紙の2000年史から読み解く!総合製紙3社の未来

暮らしと産業を支える「紙」の現在地

紙は、文字や情報を記録するための素材として約2000年にわたって人類の歴史を支えてきた。印刷技術の発展とともに新聞、書籍、雑誌などの普及を後押しし、近代社会の形成にも大きな役割を果たした。そして日本でも、明治以降の近代化や戦後の経済成長とともに製紙産業が発展し、現在では紙は情報媒体だけでなく、包装、衛生用品、食品容器、段ボールなど、私たちの生活のあらゆる場所で使われている。

一方、インターネットやスマートフォン、電子書籍の普及によって、新聞・出版・印刷用紙などの需要は構造的な縮小局面に入っている。原燃料価格や物流費の上昇も製紙会社の経営にとって重い課題だ。こうした環境の中で、王子ホールディングス、日本製紙、大王製紙といった総合製紙企業は、従来の「紙を大量に生産する」というビジネスモデルからの転換を進めている。

そのキーワードとなるのが、包装、家庭紙、ヘルスケア、機能材料、森林資源、バイオマスなどだ。紙そのものの需要が減少しても、紙が持つ「包む」「守る」「清潔にする」「加工する」といった機能には新たな需要がある。また、脱プラスチックや資源循環、脱炭素の流れは、木質資源を活用する製紙会社にとって新しい事業機会にもなり得る。

今回取り上げる総合製紙企業は、まさにこうした変化の最前線にいる。長い歴史の中で培ってきた製紙技術や森林資源をどのように次世代の事業へ結び付けるのか。紙を「衰退産業」と捉えるだけでは見えてこない、製紙業界の現在と未来に注目したい。

企業名証券コード主な特徴主な製品・事業
王子ホールディングス3861国内最大級の総合製紙グループ印刷用紙、包装用紙、板紙、機能紙、家庭紙、パルプなど
日本製紙3863紙・板紙から家庭紙、パルプまで幅広く展開印刷用紙、新聞用紙、板紙、包装用紙、家庭紙、パルプなど
大王製紙3880家庭紙「エリエール」で有名。紙・板紙も展開ティッシュ、トイレットペーパー、紙おむつ、印刷用紙、包装用紙など
北越コーポレーション3865印刷・情報用紙や特殊紙、パルプなど印刷用紙、情報用紙、包装用紙、パルプ、特殊紙など
三菱製紙3864紙に加え機能材・特殊素材にも展開印刷用紙、情報用紙、包装用紙、機能紙、特殊紙など
中越パルプ工業3877パルプから紙まで一貫生産印刷用紙、包装用紙、特殊紙、パルプなど
レンゴー3941段ボール・板紙に強い総合包装企業段ボール原紙、段ボール、紙器、包装用紙など

紙の歴史――人類の知を支えた一枚の発明

紙は、あまりにも身近な存在である。ノート、書籍、新聞、ティッシュ、段ボール、紙袋、食品包装――私たちの生活には、実にさまざまな形で紙が存在している。しかし、紙が当たり前に使われるようになった歴史は、それほど古いものではない。紙は単なる「書くための道具」ではなく、情報を記録し、知識を広め、産業を発展させ、社会そのものを変えてきた重要な発明なのである。

紙の起源として一般的に知られているのが、中国・後漢時代の蔡倫(さいりん)である。105年ごろ、蔡倫が樹皮や麻、ぼろ布などを原料として紙を改良したとされている。ただし、紙そのものは蔡倫以前から存在していたと考えられており、近年の研究では、紀元前の中国で既に紙に近い素材が作られていたことが確認されている。蔡倫の功績は、紙をより実用的で安価なものとして改良し、製造方法を体系化したことにあると考えられている。

それまで文字を記録するためには、木簡や竹簡、絹などが使われていた。木や竹は重く、絹は高価だった。紙の登場によって、より軽く、加工しやすく、比較的安価な記録媒体が生まれた。これは情報を保存するコストを大きく引き下げる画期的な変化だった。

中国で発達した製紙技術は、やがて周辺地域へ広がっていく。7世紀ごろには朝鮮半島や日本にも伝わったとされ、日本では和紙の技術として独自の発展を遂げた。日本最古級の紙の一つとして知られるのが、正倉院に残る文書などである。日本ではコウゾ、ミツマタ、ガンピなどを原料とする製紙技術が発達し、丈夫で美しい和紙が作られるようになった。

