ストリーミング時代の勝者を探せ!CD消滅で勝ったのは誰だ?

CD販売が主流だった時代から、スマートフォンで好きな音楽をいつでも楽しめるストリーミング時代へ――。音楽産業はこの20年で大きな変革を遂げた。その中心には、音楽配信サービスの発展と、それを支える巨大企業の存在がある。アップルはApple Musicを通じて自社エコシステムを強化し、アマゾンはPrime会員やAlexaとの連携で独自の市場を築いている。一方、ソニーグループは世界有数の音楽コンテンツ保有企業として配信時代の恩恵を受け、中国ではテンセント・ミュージック・エンターテインメント・グループが巨大ユーザー基盤を武器に独自の音楽プラットフォームを展開している。世界の音楽配信市場をけん引する4社の戦略と、それぞれが描く音楽ビジネスの未来について探る。

Apple Musicが変えた音楽産業のルール――アップルと音楽配信の現在地

音楽を聴く手段は、この20年で劇的に変化した。かつてはCDを購入し、好きなアーティストのアルバムを手元に所有することが当たり前であった。しかし現在、多くの人々は月額料金を支払い、スマートフォン一台で数千万曲にアクセスしている。その変化の中心にいた企業の一つが、世界的テクノロジー企業である Apple である。

アップルと音楽の関係は、実は音楽配信サービス「Apple Music」から始まったわけではない。2001年に登場した携帯音楽プレーヤー「iPod」がその出発点である。当時、インターネット上では違法な音楽共有サービスが広がり、レコード会社は売上減少に苦しんでいた。消費者はデジタル音楽を求めていたが、合法的で使いやすいサービスは存在しなかった。

その状況を変えたのが2003年に開始された「iTunes Store」である。アップルは楽曲を1曲単位で販売するモデルを確立し、ユーザーは必要な曲だけを購入できるようになった。それまでアルバム単位の販売が中心だった音楽業界にとって、この仕組みは革命的であった。音楽会社は新たな収益源を得ることができ、消費者も手軽にデジタル音楽を楽しめるようになった。

iTunes Storeの成功は、アップルを単なるパソコンメーカーからデジタルコンテンツ企業へと変貌させた。iPodとiTunesの組み合わせは世界中で大ヒットし、アップルは音楽業界において極めて大きな影響力を持つようになったのである。

しかし、その後さらに大きな変化が訪れる。音楽を「購入する時代」から「定額で利用する時代」への移行である。

この流れを加速させたのが、スウェーデン発の音楽配信サービス Spotify であった。ユーザーは毎月定額料金を支払うことで、膨大な楽曲ライブラリーを自由に楽しめるようになった。所有から利用へという価値観の変化は急速に広がり、音楽業界全体のビジネスモデルを塗り替えていった。

アップルもこの潮流を見逃さなかった。2015年にApple Musicを開始し、本格的にサブスクリプション型音楽配信市場へ参入したのである。

Apple Musicの最大の強みは、アップル製品との高い親和性にある。iPhone、iPad、Mac、Apple Watch、AirPodsなどの製品群とシームレスに連携し、ユーザーは特別な設定を行うことなく音楽を楽しめる。アップルが長年構築してきたエコシステムは、Apple Musicの利用拡大に大きく貢献した。

また、Apple Musicは高音質戦略にも力を入れている。ロスレスオーディオや空間オーディオへの対応によって、より臨場感のある音楽体験を提供している。近年はイヤホンやヘッドホンの性能向上も進み、音質へのこだわりを持つユーザーの支持を集めている。

音楽配信市場においてアップルが目指しているのは、単なる楽曲提供ではない。音楽を中心とした総合的なエンターテインメント体験の構築である。

例えばApple Musicでは、独自のラジオ番組やアーティストインタビュー、プレイリストのキュレーションなども展開している。アルゴリズムによる推薦機能だけでなく、人間の編集者による選曲も重視しており、ユーザーが新しい音楽と出会う機会を提供している。

