「格安スマホ」は次のステージへ――MVNO市場を支える上場企業に注目

「安さ」から始まった格安スマホ、競争の舞台は新たなステージへ

スマートフォンが生活インフラとして定着し、通信料金を少しでも抑えたいという需要が高まるなか、「格安スマホ」「格安SIM」という選択肢が広く普及している。その中心的な役割を担ってきたのが、携帯電話会社から通信回線を借りてサービスを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)である。インターネットイニシアティブ(IIJ)や日本通信、フリービットなどは、こうしたMVNO市場の成長を支えてきた代表的な上場企業だ。

一方、現在の格安スマホ市場は、かつての「大手キャリアか格安SIMか」という単純な構図ではなくなっている。KDDIのUQ mobileやpovo、ソフトバンクのY!mobileやLINEMO、楽天モバイルなど、大手通信会社やそのグループも低価格帯のサービスを積極的に展開しているためだ。価格だけでなく、通信品質、データ容量、店舗サポート、ポイントサービス、端末とのセット販売など、さまざまな要素を比較して通信サービスを選ぶ時代になっている。

こうした環境のなか、MVNO各社には「安さ」だけではない付加価値が求められている。IIJは個人向け「IIJmio」に加え、法人向けネットワークやクラウド、セキュリティー、MVNEなどへ事業を広げ、日本通信は「日本通信SIM」を軸に法人向け通信やデジタルIDなどへの展開を進めている。フリービットも「トーンモバイル」を通じて培った安心・安全の技術を、シニア向けサービスやAI、Web3などへ応用しようとしている。格安スマホ市場は、通信料金の引き下げを起点にしながら、通信技術やデジタルサービスそのものの競争へと領域を広げているのである。

証券コード企業名主なサービス格安スマホとの関係
3774インターネットイニシアティブ(IIJ)IIJmioMVNOとして個人向け格安SIMを展開
9424日本通信日本通信SIM、b-mobileMVNO事業を中核とする企業
3843フリービットTONE mobile、DTI SIMグループでMVNO・格安モバイルサービスを展開
3167TOKAIホールディングスLIBMOグループ会社がMVNO「LIBMO」を提供
9433KDDIUQ mobile、povo大手キャリアの低価格・オンライン専用ブランドを展開
9434ソフトバンクY!mobile、LINEMO大手キャリアの低価格・オンライン専用ブランドを展開
4755楽天グループ楽天モバイル自社回線を展開するMNO。低価格スマホ市場の主要企業

MVNOって何? 格安スマホの現在地を読み解く

「格安スマホ」という言葉が一般に定着して久しい。かつては、大手携帯電話会社よりも大幅に安い料金でスマートフォンを利用できるサービスとして注目を集めたが、現在では市場の構造そのものが変化している。格安SIMを提供するMVNOだけでなく、大手通信会社自身が「UQ mobile」「Y!mobile」「povo」「LINEMO」などの低価格ブランドを展開し、さらに楽天モバイルも低料金を武器に市場へ参入しているためだ。

そもそもMVNOとは何なのか。MVNOは「Mobile Virtual Network Operator」の略で、日本語では「仮想移動体通信事業者」と呼ばれる。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなど、自前の携帯電話ネットワークを持つMNO(移動体通信事業者)から回線を借り受け、通信サービスを提供する事業者のことである。自社で全国規模の基地局網を整備する必要がないため、設備投資を抑えながら通信サービスを提供できることが大きな特徴だ。MVNOは一般に「格安SIM」や「格安スマホ」と呼ばれるサービスの担い手として知られている。

代表例としては、インターネットイニシアティブ(IIJ)が展開する「IIJmio」、日本通信の「日本通信SIM」、フリービットグループの「TONE mobile」、TOKAIホールディングス傘下のTOKAIコミュニケーションズが提供する「LIBMO」などが挙げられる。料金プランをシンプルにしたり、データ通信量の少ない利用者向けプランを用意したりすることで、大手キャリアとは異なる価格帯を打ち出してきた。

格安スマホ市場が拡大した背景には、スマートフォンの普及と通信料金に対する消費者の意識の変化がある。NTTドコモ モバイル社会研究所の調査によると、携帯電話所有者に占めるスマートフォン比率は2025年に98%となり、2026年には98.3%まで上昇している。つまり、日本では「スマートフォンを持つこと」がほぼ当たり前になった。

