
テレビ局は「視聴率」から「コンテンツ価値」の時代へ
日本のテレビ業界は、いま大きな転換期を迎えている。かつては地上波の視聴率がテレビ局の競争力を測る最大の指標だったが、動画配信サービスやSNSの普及によって、視聴者のメディア接触は大きく変化した。放送時間にテレビを見るだけでなく、TVerで見逃し配信を楽しみ、SNSで番組の話題を追い、映画やアニメ、イベントなどを通じてコンテンツに接する時代である。一方で、2026年の視聴ランキングではワールドカップの日本代表戦など大型スポーツ中継が上位を占め、テレビが持つ「同じ瞬間を大勢で共有するメディア」としての強さも改めて示された。本稿では、上場するテレビ関連企業を軸に、日本テレビ、TBS、フジテレビなどの取り組みを見ながら、変わりゆくテレビ番組とテレビ局の現在、そしてこれからの成長戦略を考える。
2026年上半期の全国推計「総合視聴人数ランキング」
| 順位 | 番組名 | 放送局 | ジャンル | 放送日 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | FIFAワールドカップ2026・日本×スウェーデン | NHK総合 | スポーツ | 2026年 | 日本代表のW杯初戦 |
| 2位 | FIFAワールドカップ2026・日本×チュニジア | NHK総合 | スポーツ | 2026年 | 日本代表のW杯第2戦 |
| 3位 | 芸能人格付けチェック!2026お正月スペシャル | テレビ朝日系列 | バラエティ | 2026年1月1日 | 一流品を見極める人気正月特番 |
| 4位 | FIFAワールドカップ2026・日本×アルゼンチン | NHK総合 | スポーツ | 2026年 | 日本代表のW杯関連試合 |
| 5位 | FIFAワールドカップ2026・日本×スペイン | NHK総合 | スポーツ | 2026年 | 強豪スペインとの対戦 |
民放事業者の上場会社
| 企業名 | 証券コード | 市場 | 主なテレビ局・放送事業 | エリア・特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 日本テレビホールディングス | 9404 | 東証プライム | 日本テレビ | 日本テレビ系列・関東 |
| TBSホールディングス | 9401 | 東証プライム | TBSテレビ | TBS系列・関東 |
| テレビ朝日ホールディングス | 9409 | 東証プライム | テレビ朝日 | テレビ朝日系列・関東 |
| フジ・メディア・ホールディングス | 4676 | 東証プライム | フジテレビ | フジテレビ系列・関東 |
| テレビ東京ホールディングス | 9413 | 東証プライム | テレビ東京 | テレビ東京系列・関東 |
| 朝日放送グループホールディングス | 9405 | 東証プライム | 朝日放送テレビ | ABCテレビ・関西 |
| 中部日本放送 | 9402 | 名証プレミア | CBCテレビ | CBC・中部 |
| BSNメディアホールディングス | 9408 | 東証スタンダード | 新潟放送 | BSN・新潟 |
| 日本BS放送 | 9414 | 東証スタンダード | BS11 | BSデジタル |
| RKB毎日ホールディングス | 9407 | 福証 | RKB毎日放送 | RKB・福岡 |
| WOWOW | 4839 | 東証プライム | WOWOW | 衛星放送・有料放送 |
2026年テレビ視聴率トップ3から見える「テレビ離れ」の現在地
2026年のテレビを取り巻く環境は、大きな転換点を迎えている。若年層を中心に動画配信サービスやSNSへ視聴時間が移る一方、国民的なイベントや大型コンテンツが登場すると、テレビは依然として圧倒的な集客力を発揮する。2026年上半期のビデオリサーチ「テレビ番組視聴人数ランキング」を見ると、その特徴がはっきり表れている。