紙は宗教とも深い関係を持った。仏教の経典を書き写すために大量の紙が必要となり、写経文化の発展が製紙技術を支えた。さらに平安時代になると、紙は貴族社会の文化にも欠かせないものとなる。和歌や手紙、絵巻物などに紙が使われ、日本独自の書道や文学文化を育てていった。『源氏物語』をはじめとする古典文学も、紙という記録媒体があったからこそ後世へ伝えられたのである。

一方、紙の歴史を大きく変えたのが「印刷」の登場だった。中国では早くから木版印刷が行われ、日本でも仏教経典などの印刷が広がった。そして15世紀、ヨーロッパではグーテンベルクによる活版印刷が普及し、紙の需要が一気に高まっていく。

印刷技術と紙の組み合わせは、社会に巨大な変化をもたらした。書籍を大量に生産できるようになり、それまで一部の宗教家や知識人に限られていた情報が、より広い層へ届くようになった。宗教改革や科学革命、教育の普及など、近代社会の形成にも印刷物が大きな役割を果たしたといわれる。紙は「情報を保存する素材」から「情報を大量に流通させるインフラ」へと変わっていったのである。

産業革命は、紙そのものの作り方も変えた。それまでの紙は、職人が一枚ずつ手作業で作るものだった。しかし18~19世紀になると、製紙機械が発達し、紙を大量生産できるようになった。さらに木材からパルプを作る技術が普及すると、紙の原料を大量に確保できるようになった。

この変化によって新聞や雑誌、書籍などの大量発行が可能になり、紙は近代産業の重要な基盤となった。教育の普及や識字率の向上とも相まって、「誰もが本や新聞を読む」という社会が形成されていった。

日本でも明治時代以降、西洋式の製紙技術が導入され、近代的な製紙産業が形成されていく。新聞や雑誌、教科書などの需要が拡大し、製紙会社が次々と発展した。現在の王子ホールディングスや日本製紙、大王製紙などにつながる日本の製紙産業の歴史も、こうした近代化の流れの中で形作られていった。

20世紀に入ると、紙はさらに用途を広げる。新聞や出版物だけでなく、包装紙、段ボール、紙袋、家庭紙、衛生用品など、生活に密着した分野で紙が使われるようになった。特に戦後の日本では経済成長と消費社会の拡大に伴って、紙の需要が急速に増加した。

しかし、21世紀に入ると紙を取り巻く環境は大きく変化する。インターネットやスマートフォンの普及によって、新聞や雑誌、書類などの「情報を伝える紙」の需要は縮小傾向となった。一方で、紙がすべて不要になったわけではない。むしろ新しい需要が生まれている。

その代表が包装分野だ。プラスチックごみや海洋汚染への関心が高まり、企業や消費者の間で「脱プラスチック」の動きが広がるなか、紙を使った包装材への注目が高まっている。段ボールや紙袋、紙製容器などは、EC市場の拡大や物流需要とも結び付いている。

さらに紙は、単なる「紙」から高機能素材へと進化している。電子部品向けの特殊紙、食品包装用の機能紙、医療・衛生分野で使われる素材など、従来とは異なる市場が広がっている。製紙会社にとって、これは重要な事業転換でもある。紙の使用量そのものを増やすだけでなく、「高付加価値な紙」を作ることで収益力を高める戦略が求められている。

また、紙は再生可能資源との相性が良いことも特徴だ。木材を原料とする場合でも、森林資源を適切に管理しながら利用することで、循環型産業としての可能性を持つ。使用済みの紙を回収して再生紙として利用する仕組みも、日本では長く発達してきた。

もちろん、紙の生産には森林資源、水、エネルギーなどが必要であり、環境負荷がないわけではない。そのため現在の製紙業界では、省エネルギー、再生可能エネルギー、古紙利用、森林資源の持続可能な管理などが重要なテーマになっている。

紙の歴史を振り返ると、それは「なくなる歴史」ではなく、「用途を変えながら生き残ってきた歴史」と見ることができる。情報媒体としての紙はデジタルに置き換えられつつある一方、包装、衛生、物流、機能材料といった分野では新たな役割を獲得している。