スマートフォンが生活インフラとして定着する一方、通信料金をできるだけ抑えたいという需要は根強い。2025年の調査では、携帯電話の買い替え時に重視するポイントとして「端末価格」と「通信料金の安さ」が上位を占めている。また、直近5年間で通信キャリアを乗り換えた人も各年代で約4~5割に達し、乗り換え理由として最も多かったのは「利用料金が安くなるから」であった。

こうした価格志向を追い風に成長してきたのがMVNOである。しかし、現在の格安スマホ市場を語るうえで重要なのは、単純に「MVNO対大手キャリア」という構図ではなくなったことだ。

大手キャリア自身が低価格ブランドを相次いで投入したためである。KDDIは「UQ mobile」や「povo」、ソフトバンクは「Y!mobile」や「LINEMO」を展開している。これらはMVNOとは事業形態が異なるものの、消費者から見れば「大手キャリアの回線を利用しながら、比較的安い料金でスマートフォンを使える選択肢」という点で、格安SIMと競合する存在である。

さらに楽天グループの楽天モバイルも市場を大きく変えた。楽天モバイルはMVNOではなく、自前の携帯電話網を持つMNOである。しかし、低料金を前面に打ち出して携帯電話市場へ参入し、料金競争を促したという意味では、格安スマホ市場を考えるうえで欠かせない存在となっている。

この結果、消費者にとっての選択肢は大幅に増えた。従来であれば「大手キャリアは高い、MVNOは安い」という単純な比較ができたが、現在は大手キャリア、サブブランド、オンライン専用ブランド、MVNO、楽天モバイルなどが価格・通信品質・データ容量・店舗サポートなどの面で競争している。

また、格安スマホの「安さ」だけを評価する時代から、「自分の使い方に合った料金体系を選ぶ」時代へ移行している点も重要である。動画視聴やゲームなどで大量のデータ通信を行う人と、メールやSNS、検索が中心で毎月のデータ使用量が少ない人では、最適なプランが異なる。通話をほとんど利用しない人、逆に通話を頻繁に利用する人でも選択肢は変わってくる。

通信品質についても、以前ほど「格安SIMだから通信速度が大きく劣る」と一括りにはできなくなっている。もちろん混雑時間帯などにはサービスによる違いが出る可能性があるが、5Gの普及も進んでいる。2025年の調査では、携帯電話所有者の52%が5G回線を利用していた。高速通信が当たり前になるなか、格安スマホ市場も単純な低価格競争から、通信品質やサービス内容を含めた総合的な競争へと変化している。

一方で、MVNOにとって競争環境が厳しくなっていることも見逃せない。大手キャリアが低価格ブランドを投入すれば、消費者から見た価格差は小さくなる。さらに、大手キャリアは全国の店舗網やブランド力、ポイントサービス、家族割などを持っている。単純に「安い」というだけでは差別化が難しくなっているのだ。

そこでMVNO各社には、料金以外の付加価値が求められている。データ容量の細かな選択肢、独自のサポート、特定サービスとのセット、法人向け通信、IoTなど、通信回線を軸とした多様なサービス展開が重要になっている。

格安スマホ市場の現在地を一言で表すなら、「格安スマホが特殊な選択肢だった時代から、低価格通信が一般的な選択肢となった時代」への移行といえるだろう。スマートフォンそのものの普及率はすでに98%を超え、今後は端末を持つかどうかではなく、どの通信会社・料金プランを選ぶかが重要になる。

そして、この競争激化は関連する上場企業にも影響を与える。MVNOの代表格であるインターネットイニシアティブ、日本通信、フリービット、TOKAIホールディングスに加え、UQ mobileやpovoを展開するKDDI、Y!mobileやLINEMOを展開するソフトバンク、楽天モバイルを展開する楽天グループなど、格安スマホ・低価格通信市場に関係する企業は幅広い。

今後の焦点は、単純な「月額料金の安さ」から、通信品質、データ容量、店舗サポート、ポイント経済圏、端末販売、法人・IoT需要などを含めた総合的な競争へ移っていくだろう。格安スマホはもはや一部の節約志向の利用者だけが選ぶサービスではない。スマートフォンが生活インフラとなった現在、通信費をどう最適化するかというテーマは、多くの消費者にとって身近な問題となっている。MVNOはその市場を切り開いた存在であり、現在は大手キャリアを巻き込んだ「低価格通信市場」へと発展しているのである。