同ランキングは全国32の全放送エリアを対象に、リアルタイム視聴と7日以内のタイムシフト視聴を合わせた総合視聴率をもとに推計したものだ。2026年上半期の総合視聴人数トップ3は、1位が「FIFAワールドカップ2026・日本×スウェーデン」、2位が「FIFAワールドカップ2026・日本×チュニジア」、3位が「芸能人格付けチェック!2026お正月スペシャル」となった。上位10番組のうち6番組をスポーツ中継が占めており、2026年のテレビ視聴を語るうえでスポーツの存在感は極めて大きい。
1位となった「FIFAワールドカップ2026・日本×スウェーデン」は、サッカー日本代表の戦いを生中継した大型スポーツコンテンツである。2026年大会は48チーム制となったFIFAワールドカップで、日本代表にとっても世界の強豪を相手に戦う重要な舞台となった。ワールドカップは、普段はテレビをあまり見ない層まで一斉に画面へ呼び戻す力を持つ。試合の勝敗だけでなく、選手のプレー、戦術、SNS上での反応などがリアルタイムで共有されるため、テレビ放送とインターネットの相乗効果も生まれやすい。スポーツ中継がランキング上位を占めたことは、テレビが「日常的に見るメディア」から「みんなで同時に見るイベントメディア」へ変化していることを象徴している。
2位は「FIFAワールドカップ2026・日本×チュニジア」。こちらも日本代表戦という圧倒的なコンテンツ力が視聴者を引きつけた。日本代表戦の特徴は、サッカーファンだけを対象としていない点にある。家族や友人、職場などで話題を共有できるため、普段スポーツ中継を見ない人まで視聴するきっかけになりやすい。テレビ局にとっては、こうした大型スポーツイベントは広告価値の高いコンテンツであると同時に、配信サービスやSNSへ視聴者を誘導する入口にもなる。
3位に入ったのが、スポーツ中継ではなく「芸能人格付けチェック!2026お正月スペシャル」である。浜田雅功が司会を務め、一流芸能人がワイン、殺陣、弦楽八重奏、ミシュランシェフ、オーケストラ、しゃぶしゃぶといったジャンルの「本物」を見極める人気バラエティーだ。2026年版ではGACKTが個人81連勝をかけて登場したほか、大地真央、竹内涼真、上沼恵美子、天童よしみ、郷ひろみ、倖田來未、Kis-My-Ft2、FRUITS ZIPPERなど幅広い世代の出演者が参加した。
番組の魅力は、出演者だけでなく視聴者自身も「自分なら分かるか」と参加できるところにある。例えばワインでは高級ワインと比較対象を見極め、音楽では総額102億4000万円の弦楽八重奏といった極めて高価な楽器による演奏を聴き分ける。さらに料理ではミシュランシェフと浜田雅功が作った料理を比較するなど、豪華さと笑いを組み合わせた構成になっている。テレビを見ながらスマートフォンで参加できる仕組みも用意され、テレビとネットを組み合わせた視聴体験を意識した番組づくりが行われている。
このトップ3から分かるのは、「テレビ離れ=テレビ番組が見られなくなった」という単純な構図ではないということだ。むしろ視聴者は、日常的な情報収集や娯楽についてはスマートフォンや動画配信サービスを使いながらも、スポーツ、ニュース、大型バラエティーなど「その瞬間に見る価値がある番組」についてはテレビを選んでいる。
実際、2026年にはTVerの存在感が急速に高まっている。TVerは2026年1月の月間ユーザー数が4470万MUBとなり、過去最高を更新した。月間動画再生数は6.3億回、コネクテッドTVでの再生も2.1億回に達した。さらに20~34歳のユーザー数は年度開始時と比較して150%まで伸びている。
ここで重要なのは、テレビ番組とネット動画の境界が薄くなっていることだ。従来のテレビは「決められた時間にテレビの前に座って見る」ものだった。しかし現在は、放送をリアルタイムで見る人、録画して後から見る人、TVerで見逃し配信を見る人、スマートフォンで番組関連動画を見る人が同時に存在する。つまり番組の価値を「放送時間帯の視聴率」だけで測ることが難しくなっている。
