外貨建て保険で大損?ワナにはまらないために知っておくべきこと

「保険なのに資産形成もできる」とのお得感から契約者が増えた外貨建て保険。

しかし実際には多くの契約者が予想外の損失に苦しみ、損を覚悟で解約する人が相次いでいます。

バラ色の未来を見せられたのとは裏腹に、そこには多くのワナ(落とし穴)がひそんでいるのです。

本記事では、お金と投資の学校GFSの監修のもと、個人投資家として長く保険について考え、多くの人に無駄な保険の見直しを提案してきた筆者が、できるだけわかりやすく外貨建て保険の特徴とそこにひそむ危険なワナについて解説します。

銀行の窓口や保険外交員に勧められ後々大損して解約させられる羽目に陥る前に、この記事に書いてあることを思い出し、安易に手を出さないように注意しましょう。

監修者:市川雄一郎 監修者:市川雄一郎 
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)

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①外貨建て保険、人気のはずが解約者続出のなぜ

外貨建て保険は、高い金利や将来的な通貨価値の上昇を期待できることから、一時期は非常に人気を集めました。

しかし、近年では多くの契約者が解約に至っており、金融庁の報告でもその傾向が指摘されています。

ここではその調査結果と理由を見ていきましょう。

1-1 金融庁調査で6割の解約が判明

金融庁の最新の報告によると、なんと4年間で約6割の人が外貨建て保険を解約している実態が明らかになりました。

2024年4月発表の「リスク性金融商品の販売会社等による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果(2023事務年度中間報告)」で明らかにしました。

これは外貨建て保険商品を販売した銀行・保険会社27社を対象にしたモニタリング調査(調査票送付や資料提供を求めて分析すること)の結果です。

以下は調査報告文からの引用。

現状の販売・管理態勢の下では、ターゲット型保険を中心に、外貨建一時払保険購入後4年間で約6割の解約等が発生しており、同保険組成時の長期運用前提の想定より契約継続期間が短期化している。また、解約等に伴い発生する費用が利幅を押し下げている状況が窺われる

ターゲット型保険とは、払込保険料が顧客の設定した円換算の目標値に到達した場合、自動的に運用成果を確保し、円建ての終身保険などに移行する商品のこと。目標値は払込保険料に対し、円換算で105%、110~200%(10%きざみ)で設定できます。

外貨、特に人気の米国ドルは円に対して為替レートが上昇しており、為替差益では十分なプラスのはずですが、なぜ4年で6割もの人が解約しているのでしょう。その理由は3章以降で解き明かしていきます。

1-2 外貨建て保険への苦情は減少傾向だけど、、、

一般社団法人生命保険協会は、会員保険会社42社に寄せられた顧客からの苦情を「生命保険各社の苦情受付情報・保険金等お支払情報について」として毎年報告しています。

この中に「外貨建て保険」に対する苦情件数の推移があります(報告書をもとに筆者作成)。

これによると、2019年をピークに発生件数・発生率ともに減少傾向にあります。しかし、依然として年間で1000件以上の苦情が寄せられています。

下は2020年調査時の外貨建て保険に対する苦情の内訳(生命保険協会「銀行等代理店における外貨建保険苦情の動向」より)。

これによると、契約時の販売担当者からの「説明不十分」が約7割近くに上り、さらにその内訳を見ると、「元本割れリスク」の説明不十分が3分の1を占めています。

苦情の増加に対する反省として、生命保険協会は2020年、「外貨建保険販売資格試験」を創設。

販売員に対する教育を強化しており、その結果としてそれ以降、苦情が減少しているようです。

ただし、ここには根の深い問題がからんでおり、本当にこの先苦情がなくなるかは不透明です。

なぜそう思うのか、外貨建て保険にひそむ問題点を説明していきます。

 