さらに、アップルはサービス事業を成長戦略の柱として位置付けている。スマートフォン市場が成熟化する中で、ハードウェア販売だけに依存するビジネスモデルには限界がある。そのためApple Musicやクラウドサービス、動画配信、決済サービスなどを含むサービス部門の収益拡大が重要なテーマとなっている。

実際、アップルのサービス部門は近年急速に成長しており、同社の利益を支える重要な収益源となっている。Apple Musicはその中核を担う存在であり、利用者が増えるほど安定したサブスクリプション収入を生み出す構造を持つ。

一方で、音楽配信市場の競争は激しさを増している。Spotifyに加え、Amazon Music や YouTube Music など有力サービスが存在する。それぞれが価格や音質、独自コンテンツ、AIによる推薦機能などで差別化を図っている。

近年は生成AIの活用も新たな競争軸になりつつある。利用者の好みをより正確に分析し、最適な楽曲を提案する機能の高度化が進んでいる。音楽体験そのものがAIによってパーソナライズされる時代が到来しようとしているのである。

また、アーティスト側から見ると、音楽配信は世界中のリスナーへ作品を届ける手段となった。従来は大手レコード会社の支援がなければ世界進出は難しかったが、現在では個人アーティストでも配信サービスを通じてグローバルなファンを獲得できる。アップルをはじめとする音楽配信プラットフォームは、音楽産業の民主化にも大きく貢献している。

アップルはiPodによってデジタル音楽時代を切り開き、iTunes Storeによって音楽販売の仕組みを変え、Apple Musicによってサブスクリプション時代に対応した。振り返れば、同社は音楽業界の変化のたびに重要な役割を果たしてきたのである。

今後も音楽配信市場は成長を続けるとみられる。AI、空間オーディオ、ウェアラブル端末など新たな技術との融合が進めば、音楽体験はさらに進化するだろう。その中心にアップルが居続けるのか、それとも新たなプレーヤーが主役となるのかはまだ分からない。しかし確かなことは、アップルがこれまで音楽産業の歴史を大きく動かしてきた企業であり、今後もその動向が世界の音楽市場を左右する存在であり続けるということである。

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Amazon Musicが挑む音楽配信戦争――アマゾン・ドット・コムとサブスク時代の戦略

音楽を聴く方法は、CDやダウンロード販売の時代からストリーミング配信の時代へと大きく変化した。現在では月額料金を支払い、数千万曲以上の楽曲を自由に楽しむことが当たり前となっている。この巨大市場で存在感を高めている企業の一つが、世界最大級のEC企業である Amazon.com, Inc. である。

アマゾンといえば、多くの人はインターネット通販やクラウドサービスを思い浮かべるだろう。しかし同社は長年にわたりデジタルコンテンツ事業を強化してきた企業でもある。電子書籍のKindle、動画配信のPrime Video、ゲーム配信のTwitchなどを展開し、消費者が日常的に利用するコンテンツプラットフォームを数多く保有している。そして音楽分野において、その中心となるサービスがAmazon Musicである。

アマゾンの音楽事業は、かつての音楽ダウンロード販売から始まった。2007年にはAmazon MP3を開始し、楽曲をデジタル販売する事業に参入した。当時の市場ではアップルのiTunes Storeが圧倒的な存在感を持っていたが、アマゾンはDRM(デジタル著作権管理)を制限した使いやすい音楽販売サービスを提供することで差別化を図った。

しかし、その後の市場は大きく変化した。消費者のニーズは「音楽を所有すること」から「音楽を利用すること」へ移行し、定額制ストリーミングサービスが急速に普及したのである。スウェーデン発のSpotifyが市場を開拓し、アップルもApple Musicで追随する中、アマゾンも本格的なストリーミングサービスへと舵を切った。