ドラマもその変化を象徴するジャンルである。2026年夏には「VIVANT」の続編が大きな注目を集め、TVerでは第1話が8日間で887万再生を突破し、単一エピソードとして歴代最高記録を更新した。 また、春ドラマではフジテレビの「夫婦別姓刑事」「LOVED ONE」、TBSの「GIFT」などが注目度ランキング上位に入るなど、視聴率だけでは捉えにくい「視聴者の注視」も重要な指標になっている。
一方、地上波のリアルタイム視聴では、ニュース番組の強さも健在だ。2026年8月の週間ランキングを見ると、「NHKニュース7」が世帯15.9%、「報道ステーション」が11.8%を記録するなど、ニュースは現在もテレビが強みを持つ分野となっている。
こうした状況を踏まえると、2026年のテレビ業界は「テレビ対ネット」という単純な競争から、「テレビ番組をどの画面で、いつ、どのように見てもらうか」という競争へ移行しているといえる。大型スポーツ中継やニュースはリアルタイム視聴、ドラマやバラエティーは見逃し配信、SNSでは切り抜きや話題の場面、コネクテッドTVでは大画面視聴というように、同じコンテンツが複数の接点を持つようになった。
2026年上半期のトップ3は、テレビの未来を考えるうえでも象徴的だ。ワールドカップは「同時に見るテレビ」の強さを示し、「芸能人格付けチェック」は家族や世代を超えて楽しめる大型バラエティーの底力を示した。そしてTVerの急成長は、テレビ番組が放送時間から解放され、新たな視聴習慣へ移行していることを示している。
テレビはなくなるのではなく、その役割を変えつつある。視聴率の数字だけを追うのではなく、リアルタイム、タイムシフト、見逃し配信、SNS、コネクテッドTVを横断してコンテンツの価値を考えることが、2026年以降のテレビ業界を見るうえで重要になっている。
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日本テレビは「テレビ局」から世界へ羽ばたくコンテンツ企業へ
日本テレビといえば、長年にわたって日本のテレビ業界を代表してきた民放キー局の一つである。ニュース、ドラマ、バラエティー、スポーツ、情報番組など幅広いコンテンツを制作し、「視聴率トップ」を争ってきた存在だ。現在、株式市場で日本テレビに投資する場合は、テレビ局本体ではなく、認定放送持株会社である日本テレビホールディングス(9404)の株式を購入することになる。同社は東京証券取引所プライム市場に上場しており、日本テレビ放送網を中核子会社として、放送だけでなく配信、映画、アニメ、イベント、海外事業などへ領域を広げている。
日本テレビを取り巻く環境は、大きく変化している。かつてテレビ局の収益モデルは、地上波の広告収入を中心としていた。しかし現在は、若年層を中心に動画配信サービスやSNSの利用時間が増加し、視聴者がテレビの放送時間に合わせて番組を見るとは限らなくなった。見たい番組を録画し、TVerで見逃し配信を視聴し、SNSで番組の話題を追い、さらに動画配信サービスで関連作品を見るというスタイルが一般化している。テレビ局にとっては、放送時間帯の視聴率だけでなく、一つのコンテンツをいかに多方面へ展開して収益化するかが重要になっている。
この変化に対して、日本テレビはかなり積極的な姿勢を見せている。2026年6月には、2015年から提供してきた無料見逃し配信サービス「日テレ無料!(TADA)」を9月30日で終了し、今後はTVerへ集約する方針を発表した。日テレTADAは累計ダウンロード数約800万に達するなど長年にわたり一定の役割を果たしてきたが、現在ではTVerが見逃し配信の標準的なサービスとして定着したことを背景に、独自サービスを整理する判断に至った。これは単なるサービス終了ではなく、テレビ局が自社独自の配信プラットフォームを持つ時代から、巨大な共通プラットフォームを活用して番組を届ける時代への移行を象徴する動きといえる。
