伊能忠敬の偉業から200年、地図は「未来を動かすインフラ」へ

「地図」は社会を映すデータへ

私たちにとって地図は、目的地までの道順を調べたり、現在地を確認したりする身近な存在です。しかし、その姿は大きく変わりました。江戸時代に伊能忠敬が全国を歩いて測量した時代から、航空機による測量、GPS、衛星、ドローン、レーザー計測へと技術は進化。現在では、道路や建物、地形を3次元データとして取得し、自動運転や防災、インフラ管理、都市開発などに活用する時代になっています。

今回取り上げるゼンリン、アジア航測、アイサンテクノロジーは、いずれも「地図」という共通点を持ちながら、その強みは異なります。ゼンリンは膨大な地図データベース、アジア航測は航空測量や地理空間情報、アイサンテクノロジーは測量技術を生かした高精度3次元地図や自動運転に強みを持っています。

地図はもはや紙の上に描かれた情報ではありません。現実の世界をデジタル空間に再現し、そこへ人口、交通、災害、建物、インフラなどの情報を重ね合わせることで、社会の意思決定を支えるデータ基盤になりつつあります。こうした「地図の進化」を追うことは、これからの自動運転、スマートシティ、防災、インフラDXといった成長分野を考えるうえでも重要な視点になりそうです。

企業名証券コード市場地図関連の主な事業
ゼンリン9474東証プライム住宅地図、電子地図、GIS、カーナビ、高精度地図
アジア航測9233東証スタンダード航空測量、GIS、3D地図、地理空間情報
アイサンテクノロジー4667東証スタンダード測量、3次元地図、高精度地図、自動運転
ダイナミックマッププラットフォーム336A東証グロース高精度3次元地図、HDマップ、自動運転

伊能忠敬からデジタル地図へ――日本の「地図」はどう進化してきたのか

日本人にとって地図は、今やスマートフォンを開けば瞬時に現在地や目的地までのルートが分かる、ごく身近な存在になっています。しかし、現在のような正確な日本地図が完成するまでには、長い歴史がありました。その象徴ともいえる人物が、江戸時代の測量家・伊能忠敬です。

日本の地図作りの歴史を振り返ると、地図は単なる「場所を示す絵」ではなく、国土を把握し、産業を発展させ、防災や交通を支える社会インフラへと進化してきたことが分かります。そして現在、その役割は紙の地図からデジタル地図、さらに3次元地図や衛星測位へと大きく変わっています。

日本では古くから地図が作られていました。奈良時代には国ごとの地図である「国絵図」が作成され、江戸時代になると街道や城下町、村落などを描いたさまざまな地図が普及します。ただし、当時の地図は現在のように全国を統一した基準で測量したものではなく、地域によって精度にも大きな差がありました。

そんな日本の地図史に大きな転換をもたらしたのが伊能忠敬です。伊能忠敬は1745年、現在の千葉県九十九里町付近に生まれ、商人として活躍した後、50歳で江戸に出て、幕府天文方の高橋至時に師事しました。そこで天文学や測量学を学び、地球の大きさを正確に知ることを目指して測量を始めます。

忠敬による全国測量は1800年から1816年まで行われました。北海道から九州まで日本各地を実際に歩いて測量し、沿岸部を中心に膨大なデータを蓄積しました。特筆すべきは、その測量が単なる徒歩旅行ではなく、天体観測と測量技術を組み合わせた科学的な事業だったことです。

伊能忠敬が亡くなったのは1818年ですが、弟子たちによって測量成果が整理され、1821年に「大日本沿海輿地全図」として完成しました。一般に「伊能図」と呼ばれるこの地図は、日本初の実測による全国規模の地図として、近代日本の地図作りの原点となりました。国土地理院によれば、伊能図は大図214枚、中図8枚、小図3枚などから構成されています。

伊能図のすごさは、当時としては非常に高い精度にあります。もちろん現代の測量技術と比較すれば誤差はありますが、衛星測位も航空機も自動車もない時代に、全国を歩いて実測し、日本列島の姿を詳細に描き出したことは驚異的です。現在の国土地理院も伊能忠敬を「近代的な日本地図作成の先駆者」と位置付けています。