約2000年前に中国で生まれた紙は、シルクロードなどを通じて世界へ広がり、印刷革命、産業革命、そしてデジタル革命を乗り越えてきた。今後の紙産業を考えるうえで重要なのは、「紙をたくさん作ること」だけではない。環境負荷を抑えながら、紙だからこそできる機能や価値をどのように生み出すかである。

身近すぎるために見落としがちだが、紙は人類の歴史そのものと深く結び付いてきた素材だ。そして現在、紙は再び大きな転換期を迎えている。デジタル化と脱プラスチックという二つの潮流の中で、紙は「古い素材」ではなく、新しい役割を持つ素材として再評価され始めているのである。

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王子ホールディングス――150年超の製紙会社が挑む「紙のその先」

「紙の会社」と聞いて、多くの人が思い浮かべる企業の一つが王子ホールディングスだろう。同社のルーツは1873年創業の王子製紙にあり、2026年現在で150年を超える歴史を持つ。現在は単なる製紙会社ではなく、紙・パルプを起点として包装、機能材料、森林資源、エネルギー、家庭紙などへ事業領域を広げる総合的な企業グループへと変貌している。

王子ホールディングスの歴史を語るうえで欠かせないのが、日本の近代製紙産業そのものを切り開いてきた存在であるという点だ。明治時代、日本では近代化に伴って新聞や書籍などの需要が急速に拡大した。こうした時代背景の中で製紙事業を成長させ、国内の洋紙生産をけん引してきた。現在も同社は国内洋紙生産のパイオニアとして培った技術を事業基盤の一つとしている。

しかし、紙を取り巻く環境は大きく変化した。インターネットやスマートフォンの普及によって新聞、雑誌、コピー用紙など情報媒体としての紙需要は縮小傾向となった。王子ホールディングス自身も、2008年以降に紙の生産量が減少したことを説明している。そこで同社が進めてきたのが、紙だけに依存しない事業ポートフォリオへの転換である。2012年には持株会社制へ移行し、現在の王子ホールディングスへと社名を変更。海外展開も積極的に進めてきた。

現在の事業は、大きく「生活産業資材」「機能材」「資源環境ビジネス」「印刷情報メディア」「その他」に分けられる。2026年3月期の売上高を見ると、生活産業資材が9433億円で全体の43.3%を占める最大の事業となっている。資源環境ビジネスは3897億円、印刷情報メディアは2721億円、機能材は2360億円となっており、伝統的な印刷用紙だけに依存する企業ではないことが分かる。

中でも注目したいのが生活産業資材だ。ここでは段ボール原紙、段ボール、紙器、包装用紙、製袋、液体紙容器などを手掛けている。紙の需要が「情報を伝える紙」から「モノを包む紙」へシフトする中で、包装は成長分野の一つになっている。EC市場の拡大や物流量の増加に加え、プラスチック使用量の削減を目指す動きもあり、紙を使った包装材への期待は高まっている。

家庭紙などの生活消費財も重要だ。王子グループはホームケア、ウェルネスケア、スキンケアなどを展開しており、製紙技術を日常生活に近い商品へ応用している。紙は「書くもの」から「使うもの」へと役割を変えているのである。

さらに、王子ホールディングスの強みとして見逃せないのが「機能材」である。特殊紙、感熱紙、粘着製品、フィルムなどを手掛けており、製紙で培ったシート化や塗工技術を活用して高付加価値製品を生み出している。例えば感熱紙は、チケットやレシートなど幅広い用途で使用されている。また、電気材料用紙やガラスペーパー、光学用粘着フィルムなど、一般消費者からは見えにくいところでも王子の技術が使われている。

ここから見えてくるのが、王子ホールディングスの「紙の会社から素材の会社へ」という変化だ。紙を作るために培った繊維、塗工、加工などの技術を応用すれば、紙以外の高機能材料にも展開できる。これはデジタル化による紙需要の減少に対応するだけでなく、次世代の成長市場を取り込むための戦略ともいえる。

もう一つの大きな特徴が、森林資源を事業の根幹に置いていることだ。王子グループは「森を育て、森を活かす」を掲げ、植林、パルプ、木材加工、バイオマス発電などを展開している。国内外に森林資源を保有・管理し、その資源を紙やパルプだけでなくエネルギーや新素材などにも活用している。