一方で、日本テレビは「テレビを捨ててネットへ移行する」という戦略を取っているわけではない。むしろテレビ放送をコンテンツ制作の基盤として残しながら、そこで生み出したIPを映画、アニメ、イベント、商品、海外販売などへ広げる方向を強めている。日本テレビホールディングスは中期経営計画で「日テレ、開国! Gear up, go global」を掲げ、グローバルコンテンツ企業への転換を進めている。2025年度には売上高・利益ともに過去最高を記録したとしており、従来型のテレビ広告だけに依存しない収益基盤づくりが進んでいる。
その象徴の一つが、スタジオジブリを含むコンテンツ事業である。日本テレビグループでは、アニメや映画などのIPを国内だけでなく海外市場へ展開することを成長戦略の重要な柱としている。2026年には映画・ドラマ・音楽IPなどの創出や海外展開をさらに加速させるため、映像制作会社KANAMELを完全子会社化した。取得総額は483億円とされ、日本テレビにとって過去最大規模の投資となった。単に地上波番組を制作するだけでなく、世界市場で販売・展開できるコンテンツを生み出す体制を強化しているのである。
また、テレビ局にとって重要性を増しているのがデジタル広告である。日本テレビホールディングスは2026年8月、伊藤忠商事、データ・ワンとの協業基本合意を発表し、「TV×リテールメディア×デジタル広告」の領域で新たな広告ビジネスを目指す方針を示した。6000万ID超を有する購買データプラットフォームを活用した広告バイイングを可能にすることで、テレビ広告と購買データを組み合わせる考えだ。テレビCMを「広く見せる広告」から、データを活用して効果を測定・最適化する広告へ進化させる狙いが見える。
さらに興味深いのがAIや映像技術への取り組みである。2026年8月、日本テレビは自社開発のオンデバイスAIソリューション「viztrick AiDi」が中国の放送機器展で優秀製品賞を受賞したと発表した。クラウドに依存せず端末側で処理するAI技術を活用し、スポーツ中継などのモバイル配信制作の効率化につなげる。AIは番組そのものを作り替えるだけでなく、撮影、編集、配信、営業などテレビ局の業務プロセス全体を効率化する可能性を持っている。
実際、日本テレビホールディングスの2026年3月期第3四半期決算では、売上高、営業利益、経常利益、四半期純利益のすべてで過去最高を更新した。日本テレビ事業ではスポット広告やデジタル関連が大幅増収となり、ジブリ関連などのイベント収入も好調だったという。アニメ関連会社の海外展開も加速しており、「テレビ広告だけで稼ぐ会社」からの脱却が数字にも表れ始めている。
こうした動きを見ると、日本テレビの競争相手も変化していることが分かる。以前はTBS、テレビ朝日、フジテレビ、テレビ東京といった国内テレビ局が最大のライバルだった。しかし現在は、Netflix、Amazon Prime Video、YouTube、TikTokなど、視聴者の時間を奪い合う相手が世界規模で存在する。だからこそ日本テレビは、国内のテレビ視聴率だけを競うのではなく、日本で生まれたコンテンツを海外へ販売し、映画やアニメ、イベントなど複数の市場で収益化する必要がある。
もちろん課題もある。テレビ広告市場そのものが急速に消滅するわけではないものの、視聴者のメディア接触が分散するなか、地上波放送だけに依存したビジネスモデルには限界がある。また、コンテンツ制作費は高騰し、ヒット作を生み出せなければ投資負担が重くなる。海外市場で日本発IPを成功させるためには、作品そのものの魅力だけでなく、現地マーケティングや配信網、ライセンス管理などの能力も必要になる。
それでも日本テレビの強みは、長年にわたって蓄積してきたコンテンツ制作力とブランド力にある。地上波放送を通じて幅広い世代へコンテンツを届けられることに加え、ニュース、スポーツ、ドラマ、バラエティー、映画、アニメなど多様なジャンルを扱えることは大きな財産だ。さらに、読売新聞グループや読売巨人軍との連携など、テレビ以外のメディア・スポーツ資産も持つ。
2026年の日本テレビは、「テレビを見る人が減っているから苦しい」というだけでは語れない。むしろテレビ局という枠組みを超え、コンテンツを生み出し、複数の媒体と市場で収益化する企業へ変わろうとしている。放送は終点ではなく、コンテンツを世界へ送り出す出発点となる。TVerへの配信集約、海外展開、IP投資、デジタル広告、AI活用など一連の動きは、その変化を象徴している。
