大手企業のボーナス撤廃・給与化はなぜ進む?理由と個人の資産形成術

大手企業のボーナス撤廃・給与化はなぜ進む?理由と個人の資産形成術

日本の雇用慣行において長年の「常識」であったボーナス制度に、いま大きな構造変化が起きています。

ソニーグループが冬季賞与を廃止し毎月の基本給へ組み込む「賞与の給与化」を発表したことを皮切りに、大和ハウス工業やバンダイなど、日本を代表する大手企業が相次いでボーナス制度の見直しや固定給重視への切り替えへ舵を切り始めました。

なぜ大手企業はボーナスを撤廃し始めているのか。その背景から具体的な先進事例、企業・従業員双方のメリット・デメリット、個人が直面する注意点、そして毎月の固定給増を資産形成に活かす金融リテラシーまで、初心者にもわかりやすく体系的に整理した完全ガイドです。

監修者:市川雄一郎 監修者:市川雄一郎 
GFS校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)

公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長

1. 日本型ボーナス(賞与)文化の歴史と独自性

まず理解しておきたいのは、「夏と冬にまとまったボーナスが全員に支給される」という仕組み自体が、世界的に見ると非常にユニークな日本特有の雇用習慣であるという点です。

江戸時代の習慣「仕着せ」に由来する日本型ボーナス

日本のボーナス文化のルーツは、江戸時代の商家で行われていた「仕着せ(しきせ)」と呼ばれる習慣に遡ります。商家で働く奉公人に対して、お盆や年末に「生活費の足しや慰労」として着物や現金を買い与えたのが始まりです。

戦後の高度経済成長期を経て、この習慣は「基本給を低めに設定し、企業の業績が良い時にまとめて還元する」という日本型雇用(終身雇用・年功序列)の調整弁として定着していきました。日本のボーナスは事実上、「給与の後払い」としての性質を強く持っていたのです。

海外における「Bonus」との決定的な違い

欧米やアジア諸国にも「Bonus」という言葉は存在しますが、日本の制度とは大きく異なります。

  • 欧米諸国: 主に経営層や営業職など、特定個人や事業部の業績目標達成に対して支払われる「成果報酬(インセンティブ)」です。全社員に毎年支給されるものではなく、成果が出なければゼロ(支給なし)が当たり前です。

  • アジア諸国: 中華圏の「13ヶ月目の給与(13th-month pay)」など旧正月前に支給される定額手当は存在しますが、基本給に上乗せされる固定手当としての性格が強く、日本の「業績連動で大きく上下する年2回の大手一括ボーナス」とは性格が異なります。

2. なぜ大手企業は今「ボーナス撤廃・給与化」へ動くのか

長年続いてきた「日本型ボーナス」の構造が、現代のグローバルビジネスや人材市場の波に対応しきれなくなっています。

① グローバル人材獲得競争の激化

外資系企業や海外のIT企業は「基本給(年俸)重視」の明確な提示を行います。日本の従来型モデルでは「基本給25万円+賞与年2回(計6ヶ月分)」のように年間で調整するため、求人票に載る毎月の提示額(月給)が見劣りしてしまい、海外の優秀なエンジニアや若手優秀層を獲得する場面で大きなハンデとなっていました。

② ジョブ型雇用(職務等級制度)へのシフト

年齢や勤続年数ではなく「担っている職務(ジョブ)の価値と成果」に対して報酬を支払う人事制度への刷新が進んでいます。職務の価値に対して適正な月給を支払う評価体系において、業績変動に左右される一括ボーナスは整合性が取りにくくなってきたのです。

③ インフレと若手世代の「月給重視」への価値観変化

物価高が進む近年、生活費の基盤となるのは「いつ出るかわからないボーナス」ではなく「毎月確実に振り込まれる基本給」です。特にZ世代を中心とする若手求職者は、生活の見通しが立てやすい高月給の企業を強く好む傾向にあります。

3. 日本企業における先進事例とそこから生まれた効果

すでにボーナスの撤廃や縮小を行い、毎月の給与(基本給)へ組み込んだ企業では、顕著な成果や変化が現れています。

主な先進事例

企業名取り組み内容主な結果・効果
ソニーグループ冬季賞与を完全廃止し、その原資を「毎月の基本給」および「夏季賞与」に配分する「賞与の給与化」を実施。月給が最大14%上昇。2025年4月新卒初任給を大幅アップ(月額約3.8万〜4.8万円増)し、優秀層の獲得を強化。
大和ハウス工業賞与の一部を基本給へ段階的に組み入れ、月給のベース自体を引き上げ。大卒初任給が25万円から35万円へと40%急上昇。建設・不動産業界内で屈指の採用提示条件を実現。
バンダイ業績連動賞与の比率を下げ、毎月安定して受け取れる固定給の割合を大幅増額。初任給を22万4000円から約30万円へ引き上げ。エンタメ業界内での人材引き抜きを防ぎ、定着率が向上。
メルカリ(新興IT)創業期よりボーナス制度を持たず、高水準の「完全年俸制(12分割月払い)」を採用。外資系ITと同等の報酬提示が可能になり、世界中からトップクラスのエンジニアを採用することに成功。