Amazon Musicの特徴は、アマゾンが持つ巨大な顧客基盤との連携にある。同社の有料会員制度であるPrime会員は世界中で数億人規模に達しており、そのエコシステムの中に音楽配信を組み込むことで利用者拡大を図っている。Prime会員向けの音楽サービスは追加料金なしで利用できるため、ユーザーは気軽に音楽配信を体験できるのである。

さらに、より多くの楽曲や機能を利用できる上位サービスとしてAmazon Music Unlimitedも提供している。これによりアマゾンは、ライトユーザーから音楽愛好家まで幅広い層を取り込む戦略を採用している。

音楽配信市場においてアマゾンが他社と大きく異なる点は、スマートスピーカー事業との連携である。同社はAI音声アシスタント「Alexa」を搭載したEchoシリーズを世界的に展開している。

利用者は「アレクサ、最新のヒット曲をかけて」と話しかけるだけで音楽を再生できる。スマートフォンを操作する必要がなく、音声だけで音楽を楽しめる環境を実現したのである。

この音声操作と音楽配信の組み合わせは、アマゾンにとって極めて重要な戦略である。なぜなら音楽はスマートスピーカーの利用頻度を高める代表的なコンテンツだからである。ユーザーが毎日のように音楽を再生すれば、Alexaとの接触機会も増え、アマゾンのサービス利用全体の拡大につながる。

また、アマゾンは音質面にも力を入れている。近年はHD音質やUltra HD音質に対応し、高音質音楽配信市場にも積極的に参入している。従来、高音質配信は一部の専門サービスが中心であったが、アマゾンは大規模なユーザー基盤を活用して普及を進めている。

音楽配信市場では、単に楽曲数を競う時代は終わりつつある。現在はユーザー体験全体の質が競争力を左右するようになっている。AIによる楽曲推薦機能、プレイリスト作成、音声検索、デバイス連携などが重要な差別化要素となっている。

この点においてアマゾンは大きな強みを持つ。同社は世界トップクラスのクラウドサービスである Amazon Web Services (AWS) を運営しており、膨大なデータ分析能力を保有している。利用者の再生履歴や好みを分析し、一人ひとりに最適化された音楽体験を提供できる環境を整えているのである。

さらに、生成AIの進化は音楽配信市場にも新たな可能性をもたらしている。将来的には利用者の気分や状況に応じてAIがプレイリストを自動生成したり、音声による自然な対話で楽曲を探したりする機能が一般化する可能性がある。こうした分野ではAI技術を得意とするアマゾンが優位性を発揮する余地が大きい。

アマゾンの音楽事業を考える上で重要なのは、同社が音楽配信単独で利益を追求しているわけではないという点である。音楽はEC、クラウド、AI、スマートホーム、動画配信などを含む巨大エコシステムの一部として位置付けられている。

例えば利用者がEchoを購入し、Amazon Musicを利用し、Prime会員を継続し、さらにECサイトで買い物をする。この一連の流れ全体がアマゾンの収益拡大につながるのである。音楽サービスは単独事業というよりも、顧客を囲い込むための重要な接点として機能している。

一方で競争環境は決して容易ではない。Spotifyはストリーミング専業企業として高いブランド力を持ち、Apple MusicはiPhoneユーザーとの強固な結び付きがある。さらにYouTube Musicは動画との連携という独自の強みを持つ。

その中でアマゾンが勝負できる最大の武器は、自社サービス群を横断する総合力である。EC、クラウド、AI、スマートホーム、サブスクリプション会員制度を一体化したビジネスモデルは他社には真似しにくい。

音楽配信市場は今後も拡大が続くとみられている。スマートスピーカーの進化、生成AIの活用、高音質配信の普及などにより、音楽体験はさらに高度化していくだろう。その中でアマゾンは単なる音楽配信企業ではなく、生活インフラ企業として音楽を提供する独自の立場を築いている。通販会社としてスタートしたアマゾンであるが、現在では人々の暮らしのあらゆる場面に入り込みつつある。そして音楽配信は、その巨大なエコシステムを支える重要なピースの一つとなっているのである。