②そもそも外貨建て保険とは

外貨建て保険とはどういうものか、どのように魅力がある保険商品なのかをまずは販売者の立場から説明していきましょう。

メリットだけを言葉巧みに案内されると、なんとなくすごい商品に思えてきます。

2-1 円より金利が高いのが魅力

これが「外貨建て」のキモですが、円よりも金利が高い通貨で運用することで、より高い利回りが期待できます。

米ドルや豪ドルなどの通貨は、日本円と比較して金利が高く、長くこれらの外貨で運用することで大きな資産が築ける可能性がある、と説明されます。

2-2 一時払い終身保険と変額個人年金保険

外貨建て保険の商品には、通常の保険と同じく、終身保険、養老保険、個人年金保険、医療保険があります。

これらを外貨建てで運用するのが外貨建て保険です。

それぞれの特徴はここでは割愛しますが、このうち外貨建て保険で問題になるのは、

一時払い終身保険と変額個人年金保険です。

一時払い終身保険とは、毎月(もしくは毎年)保険料を払い込むのではなく、契約時に保険料を一括で払い込む(=一時払い)の終身保険。

月払いや年払いも可能ですが、払込期間が長くなるほど保険料の総額が高くなるため、一度に保険料を支払えば将来支払う保険料の変動を気にする必要がありません。

一方、変額個人年金保険は、株式や債券などで資産運用をし、運用実績によって将来受け取れる年金額、死亡給付金額、解約返戻金が変動する個人年金保険です。

日本の円は金利が安いため、金利の高い外貨で運用することで、満期になって日本円に戻すころにはお金も増え、貯蓄としても年金としても、将来にわたって安心できるというのがこの手の保険の売り文句です。

2-3 保険と貯蓄がセットで「一石二鳥」 

外貨建て保険は、保険と貯蓄が一体となっているため、一石二鳥の「お得感」が強調されます。

入院や死亡の保険金が受け取れるだけでなく、将来的な資産形成としても期待できる。

外貨での運用にはリスクもありますが、たとえ運用がうまくいかずに増えなくても、死ぬまで保険が適用され入院費や死亡保険金が受け取れるため、掛け捨てよりも断然お得。

、、、などと販売員は熱心に説明してくるでしょう。

2-4 貯蓄型なら解約してもお金が戻る

外貨建て保険は、掛け捨てではなく貯蓄型のため、もし途中で運用成績などが気に入らなくて解約するときは「解約返戻金」を受け取ることができます。

逆に運用成績がよい場合、解約返戻金にそれが反映されるため、契約時より返戻金が増える可能性もあります。

この「解約しても戻ってきます」も保険外交員や銀行窓口が商品を売り込む際の常套文句です。

 

この章で説明した外貨建て保険のメリットは、確かに運用がうまくいけば、そして短い期間ですぐに解約しなければ、可能性としてなくはありません。

しかし、これらの説明では、外貨建て保険商品の一面しか語られていません。

問題になるのはもう片方の「陰」の側面にこそあります。

その問題点を次の章で説明していきます。 

 