今後、日本テレビホールディングスを見るうえでは、地上波の視聴率だけを追うのではなく、映画・アニメ・イベント・海外販売・デジタル広告など、コンテンツを軸とした新たな収益源がどこまで成長するかに注目する必要がある。「テレビ局」という言葉から想像される企業像は、すでに変わり始めている。日本テレビが目指すのは、テレビ番組を放送する会社から、日本発のコンテンツを世界へ送り出す総合メディア・コンテンツ企業への進化なのである。
TBSテレビは「番組を作る会社」から世界にIPを届けるコンテンツ企業へ
TBSテレビは、日本を代表する民放キー局の一つとして、長年にわたりドラマ、バラエティー、報道、スポーツ、音楽など幅広い番組を制作してきた。株式市場でTBSに投資する場合は、TBSテレビそのものではなく、親会社であるTBSホールディングス(9401)の株式を購入することになる。TBSテレビは同社グループの中核会社としてテレビ放送を担う一方、現在では配信、映画、アニメ、イベント、海外展開など、放送の枠を超えた事業領域を広げている。TBSホールディングスは2026年5月に「中期経営計画2026アップデート」を公表し、コンテンツIPにレバレッジを掛け、グローバル事業を成長させる方針を改めて打ち出した。
現在のテレビ業界を考えるうえで避けて通れないのが、視聴者のメディア接触の変化である。かつては「放送時間にテレビの前に座る」ことが番組視聴の基本だった。しかし、現在はTVerなどの見逃し配信、動画配信サービス、YouTube、SNSなどが普及し、視聴者は自分の好きな時間、好きな端末でコンテンツを楽しむようになった。テレビ局にとって重要なのは、放送時間帯の視聴率だけではなく、一つの番組や作品をいかに長く、広く、そして複数の市場で楽しんでもらうかという発想である。
TBSはこの変化を比較的早い段階から成長機会として捉えている。その中心にあるのが「コンテンツIP」という考え方だ。TBSグループは、ドラマ、バラエティー、アニメなどのコンテンツを単発のテレビ番組として消費させるのではなく、そこから長期的な価値を生み出すIPへ育てることを目指している。中期経営計画では、企画・開発、選定・マーケティング、IPを磨き上げるという3段階を強化し、放送以外の領域にもコンテンツを展開する方針を示している。
その象徴となるのがドラマである。TBSには「日曜劇場」をはじめ、長年にわたって高品質なドラマを生み出してきた実績がある。作品がテレビ放送だけで終わらず、見逃し配信、海外販売、映画化、グッズ、イベントなどへ広がれば、一つの企画から得られる収益機会は大きくなる。近年、TBSが重視しているのは、まさにこうした「一つの作品を多面的に育てる」ビジネスモデルである。
さらに、TBSが強みを持つのがバラエティーである。「SASUKE」などは日本国内だけでなく海外でも知られるコンテンツとなっている。TBSグループは海外市場でフォーマット販売や共同制作を進めており、米国ではTBS Internationalを通じたネットワーキング、韓国ではCJ ENMとの協業などを進めている。中期経営計画では、2026年度の海外売上比率5%、2030年度10%を目標に掲げており、日本国内のテレビ広告市場だけに依存しない成長を目指している。
2026年には海外戦略がさらに具体化している。TBSグループは米国Legendary Entertainmentとの戦略的パートナーシップをはじめ、韓国CJ ENMとの協業、THE SEVENを通じた国際共同制作などを推進している。また、2026年4月にはTBSグループのTHE SEVENがウォルト・ディズニー・ジャパンと実写ドラマシリーズの複数年にわたる共同開発契約を締結した。日本のテレビ局が海外企業と組み、世界市場を前提として作品を開発する動きは、これからのテレビ業界を考えるうえで重要なポイントである。
