ここでは新NISAと短期売買の組み合わせについて言及していくと共に、制度を上手に活用していくための基本的な手法について紹介していきます。

監修者:市川雄一郎 監修者:市川雄一郎 
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)

公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長

新NISAが短期売買に不向きだと言われる理由

いきなり拍子抜けしてしまうかもしれませんが、有識者の間ではNISA制度は短期売買に向かないという意見が多く、どちらかというとリスクを抑えながら長期間分散投資していくことにマッチしていると言われています。

では一体、なぜNISA制度と短期売買はミスマッチと言われてしまうのか? 同章ではその確固たる理由について詳しく紹介していきます。

①年間投資枠に上限があるため

当然のことですが、短期で大きな利益を上げるためには、一度に購入する額も大きくする必要があります。しかし、新NISAの年間投資枠は成長投資枠で240万円、つみたて投資枠で120万円となっており、例えば40万円を元手に成長投資枠を使って個別株に投資をした場合、約半年でその枠の上限に達してしまいます。

そこで思ったように利益が出なければ、非課税の恩恵を受けることもなく、かつその年は成長投資枠を使って投資を続けることができなくなってしまうのです。つまり制度の仕組み上、短期売買にはフィットしていないと言えます。

②短期売買に向いた商品が少ない

NISAで購入できる商品に注目すると、中々短期売買に向いたものが少ない点に気づきます。枠ごとに紹介すると・・・

【成長投資枠】上場株式・投資信託・REITなど

【つみたて投資枠】金融庁が「長期の積立て・分散投資に適した」と認めた一定の投資信託

以上になります。

つまり、そもそもつみたて投資枠は短期に向かないことが一目瞭然です。では成長投資枠はどうなのか? 

成長投資枠では上場株式も対象になっているし、意外といけるのではないか? と思われるかもしれませんが、実は整理・監理銘柄は対象外である他、投資信託においては毎月分配型の商品やデリバティブ取引を用いた商品は除外されているため、やはり短期で大きく稼ぐにはやや物足りないものが多くなります

これらの通り、購入できる商品から見ても、新NISAは短期売買に向いていないことがわかります。

③短期売買には時間・知識を要するため

最も重要なことですが、短期売買していくためには、それなりに時間と経験・知識を要します。なぜなら、値が上がったタイミングを狙うなら、市場の動きを逐一観察する必要がありますし、相場の動きを読むにしても、それなりの知識と経験を持ち合わせていないと難しいでしょう。

そもそも短期売買自体、ビギナーに向いた手法とは言えないため、堅実に増やすことができる「長期・分散・つみたて」を優先して運用すべきだと考えます。

④損益通算ができないから

新NISAが短期売買に向かない最大の要素は「損益通算ができないこと」に尽きるでしょう。そもそも「損益通算」とは何か? 

【損益通算】

同一年分の利益と損失を相殺すること。上場株式等の投資を行って利益が出た場合は税金がかかるが、一方で損失が出た場合には利益から差し引いて、その分だけ税金を減らすことができる。

簡単に言うと、投資で得た利益と損失を相殺することであり、通常の証券口座では、投資で得た利益には20%ほど税金が課されますが、損失が出ていればその分を利益から差し引いて、税金を少なくできます。

しかしNISA口座ではそれを使うことができないため、損失をカバーする術がないのです。損失を出しているにも関わらず、年間投資枠も残っていなければ損益通算もできないとすると、もうお手上げ状態ですよね。

短期売買する際のポイントと注意点

前章で紹介したように、NISAを利用する上で、短期売買はあまり最適な手段とは言えないことがわかったと思います。しかしそれでも尚、短期売買したいという方もいるでしょう。もちろん絶対に良い結果が出ないとは言えないので、否定はしません。

そこで同章では、もしNISAで短期売買する場合、どんな点に気をつけるべきか? についてまとめていきます。

①短期に適した商品を選ぶこと

前記したように、NISAで短期売買を実践するなら「成長投資枠」を利用すべきですが、問題は『チョイスする商品』です。NISA口座では、株式に限定するなら120銘柄程度ありますが、投資初心者にとってはややチョイスが難しいと思います。では、どんな基準で選べば良いのか? 整理銘柄や管理銘柄といった上場廃止の恐れがあるものを除くと、ベンチャー企業の株式を選ぶ他に手はありません。