③外貨建て保険の落とし穴

さて、前章での説明で、外貨建て保険はいいことづくめだなと思ったあなた。

保険販売員の言葉巧みな説明にコロッとだまされ、そのまま押し切られて契約してしまうかもしれませんね。

”カモ”確定です(笑)。

前章で挙げた説明のどこに落とし穴があるのかをこれから解説していきます。

3-1 「元本割れはまずありません」は大ウソ

外貨建て保険の最大のリスクは為替変動です。

契約時には「元本割れはまずありません」と説明されることがありますが、これは説明としてはアウトです。

外貨建て保険は、その名の通り外貨で運用されるため、円安が進めば利益が増える可能性がありますが、逆に円高になると元本割れのリスクが高まります。

例えば、契約時に1ドル=150円であった為替レートが、解約時に1ドル=120円となった場合、日本円に換算した際の受取額が大幅に減少することがあります。

販売員はこの為替リスクを十分に説明しないことが多く、また契約者側も聞いても理解できないケースが多いため、後になって問題になることが多いのです。

たとえ運用がうまくいっても、為替変動だけで元本割れの可能性がある。このことを十分頭に入れておく必要があります。

3-2 為替手数料が高い

外貨建て保険には、為替手数料が発生します。

外貨建て保険の保険料は契約者が外貨で支払う前提となっており、保険会社が外貨に換える代行を行います。

このとき為替手数料が発生します。この手数料は銀行や保険会社によって異なりますが、一般的には自分で替えるよりかなり高くつきます。

また保険金が支払われる際にも運用金を外貨から円に戻す為替手数料が発生するため、実際に受け取れる金額からごっそり引かれる可能性があります。

一般に為替手数料がどの程度なのかは、多くの人は知らないでしょう。

しかも保険会社が代行する為替手数料は保険料に組み込まれてより見えなくなっているため、高さに気がつけないのです。

3-3 契約の初期手数料がさらに高い

外貨建て保険は、契約時の手数料が非常に高額です。

先ほど見た「一時払い」の場合、保険契約の初期段階で多くの契約料や手数料が差し引かれるため、すぐに解約すると、運用成績がどうであれ、解約返戻金は大きなマイナスとなっているのがふつうです。

返戻金の金額を見て「なんでこれしか戻らないんだ!」と怒ったところであとのまつり。契約時にこれだけの手数料がかかることをあなたは説明を受けているはずなのです。

「説明を受けていない」と主張しても、販売員からは、きちんと説明を受けた証拠にサインを受け取っていると反論されるでしょう。

この解約返戻金がマイナスになっていることを逆手にとって、「ここで解約するのはもったいないですよ」と解約を引き留められることもよくあることです。

しかし、ここで解約せずにずるずる続ける、とさらにマイナスが膨らむことにもなりかねません。

3-4 手数料目当てに何度も新規契約

銀行の窓口販売などでは、前項で説明した初期の契約手数料を目当てに、同じ契約者が同じ保険商品を何度も新規契約させられる被害が相次いでいます。

先述した「ターゲット型」と呼ばれる保険商品がその悪事の温床となっています。

ターゲット型は、運用成績が目標額に到達したところで外貨建てから円建ての貯蓄に移行します。

これにより、まず為替リスクがなくなります。

さらに、外貨建てのときには運用を保険会社に任せリスクだけ契約者が負う「特別勘定」だったのが、運用の成果にかかわらず保険金額が保証される「一般勘定」へと移行し、リスクも保険会社が負う形に切り替わります。

年金保険という性質上、このように円建てに戻すのは理にかなったことと言えます。

しかし、実際は保険会社や販売員のメリットにならないことから、「同じ外貨建て商品を契約し直せば運用でさらに増やせる」などと持ちかけられるのです。

顧客がこうして新規契約をすることで、ふたたびごっそり初期手数料が抜かれます。

こうして運用がプラスの間は何度もこの再契約を繰り返して販売員が利益を得るのです。

このようなやりかたは、保険の本来の目的である貯蓄性の資産形成を逸脱し、顧客の利益を大いに損なうことになります。

3-5 解約返戻金に税金

外貨建て保険を解約した際に受け取る解約返戻金は、契約から5年以内の解約の場合、20.315%の源泉分離課税が引かれます。

初期に解約すると、ただでさえ契約料や手数料が抜かれて解約返戻金が少ないところに、さらに高額な税金がかかることになるのです。

このような税金の負担は、契約者にとって大きなデメリットとなりますが、税金の計算方法や適用条件については契約時に十分な説明を受けていないケースが多いようです。

また、たとえ説明を受けたとしても、なかなか理解できないことも多く、これもトラブル(苦情)の一因になっています。

 