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格安SIMの先駆者から総合ネットワーク企業へ――インターネットイニシアティブ(IIJ)の現在地

格安スマホ・格安SIM市場を語るうえで、外すことのできない企業がインターネットイニシアティブ(IIJ)である。証券コード3774、東京証券取引所プライム市場に上場する同社は、現在では法人向けネットワーク、クラウド、セキュリティー、システム運用など幅広いITサービスを手掛ける総合ネットワーク企業へと成長している。その一方、個人向けでは「IIJmio」を展開し、MVNO市場の代表的な存在として高い知名度を持つ。格安SIMという言葉が一般に浸透する以前からモバイル通信に取り組んできたことは、同社の大きな特徴である。

IIJがMVNO事業を開始したのは2008年1月。その後、2012年2月には個人向けサービス「IIJmio」でLTE対応のモバイルサービスを開始した。さらに2018年にはフルMVNOサービスの提供を始めるなど、通信事業者としての技術力を積み重ねてきた。2021年には「ギガプラン」を投入し、データ容量に応じて料金を選べる現在の個人向けサービスの基盤を整えた。

IIJmioの最大の特徴は、単純に「安い」だけではない。利用者が自分の通信量に応じてプランを選択できることや、音声通話、データ通信、eSIMなど多様なニーズに対応していることが強みとなっている。2026年3月には「ギガプラン」の15ギガプランを月額1,600円(税込)へ改定した。スマートフォンで動画や音楽、ゲームなど大容量コンテンツを利用する機会が増え、データ利用量が拡大していることを背景に、料金体系も市場環境に合わせて変化している。

2026年3月末時点で、IIJmioモバイルサービスの回線数は143万483回となっている。2025年3月末の131万1,509回線から約11万9,000回線増加しており、個人向けモバイル事業が着実に拡大していることが分かる。また、法人向けモバイルサービスなどを含めたIIJモバイルサービス全体では、2026年3月末時点で493万8,755契約・回線となっている。

ここで注目したいのが、IIJのモバイル事業は「IIJmio」だけではないという点である。同社は法人向けのモバイル通信サービスに加え、MVNOに通信基盤を提供するMVNE事業も展開している。MVNEとは、MVNOに対して通信設備やシステム、ノウハウなどを提供し、MVNO事業を支援する事業者を指す。つまりIIJは、自社で格安SIMを販売するだけでなく、他社がMVNOサービスを展開するための土台も提供しているのである。

2026年3月期には、法人向けの「IIJモバイルMVNOプラットフォームサービス」の回線数が136万5,657となり、前年同期から11万3,983増加した。2025年度の決算説明資料でも、IIJはMVNE事業について他MVNOへのモバイルサービス提供を行う事業と説明しており、モバイル通信の「川上」と「川下」の双方を押さえるビジネスモデルを構築している。

こうした事業構造は、IIJの強みを考えるうえで重要だ。個人向けMVNOは料金競争が激しく、通信会社各社が低価格ブランドを投入するなか、単純な値下げだけでは利益を確保しにくい。一方、IIJは個人向けサービスだけに依存せず、法人向け通信、IoT、MVNE、クラウド、セキュリティーなど複数の収益源を持つ。モバイル通信を起点として企業向けネットワークやITインフラへ事業領域を広げている点が、一般的な「格安SIM会社」と大きく異なるところだ。

実際、IIJの2026年3月期決算を見ると、同社の成長を支えているのはモバイルだけではない。法人向けネットワークやシステム運用、セキュリティーなどの需要も伸びている。特に企業のクラウド化やDX、ネットワーク更改などを背景に、ITインフラ関連の需要が続いている。同社はネットワーク技術を基盤に、通信からクラウド、セキュリティー、システムインテグレーションまで幅広い領域をカバーしている。

2026年3月期の売上収益は、決算資料によると3,000億円を超える規模まで拡大している。モバイル関連では、個人向けモバイルの売上が前期比で増加したほか、法人向けIoTなどのモバイル事業も成長している。つまり、IIJを「格安SIM関連銘柄」とだけ捉えると、企業の実像を見誤る可能性がある。むしろ「ネットワークを中核としたITインフラ企業の中に、強力なMVNO事業を持つ企業」と考える方が実態に近い。

