
ナスダック100からランダムに4社をピックアップ!
米国の代表的な株価指数の一つである「NASDAQ100」には、世界を代表するテクノロジー企業をはじめ、ヘルスケア、消費関連、通信など幅広い企業が名を連ねています。NASDAQ100は、NASDAQ市場に上場する非金融企業のうち、時価総額上位の企業を中心に構成される指数で、2026年には構成銘柄の選定・ウェート算出方法にも変更が加えられています。
そんな巨大な企業群から、今回はあえて「ランダムピックアップ」という視点で4社を取り上げます。選んだのは、シミュレーション技術のアンシス(ANSS)、コネクテッド・フィットネスのペロトン・インタラクティブ(PTON)、決済・金融インフラのファイサーブ(FISV)、そしてサイバーセキュリティの**フォーティネット(FTNT)**です。
一見すると、それぞれまったく違うビジネスに見えます。しかし、4社を並べてみると、AIやデジタル化によって変化する米国企業の姿が浮かび上がります。アンシスは「デジタル上で製品を設計・検証する技術」、ペロトンは「デジタルとリアルを融合したフィットネス」、ファイサーブは「お金の流れを支えるデジタル金融インフラ」、フォーティネットは「デジタル社会を守るセキュリティ」という具合です。
なお、アンシスは2025年7月にシノプシスによる買収が完了し、NASDAQ100からは外れています。そのため、今回の4社は「NASDAQ100に関連する企業をランダムに掘り下げる」という企画として捉えるのが適切です。
巨大IT企業だけに目を向けるのではなく、こうした「知る人ぞ知る企業」にスポットを当てることで、NASDAQ市場の奥深さと、米国企業が切り開く新たな成長分野を探っていきます。
| 企業 | ティッカー | 主な事業・テーマ | 注目ポイント |
|---|---|---|---|
| アンシス(ANSYS) | ANSS | CAE・シミュレーション | AIやデジタルツインを活用した製品開発を支える。2025年にシノプシスが買収 |
| ペロトン・インタラクティブ | PTON | コネクテッド・フィットネス | フィットネス機器+サブスク+デジタルコンテンツで収益モデルを転換 |
| ファイサーブ(Fiserv) | FISV | 決済・金融テクノロジー | Cloverなどを通じ、キャッシュレス化やデジタル金融の拡大を取り込む |
| フォーティネット(Fortinet) | FTNT | サイバーセキュリティ | ファイアウォールを軸に、AI・クラウド・SASEなどへ事業領域を拡大 |
ANSYS(アンシス)――「現実世界をデジタルで再現する」シミュレーション技術の巨人
ANSYS(アンシス)は、製品や構造物を実際に製造する前に、コンピューター上で「壊れないか」「熱に耐えられるか」「空気や水はどう流れるか」「電磁波はどう作用するか」といった現象を再現・検証するシミュレーションソフトを手掛けてきた企業だ。自動車、航空宇宙、半導体、エネルギー、産業機械、電子機器など、幅広い産業の製品開発を支える“デジタルものづくり”の中核企業として成長してきた。
ただし、投資家が現在のANSYSを見る際には重要な注意点がある。**ANSYSはすでに単独上場企業ではない。**半導体設計ソフト大手のSynopsys(シノプシス)が2025年7月17日に買収を完了し、ANSYS株はNASDAQでの取引を終了している。買収条件では、ANSYS株1株につき現金199.91ドルとSynopsys株0.3399株が交付された。
つまり、現在のANSYSをテーマにする場合、単なる「米国上場銘柄紹介」ではなく、Synopsysと統合されたシミュレーション事業が今後どこまで成長するのかという視点が重要になる。
ANSYSの最大の強みは、現実世界で起こる複雑な物理現象をコンピューター上で再現する「マルチフィジックス」にある。例えば自動車なら、走行中の空気の流れ、車体への力、エンジンやモーターの熱、電池の温度変化、電磁ノイズなど、複数の物理現象を同時に考えなければならない。実物の試作品を何度も作って検証するには時間もコストもかかるが、シミュレーションなら設計段階で膨大な条件を試せる。
この「試作回数を減らし、開発期間を短縮する」という価値が、ANSYSのビジネスモデルを支えてきた。