その後、日本の近代化とともに地図作りも大きく変化します。明治時代には近代的な測量制度が整備され、陸軍陸地測量部などによって全国的な測量が進められました。近代国家を形成するうえで、正確な国土情報は欠かせません。鉄道や道路、港湾などのインフラ整備にも地図が必要であり、地図は国家の基盤情報としての意味を強めていきました。

そして戦後になると、航空写真や電子計算機などの技術が測量に導入されます。地図作りは「人が歩いて測る」時代から、航空機や電子機器を利用して広範囲を効率的に測量する時代へと移りました。

さらに大きな転換点となったのがインターネットとGPS、そしてスマートフォンの普及です。紙の地図を広げて目的地を探す時代から、スマートフォン上で自分の位置を確認し、リアルタイムで経路案内を受ける時代へと変わりました。

ここで重要になったのがGIS、つまり「地理情報システム」です。GISでは、地図上に人口、道路、建物、土地利用、災害リスクなどさまざまな情報を重ね合わせることができます。地図は「場所を確認するもの」から、「場所に情報を付加して分析するもの」へと変化したのです。

日本では1995年の阪神・淡路大震災もGISの重要性を認識する契機となりました。被災状況の把握や復興計画などでGISが利用された一方、各府省が独自にデータを整備したため、データの相互利用などに課題が生じました。これを教訓にGISの普及・活用に向けた政府の取り組みが進み、2007年には「地理空間情報活用推進基本法」が制定されました。

現在の地図は、さらに新しい段階に入っています。国土地理院は、地理空間情報を防災、産業、生活など幅広い分野で活用する「G空間社会」の実現を進めています。現行の第4期地理空間情報活用推進基本計画は2022~2026年度が対象で、自然災害への対応、産業・経済の活性化、豊かな暮らし、地理空間情報基盤の整備などが重点分野となっています。

さらに2026年度は、次の第5期基本計画に向けた動きも進んでいます。国土地理院では2026年度末の次期基本計画の閣議決定を予定しており、地理空間情報を取り巻く技術や社会環境の変化を踏まえた検討が進められています。

こうした流れの中で注目されるのが、3D地図、高精度測位、自動運転、ドローン、スマート農業、スマートシティなどです。道路の形状や車線、建物、地形などを立体的なデータとして扱えば、自動運転車が走行するための基盤情報にもなります。災害時には地形や建物、道路の被害状況を重ね合わせることで、避難経路や救援活動の判断にも活用できます。

つまり、伊能忠敬が作った地図が「日本列島を正確に知るための地図」だったとすれば、現代の地図は「社会そのものをデータ化する基盤」になっているのです。

そして、この変化は地図関連企業にも新たな市場を生み出しています。ゼンリンのような電子地図・住宅地図の企業に加え、アジア航測の航空測量、アイサンテクノロジーの測量・高精度3次元地図、ダイナミックマッププラットフォームの高精度3次元地図など、地図を核としたビジネスは広がっています。

伊能忠敬が50歳から本格的な測量を始め、長い年月をかけて日本全国を歩いたことを考えると、現在の「現在地ボタン」を押すだけで位置が分かる世界は、まさに隔世の感があります。しかし、その根底にあるのは「自分たちが暮らす場所を正確に知る」という、伊能忠敬の時代から変わらない発想です。

**紙から電子へ、2次元から3次元へ、そしてリアルタイムへ。日本の地図は、伊能忠敬の歩測から衛星測位・AI・3Dデータの時代へと進化してきました。**2026年の現在、地図はもはや単なる案内ツールではなく、防災、物流、自動運転、都市開発、観光、農業などを支える「デジタル社会の基盤」になっています。伊能忠敬が残した偉大な足跡は、200年以上を経た今も、日本の地図と測量の世界につながっているのです。

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ゼンリン――「地図を作る会社」から地理空間情報のインフラ企業へ