同社によれば、2025年3月末時点の「王子の森」の社有林面積は約63.6万ヘクタール。海外にも大規模な森林・植林事業を展開しており、1970年代からニュージーランドやブラジルなどでパルプ生産を開始してきた。現在ではアジア、豪州、北米、南米、欧州など世界各地に事業を広げている。2025年3月末時点で連結売上高は1兆8493億円、海外売上高比率は40.8%、連結従業員数は3万9136人となっている。

そして2026年に入ってからも、「紙のその先」を意識した研究開発が進められている。2026年9月には、木質バイオマス由来のレジストを最先端半導体プロセスに利用する可能性を実証したと発表。また、国産木材を主原料としたバイオメタノールの製造に関する実証事業も進めている。こうした取り組みは、製紙会社が持つ森林資源と木質化学の技術を、新素材や半導体関連など新しい領域につなげようとする動きとして注目される。

一方で、課題もある。国内の新聞・出版用紙市場が縮小する中、従来型の紙需要だけで大きな成長を続けるのは容易ではない。原燃料価格、物流費、為替、海外事業の収益性なども業績を左右する。だからこそ、段ボールや包装、機能材、パルプ、森林、エネルギー、新素材といった複数の収益源を持つことが重要になる。

王子ホールディングスを見ると、「紙は衰退産業なのか」という単純な問いだけでは本質を捉えられないことが分かる。確かに、情報媒体としての紙はデジタル化によって縮小している。しかし、紙には「包む」「拭く」「守る」「加工する」「機能を持たせる」という多様な用途がある。そして、その根底には木材やパルプ、森林資源を扱う技術がある。

150年以上にわたって紙を作ってきた王子ホールディングスは、現在、その技術と森林資源を次の産業へと広げようとしている。脱プラスチックや資源循環、脱炭素が世界的なテーマになるなか、木質資源を活用した素材への期待はむしろ高まっている。「紙を作る会社」から「森と木の価値を最大化する会社」へ――。王子ホールディングスの現在を理解することは、変わりゆく製紙業界そのものを理解することにもつながりそうだ。

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日本製紙――「紙の会社」から木の価値を引き出す総合企業へ

「日本製紙」という社名からは、新聞やコピー用紙などを製造する製紙会社をイメージする人が多いかもしれない。しかし現在の日本製紙は、紙・板紙だけを手掛ける企業ではない。パッケージ、家庭紙、ヘルスケア、ケミカル、エネルギー、木材・建材など、木を起点として幅広い事業を展開する総合企業へと変化している。2026年3月期の連結売上高は1兆1926億円。連結従業員数は1万5000人を超える規模となっている。

日本製紙の歴史をたどると、紙と日本社会の発展が深く結び付いていることが分かる。同社グループの紙・板紙事業は1873年に始まった。これは王子製紙をルーツとする事業であり、150年以上にわたって新聞、書籍、雑誌、包装などに使われる紙を供給してきた。日本の近代化とともに新聞や出版物の需要が増加するなか、紙は情報を伝えるための重要な社会インフラとなった。

ところが21世紀に入り、紙を取り巻く環境は大きく変わった。インターネット、スマートフォン、電子書籍などの普及によって、新聞や雑誌、印刷物といったグラフィック用紙の需要は縮小した。日本製紙もこの構造変化に対応する必要に迫られ、従来の「紙を作って売る」ビジネスモデルから、紙の技術や木質資源を活用して新たな価値を生み出す方向へ事業構造を転換してきた。実際、同社は中期経営計画2025の期間を通じて、グラフィック用紙事業から生活関連事業への構造転換が進んだと説明している。

現在の日本製紙を理解するうえで重要なのが、事業ポートフォリオの変化である。2025年度の売上高1兆1926億円のうち、紙・板紙事業は5579億円。一方、生活関連事業は4820億円に達する。生活関連事業にはパッケージ、家庭紙・ヘルスケア、ケミカルなどが含まれており、その売上高比率は2015年度の22%から2025年度には41%へと拡大した。つまり、10年間で「紙以外」の事業が大きく成長しているのである。