格安スマホ市場そのものも変化している。かつては「大手キャリアは高い、MVNOは安い」という構図が明確だった。しかし現在は、KDDIの「UQ mobile」「povo」、ソフトバンクの「Y!mobile」「LINEMO」など、大手通信会社自身が低価格帯のブランドを展開している。楽天モバイルも低料金を武器に市場へ参入している。そのためMVNO各社には、価格だけでなく、通信品質、料金プランの柔軟性、端末販売、サポート、eSIMなどを含めた総合的な競争力が求められている。

その中でIIJは、通信技術そのものを強みにしてきた。2018年にフルMVNOへ移行したことも、その象徴といえる。自社の設備や技術を活用することで、サービスの自由度を高め、eSIMなど新しい通信技術への対応も進めてきた。IIJ自身も、個人向けMVNO市場においてサービス品質や技術への挑戦を続けてきたと説明している。(iij.ad.jp)

今後の成長余地としては、個人向けのIIJmioに加えて、法人IoTやMVNE事業の拡大が重要になるだろう。IoTでは、ネットワークカメラ、ドライブレコーダー、GPSトラッカーなど、さまざまな機器がモバイル通信を利用する。スマートフォン市場だけを見ると成熟感がある一方、あらゆるモノがネットワークにつながるIoT市場では通信需要が広がる可能性がある。IIJはこうした法人・IoT領域にもモバイル通信を提供している。

また、AIやクラウドの普及もIIJにとって追い風となり得る。企業が生成AIなどの新しいデジタル技術を導入すれば、ネットワーク、クラウド、セキュリティー、データセンターなどのITインフラ需要も増える。IIJはもともとインターネット接続を中核として成長してきた企業だけに、デジタル化が進むほどネットワークの重要性が高まるという構造的な恩恵を受けやすい。

格安スマホ関連株としてIIJを見る場合、最大のポイントは「格安SIMだけの会社ではない」ということだろう。IIJmioによって個人向けMVNO市場で存在感を示しながら、法人ネットワーク、IoT、MVNE、クラウド、セキュリティーなどへ事業を広げている。2026年3月末のIIJmio回線数は143万回線を超え、個人向けモバイル事業も成長を続けている。

格安スマホ市場が「安さ」だけを競う段階から、通信品質や利便性、付加価値を競う段階へ移行するなか、IIJの強みであるネットワーク技術と法人向けITインフラの総合力は重要性を増している。MVNOの先駆者として培った通信技術を武器に、個人向け格安SIMから企業のDX、IoT、クラウド、セキュリティーまで事業領域を広げるIIJ。格安スマホ市場の現在地を映すだけでなく、日本のデジタルインフラを支える企業として、その動向が注目される。

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格安SIMの先駆者・日本通信――「合理的な料金」で切り拓くMVNOの現在地

格安スマホ・格安SIM市場を語るうえで、ひときわ存在感を放つ企業が日本通信である。証券コード9424、東京証券取引所プライム市場に上場する同社は、1996年の創業以来、携帯電話通信の新しいビジネスモデルを追求してきた。現在は個人・法人向けのMVNO事業を中核とし、「日本通信SIM」や「b-mobile」などを展開している。格安スマホ関連の上場企業のなかでも、通信サービスそのものとの距離が非常に近い企業といえる。

日本通信を理解するうえで欠かせないキーワードが「MVNO」である。MVNOとは、Mobile Virtual Network Operatorの略で、日本語では仮想移動体通信事業者を意味する。自ら全国規模の携帯電話網を整備するのではなく、携帯電話会社のネットワークを活用して通信サービスを提供する事業者である。日本通信は1996年の創業以来、MVNOという新しい産業を生み出してきた企業と位置付けており、現在もMVNO事業を会社の主要事業としている。

日本通信が個人向けで展開する「日本通信SIM」は、同社の成長を支える代表的なサービスである。2020年7月に提供を開始し、音声通話とデータ通信を組み合わせた合理的な料金体系を打ち出してきた。同社によれば、2026年3月期も個人・法人の契約回線数が順調に伸長し、2026年3月末時点の「日本通信SIM」契約回線数は94.7万回線となった。大手携帯電話事業者や大手MVNOからのMNP転入も増加したという。

「安い」という言葉だけでは、日本通信のサービスの特徴を十分に表現できない。同社が掲げているのは「合理的な料金」である。利用者が必要とする通信量や通話機能に応じてプランを選択できるようにし、余分なサービスを極力そぎ落とすことで、通信料金を抑える考え方だ。現在の日本通信の公式サイトでは、「日本通信SIM」を月額基本料290円から利用できるサービスとして紹介しており、低価格通信市場における価格競争力を強く打ち出している。