制度変革がもたらした3つの具体的効果

  1. 採用市場における無類の強さ:求人票の「提示月給」が跳ね上がるため、優秀な新卒・中途人材が殺到するようになりました。

  2. 従業員の生活安定とエンゲージメント向上:毎月入るお金が一定で高額になるため、計画的な生活設計が可能となり、離職防止に大きく寄与しています。

  3. 残業代単価の上昇と効率化:残業手当の計算基礎である「基本給」が上がるため、1時間あたりの残業代単価が高くなりました。結果として「無駄な残業を減らそう」という意識が組織全体に働き、労働時間の適正化と時間あたりの生産性向上につながっています。

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4. 企業側・従業員側のメリットとデメリット

ボーナスを撤廃して毎月の給与へ一本化する試みは、双方にとって光と影の両面が存在します。

企業側の視点

  • メリット:初任給や月給の提示額が高くなり採用競争力が激増する。年間人件費の予測が容易になり長期的な経営計画が立てやすい。

  • デメリット:急激な業績悪化に見舞われた場合でも、一度上げた「固定給(基本給)」は簡単に下げられないため、人件費の固定化リスクを抱える。

従業員側の視点

  • メリット:手取りの月給が大幅に増える。毎月のキャッシュフローが安定し、ライフプランが立てやすくなる。残業代の計算基礎(単価)が上がる。

  • デメリット:空前の好業績を記録した年に、旧来のボーナスで得られたような「一獲千金的な還元」が得にくくなる。

5. 「ボーナスなし社会」で個人が注意すべき罠

年収ベースで同額が支給されていても、支給パターンが「年2回の分散」から「12ヶ月均等」に変わることで、心理的・行動的なリスクが生じます。

  1. 「住宅ローンのボーナス払い」残高不足リスク

    住宅ローンや自動車ローンで「ボーナス払い」を設定している場合、ボーナスそのものが支給されなくなると口座振替で残高不足に陥ります。増えた毎月の給与から事前に返済口座へ資金を移動・確保する仕組み直しが必須です。

  2. 「勝手に貯まっていた」構造の喪失

    旧来の日本型生活では「月給で生活し、ボーナスは手をつ込まずに貯金」という半自動的な貯蓄パターンが機能していました。月給が増えると人間は気が大きくなり、生活水準(生活費)をそのまま上げて使い切ってしまう「パーキンソンの法則」に陥りやすくなります。

  3. 評価格差(差がつく月給)への対応

    「ボーナス撤廃=全員が守られる固定給」ではありません。ジョブ型評価とセットで導入されるケースが多いため、個人の成果や能力に応じて毎月の基本給自体に大きな格差がつくようになります。

6. この構造変化を個人が「資産形成」に活かす戦略

「ボーナスが廃止され毎月の給与が増える」という構造変化は、賢く資産運用を行いたい個人にとって最大の追い風となります。しっかり理解して資産形成に繋げましょう。

毎月定額積み立て(ドル・コスト平均法)との相性が抜群

年に2回、大きな金額を投資に回す手法は、市場のタイミング(高いか安いか)に左右されやすくなります。一方、毎月の給与が増えることで、無理なく「毎月定額の積立投資」の金額を増やすことが可能です。価格が高い時は少なく、安い時は多く買い付ける「ドル・コスト平均法」が自然に実践でき、長期的には購入単価を抑えてリスクを低減できます。

「自動先取り投資」の仕組み化

増えた月給を生活費に消してしまう前に、給料日翌日に一定額を自動で新NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)の積立口座へ引き落とす「仕組み」を作ります。意志の力に頼らず、自動的かつ着実に資産が増えていく体制を構築できます。

正確な「生活防衛資金」の算出

収入が毎月一定になることで、自分の生活コストが明確になり、「半年分〜1年分の生活費(生活防衛資金)」をいくら手元に現金として置いておくべきかの計算精度が飛躍的に向上します。

これから始める人の具体的なステップ解説!