アニメもTBSにとって重要な成長分野となっている。アニメは国内放送だけでなく、動画配信サービスによる海外展開、商品化、映画化、ゲーム化など、多様なビジネスにつながりやすい。TBSグループは2026年5月、IP戦略会社SAND Bを通じて次世代アニメIPの創出を加速する方針を示している。TBSが「テレビ番組を制作する会社」から「世界で通用するIPを創出・保有する会社」へ変わろうとしていることが分かる。
デジタル分野でも動きは活発だ。TBSグループが展開する「TBS NEWS DIG Powered by JNN」は、2026年7月時点で月間3.76億PVを超える規模に成長しており、テレビ局が持つ取材力や報道への信頼をデジタル広告へつなげる取り組みも進んでいる。テレビ放送を見ない人にもニュースを届けられることは、テレビ局にとって大きな意味を持つ。ニュースサイト、SNS、動画配信などを通じて、TBSのブランドに接触する入口を増やすことができるからだ。
AIなどのテクノロジー活用も今後の重要なテーマになる。TBSでは「VIVANT」続編の制作において生成AIを活用するなど、映像制作とAIを組み合わせる試みも進めている。AIは脚本や映像を自動生成するためだけの技術ではなく、制作工程の効率化、映像表現の高度化、データ分析など、テレビ局のさまざまな業務に活用できる可能性がある。コンテンツ制作力を強化しながら制作コストを抑えるという意味でも、今後のテレビ業界にとって重要な技術となるだろう。
TBSが掲げる「EDGE戦略」は、こうした変化を象徴している。放送事業を土台としながら、デジタル、海外、ライフスタイルなどの領域へ事業を拡張し、コンテンツの価値を最大化する考え方である。2024年に発表された中期経営計画では、2030年度に売上高5500億円、営業利益385億円、営業利益率7%を目標に掲げ、2030年には放送事業以外の成長領域を大きく拡大する構想を示している。
もちろん、TBSにも課題はある。動画配信サービスとの競争は激しく、コンテンツ制作費の上昇や視聴者の分散も続いている。海外展開も、作品を作れば自然に売れるわけではなく、現地市場に合わせた企画、販売網、パートナー企業、ブランド構築が必要となる。さらに、テレビ広告収入という従来の安定した収益基盤を維持しながら、新しい事業へ投資していく資本配分も重要になる。
それでもTBSの強みは、長年蓄積してきた企画力と制作力にある。ドラマ、バラエティー、スポーツ、報道、アニメ、音楽など、多様なコンテンツを生み出せることは大きな資産だ。さらに、そこから生まれたIPを海外、デジタル、イベント、商品などへ展開できれば、テレビ局という枠を超えた企業価値につながる。
2026年のTBSテレビを考えるとき、「視聴率が高いテレビ局か」という視点だけでは不十分である。重要なのは、テレビ放送を起点として、どれだけ強いコンテンツを生み出し、それをTVerやデジタルメディア、映画、アニメ、海外市場などへ広げられるかという点だ。TBSは「作品を作る」だけではなく、「IPを創り、育てる」企業への転換を進めている。
テレビ業界が大きく変わるなかで、TBSの戦略は一つの方向性を示している。テレビという巨大なメディアを捨てるのではなく、その制作力とブランド力を基盤として、コンテンツを世界中へ届ける。2026年は、TBSにとって国内のテレビ局からグローバルなコンテンツ企業へと進むための重要な転換期となっている。
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フジテレビは「月9」の復活から再成長へ、信頼回復とコンテンツ力が問われる2026年
フジテレビは、かつて「月9」をはじめとする数々のヒットドラマや、「めちゃ×2イケてるッ!」「笑っていいとも!」などの人気バラエティーを生み出し、日本のテレビ文化を象徴してきた民放キー局の一つである。現在、株式市場でフジテレビを投資対象として見る場合は、フジテレビジョンそのものではなく、親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(4676)に注目することになる。同社はテレビ放送を中核とするメディア・コンテンツ事業に加え、都市開発・観光なども展開する総合メディア企業である。