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音楽を持つテクノロジー企業――ソニーグループと音楽配信時代の競争力

音楽配信サービスが世界の音楽産業の中心となった現在、多くの人々はSpotifyやApple Music、Amazon Musicなどのサービスを通じて音楽を楽しんでいる。CD販売が主流だった時代から見ると、音楽ビジネスの構造は大きく変化した。しかし、その変化の中でも存在感を維持し続けている企業がある。それが日本を代表するエンターテインメント企業である Sony Group Corporation である。

ソニーと音楽の関係は極めて深い。現在の若い世代にとってソニーはゲーム機「PlayStation」のメーカーという印象が強いかもしれないが、同社は長年にわたり音楽産業の発展を支えてきた企業でもある。

その象徴が1979年に発売された携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」である。ウォークマンは音楽を持ち歩くという新しいライフスタイルを世界に広めた。人々は自宅だけでなく通勤や通学、旅行先でも好きな音楽を楽しめるようになったのである。後にアップルのiPodが登場するが、その原点を築いたのはソニーであった。

さらにソニーはハードウェアメーカーであるだけでなく、世界有数の音楽コンテンツ企業でもある。傘下の Sony Music Entertainment は、世界三大レコード会社の一角を占めており、多数の有力アーティストを抱えている。

音楽配信市場が拡大する中で、この「コンテンツを持つ」という強みはますます重要になっている。

現在の音楽配信市場では、SpotifyやApple Musicといったサービス事業者がユーザーとの接点を握っている。しかし彼らが提供する楽曲の多くはレコード会社からライセンス供給を受けたものである。つまり音楽配信サービスがどれだけ成長しても、その利益の一部は楽曲権利者へ還元される構造になっている。

ソニーはその権利者側に位置している。

例えば世界中でヒット曲が再生されれば、そのストリーミング収益の一部はソニーの音楽事業へ流入する。Spotifyの会員数が増えても、Apple Musicの利用者が拡大しても、音楽市場全体が成長する限りソニーは恩恵を受けるのである。

これは他のテクノロジー企業にはない独特の立場といえる。

音楽配信時代において重要なのは、単に楽曲を販売することではなく、著作権や音楽出版権を保有することである。ソニーはレコード事業だけでなく音楽出版事業でも世界トップクラスの規模を誇る。

音楽出版とは楽曲そのものの権利を管理する事業であり、ストリーミング再生、映画使用、CM利用、ライブ演奏など幅広い場面で収益が発生する。

近年では楽曲カタログの価値が急上昇している。配信サービスの普及により、過去の名曲も継続的に再生されるようになったからである。かつてはCD販売が終了すると収益が減少するケースが多かったが、現在では数十年前の楽曲でも安定的な収益を生み出している。

ソニーは著名アーティストの楽曲権利を数多く保有しており、この資産価値の上昇は同社にとって大きな追い風となっている。

また、ソニーは音楽と他事業を組み合わせることにも長けている。

例えば映画部門である Sony Pictures Entertainment やゲーム事業の PlayStation と音楽事業は相互に連携可能である。映画の主題歌やゲーム音楽、アニメソングなどは世界的なヒットを生み出す可能性がある。

近年は日本のアニメ市場が世界的に拡大しているが、その中でアニメ関連楽曲の存在感も高まっている。ソニーはアニメ制作、音楽制作、配信までをグループ内で展開できる数少ない企業の一つである。

この垂直統合型のビジネスモデルは、音楽配信時代において大きな競争優位性を持つ。

さらにソニーは近年、アーティスト支援にも積極的である。SNSや動画配信サービスの普及によって、音楽のヒットが生まれる仕組みは大きく変化した。TikTokやYouTubeをきっかけに世界的ヒットが誕生するケースも珍しくない。