紙・板紙事業そのものも決して小さくない。新聞用紙、印刷用紙、情報用紙、産業用紙、機能性特殊紙、段ボール原紙、白板紙など、多様な製品を手掛けている。ただし、2026年3月期は紙・板紙事業の売上高が前期比1.4%減の5578億円、営業利益は前期比93.2%減の5億6400万円となった。国内の洋紙需要が減少するなか、原燃料価格や物流費などのコスト上昇も収益を圧迫している。紙の需要減少という構造問題は、依然として日本製紙にとって大きな課題だ。

一方、成長分野として期待されるのがパッケージだ。日本製紙は液体用紙容器の原紙加工から充填機の販売・メンテナンスまで手掛けるトータルシステムを構築している。牛乳などの液体食品向け紙容器では国内シェア1位を持ち、環境配慮型の紙パックや常温保存可能な紙容器などの開発にも取り組んでいる。脱プラスチックや資源循環への関心が高まるなか、紙を「情報媒体」ではなく「包装材料」として活用する市場には成長余地がある。

家庭紙・ヘルスケアも、日本製紙の生活との接点を広げる重要な事業だ。「クリネックス」や「スコッティ」といったブランドのティシュー、トイレットロール、ペーパータオルなどは、日常生活に密着している。さらに高齢化を背景とした大人用紙おむつなどのヘルスケア製品にも事業領域を広げている。紙の使用量が減少する一方で、「衛生を守る紙」「健康を支える紙」という新たな需要を取り込んでいるわけだ。

さらに興味深いのがケミカル事業である。紙パルプ製造で培ってきた技術を生かし、木材に含まれるセルロースやリグニンなどを活用して、機能性セルロース、機能性化成品、機能性フィルムなどを展開している。用途は自動車、エレクトロニクス、食品などにも広がる。これは「木材を紙にする」という従来型の発想から、「木材を構成する成分そのものに価値を見いだす」という発想への転換ともいえる。

そして、日本製紙の将来を考えるうえで重要なのが「木」である。同社グループは、紙・板紙、パッケージ、家庭紙、ケミカルなどを別々の産業として考えるのではなく、その根底にある木質資源を共通の基盤としている。森林資源を適切に管理し、木材を紙、パルプ、化学素材、建材などへと無駄なく利用することで、資源価値を最大化する考え方だ。

2026年度から2030年度を対象とする「中期経営計画2030」では、バランスシートの最適化、構造改革、収益性の向上を基本戦略として掲げている。有利子負債の削減、不採算事業の見直し、森林・木材関連事業の拡大、生活関連事業の収益力強化などが重点課題だ。単に売上規模を追うのではなく、資本効率を高めながら収益力を改善することが大きなテーマになっている。

2026年9月には、ENEOSと第二世代バイオエタノールの普及に向けた包括的パートナーシップを推進することも発表された。木質資源を紙だけに利用するのではなく、バイオ燃料など新たな用途へ展開する動きである。脱炭素社会に向けて、森林や木材をどのようにエネルギーや素材として活用するかは、今後の製紙会社にとって重要なテーマとなる。

日本製紙の2026年3月期は、売上高こそ前期比0.9%増の1兆1926億円、営業利益は27.9%増の252億円、純利益は158.7%増の117億円となった。ただし、紙・板紙事業の収益性には厳しさが残る。今後の評価ポイントは、縮小するグラフィック用紙市場をいかに効率化し、パッケージ、家庭紙、ヘルスケア、ケミカル、エネルギー、森林・木材などの成長分野へ経営資源を振り向けられるかだろう。

「紙は時代遅れ」という見方だけでは、日本製紙の現在を捉えることはできない。確かに、新聞や雑誌など従来型の紙需要には構造的な逆風が吹いている。しかし、包装、衛生、食品、医療、機能材料、バイオ燃料など、紙や木質資源が活躍できる分野はむしろ広がっている。

150年以上にわたって紙を作り続けてきた日本製紙にとって、次の成長戦略は「紙をどれだけ売るか」だけではない。「木からどれだけ新しい価値を生み出せるか」が問われる時代に入ったといえる。伝統的な製紙会社から、木質資源を軸とした総合素材・生活関連企業へ――。日本製紙の事業構造改革は、日本の製紙産業が迎えている大きな転換を象徴している。