日本の地図といえば、多くの人が真っ先に思い浮かべる企業の一つがゼンリンです。住宅地図、カーナビ、スマートフォンの地図サービスなど、私たちの生活のさまざまな場面で同社の地図情報が利用されています。東証プライム市場に上場するゼンリンは、1948年に創業し、2026年3月末時点の従業員数は2,441人、国内21社・海外3社の関係会社を抱える企業へ成長しています。

ゼンリンの歴史は、戦後間もない1948年、大分県別府市で発行した小冊子に添えた地図から始まりました。その後、住宅地図を中心に事業を拡大し、カーナビゲーション、インターネット地図へと活躍の舞台を広げてきました。つまりゼンリンの歴史は、日本社会における「地図のデジタル化」の歴史とも重なります。

特にゼンリンを特徴づけているのが、全国の建物や道路などを詳細に調査し、独自のデータベースとして蓄積している点です。一般的な地図が「この場所に道路がある」「ここに建物がある」という情報を示すのに対し、ゼンリンの住宅地図は建物単位の情報など、より細かな情報を扱います。こうした膨大な情報を継続的に更新する仕組みそのものが、同社の大きな競争力になっています。

同社は全国に約70の調査拠点を持ち、徒歩による現地調査なども行っています。かつて紙を使っていた調査業務には端末を導入し、収集した情報をデジタル化することで、データ共有や作業効率化を進めています。地図会社というと、地図を印刷して販売するイメージを持ちがちですが、現在のゼンリンは「情報を収集し、整理し、データベース化し、それをさまざまな企業やサービスに提供する会社」という側面が強くなっています。

その代表例がGIS、すなわち地理情報システムです。地図の上に人口、顧客、建物、地価、学校区、災害リスクなどの情報を重ねることで、単なる地図が「分析ツール」に変わります。ゼンリンは住宅地図や広域・詳細地図をデータベース化し、GISのベースマップとして企業などに提供しています。配送、マーケティング、不動産、金融、自治体など、活用分野は幅広いものがあります。

例えば宅配サービスを考えてみると、荷物を届けるには単純な住所だけでなく、建物の位置や道路、進入経路などの情報が重要になります。不動産会社なら建物、土地、地価、用途地域などの情報を地図上で組み合わせることで物件分析が可能になります。金融機関でも店舗の出店計画や顧客エリア分析などに地理空間情報を活用できます。こうした「地図+別のデータ」という組み合わせが、ゼンリンのビジネスを広げるポイントになっています。

さらに現在のゼンリンが力を入れているのが、クラウドやAPIなどを活用した地理空間情報サービスです。例えば「ZENRIN Maps Studio」は、ゼンリンの地図コンテンツと業務支援機能を組み合わせ、企業ごとの課題に合わせて利用できるクラウド型サービスです。住宅地図に加えて、相続税路線価、用途地域、空き家情報、過去地図などを組み合わせることも可能で、従来の「地図帳を売る」ビジネスとは大きく異なる方向へ進んでいます。

モビリティ分野も重要です。自動車のカーナビでは、地図データが車両の位置やルート案内を支える基盤になります。さらに自動運転やADAS(先進運転支援システム)が普及すれば、道路形状や車線、周辺環境など、より詳細な地理空間情報の重要性が高まります。ゼンリンのグループ会社には3次元デジタル地図を手掛けるジオ技術研究所や、車載向けソフトなどを手掛ける海外企業もあり、地図をモビリティ技術へつなげる体制を構築しています。

そして、今後の成長テーマとして注目されるのが「デジタルツイン」です。現実の街や道路、建物などをデジタル空間上に再現し、リアルタイムの情報を組み合わせていく考え方です。ゼンリンも、現実世界のさまざまな情報をリアルタイムで収集し、仮想空間に再現するデジタルツインを将来的な方向性の一つとして掲げています。)

これは自動運転だけでなく、都市開発、防災、インフラ管理、物流などにも応用できます。例えば災害発生時に道路の通行状況や建物情報、避難所などを地図上で組み合わせれば、救援活動や避難計画を支援できます。高齢化や人口減少が進む地域では、公共交通や医療、買い物施設などの配置を地理データから分析することも可能です。