特に近年は、製品が複雑になるほどシミュレーションの重要性が高まっている。EVではバッテリーの熱管理や衝突安全性、モーターの電磁特性などを検証する必要がある。航空機では空気抵抗や構造強度、熱、騒音など、多数の要素を同時に分析する必要がある。半導体でも微細化に伴い、熱や電磁気、材料などの問題が複雑になっている。
こうした「現実世界の複雑化」は、ANSYSにとって長期的な追い風となる。
さらに注目されるのが、AIとの融合だ。ANSYSはAI、機械学習、高性能コンピューティング(HPC)、クラウド、デジタルエンジニアリングを重要な技術領域として位置付けてきた。2025年の製品戦略でも、AIによってシミュレーションを高速化し、設計探索の幅を広げる方向性が打ち出されていた。
従来のシミュレーションでは、複雑な計算を実行するために大量の計算時間が必要だった。しかしAIを活用すれば、過去のシミュレーション結果を学習して、設計変更後の結果を高速に予測することが可能になる。
この流れを象徴するのが「Ansys SimAI」だ。さらに2026年には「SimAI Premium」「SimAI Pro」という2つの形態が展開され、新たに「Ansys GeomAI」も投入された。GeomAIは過去の設計データなどを学習し、新たな形状の生成や設計探索を支援する技術である。
つまりANSYSは、単に「コンピューターで物理現象を計算するソフト」から、AIによって最適な設計そのものを探索するプラットフォームへ進化しようとしている。
ここにSynopsysによる買収の意味がある。
Synopsysは、半導体設計を支援するEDA(Electronic Design Automation)ソフトの世界大手だ。半導体の回路設計や検証などを得意としており、ANSYSは物理シミュレーションを得意としている。両社を組み合わせれば、「電子回路を設計する」だけでなく、「その電子機器が現実の世界でどのように動くのか」まで一体で検証できる。
SynopsysはANSYS買収によって、半導体設計を中心とした「シリコン」から、製品・システム全体までをカバーする「Silicon to Systems」戦略を強化した。買収発表時には、両社の統合によって対象市場が約280億ドル規模となり、年率約11%で成長するとの見通しを示していた。
これはAI時代に非常に相性が良い。
生成AIの普及によってデータセンターやAIサーバー向け半導体への需要が急拡大している一方、AIを搭載した自動車、ロボット、産業機械なども増えている。こうした製品では半導体だけでなく、熱、電力、機械構造、通信などを総合的に設計する必要がある。
そのため「半導体設計」と「物理シミュレーション」の境界が小さくなっている。
実際、Synopsysの2026年4月期第2四半期では、Ansys買収の影響によってメンテナンス収入が前年同期比で大きく増加した。6カ月累計でもAnsysによるメンテナンス収入への寄与は8億730万ドルに達している。(SEC)
また、Synopsysは2026年度の売上高について、Ansys関連で約29.6億ドルの寄与を見込んでいる。
ここから見えてくるのは、ANSYSの事業が買収によって消滅したのではなく、より大きな半導体・システム設計プラットフォームの一部として組み込まれているということだ。
投資家にとっては、これまでのANSYS単独の業績だけを見るのではなく、Synopsys全体の中でANSYSがどの程度成長に貢献しているのかを見る必要がある。
一方、リスクもある。最大のポイントは買収後の統合だ。大規模な企業買収では、製品統合、顧客契約、営業体制、開発組織などを一体化するまでに時間がかかる。また、買収に伴う人件費や無形資産の償却なども発生する。Synopsysは2025年度にANSYS買収の影響を含め、買収関連の無形資産償却費が大きく増加したことを開示している。(SEC)
さらに、シミュレーションソフト市場ではAIによる競争環境の変化にも注意が必要だ。AIによって計算そのものが高速化すれば、従来型のソフトウェアの価値が低下する可能性もある。しかし逆に考えれば、AIを使いこなせるシミュレーション企業は、従来よりも多くの設計工程に入り込める可能性がある。
ANSYSが目指しているのは、まさに後者だろう。
これまでの製造業では「設計→試作→実験→修正」という工程を繰り返していた。今後は「AIで設計候補を生成→シミュレーション→最適化→デジタル上で検証→製造」という流れがさらに広がる可能性がある。
そうなれば、シミュレーションは製品開発の補助ツールではなく、製品そのものを生み出すための基盤ソフトウェアになる。