日本通信の強みは、単に低価格の商品を販売していることではない。MVNOとして長年培ってきた通信技術やノウハウを持っていることが大きい。MVNO市場では、大手通信会社の回線を利用するだけでは十分な競争力を確保できない。料金プランを設計し、顧客管理や認証、通信品質の管理などを行いながら、多様なニーズに対応する必要がある。日本通信はこうした領域で長年の経験を積み重ねてきた。

また、日本通信は自社ブランドの通信サービスだけでなく、MVNO事業を行うパートナーを支援する「イネイブラー事業」も展開している。会社概要では、MVNO事業者に対してモバイル通信サービスを提供するほか、MVNO、システムインテグレーター、メーカー、金融機関などのパートナーにモバイル・ソリューションを提供するとしている。つまり、日本通信は自ら格安SIMを販売する「MVNO」であると同時に、他社のモバイル通信サービスを支える側面も持っている。

業績にもモバイル通信事業の成長が表れている。2026年3月期の個別業績は、売上高が115億700万円、営業利益が12億9400万円となった。売上高は前期比27.0%増、営業利益は17.7%増である。同社はその理由について、「日本通信SIM」の個人・法人契約回線数の伸長や、MNPによる転入増加などを挙げている。また、MVNO事業とMVNE事業の双方が成長したとしている。

この数字から見えてくるのは、日本通信が単なる「格安SIMブーム」に乗っている企業ではないということである。スマートフォン市場が成熟し、通信料金の値下げ競争が激しくなるなかでも、契約回線数を積み上げ、売上高を伸ばしている。特にMNPによる転入が増えていることは、料金やサービス内容を比較したうえで大手通信会社などから日本通信へ乗り換える利用者が増えていることを示す材料となる。

もっとも、格安スマホ市場を取り巻く環境は以前とは大きく変わった。かつては「大手キャリアは高い、MVNOは安い」という単純な構図が市場の特徴だった。しかし現在では、KDDIがUQ mobileやpovo、ソフトバンクがY!mobileやLINEMOを展開するなど、大手通信会社自身が低価格帯のブランドを持っている。楽天モバイルも低料金を武器として携帯電話市場に参入している。日本通信のようなMVNOにとっては、こうした大手企業との競争が常態化している。

そのため、今後の日本通信にとって重要になるのは、単純な値下げ競争から一歩踏み込んだサービスづくりだろう。通信品質、料金体系、通話サービス、本人確認、セキュリティーなどを組み合わせ、利用者にとって「価格に対して価値が高い」通信サービスを提供できるかが問われる。

日本通信は、その次の成長領域として通信と認証を組み合わせた事業にも取り組んでいる。特に注目されるのが「FPoS」と呼ばれるデジタルID基盤である。スマートフォンを活用した本人確認やデジタルIDを通じて、通信だけでなく金融、決済、行政など幅広い分野への展開を目指している。通信サービスで培った本人確認や認証の技術を、デジタル社会のインフラへ広げようとしている点が特徴だ。

さらに現在の日本通信で大きなテーマとなっているのが「ネオキャリア」である。同社はNTTドコモの音声通信網およびSMS網との相互接続に関する協定を締結し、2026年11月の新サービス開始を予定している。従来のMVNOとは異なる形で、音声・SMS・データ通信を相互接続によって提供する新しい通信事業モデルを目指している。2026年3月期には、この新事業のための初期投資資金として総額65億円を想定し、社債による40億円の追加調達などを実施している。

また、法人向けではIoTやモバイル・ソリューションにも事業を広げている。例えば、IoT機器や防犯カメラ向けのSIM、閉域SIM間通信などを提供しており、スマートフォンだけではない通信需要を取り込もうとしている。

日本通信の現在地を考えると、同社を「格安スマホ会社」とだけ捉えるのは少し物足りない。もちろん「日本通信SIM」は同社の中核サービスであり、格安SIM市場における存在感は大きい。しかし、その本質はMVNOとして培った通信技術をベースに、法人向けモバイル、MVNE、IoT、デジタルID、認証などへ事業領域を広げている点にある。