ゼンリンは2025年4月から2030年3月期までの5カ年を対象とする中長期経営計画「ZENRIN GROWTH PLAN 2030」をスタートさせています。その方向性は、従来の地図ビジネスの枠を超え、「地図で情報を価値化する企業」として地理空間情報サービス会社への転換を目指すものです。

2026年に入ってからも、ゼンリンの動きは続いています。2026年8月には「ゼンリン地図ナビ」を大幅にリニューアルするなど、一般消費者向けの位置情報サービスも進化しています。一方で、GIS、法人向けクラウドサービス、3D地図、位置情報ソリューションなど、企業向け事業の裾野も広がっています。

投資テーマとしてゼンリンを見る場合、単純な「地図会社」という見方だけでは物足りません。むしろ重要なのは、同社が長年蓄積してきた膨大な地理空間情報を、AI、クラウド、5G、モビリティ、DXなどと組み合わせ、どこまで新たな収益源に変えられるかという点でしょう。

伊能忠敬の時代には、日本全国を歩いて測量することで国土の姿を明らかにしました。それから200年以上が経過した現在、ゼンリンは人が歩いて集めた情報をデジタルデータとして蓄積し、社会のさまざまなサービスにつなげています。地図は「場所を知るためのもの」から「社会を動かすデータ」へと変わりつつあります。

ゼンリンが目指しているのも、まさにこの変化の先にある世界です。道路、建物、人、モノ、地域、災害などの情報を位置情報と結び付ければ、地図は単なる案内ツールではなく、社会そのものを映し出すデータ基盤になります。「地図を作る会社」から「地理空間情報を活用して社会課題を解決する会社」へ――。ゼンリンの今後を考えるうえでは、この事業モデルの変化こそが最大のポイントになりそうです。

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アジア航測――「空から測る」技術を武器に、地図から防災・インフラDXへ

地図関連の上場企業を考えたとき、ゼンリンと並んで注目したいのがアジア航測です。証券コード9233、東証スタンダード市場に上場する同社は、名前の通り航空測量を起点に発展してきた企業です。しかし、現在のアジア航測を単純に「航空写真や地図を作る会社」と捉えるのは適切ではありません。航空機やレーザー、センサーなどを使って地形や建物、森林、道路などを計測し、そこから得られた膨大な地理空間情報を、防災、インフラ、環境、都市計画、再生可能エネルギーなどに活用する「空間情報コンサルタント」へと事業領域を広げています。

アジア航測の強みの一つが、航空機などを使って上空から地表を計測する技術です。航空写真だけではなく、レーザー測量などのセンシング技術を組み合わせることで、地形の起伏や森林、建物、道路などを三次元データとして把握することができます。地上から一つ一つ測量するよりも広い範囲を効率的に調査できるため、山間部や災害地域など、人が容易に立ち入れない場所でも国土の状況を把握することが可能です。

こうした技術は、地図作りだけにとどまりません。例えば大雨による土砂災害が発生した場合、航空機やドローンなどから得たデータを分析すれば、崩壊した斜面や土砂の流出状況を把握できます。2026年8月にネパール・中国国境付近で発生した洪水・土石流についても、同社は高解像度の「赤色立体地図」を用いた地形解析を公開しています。地図が「現在の地形を知るためのもの」から、「災害の状況を分析し、次のリスクを予測するためのもの」へ変化していることが分かります。

日本では近年、豪雨や台風、地震など自然災害への備えが重要性を増しています。さらに、高度経済成長期に整備された道路、橋、上下水道などの社会インフラでは老朽化が進んでいます。こうした社会課題への対応において、国土を「測る」技術の価値は高まっています。どこに道路や橋があり、どのような地形なのか、森林や河川はどう変化しているのか。正確な空間情報がなければ、効率的な維持管理や防災対策は難しいからです。