成功した際に大きなキャピタルゲインが見込める点を加味すると、短期で運用するならベンチャー株が妥当だと言えるでしょう。ただし、数ヶ月程度の短期間で急成長することはあまり見込めないため、数十年とは言わないまでも、数年程度の保有は必須と言えます。

②税務上の注意点を把握しておくこと

言わずもがなですが、NISAを利用する最大のメリットは、利益を非課税で受け取ることができる点です。そして、当然利益を出すことができなければ、NISA制度自体を利用する意味があまりありません。

つまり、お世辞にも安定運用が見込めると言い難い短期売買において、損益通算ができないNISAを利用する際のスタンスとして心がけておくべきことは損失を上手く利用し、税負担を軽減しながら利益を積み上げていくことに尽きるでしょう。

NISAの最適な活用方法は?

短期売買に向かない理由について解説してきましたが、では一体、NISAを最適に活用するにはどうすれば良いのか? 

基本事項のおさらいになってしまうかもしれませんが、最後にNISA制度の有効活用法についてまとめていきます。短期売買一点主義の方も、ぜひチェックしてみて下さい。

①非課税の恩恵を最大限受けるために長期投資をする

短期売買に限らず、現行のNISA制度を上手に利用していくには、非課税限度額を最大限活用することです。ちなみに、非課税限度額は1,800万円で、売却すればその分は翌年に復活します。また、旧制度では非課税期間が最大5年となっていたのに対し、現行のNISA制度では期間の制限はありません。

つまり、売却と復活を上手に繰り返すことで最大非課税額1,800万円を有効活用でき、永続的に非課税の恩恵を受けながら運用し続けることが可能なのです。つまり、短期売買で大きな利益を短期で出してしまうことで、あっという間に限度額に達してしまったとすると、投資できない期間分、全く運用できないことになります。何より、高リスクな運用ゆえ、損失を出してしまったら本末転倒です。そうなると、長期でじっくりと利益を積み重ね、年間投資枠・非課税額をフルに活用しながら運用していく方が制度の旨味を得られると言えます。

②つみたて投資枠と成長投資枠を上手く併用する

旧制度では利用する枠を選択する必要がありましたが、現行のNISA制度では併用が可能になっています。その利点を活用しない手はなく、両方の枠をフル活用することです。双方の特徴から上手な使い分けを考えると、まずつみたて投資枠の対象商品は長期・積立・分散投資に適しているとして金融庁が定める要件を満たす公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)に限定されています。

つまり、長期間じっくりと積み立てていくことに長けており、短期で大きく利益を出すのは難しいと言えるでしょう。一方、成長投資枠の対象商品は日本株・米国株・投資信託・ETF・REITなど、つみたて投資枠よりも選択肢が幅広くなっています。

成長投資枠でも積み立て投資は可能なので、両方の枠で積み立てをするのも手ですが、メリハリをつけて運用していきたいと考えるなら、つみたて投資枠では堅実に分散投資し、成長投資枠では年間投資上限となる240万円を意識しながら、個別株に一括投資するのも良いでしょう。

③非課税枠と投資上限を意識して運用していく

前項でおすすめした「つみたて投資枠→積み立て投資」「成長投資枠→個別株一括」という手法を実践する上でポイントとなるのは『非課税枠の再利用』についてです。前記した通り、保有商品を売却すれば、投資元本部分の非課税枠を翌年以降に再利用できるようになります。

しかし、その恩恵に授かりたいあまり、成長投資枠を早々に使い切ってしまうと、確かに売却すれば非課税枠は翌年復活しますが、年間投資上限は変わりません。つまり、機会損失につながる恐れがあるのです。また、つみたて投資枠を上手に使うために注意すべき点は、含み益が増えた段階での売却を繰り返すことになります。

一体どういうことなのか? というと、つみたて投資枠でいくら売却しても、売却分の非課税枠を再利用できるのは翌年以降で、再利用できるのは元本部分のみです。また、つみたて投資枠の場合、1年間に投資できるのは120万円までと決まっています。売却を繰り返していくことで、本来もっと含み益が増える可能性のあった投資信託の成長が止まり、ただ非課税枠を浪費してしまうことになりかねません。ゆえに、成長投資枠同様、非課税枠と年間投資上限をしっかりと把握しながら、タイミングを見計らって売却することが重要なのです。

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