ボーナスが月給へ組み込まれ、手取り月給が毎月5万円増えたケースは、まさに新NISAを使った「積立投資(ドル・コスト平均法)」を始めるのに理想的な機会です。

毎月5万円を新NISA(つみたて投資枠)で運用した場合の20年後のシミュレーションと、失敗しない実践手順を解説します。

1. 20年後の資産シミュレーション(毎月5万円の積立)

毎月5万円を20年間投資し続けた場合、投資した元本は累計1,200万円になります。

想定される年利(複利運用)別の20年後の運用結果は以下の通りです。

想定年利(利回り)投資元本運用益(増えた分)20年後の資産合計
3%(堅実な運用)1,200万円約441万円約1,641万円
5%(標準的な運用)1,200万円約1,055万円約2,255万円
7%(好調な運用)1,200万円約1,905万円約3,105万円
  • ※全世界株式(オール・カントリー)や全米株式(S&P500)などの代表的なインデックスファンドの過去数十年間の平均リターンは、年率5〜7%程度に収束することが多いとされています。

非課税メリットの大きさ

通常、投資で得た利益には約20.315%の税金がかかります。

仮に利回り5%で1,055万円の利益が出た場合、通常であれば約214万円が税金として引かれますが、新NISAを活用すればこの214万円を非課税(まるまる手元に残る)で受け取ることができます。

2. 新NISAを活用した実践手順(4ステップ)

毎月の手取りが増えたタイミングで、確実に仕組み化するための手順です。

【Step 1】生活防衛資金(現金)の確保状況を確認
   ↓
【Step 2】ネット証券口座の開設(SBI証券 または 楽天証券)
   ↓
【Step 3】優良なインデックスファンドを1つ選定
   ↓
【Step 4】クレカ積立を設定して「自動化」を完了させる

 

Step 1:生活防衛資金の確認

増えた5万円をすべて投資に回す前に、手元に「生活防衛資金(手取り月給の3〜6ヶ月分の現金)」があるか確認します。急な病気や出費に備える現金が既にあれば、増えた5万円は全額投資に回して問題ありません。

Step 2:手数料の安い「ネット証券」で口座開設

対面型の銀行や証券会社窓口ではなく、手数料が最安水準のネット証券で新NISA口座を開設します。

  • SBI証券(三井住友カード等での積立でポイント還元)

  • 楽天証券(楽天カードや楽天キャッシュでポイント還元、見やすいUI)

Step 3:低コストな「インデックスファンド」を選択

新NISAの「つみたて投資枠」で、信託報酬(管理費用)が業界最安クラスの低コストファンドを選びます。初心者には以下のいずれか1本で十分です。

  • eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー):世界中の約3,000企業に分散投資する王道銘柄。

  • eMAXIS Slim 米国株式(S&P500):米国の主要500社に投資する成長重視の銘柄。

Step 4:クレカ積立等で「給与引き落としの自動化」

証券口座内で「毎月5万円」の積立購入設定を行います。

クレジットカード決済(クレカ積立)を選択しておけば、指定日に自動で買い付けが行われ、ポイント還元も得られます。「給料が入ったら勝手に投資に回る」仕組みを作ることで、意思の力を使わずに資産形成を継続できます。

3. 注意点と継続のポイント

  1. 暴落が来ても売却しない(放置する)

    20年の運用期間中には、必ず1〜2回は株価が大きく下落するショック相場(暴落)が訪れます。しかし、途中で売却(損切り)してしまうと複利効果が絶たれます。暴落時こそ「安くたくさん買えるチャンス」と捉え、毎月自動で買い続けることが最も重要です。

  2. 生活水準を無意味に上げない

    ボーナスが給与化されて毎月の手取りが増えると、普段の外食や買い物の基準(生活水準)がいつの間にか上がってしまいがちです。「増えた分は最初からなかったもの」として全額投資口座へ回すのが、長期的に最も大きな資産を作るコツです。

 

7. なぜ今「金融リテラシー(マネー知識)」が必要不可欠なのか

企業がボーナス制度を見直し、固定給重視や成果主義へ舵を切っている一連の動きが示している本質的なメッセージは、「会社が社員の老後や人生を最後まで手厚く面倒を見る時代は終わった」という現実です。

① インフレ(物価上昇)から資産を守るため

銀行の普通預金に現金を預けておくだけでは、物価の上昇(インフレ)によってお金の「買える力(実質価値)」は目減りしていきます。リスクを管理しながら、インフレ率を上回るリターンが期待できるアセット(株式や投資信託など)へ資産の一部を配分する知識が必須です。

② 「人的資本」と「金融資本」のダブルエンジンを作る

個人の収入源には2つの軸があります。

  • 人的資本:自分自身が働いて得る給与収入(月給)。

  • 金融資本:貯めた資産が働いて生み出す配当や運用益。

会社からの給与(人的資本)だけに頼る生活は、病気や会社の業績不振などのリスクに弱くなります。毎月増えた固定給の一部を「金融資本」へ継続的に振り分け、お金にも働いてもらう仕組みを整えることこそが、変化の激しい現代において真の「生活の安定」をもたらします。

ボーナスの撤廃や給与化は、決して恐怖すべき変化ではありません。制度の仕組みと背景を正しく理解し、家計の管理方法を時代に合わせてアップデートすることで、誰でもより堅固な財務基盤を築くことができます。

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