アジア航測はこうした市場を意識し、2023年10月から2026年9月までの「中期経営計画2026」で、コア技術である「空間情報技術」を核に、「安全・安心」「GX」「生産性向上」を重要な社会課題として事業戦略を展開しています。主要分野として流域マネジメント、森林・環境、道路・鉄道などを挙げる一方、新規事業の創造や海外展開、M&Aにも取り組む方針です。

なかでも注目されるのが「AAS-DX」です。これはアジア航測が進めるデジタルトランスフォーメーションで、センシング技術とデジタル技術を組み合わせ、現実世界の情報をデータとして蓄積・分析し、社会課題の解決につなげようとするものです。同社は2023年に「AAS-DX5か年計画」を策定し、「意識改革」「仕組みづくり」「技術革新」の3本柱でDXを進めています。

その先にあるのが「α-GeoSaaS」という構想です。これは、さまざまな主体が持つ地理空間情報を仮想空間上で組み合わせ、現実世界とデジタル空間を融合させるプラットフォームを目指すものです。いわば、地図を単なる「位置情報の一覧」ではなく、現実世界をデジタル上に再現するための基盤へと進化させる発想です。デジタルツインが普及すれば、都市計画、災害対策、インフラ管理、環境モニタリングなど、幅広い分野で利用される可能性があります。

例えば道路を考えてみましょう。従来の地図なら道路の位置を示すことが中心でした。しかしデジタル化された空間情報なら、道路の形状、標高、周辺の建物、橋梁の状態、交通量、災害リスクなどを重ね合わせることができます。そこにリアルタイムのセンサー情報を加えれば、道路やインフラの状態を継続的に監視することも可能になります。これは国土交通分野で進められているインフラDXとも親和性が高い領域です。

環境・GX分野も成長余地があります。森林を航空レーザーなどで計測すれば、樹木の高さや森林の状態を把握できます。再生可能エネルギーの導入では、地形や日照、風況などの情報が必要です。つまり「測る」ことは、脱炭素社会を実現するための前提条件にもなっています。アジア航測は、サステナブル経営を経営の基盤に位置付け、気候変動への対応や脱炭素社会への貢献にも取り組んでいます。

同社のDXへの取り組みは外部からも評価されています。2026年4月には経済産業省、東京証券取引所、IPAによる「DX注目企業2026」に選定されました。2022年、2024年、2025年に続く通算4回目、3年連続の選定となっています。

長期的には「長期ビジョン2033」を掲げ、「空間情報技術で社会をつなぎ、地球の未来を創造する」を目指しています。2033年9月期に売上高600億円、営業利益45億円、ROE10%を目標としており、単なる測量会社から、空間情報を軸とする総合的なエンジニアリング企業への転換を目指していることが分かります。

株主還元にも一定の方針があります。中期経営計画では「配当性向35%以上」を目標としており、継続的かつ安定的な株主還元を基本方針としています。

地図というテーマからアジア航測を見ると、ゼンリンとは少し違った魅力が浮かび上がります。ゼンリンが住宅地図や電子地図など「地図データそのもの」の蓄積に強みを持つのに対し、アジア航測は航空測量やセンシングによって「国土を測り、そのデータを社会課題の解決に使う」ことに強みがあります。

伊能忠敬が江戸時代に日本全国を歩き、実際に国土を測量して日本地図を作り上げたことを考えると、アジア航測の事業は、その現代版ともいえるでしょう。もちろん現在は航空機、レーザー、衛星、ドローン、AIなど、測量技術は大きく進化しています。しかし、「まず国土を正確に測る」という考え方は共通しています。

これからの地図は、紙の上に描かれた2次元の情報ではありません。3次元化され、リアルタイムで更新され、AIによって分析され、自動運転、防災、インフラ、環境対策などさまざまな用途に使われる「社会データ」へと変わっていきます。

その変化を考えれば、アジア航測は「航空測量会社」という従来のイメージだけでは捉えきれない企業です。**空から測り、データ化し、分析し、未来を予測する――。地図の進化とともに、アジア航測の事業領域もまた広がっています。**今後は、国土強靱化、インフラ老朽化対策、GX、防災、デジタルツインといった成長テーマの中で、同社が蓄積してきた空間情報技術をどこまで新たな価値へ変えられるかが注目されそうです。