そのためレコード会社には、単なるCD販売ではなく、デジタルマーケティングやグローバル展開の支援能力が求められるようになった。

ソニーは世界中にネットワークを持ち、アーティストの国際展開を支援できる体制を構築している。日本発のアーティストを海外市場へ送り出し、逆に海外アーティストを日本市場へ展開する役割も担っている。

一方で、音楽配信市場の競争環境は変化を続けている。生成AIの登場によって、音楽制作そのものが変革期を迎えているからである。

AIが楽曲を作曲し、ボーカルを生成し、編曲まで行う技術は急速に進歩している。今後は著作権や権利処理を巡る新たな議論も避けられないだろう。

そのような環境下で重要になるのは、やはり高品質なオリジナルコンテンツの価値である。技術が進歩しても、人々を感動させるアーティストや楽曲の価値は簡単には失われない。

ソニーはテクノロジー企業でありながら、同時にコンテンツ企業でもある。ハードウェア、映画、ゲーム、アニメ、音楽を横断的に展開できる企業は世界でも限られている。

ウォークマンで音楽を持ち歩く時代を切り開き、レコード会社として数多くのヒット曲を世に送り出し、そして現在は音楽配信時代の権利ビジネスの中心に立つ。ソニーは単に音楽を再生する機器を作る企業ではなく、音楽そのものを生み出し、育て、世界へ届ける企業なのである。

音楽配信が当たり前になった今だからこそ、コンテンツを保有する企業の価値は高まっている。世界中の人々が毎日再生する一曲一曲の背後には権利ビジネスが存在する。そしてその恩恵を最も受ける企業の一つがソニーグループなのである。音楽配信市場の成長が続く限り、ソニーはテクノロジーとコンテンツを両輪とする独自の強みを発揮し続けるだろう。

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中国14億人市場を握る音楽プラットフォーム――テンセント・ミュージック・エンターテインメントと音楽配信の未来

世界の音楽産業は、この20年で大きな変貌を遂げた。CD販売が主役だった時代は終わり、現在ではSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスが市場の中心となっている。しかし、世界の音楽配信市場を語る際に見落とされがちな巨大プレーヤーが存在する。それが中国最大級の音楽配信企業である Tencent Music Entertainment Group である。

日本ではSpotifyやApple Musicの知名度が高いが、中国市場は独自の進化を遂げてきた。人口14億人を抱える中国は世界最大級のインターネット市場であり、その音楽配信市場もまた巨大な規模を持つ。テンセント・ミュージック・エンターテインメント(以下TME)は、その中心に位置する企業である。

TMEは中国IT大手である Tencent Holdings Limited 傘下の音楽事業会社として成長してきた。同社は単一の音楽アプリを運営しているわけではない。QQ Music、Kugou Music、Kuwo Musicといった中国国内の主要音楽プラットフォームを展開し、圧倒的なユーザー基盤を築いている。

世界的に見るとSpotifyが音楽配信企業の代表格として知られているが、利用者規模ではTMEも世界トップクラスに位置する。中国市場の巨大さを考えれば、それは決して不思議なことではない。

しかし、TMEの特徴は単に利用者数が多いことだけではない。同社は音楽配信サービスの収益モデルそのものを独自に発展させてきた。

欧米の音楽配信サービスは主に月額課金によるサブスクリプション収益に依存している。一方、中国市場では長らく「無料利用」が一般的であった。そのためTMEは広告収入だけでなく、ライブ配信や投げ銭、デジタルギフトなどを組み合わせた収益モデルを構築してきたのである。

特に注目されるのがオンライン音楽ライブである。

ユーザーはアーティストや配信者のライブ配信を視聴し、気に入ったパフォーマンスに対してデジタルギフトを贈ることができる。この仕組みは動画配信サービスやライブ配信アプリで一般化しているが、TMEは音楽分野において早くから導入してきた。