④外貨建て保険を契約する前に考えるべきこと

以上見てきた外貨建て保険のメリットとデメリットは、説明を受けているその場ですべてを理解するのはまず無理です。

その場の勢いに流されて契約することは絶対やめ、一度持ち帰って十分に納得できるまで考えましょう。

その際に検討すべきことを以下に挙げていきます。

4-1 為替が長期でどうなるかのリスクを知る

外貨建て保険において、為替リスクは非常に重要な要素です。

長期的に為替がどのように動くかを予測するのはほぼ不可能ですが、少なくとも過去の為替動向や今後の経済状況でどうなるかを考えてみることが必要です。

例えば、現在の円安傾向が続くのか、それとも円高に転じるのかによって、最終的な保険金額や解約返戻金が大きく変わります。

為替リスクをきちんと把握するためには、保険加入時にどの通貨建てを選ぶのか、そしてその通貨は将来どの程度動くかなのか、見通しを考えることが重要です。

4-2 「元本割れ」はふつうにある

上記の為替リスクにより、外貨建て保険には「元本割れ」のリスクが必ずあります。

契約時には「元本割れはまずありません」と説明されるかもしれませんが、為替変動によっては実際の受取額が元本を大きく下回ることだってあります。

特に、円高が長期に進行した場合、外貨建ての保険金額や満期時の貯蓄額は円換算で大幅に減少します。

たとえば、一時払いのドル建て商品を600万円契約した場合、為替レートが1ドル150円なら600万円=4万ドルです(600万÷150=4万)。

これが運用によって仮に10%増加した場合、44,000ドルになります。ドルで見ている限りでは4000ドルのプラスです。

しかし、満期時に1ドルが130円になっていたらどうでしょうか。

円換算では572万円となり、28万円も元本を割っています。

これが1ドル120円なら、528万円。元本を72万円も下回ります。

契約前にはこの為替変動で元本がどうなるかをしっかり理解しておくことが大切です。

4-3 保険と貯蓄は別々に考える

これは筆者個人の意見ではなく、投資家の共通認識ですが、保険と貯蓄は別々に考えるべきものです。

保険と貯蓄がセットになって一石二鳥と思われるかもしれませんが、実際には目的がまったく異なるものだからです。

保険は万一の備えに契約するものであり、本当に必要な保険だけを掛け捨てで契約すべきです。

日本人なら加入している健康保険だけで医療にかかわる保険は十分カバーでき、万一医療費が大きくなっても高額療養費制度で支払う上限が決まっています。

家を買った人なら団体信用保険に加入するはずで、万一死亡したときにはローンの残債がすべてその保険で支払われます。

なので本当に必要なのは、自分が不慮の事故や病気で若くして死んだときに、配偶者や幼い子供が当面の生活に困らない金額の死亡保険に入ることくらいでしょう。

4-4 NISAやiDeCoと比較してみる

外貨建て保険を検討する際には、他の資産運用方法とも比較してみる必要があります。

例えば、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などの非課税・税制優遇の制度を使ってインデックスファンドをつみたてたり、配当株を買い増していけば、比較的安全に、手数料も安く、ファンドや株式の成長と複利の力で長期的に大きく資産を増やすことができます。

なんでも保険屋任せにして、中身のよくわからない危険な外貨建て保険など契約しなくとも、個人のちょっとした努力(証券口座を開いて、リスクの低い投資先に積み立てていく)だけで資産は十分増やせるのです。

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まとめ

「外貨建て保険で大損?」の記事、いかがだったでしょうか。

外貨建て保険は、外国通貨の高い金利や将来的な資産形成を期待できる商品ですが、一方で為替リスクや手数料の高さなどのリスクも高く、「元本割れ」があたりまえになっている商品です。

販売員からの説明が不十分なケースでは苦情も多く、4年で6割が解約している事実も金融庁の調査で判明しました。

保険と貯蓄を一体化させた商品に魅力を感じて安易に飛びつく前に、リスクをしっかり理解し、他の資産運用手段との比較を行うことが重要です。

 

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