ANSYSはこの変化の中心に位置する企業だった。そして現在は、その技術がSynopsysの半導体設計技術と融合する段階に入っている。
AI、EV、ロボット、データセンター、航空宇宙、半導体など、これから成長が期待される分野はいずれも製品開発が複雑化している。複雑になればなるほど、「実物を作る前にコンピューター上で試す」ことの価値は高まる。
その意味でANSYSが残した最大の資産は、単なるシミュレーションソフトではなく、現実世界をデジタル空間に再現する技術と顧客基盤だといえる。
現在、ANSYS株そのものを購入することはできないが、その技術の成長性に注目するなら、Synopsysの事業を通じて追うことができる。特に今後は、AIによるシミュレーション高速化、生成AIによる設計支援、デジタルツイン、半導体とシステム設計の融合が、ANSYS由来の技術を評価するうえで重要なテーマとなりそうだ。
ペロトン・インタラクティブ――「家で運動する」を変えた企業が、フィットネスからウェルネス企業へ
米国のフィットネス企業、Peloton Interactive(ペロトン・インタラクティブ)は、エアロバイクやトレッドミルなどのフィットネス機器と、インターネットを通じたインストラクターによるレッスンを組み合わせた「コネクテッド・フィットネス」を代表する企業だ。NASDAQでは「PTON」のティッカーで知られ、コロナ禍には「巣ごもり需要」の象徴的な銘柄として大きな注目を集めた。
しかし、現在のペロトンは単なるフィットネス機器メーカーではない。ハードウエア販売からサブスクリプション、アプリ、コンテンツ、法人向け事業へとビジネスモデルを広げ、2026年6月期には創業以来初めて通期で営業利益・純利益が黒字化した。かつての成長株から、収益性を重視する企業へと大きく姿を変えつつある。
ペロトンのビジネスを理解するうえで重要なのが、「機器を売って終わり」ではない点だ。代表的なBikeやTreadなどを購入したユーザーは、月額制のサブスクリプションを利用して、ライブやオンデマンドのトレーニングを受けることができる。インストラクターの指導を受けながら、自宅で本格的なトレーニングができることがペロトンの大きな特徴だ。
さらに、ランニング、筋力トレーニング、ヨガ、ストレッチ、瞑想など、提供するコンテンツの幅も広がっている。スマートフォンやタブレット、テレビなどから利用できるアプリも展開しており、「専用バイクを持っている人だけのサービス」から脱却しようとしている。2026年6月末時点で、ペロトンのメンバーは約550万人、コネクテッド・フィットネスの有料サブスクリプションは約255万件だった。
一方、現在のペロトンを見るうえで避けて通れないのが、コロナ禍後の急激な環境変化だ。外出制限によって自宅で運動する需要が急拡大した時期には、ペロトンの製品は爆発的に注目された。しかし、ジムや屋外での運動が再開されると、成長率は鈍化。高額なフィットネス機器を購入する必要性も低下し、同社は在庫、物流、固定費などの問題を抱えることになった。
そこでペロトンが進めたのが、大規模な事業改革だ。製品ラインアップの見直し、コスト削減、サブスクリプション事業の強化、法人向け事業の拡大などを進めてきた。2026年6月期には100百万ドル超のランレート・コスト削減目標を達成したほか、通期の調整後EBITDAは4億6820万ドルと、前期比16%増加した。フリーキャッシュフローも3億7760万ドルとなり、前期から17%増加している。
特に注目したいのが、サブスクリプション事業の収益性だ。2026年6月期のサブスクリプション売上高は16億7560万ドルと、全体売上高24億4600万ドルの大部分を占めた。サブスクリプションの粗利益率は71.4%で、ハードウエア販売よりも高い収益性を持つ。
これは投資家にとって非常に重要なポイントだ。ハードウエアは製造費、物流費、在庫などが発生する一方、デジタルコンテンツは会員数が増えても売上原価が同じ割合で増えるとは限らない。つまり、ペロトンにとっては「何台のバイクを売ったか」だけではなく、どれだけ長くユーザーがサブスクリプションを利用してくれるかが重要になる。
実際、2026年6月期のコネクテッド・フィットネス機器売上高は7億7040万ドルで、前期の8億1710万ドルから減少した。一方、サブスクリプション売上高はほぼ横ばいながら16億ドル台を維持している。ハードウエア中心から、継続課金中心へと事業の軸が移っていることが分かる。