その結果、同社は単なる音楽再生サービスではなく、音楽コミュニティプラットフォームとして成長したのである。

これはSpotifyやApple Musicとは大きく異なる戦略である。

Spotifyは楽曲を聴くサービスであり、Apple Musicも基本的には音楽消費が中心である。一方、TMEは音楽を聴くだけでなく、交流し、応援し、参加する場を提供している。

この違いは中国のデジタル文化とも関係している。中国ではライブ配信文化が非常に発達しており、視聴者が配信者へ直接支援を行う仕組みが広く浸透している。TMEはその文化を音楽市場へ取り込み、新たな収益源を生み出したのである。

また、TMEは中国市場における音楽著作権ビジネスの拡大にも大きな役割を果たしてきた。

かつて中国では違法ダウンロードや海賊版コンテンツが深刻な問題となっていた。しかし政府による規制強化や音楽業界の整備が進み、現在では正規の音楽配信サービスが急速に普及している。

その過程でTMEは海外レコード会社とのライセンス契約を積極的に進め、中国の利用者へ世界中の楽曲を提供できる体制を構築した。

世界三大レコード会社である Universal Music Group、Sony Music Entertainment、Warner Music Group との関係強化も進め、中国市場の成長を支える重要な基盤となっている。

近年は音楽配信市場そのものが成熟段階に入りつつあるが、TMEには依然として成長余地が存在する。

その一つが有料会員比率の向上である。中国では従来無料利用が主流だったが、近年はサブスクリプションサービスへの抵抗感が薄れつつある。動画配信やゲーム課金が一般化したことで、音楽にもお金を払う文化が定着し始めているのである。

さらにAI技術の活用も注目される分野である。

テンセントは中国を代表するAI企業の一つであり、グループ全体で人工知能への投資を拡大している。音楽配信サービスにおいても、ユーザーの好みに合わせた楽曲推薦やプレイリスト作成機能の高度化が進んでいる。

将来的にはAIによる楽曲制作支援やバーチャルアーティストの活用など、新たな音楽体験が生まれる可能性もある。

また、中国発の音楽コンテンツが世界市場へ進出する動きも活発化している。

これまで音楽市場は欧米や日本のアーティストが主導してきたが、中国のポップミュージックやネット発アーティストの存在感は徐々に高まっている。TMEはその流れを支えるプラットフォームとして重要な役割を果たしている。

投資家の視点で見ると、TMEは単なる音楽配信企業ではない。中国のデジタルエンターテインメント市場全体の成長を映し出す存在である。音楽、ライブ配信、SNS、AI、デジタル課金といった複数の成長分野が交差する場所に位置しているからである。

世界の音楽配信市場ではSpotifyやApple Musicが注目を集めることが多い。しかし人口規模、デジタル消費、ライブ配信文化を考慮すれば、中国市場の影響力は今後さらに大きくなる可能性が高い。

その中心にいるのがテンセント・ミュージック・エンターテインメントである。同社は音楽を「聴くもの」から「参加するもの」へと進化させ、中国独自の音楽配信モデルを築き上げてきた。世界の音楽産業が次の成長ステージへ進む中で、TMEは中国市場だけでなくグローバル市場においても無視できない存在となっていくであろう。

まとめ

音楽配信市場の拡大は、単に音楽の聴き方を変えただけでなく、企業の収益構造や競争のあり方まで変化させた。アップルはハードウェアとサービスを融合し、アマゾンはECやAIを活用した巨大エコシステムを構築している。ソニーグループは楽曲や著作権というコンテンツ資産を武器に存在感を高め、テンセント・ミュージック・エンターテインメント・グループは中国市場ならではのライブ配信やコミュニティ機能で成長を続けている。音楽配信は今や単なる娯楽サービスではなく、テクノロジー、コンテンツ、AI、そしてグローバル市場が交差する成長産業である。今後も各社の競争と革新が続く中で、音楽産業はさらに新たな進化を遂げていくことになるだろう。

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