2026年のフジテレビを考えるうえで、まず避けて通れないのが、2025年から続いた一連の問題を受けた経営改革である。フジ・メディア・ホールディングスは、第三者委員会の調査報告などを踏まえ、人権・コンプライアンスを経営の中心に据え、ガバナンス改革を進めてきた。2026年5月には「グループビジョン2026-2030」を公表し、メディア・コンテンツ事業について、放送・メディアの収益性を高めるだけでなく、IPを軸としてバリューチェーン全体で収益化する方針を打ち出している。
つまり、フジテレビにとって2026年は単なる「視聴率回復の年」ではない。視聴者や広告主からの信頼を取り戻しながら、テレビ局としての競争力を再構築し、同時に映画、ドラマ、アニメ、配信、イベントなどへコンテンツを広げることが求められる年なのである。
そのなかで注目されるのが、フジテレビが長年培ってきたドラマ制作力だ。フジテレビのドラマといえば、1990年代から2000年代にかけて「月9」が社会現象を生み出した歴史がある。恋愛ドラマを中心に数多くのスターを輩出し、ドラマそのものだけでなく、主題歌やファッション、ロケ地などまで社会的な話題にした。そのブランドを再び活性化できるかどうかは、フジテレビのコンテンツ戦略を考えるうえで重要なポイントとなる。
その象徴的な動きが、2026年秋の「救命病棟24時」の復活である。江口洋介と松嶋菜々子がダブル主演を務め、1999年に始まった人気シリーズが約13年ぶりに連続ドラマとして復活する。第6シリーズとなる今回は、フジテレビの月9枠で10月12日から放送される予定だ。過去シリーズのファンを取り込みながら、新しい世代にも作品を届けるという意味で、過去のIPを現代に再活用する典型的な取り組みといえる。
同様に、2026年秋には「波うららかに、めおと日和」の続編も木曜劇場枠でスタートする予定となっている。前作からキャストが続投し、10月15日から放送される。人気作品の続編を制作することは、ゼロから新作を立ち上げるよりも既存ファンを獲得しやすい一方、前作を超える魅力をどう作るかという課題もある。フジテレビにとっては、過去の資産を新しい視聴者層へつなげる力が試される。
バラエティーについても、フジテレビは依然として強いコンテンツ資産を持っている。現在放送されている「ぽかぽか」は、ハライチと神田愛花をMCに据え、平日昼に生放送を展開する番組である。2026年8月には東京ディズニーリゾートを特集する大型企画も実施され、テレビの情報性とバラエティー性を組み合わせた展開を見せている。
また、「芸能人が本気で考えた!ドッキリGP」のような人気バラエティーも健在だ。2026年8月には4時間スペシャルが放送され、東野幸治、小池栄子、菊池風磨、向井康二らが出演した。出演者自身が企画を考えるという番組コンセプトは、単なる「ドッキリ」から出演者の個性やSNSでの話題性まで含めて楽しむ現在のテレビ視聴スタイルとも相性がいい。
ここで重要になるのが、テレビ番組と配信サービスの関係である。現在の視聴者は、放送時間に合わせてテレビを見るだけではない。リアルタイム視聴、録画、TVerなどの見逃し配信、動画配信サービス、SNSでの切り抜きや番組情報の拡散など、複数の接点から一つのコンテンツを楽しむ。フジテレビも動画配信サービス「FOD」を展開しており、地上波番組を配信ビジネスへつなげることが重要になっている。フジ・メディア・ホールディングスの株主優待でも、FODプレミアムの無料視聴が用意されており、テレビ放送と配信を一体化させる戦略がうかがえる。
さらに、フジ・メディア・ホールディングスは2026年の新たなグループビジョンにおいて、メディア・コンテンツ事業の成長投資を重視している。2025年11月に公表された改革アクションプランのアップデートでは、2030年度にメディア・コンテンツ事業で約300億円の営業利益、2033年度には約400億円を目指す方針を示した。また、今後5年間でメディア・コンテンツ分野に1,500億円規模を投資する計画も掲げている。