格安スマホ市場は今後も価格競争が続くとみられる一方、スマートフォンを入り口として、本人確認や決済、行政サービス、IoTなど、通信を取り巻く市場は広がっている。日本通信にとっては、これまで培ってきたMVNOの技術と顧客基盤を、新たなデジタル社会のインフラへどうつなげていくかが成長のカギとなりそうだ。低価格通信の先駆者から、通信と認証を組み合わせたデジタルインフラ企業へ――。日本通信は、格安SIM市場の変化を象徴する上場企業の一つとして、今後の事業展開が注目される存在である。

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格安スマホから「安心・安全」へ――フリービットが描く通信サービスの次なる成長

格安スマホ・格安SIM関連の上場企業として注目されるのが、証券コード3843のフリービットである。同社はインターネット接続や通信インフラを起点に事業を拡大してきた企業で、現在は「5Gインフラ支援事業」「5G生活様式支援事業」「企業・クリエイター5G DX支援事業」などを展開している。なかでも格安スマホとの関係で知られているのが、グループ会社が展開する「トーンモバイル」である。しかし、現在のフリービットを単なる格安スマホ関連企業として捉えると、その事業の広がりを十分に理解することはできない。通信を起点として、シニア向けスマートフォンの安心・安全、AI、Web3などへ領域を広げようとしているからだ。

フリービットの通信事業を象徴する存在が「トーンモバイル」である。トーンモバイルは、スマートフォンをあまり使いこなせない人やシニア、子どもなども含め、安心してスマートフォンを利用できる環境づくりに力を入れてきた。単純に通信料金を安くするだけではなく、見守りやサポートなどを組み合わせることで差別化を図ってきた点が特徴である。格安スマホ市場では、大手通信会社も低価格ブランドを展開しているため、単純な料金競争だけで顧客を獲得することは難しい。その中でフリービットが打ち出してきたのが、「安さ」だけではない通信サービスである。

同社は2026年5月、長年培ってきた独自技術を活用し、Age Tech市場へ本格参入すると発表した。Age Techとは、加齢やライフステージに関連する課題をテクノロジーで解決する領域である。フリービットは、これまでトーンモバイルで蓄積してきたシニア向けスマートフォンの安心・安全に関する技術を「TONE-IN SDK」としてパッケージ化し、通信以外のさまざまなサービスにも展開する方針を示している。

この動きは、フリービットの事業戦略を考えるうえで重要である。これまでトーンモバイルなど自社サービスを通じて提供していたスマートフォンのサポート機能を、今後は他社のアプリやサービスに組み込めるようにすることで、通信事業そのものから技術・プラットフォーム事業へ広げようとしているからだ。TONE-IN SDKは、シニアがスマートフォンを使う際に生じる「操作が分からない」「困ったときに相談できない」といった問題に対応するための技術基盤として位置付けられている。

2026年5月には、その具体例として、ソフトバンクの「かんたんスマホ5」にフリービットとソフトバンクが共同開発した「家族サポート」が搭載された。LINEミニアプリを活用することで、サポートする家族が専用アプリを新たにインストールすることなく、普段使っているLINEから支援できる仕組みである。これは2025年1月に締結したソフトバンクとの資本業務提携を通じた共同開発の成果でもあり、通信事業者との関係を生かして新たな事業機会をつくる取り組みとして注目される。

フリービットがこうした事業へ進む背景には、スマートフォンの普及率上昇がある。スマートフォンが生活インフラとして定着した現在、通信サービスに求められるものは「つながること」だけではなくなった。特に高齢者にとっては、スマートフォンを安全に使えること、家族が必要に応じてサポートできること、詐欺や誤操作などのリスクを抑えられることが重要になる。通信とサポートを組み合わせることで、フリービットは価格競争とは異なる市場を狙っている。

一方、フリービットの収益基盤はモバイル通信だけではない。2026年4月期の業績予想では、売上高600億円、営業利益61億円、経常利益57億7000万円、親会社株主に帰属する当期純利益35億円を見込んでいた。2025年4月期の実績は売上高550億7300万円、営業利益58億8300万円であり、通信関連サービスに加えて、集合住宅向けインターネット接続や法人向けサービスなどが事業を支えている。

特に「5G生活様式支援事業」は、同社の成長を考えるうえで重要な分野である。2026年4月期第2四半期では、同事業の売上高が前年同期比10.8%増の139億7700万円、セグメント利益が21.9%増の19億9500万円となった。集合住宅向けインターネット接続サービス「5G Homestyle」の提供戸数も2025年10月末時点で累計140.7万戸まで拡大している。スマートフォン向け通信だけではなく、住宅そのものをインターネットにつなぐ領域にも事業を広げていることが分かる。