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大王製紙――「エリエール」で紙を身近な生活インフラへ

「大王製紙」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのが「エリエール」という人は少なくないだろう。ティッシュペーパーやトイレットペーパー、キッチンペーパーなど、毎日の生活に欠かせない商品を展開するエリエールは、大王製紙を代表するブランドだ。しかし同社は、家庭紙だけを手掛ける企業ではない。新聞用紙、印刷用紙、包装用紙、板紙、段ボール、パルプなどを手掛ける総合製紙会社であり、紙おむつ、フェミニンケア用品、ウエットワイプ、ペットケア用品などにも事業を広げている。2026年3月期の連結売上高は6668億円、連結従業員数は1万1639人に達する。

大王製紙の歴史は1943年に始まる。愛媛県四国中央市で設立され、当初は新聞用紙や板紙の生産販売を中心に事業を発展させた。その後、1978年に洋紙市場へ本格参入し、さらに1979年には「エリエール」ブランドで衛生用紙市場へ進出した。ここから大王製紙の事業構造は大きく変わっていく。エリエールで培ったマーケティング力を生かし、紙おむつやフェミニンケア用品、ウエットワイプなどへと展開。現在の大王製紙を特徴付ける「紙を起点に生活用品へ広げる」事業モデルが形成されたのである。

現在の事業は大きく「紙・板紙事業」と「H&PC(ホーム&パーソナルケア)事業」に分けられる。紙・板紙事業では、新聞用紙、出版用紙、印刷用紙、包装用紙、機能材、段ボール原紙、段ボールシート、段ボールケースなどを展開。一方のH&PC事業では、ティシュー、トイレットペーパー、キッチンペーパーといった衛生用紙に加え、ベビー用・大人用紙おむつ、フェミニンケア用品、ウエットティシュー、トイレクリーナー、フロアワイパー、マスク、ペットケア用品などを手掛けている。つまり「紙を作る会社」から「紙を使って暮らしを支える会社」へと進化しているのだ。

その中核となるブランドがエリエールである。ティシューやトイレットペーパーだけでなく、生理用品、紙おむつ、介護用品、ペット用品などへブランド領域を広げている。大王製紙は、2018年度にティシュー・トイレット・キッチンペーパーの衛生用紙全カテゴリーで市場占有率ナンバーワンを獲得したと説明している。こうした強いブランド力は、単純に紙の生産能力を競うだけではない同社の大きな強みといえる。

紙を取り巻く環境は、決して追い風ばかりではない。新聞や出版物などに使われる紙は、インターネットやスマートフォンの普及によって需要が縮小している。原燃料価格や物流費、人件費などの上昇も製紙会社の収益を圧迫する。一方で、ティシューやトイレットペーパー、紙おむつなどの生活必需品は、デジタル化によって代替されるものではない。ここに大王製紙の事業ポートフォリオの特徴がある。

特に注目したいのが、高齢化による大人用紙おむつ需要だ。日本では高齢化が進み、介護や排泄ケアに関する商品の重要性が高まっている。大王製紙はベビー用だけでなく、大人用紙おむつや介護関連商品にも展開しており、人口構造の変化を事業機会につなげようとしている。また、フェミニンケアやウエットティシュー、ペットケアなども、生活者のニーズが細分化するなかで成長が期待される分野だ。

海外展開も重要なテーマである。大王製紙は2011年からH&PC事業の海外展開を本格化させ、ベビー用紙おむつを中心に現地生産・販売を進めてきた。現在ではアジアを中心に海外事業を展開し、今後はフェミニンケア用品や衛生用紙など多品種販売による複合事業化を目指している。第5次中期事業計画では、2026年度にH&PC海外売上比率17.6%を目標としている。

現在、大王製紙が掲げている第5次中期事業計画「Reframe~基盤の強化~」は、2024年度から2026年度までを対象としている。最終年度の2026年度には売上高7400億円、営業利益300億円、営業利益率4.1%、ROE4.5%、ネットD/Eレシオ1.2倍を目標としている。紙・板紙だけに頼るのではなく、H&PC事業の海外展開や収益力向上、財務体質の改善などを進めることで、持続的な成長を目指す計画だ。

さらに長期的には「Daio Group Transformation 2035」を掲げ、2035年度に売上高1兆2000億円、営業利益率10%を目指している。これは現在の大王製紙から考えると大きな飛躍であり、単なる製紙会社ではなく、生活関連分野を中心としたグローバル企業へ変革することが狙いといえる。