この戦略のポイントは、テレビ広告だけを収益源とするのではなく、「IPを軸にバリューチェーン全体で稼ぐ」という発想にある。ドラマなら放送だけでなく、配信、映画化、海外販売、商品化、イベントなどへ展開できる。アニメや映画であれば、配信プラットフォームや海外市場との連携によって、日本国内の視聴率とは異なる収益機会を生み出せる。テレビ局の価値を「電波を持っている会社」から「強いコンテンツを生み出せる会社」へ変えることが、フジテレビ再成長の鍵になる。
一方で、課題は少なくない。動画配信サービスの普及によって視聴者の選択肢は増え、NetflixやAmazon Prime Video、YouTubeなどとの競争は激しい。また、テレビ局にはコンテンツ制作力だけでなく、企業としての信頼性や透明性も強く求められる。特にフジテレビの場合、2025年以降の問題を受けて信頼回復が重要な経営課題となっており、コンプライアンスや人権への取り組みを継続し、社内文化そのものを変えていく必要がある。フジ・メディア・ホールディングスは取締役会改革や独立社外取締役の増員など、ガバナンス面での改革を進めている。
投資家の視点から見ると、フジ・メディア・ホールディングスは「テレビ局株」というだけでは捉えにくい銘柄になっている。メディア・コンテンツ事業に加えて、都市開発・観光事業を抱えているため、保有する不動産などの資産価値も企業価値を考えるうえで重要となる。一方で、経営改革による資本効率の改善も大きなテーマであり、2030年度にROE5~6%、2033年度にROE8%を目指す方針を示している。自己株式取得や配当政策も含め、株主還元を重視する姿勢も鮮明になっている。
2026年のフジテレビは、過去のブランドを守るだけではなく、それを再び成長の源泉に変えられるかが問われる局面にある。「月9」に代表されるドラマブランド、「ドッキリGP」のようなバラエティー、ニュースやスポーツ、映画、アニメなど、長年積み上げてきたコンテンツ資産は大きい。問題は、それらを現在の視聴者の行動に合わせて再設計し、テレビの外側でも価値を生み出せるかどうかである。
フジテレビにとって2026年は、過去からの脱却と再生を同時に進める年となる。信頼を回復し、強い番組を生み出し、その番組を配信、映画、イベント、海外市場へ広げる。そのサイクルを確立できれば、フジテレビは再び日本のメディア業界を代表する存在として成長する可能性がある。逆に、視聴率だけを追いかけ、コンテンツIPの価値を十分に引き出せなければ、動画配信時代の競争に取り残されるリスクもある。2026年以降のフジテレビは、「テレビ局として復活できるか」だけでなく、「総合コンテンツ企業へ進化できるか」という視点で見ることが重要なのである。
まとめ:テレビ局の未来を決める「強いIP」と「新しい視聴体験」
テレビ業界は「テレビ離れ」という言葉だけでは説明できない段階に入っている。視聴者が離れているのはテレビという画面そのものではなく、決められた時間に番組を見るという従来型の視聴習慣である。日本テレビ、TBS、フジテレビなどは、地上波放送を基盤としながら、TVerや独自配信サービス、映画、アニメ、イベント、海外展開などへ事業領域を広げている。そこでは、番組を一度放送して終わるのではなく、ドラマやバラエティーから生まれたIPを長期的に育て、複数の媒体や市場で収益化することが重要になる。
一方で、ニュースや大型スポーツ中継など、リアルタイムで見る価値の高いコンテンツは依然としてテレビの強みである。2026年の視聴動向からも、テレビには「みんなで同時に楽しむ」力が残されていることが分かる。今後のテレビ局に求められるのは、こうしたリアルタイム視聴の強みを維持しながら、配信やSNS、海外市場を組み合わせてコンテンツの寿命と収益機会を広げることだろう。テレビ局はもはや単なる放送会社ではない。強い番組を生み出し、それをさまざまな場所へ届け、世界規模で価値を生み出す「コンテンツ企業」へと変貌しつつある。