もちろん、課題も残っている。コネクテッド・フィットネスの有料契約数は2026年6月末で255万3000件と、前年同期から24万7000件、8.8%減少した。2027年6月期第1四半期についても、同契約数は245万5000~247万5000件を会社側は見込んでいる。
つまり、利益は改善しているものの、会員数が増えているわけではない。ここがペロトンを評価する際の最大のポイントだろう。
ペロトンはこの課題に対し、フィットネス機器だけではなく「ウェルネス」へと領域を広げている。新しいCross Training Seriesを投入し、Bike、Tread、Rowなど複数の運動を組み合わせられる環境を整備。2025年には新シリーズを投入し、従来製品の整理も進めた。さらに、2026年にはコネクテッド・ピラティス分野の企業Skōpを買収している。
AIの活用も注目される。ペロトンは「Peloton IQ」を展開し、ユーザーの運動データなどを活用したパーソナライズを進めている。フィットネスにAIを組み合わせることで、一人ひとりに合った運動メニューを提案し、利用頻度や継続率を高められる可能性がある。
さらに、法人向けビジネスも成長分野だ。ホテルや住宅などにフィットネス機器やサービスを提供するCommercial Business Unitの売上高は2026年6月期に2桁成長を記録した。個人消費者だけに依存しない収益源を育てている点は、従来のペロトンとの大きな違いだ。
今後の焦点は、「会員数の減少をどこまで止められるか」と「利益成長を継続できるか」の2点になる。
2027年6月期について、会社側は売上高23億~24億ドルを見込んでおり、中央値では前期比3.9%減となる。一方、調整後EBITDAは4億7500万~5億2500万ドルと、中央値で6.8%増を見込む。売上高が伸びなくても、コスト構造を改善することで利益を増やす戦略が鮮明だ。
これは、かつての「売上高を急拡大させる成長株」とは異なる姿である。今後のペロトンは、会員数の拡大だけではなく、サブスクリプションの収益性、ハードウエアの採算、法人事業、AI、ピラティスなどの新領域を組み合わせながら、1人のユーザーから得られる生涯価値を高めることが重要になる。
コロナ禍で脚光を浴びたペロトンは、その後の需要減速によって大きな試練を経験した。しかし、2026年6月期には初の通期黒字を達成し、フリーキャッシュフローも大きく改善した。
「自宅で運動するためのバイク会社」から「デジタル、AI、コンテンツ、機器を融合したウェルネスプラットフォーム」へ――。この転換を成功させられるかが、PTONの今後を左右する最大のポイントとなりそうだ。
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Fiserv(ファイサーブ)――決済の裏側を支える「見えない巨大インフラ」、CloverとAIで次の成長へ
米国の金融テクノロジー企業、Fiserv(ファイサーブ)は、銀行や企業、店舗などをつなぎ、決済や金融サービスを支える「金融インフラ企業」だ。日本では一般消費者が直接その名前を目にする機会は少ないものの、クレジットカードやデビットカード、電子決済、銀行システム、店舗向け決済など、日常生活に欠かせない金融取引の裏側で幅広く事業を展開している。
現在のティッカーはFISVで、NASDAQに上場している。2025年11月には、長年使ってきたニューヨーク証券取引所からNASDAQへ上場市場を変更した。
Fiservの事業は大きく見ると、「Merchant Solutions」と「Financial Solutions」の2つに分けられる。前者は店舗や企業向けの決済サービス、後者は銀行や金融機関向けのシステムなどを提供する事業だ。会社自身も「Commerce and Financeをつなぐ企業」と位置付け、決済、銀行口座処理、デジタルバンキング、加盟店向けサービス、eコマースなどを幅広く展開している。
この中で特に注目したいのが、店舗向けプラットフォーム「Clover」だ。
Cloverは、店舗の決済端末を単なる「カードを読み取る機械」から、店舗経営を支援する総合的なデジタルプラットフォームへと進化させるサービスである。決済処理だけでなく、売上管理、在庫管理、従業員管理、顧客管理など、店舗運営に必要な機能をまとめて提供できる。
例えば飲食店なら、Cloverを使って注文や決済を処理し、そのデータを売上管理などに活用できる。小売店やサービス業でも、決済を起点として店舗運営全体をデジタル化できる点が強みとなる。