さらに、フリービットは中期経営計画「SiLK VISION 2027」で「通信生まれのweb3実装企業へ」という方向性を掲げている。2025年7月には非中央集権型プラットフォーム「Portfolia」を発表し、DIDウォレット、モバイルブロックチェーン、独自の通信技術、AIサービスとの接続機能などを組み合わせた事業展開を進めている。2026年5月に発表したTONE-IN SDKも、この戦略と接続する取り組みとして位置付けられている。

格安スマホ市場そのものを見ても、競争環境は大きく変化している。かつては「大手キャリアは高い、MVNOは安い」という構図が明確だったが、現在はKDDIのUQ mobileやpovo、ソフトバンクのY!mobileやLINEMOなど、大手通信会社自身が低価格帯の商品を展開している。そのためMVNOや格安スマホ事業者には、料金の安さだけではない付加価値が求められるようになった。

この環境変化は、フリービットにとってむしろ事業領域を広げるきっかけになる可能性がある。トーンモバイルで培った「安心して使えるスマートフォン」というノウハウを、他社の端末やアプリ、サービスへ提供できれば、通信回線の契約者数だけに依存しないビジネスモデルを構築できるからだ。2026年5月の発表では、TONE-IN SDKによって、従来トーンモバイルと提携端末に限られていた「安心・安全の技術レイヤー」を、キャリア、端末、業種を問わず提供可能にするとしている。

フリービットにとって、ソフトバンクとの資本業務提携も重要な意味を持つ。大手通信会社との連携によって、フリービットが持つ技術をより大きな顧客基盤へ展開できる可能性がある。実際に「かんたんスマホ5」への家族サポート搭載という形で、提携の成果が具体的なサービスとして表れている。今後も通信とIT技術を組み合わせた新たなサービスが生まれるかが注目される。

もちろん、こうした新規事業には事業化までの時間や競争激化などのリスクもある。Web3やAI、Age Techはいずれも成長期待の大きい分野である一方、技術を実際の収益につなげることが重要になる。フリービットが持つ技術力を、どこまで多くの企業や利用者に普及させられるかが、今後の企業価値を左右するポイントになるだろう。

フリービットは、格安スマホ市場からスタートした企業というより、通信技術を起点として新たなサービスを生み出してきた企業と見る方が適切である。トーンモバイルを通じてシニアや子どもを含む利用者の安心・安全を追求し、そこからTONE-IN SDK、Age Tech、AI、Web3へと技術の用途を広げている。低価格通信が当たり前になった現在、単なる「格安スマホ銘柄」としてではなく、「通信から新しいデジタルサービスを生み出す企業」として見ることで、フリービットの現在地がより明確になる。今後、通信で培った技術をどこまで社会のさまざまな場面へ広げられるか。その挑戦が、同社の次なる成長を占うカギとなりそうだ。

まとめ:「格安」だけでは生き残れない――通信各社に求められる新たな価値

格安スマホ市場は、単なる通信料金の値下げ競争から、新たな段階へと移行している。MVNOは大手通信会社の回線を活用することで低コストの通信サービスを実現し、市場に価格競争をもたらした。その結果、通信料金を抑えながらスマートフォンを利用するという考え方が広く浸透し、大手通信会社自身も低価格ブランドを展開するようになった。

今後は、どれだけ安いかだけではなく、どのような価値を提供できるかが各社の成長を左右しそうだ。IIJのように通信・クラウド・セキュリティーまで幅広く展開する企業、日本通信のようにMVNOの技術を法人通信やデジタルIDへ広げる企業、フリービットのようにスマートフォンの安心・安全を軸としてAge TechやAI、Web3へ挑戦する企業など、その方向性は多様である。

スマートフォンの普及が進んだ現在、通信は「あれば便利なサービス」ではなく、日常生活や企業活動を支える社会インフラとなった。5GやIoT、AIなどの普及によって通信需要がさらに広がれば、通信サービスを支える企業の役割も一段と重要になるだろう。格安スマホを起点に成長してきた企業が、価格競争を乗り越えてどのような付加価値を生み出すのか。IIJ、日本通信、フリービットをはじめとする関連企業の事業展開は、変化する通信市場の方向性を映す鏡としても注目される。今後の格安スマホ市場では、「安いから選ばれる」から「価値があるから選ばれる」への転換が、さらなる成長のカギとなりそうだ。

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