大王製紙の現在を考えるうえでは、物流問題への対応も興味深い。2026年5月には、PALTACとともにT2の自動運転トラックを使った商用運行に参画した。紙おむつをはじめとするエリエール商品を、大阪から神奈川まで約520キロの区間で定期輸送する取り組みで、国内製紙業界では初めてとなる自動運転トラックの本格利用とされる。トラックドライバー不足による物流制約が深刻になるなか、製造だけでなく物流まで含めて効率化を進める動きとして注目される。

また、紙の原料となる木材を有効活用し、環境負荷を抑えることも重要なテーマとなっている。製紙業は森林資源との関係が深い産業であり、持続可能な森林管理や古紙利用、省エネルギーなどへの対応が企業価値を左右する。大王製紙も木材・造林事業などを展開しており、紙・パルプを中心とした資源循環型の事業基盤を構築している。

株主還元にも注目したい。大王製紙は安定的な配当を基本方針としており、2026年3月期は年間14円の配当を実施した。第5次中期事業計画以降は、DOE(純資産配当率)も指標に加え、成長に伴う純資産の充実を株主還元に反映させる方針を示している。

大王製紙の魅力は、「紙」という成熟産業の中にありながら、生活に密着したブランドを持っていることだ。新聞や出版用紙の需要が減少しても、ティシューやトイレットペーパー、紙おむつ、生理用品、ウエットティシューなどには一定の需要がある。さらに高齢化、衛生意識の高まり、ペット市場の拡大、海外での生活水準向上など、新しい需要を取り込む余地も残されている。

紙はデジタル化によって役割を失った部分もある。しかし、大王製紙が示しているのは、紙そのものがなくなるのではなく、「紙を何に使うのか」が変わっているということだ。情報を伝える紙から、生活を支える紙へ。そして紙おむつや衛生用品など、より高付加価値な商品へ。大王製紙は「エリエール」を軸に、紙の可能性を生活のさまざまな場面へ広げている。

製紙業界を見るとき、「紙の需要は減る」という一点だけで判断するのは早計だろう。大王製紙の場合、むしろ重要なのは、紙・板紙を基盤としながらH&PC事業をどこまで成長させ、海外市場を取り込み、収益性を高められるかである。1943年の創業から80年以上。「紙を作る会社」から「世界の人々の暮らしを支える会社」へ――。大王製紙は、成熟産業の中で新しい成長領域を探す総合製紙企業の一つとして、その変革の行方が注目される企業といえそうだ。

まとめ――「紙の未来」は、紙の外側にある

紙をめぐる環境は大きく変わった。かつて紙は情報を伝えるための中心的な媒体だったが、デジタル化によって新聞や雑誌、印刷物などの需要は減少している。総合製紙会社にとって、これは避けることのできない構造変化であり、従来型の紙需要だけに依存した成長には限界がある。

しかし、王子ホールディングス、日本製紙、大王製紙などの事業を見ていくと、製紙会社の可能性は決して小さくないことが分かる。包装や段ボール、家庭紙、紙おむつ、衛生用品など、生活に欠かせない分野では紙の需要が続いている。さらに、機能性材料やケミカル、木質バイオマスなど、これまでの製紙技術を応用した新たな事業領域も広がっている。

特に大きなテーマとなるのが「木」の価値だ。製紙会社は長年、木材をパルプや紙へと加工してきた。その技術と森林資源を生かせば、紙だけでなく、包装材、化学素材、エネルギー、新素材などへと事業を広げることができる。脱プラスチックや脱炭素、資源循環が世界的な課題となるなか、再生可能な木質資源を持つことは、製紙会社の新たな強みにもなり得る。

つまり、これからの総合製紙企業を見る際に重要なのは「紙の需要が増えるか、減るか」だけではない。「紙を作るために培った技術や資源を、次に何へ活用するのか」という視点である。150年以上の歴史を持つ王子ホールディングス、日本製紙、そして生活必需品に強い大王製紙。それぞれが異なる方法で事業構造の転換に挑んでいる。

紙はなくなるのではなく、役割を変えようとしている。情報を伝える紙から、商品を包む紙、暮らしを支える紙、そして新しい素材へ。長い歴史を持つ紙産業は、今まさに次の時代へ向けた変革期を迎えているのである。

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