ここにFiservのビジネスモデルの面白さがある。決済端末を1台販売して終わるのではなく、店舗が日々の取引でCloverを利用することで、継続的な決済関連収益やソフトウエア収益につながる。つまり、決済額が増えるほどFiservの事業機会も広がる構造を持っている。
しかも、キャッシュレス化は世界的な長期トレンドだ。現金からカード、カードからスマートフォン、さらにオンライン決済や組み込み型金融へと決済方法は変化している。店舗側にとっても、単に「お金を受け取る」だけではなく、顧客データを分析して販売促進につなげることが重要になっている。
こうした環境では、決済とデータ、店舗管理を一体化できるプラットフォームの価値が高まる。
一方で、Fiservは銀行向けの巨大な金融システムも手掛ける。金融機関が顧客の口座を管理したり、取引を処理したり、デジタルバンキングを提供したりするための基盤を提供している。こうしたシステムは、一度導入されると簡単に別のシステムへ変更できるものではない。
金融機関にとって決済や口座管理システムは業務の中核だからだ。そのため、Fiservにとっては長期契約や継続的な利用につながりやすく、安定した収益基盤となる。
2025年の通期売上高は211億9000万ドルで、前年から4%増加した。Merchant Solutionsは5%、Financial Solutionsは2%の増収となった。
ただし、2026年に入ると業績には減速感も出ている。2026年第2四半期の売上高は52億9000万ドルで前年同期比4%減、上期累計では103億2000万ドルで3%減となった。Merchant Solutionsの四半期売上高は1%減、Financial Solutionsは8%減だった。
この数字だけを見ると、成長企業としては物足りなく感じるかもしれない。しかし、Fiservを見るうえで重要なのは、短期的な売上高だけではない。
同社は2026年5月のInvestor Dayで、2027~2029年にかけて中期的な成長を目指す戦略を示している。特にMerchant SolutionsとFinancial Solutionsの接点を増やすことで、店舗、企業、金融機関を横断したサービス提供を強化する考えだ。
つまり、銀行向けシステムと店舗向け決済を別々に提供するのではなく、両者をつなげることが成長戦略となる。
さらに、AIの活用も大きなテーマだ。Fiservは決済データや金融データを大量に扱っている。AIを利用すれば、決済不正の検知、リスク管理、顧客分析、店舗への販売支援など、さまざまなサービスを高度化できる可能性がある。
特に決済分野では、不正利用との戦いが重要だ。キャッシュレス化が進むほど取引データは増えるが、それと同時に不正アクセスや詐欺などのリスクも高まる。大量の取引をリアルタイムで分析し、不審な動きを検知する技術は、決済事業者にとって競争力そのものになる。
2026年6月には経営トップも交代した。Takis Georgakopoulos氏がCEOに就任し、決済、テクノロジー、金融サービス、AI、サイバーセキュリティなどの経験を持つ経営者として、今後の成長戦略を担うことになった。(sec.gov)
このトップ交代も、Fiservが今後どの領域に重点を置くのかを見るうえで注目される。
また、Fiservには「決済市場そのものが拡大する」という長期的な追い風がある。オンラインショッピング、スマートフォン決済、サブスクリプション、デジタルウォレット、国際決済など、金融取引のデジタル化は止まらない。
さらに、AI時代には「決済」の意味も変わる可能性がある。例えばAIエージェントが消費者に代わって商品を探し、比較し、注文し、決済まで実行するようになれば、企業間・消費者間の取引方法そのものが変わる。こうした新しい決済環境に対応できるインフラ企業には、大きなビジネスチャンスが生まれる。
もちろん、リスクもある。VisaやMastercardなどの巨大決済ネットワーク、銀行、PayPal、Blockなど、多数の競合企業が存在する。さらに、決済業界は規制変更の影響を受けやすい。加盟店手数料やデータ利用、金融規制、サイバーセキュリティなど、政府や規制当局の動向にも注意が必要だ。
加えて、2026年上期の減収が示すように、短期的には成長鈍化が課題となっている。2025年に21%の調整後EPS減少を経験した2026年第2四半期には、調整後EPSも前年同期比26%減少した。会社は2026年のオーガニック売上高成長率と調整後EPS見通しを更新しており、今後の業績回復が重要な焦点になる。