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アイサンテクノロジー――測量から自動運転へ、高精度3次元地図が切り拓く未来

「地図関連企業」というテーマで見ると、アイサンテクノロジーは非常にユニークな存在です。証券コード4667、東証スタンダード市場に上場する同社は、もともと測量・不動産登記向けのソフトウエアを強みに成長してきた企業ですが、現在はその技術を自動運転や都市空間DXへと広げています。つまり、従来の「地図を作る会社」から、「3次元の空間データを使って未来の社会インフラを支える会社」へと変わろうとしているのです。

アイサンテクノロジーの設立は1970年。1997年には株式を店頭登録し、現在の東証スタンダード市場につながる上場企業となりました。長年にわたって測量分野で培ってきた技術が同社の土台です。測量とは、土地や建物などの位置、距離、高さ、形状を正確に把握する仕事です。道路や橋、建物などの社会インフラを整備するうえで不可欠な技術であり、いわば「地図の一歩手前」にある基盤技術ともいえます。

同社の大きな特徴は、この測量技術をデジタル化し、三次元データへと発展させていることです。例えばMMS(モービルマッピングシステム)と呼ばれる計測車両を使えば、車両に搭載したレーザースキャナーやカメラなどによって、道路や周辺環境を走行しながら高精度に計測できます。取得した点群データなどを処理することで、現実の道路や街をデジタル空間上に再現することが可能になります。

この技術が特に注目される理由が、自動運転です。自動運転車が安全に走行するためには、GPSなどから得られる現在位置だけでは十分ではありません。道路の形状、車線、交差点、標識、周辺構造物など、車両が走る場所を詳細に把握する必要があります。そこで重要になるのが「高精度三次元地図」です。アイサンテクノロジーは測量で培った技術を生かし、この高精度三次元地図の整備に取り組んできました。

自動運転は、研究室の中だけで進められている技術ではありません。日本では人口減少や高齢化によって、地方を中心にバスやタクシーなどの運転手不足が深刻になっています。交通事業者にとっては、人手不足への対応と地域交通の維持を同時に実現する必要があります。こうした背景から、自治体や交通事業者と連携した自動運転サービスの社会実装が進められています。

アイサンテクノロジーは、こうした実証実験に早くから取り組んできました。同社によれば、これまでに全国で延べ130カ所以上の自動運転実証に関わっており、国内でも大規模な実績を持っています。単に地図データを納品するだけでなく、自動運転車両の構築や運行、社会実装まで関わることで、事業領域を広げている点が特徴です。

そして2026年に入っても、自動運転関連の動きは続いています。9月2日には、グループ会社A-Driveとともに長野県軽井沢町から自動運転バス運行事業を受託したと発表しました。高精度三次元地図データを活用し、自動運転の社会実装を支援する取り組みです。自動運転が「実験」から「実際の交通サービス」へ移行していく中で、同社が積み重ねてきた経験を収益化できるかが重要なポイントになっています。

アイサンテクノロジーが狙っているのは、自動運転だけではありません。現在の中期経営計画では「Development & Evolution」を掲げ、2027年3月期を最終年度として、既存事業の価値を高めながら、新たな事業の柱を育てる方針です。特に「モビリティ・DX」を成長セグメントと位置付け、高精度三次元技術をベースとした新たなDX事業への挑戦を進めています。

その一つが都市空間DXです。現実の街を三次元データとして取得し、道路、建物、地形、インフラなどの情報をデジタル空間上に統合できれば、都市計画やインフラ維持管理、防災などにも応用できます。同社は三次元点群データなどを統合するDXプラットフォーム「DEXIO」を展開しており、自動運転以外にも3Dデータの用途を広げようとしています。

測量分野そのものにもDXの波が押し寄せています。建設や土木の現場では、従来の紙図面や2次元データ中心の業務から、3次元データを活用した施工・管理へ移行する動きが進んでいます。国土交通省が進めるi-Constructionなどによって、公共事業でも三次元データの活用が本格化しており、アイサンテクノロジーの技術が活躍する場面は広がっています。

2026年9月には、点群データを使って図面や図形の作成を一つのアプリで完結できる「ANIST」の最新版Version 1.6.0の発売も発表しました。こうした製品開発を見ると、同社が単に測量会社として受託業務を行うだけでなく、測量・3Dデータ処理の効率化を支援するソフトウエア企業としての側面も強めていることが分かります。

業績面でもモビリティ・DX事業の存在感は高まっています。2026年3月期のモビリティ・DXセグメントは売上高約39.7億円、営業利益約3.8億円となり、同社は2027年3月期に売上高42.3億円、営業利益4.3億円を目標としています。全社では2027年3月期に売上高80億円、営業利益8.5億円を目指しており、成長投資を収益へ転換するフェーズに入っています。

さらに株主還元については、安定的・継続的な配当を基本とし、新たな配当方針としてDOE(株主資本配当率)3%前後を目標に掲げています。2026年3月期の期末配当は37円とされました。投資家にとっては、自動運転という成長テーマだけでなく、既存の測量・ソフトウエア事業がどの程度安定収益を生み、成長分野への投資を支えられるかも重要なポイントでしょう。

もちろん、自動運転市場には課題もあります。技術的な安全性だけでなく、法制度、事故時の責任、地域交通との連携、採算性など、社会実装には多くのハードルがあります。また、自動運転関連の案件が実証実験から継続的なサービスへ移行できるかどうかも、今後の成長を左右するでしょう。

それでも、アイサンテクノロジーには大きな強みがあります。それは、測量という比較的歴史の長い安定した技術を持ちながら、その技術を3次元地図、自動運転、都市DXへ応用している点です。地図を「紙の上の情報」で終わらせず、現実世界をデジタル空間に再現するためのデータへ変えているのです。

伊能忠敬が日本全国を歩いて国土を測量し、正確な日本地図を作り上げたのは江戸時代のことでした。それから約200年。現在は人が歩く代わりに、レーザーやカメラを搭載した車両などが道路を走り、膨大な点群データを収集します。そして、そのデータをAIやクラウドなどで処理することで、現実の街がデジタル空間に再現されていきます。

**「測る」ことから「地図を作る」、そして「街をデジタル化する」へ――。アイサンテクノロジーは、測量を原点としながら、自動運転や都市空間DXという未来の社会インフラへ事業領域を広げています。**今後、自動運転の社会実装が全国で進み、3次元データの活用が建設、都市、防災、モビリティなどへ広がれば、同社が長年培ってきた高精度測量・地図技術の価値はさらに高まる可能性があります。

まとめ――伊能忠敬から「デジタル地図」の時代へ

伊能忠敬が全国を歩いて測量した時代から約200年。日本の地図は、紙からデジタルへ、2次元から3次元へ、そしてリアルタイムで更新される情報基盤へと進化してきました。その過程で、地図の役割も「場所を知るためのもの」から「社会を動かすためのデータ」へと変わっています。

ゼンリンは長年蓄積してきた住宅地図や電子地図を基盤に、GISやモビリティ、デジタルツインなどへ事業を広げています。アジア航測は航空測量やレーザー計測を通じて国土をデータ化し、防災や環境、インフラDXなどに活用。アイサンテクノロジーは測量を原点に、高精度3次元地図や自動運転、都市空間DXという未来の市場へ挑戦しています。

今後、自動運転やドローン、スマートシティ、国土強靱化、老朽インフラ対策などが進めば、正確な位置情報や3次元空間データの重要性はさらに高まるでしょう。つまり「地図」は、これからのデジタル社会を支える見えないインフラになっていく可能性があります。

**伊能忠敬が「日本を正確に知る」ために始めた測量は、現代ではAIや衛星、レーザー、3D技術と結び付き、「未来の社会を設計する地図」へと姿を変えています。**地図関連企業を見るときも、地図そのものだけでなく、そのデータが自動運転、防災、都市、物流などでどのような価値を生み出すのかに注目したいところです。

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