それでも、Fiservの魅力は「金融取引が存在する限り必要とされるインフラ」を持っていることだ。
スマートフォンで商品を購入する。店舗でカードを使う。銀行口座から送金する。企業が売上を管理する――。こうした日常的な金融取引の裏側には、膨大なITシステムが存在する。Fiservはその「見えない部分」を支える企業なのである。
今後の注目点は、Cloverを中心とした加盟店向けサービスの成長、AIを利用した金融・決済サービスの高度化、銀行向けシステムのデジタル化、そしてMerchant SolutionsとFinancial Solutionsを組み合わせた新たな収益機会だ。
派手なAI半導体企業とは異なり、Fiservのサービスは一般消費者からは見えにくい。しかし、**「お金が動くところにビジネスがある」**という点では、デジタル社会の成長を取り込める企業の一つといえる。
キャッシュレス化、eコマース、AI、デジタルバンキング――。これらの成長テーマを「決済」という巨大なインフラから捉えるなら、Fiservは非常に興味深い存在だ。短期的な業績減速を乗り越え、CloverやAIを次の成長エンジンへ育てられるか。FISVを評価するうえでは、今後の売上高だけでなく、決済プラットフォームの利用規模と収益性がどこまで拡大するかに注目したい。
Fortinet(フォーティネット)――AI時代の「サイバー要塞」、ネットワークとセキュリティの融合で成長
サイバー攻撃の高度化が進むなか、企業にとって「情報を守ること」は、もはやIT部門だけの問題ではなく、経営そのものに関わる重要課題になっている。こうしたサイバーセキュリティ市場で存在感を高めているのが、米国のFortinet(フォーティネット)だ。NASDAQに「FTNT」のティッカーで上場する同社は、企業や政府、通信事業者などにネットワークセキュリティ製品・サービスを提供している。
フォーティネットの特徴は、ファイアウォールを中心としたネットワークセキュリティと、SD-WAN、SASE、クラウド、無線LAN、スイッチなどのネットワーク機能を組み合わせ、**「ネットワークそのものを安全にする」**という発想を持っていることだ。
代表的な製品が「FortiGate」である。企業ネットワークと外部インターネットの間に設置され、通信を監視して不正なアクセスを防ぐ次世代ファイアウォール(NGFW)として利用されている。企業がインターネットを使う限り、ネットワークの入口を守る仕組みは欠かせない。
フォーティネットの強みは、このFortiGateを起点としてセキュリティ製品群を広げてきた点にある。ファイアウォールだけでなく、エンドポイント、クラウド、メール、認証、セキュアアクセスなど、さまざまな領域をカバーする製品・サービスを提供している。
さらに同社は「FortiOS」という独自OSを軸に製品群を統合している。複数のセキュリティ製品をバラバラに導入するのではなく、統一された環境で管理しやすくすることで、企業の運用負担を減らす狙いがある。
この戦略は、現在のサイバーセキュリティ市場において重要性を増している。
企業のIT環境は以前よりはるかに複雑になった。オフィスだけでなく、クラウド、データセンター、リモートワーク、スマートフォン、IoT機器など、さまざまな場所からネットワークにアクセスする。さらにAIの導入によって、扱うデータ量や接続されるシステムは増えている。
その結果、「社内ネットワークの中は安全」という従来型の考え方だけでは対応しにくくなっている。
そこで注目されているのが、**SASE(Secure Access Service Edge)**やゼロトラストと呼ばれる考え方だ。ユーザーや端末がどこにいるかに関係なく、アクセスするたびに安全性を確認し、必要なサービスだけを提供する。フォーティネットもこうした市場に積極的に参入している。
2025年の通期業績を見ると、Fortinetは売上高71億8400万ドルを計上し、前年比14.2%増となった。特に注目されるのがサービス収入で、前年比17.3%増の44億9500万ドルとなり、全体の売上高の6割超を占めた。
これはフォーティネットのビジネスモデルが変化していることを示している。
従来のセキュリティ企業では、ファイアウォールなどの機器を販売することが売上の中心だった。しかし、現在は機器を導入してもらった後のセキュリティサービス、サブスクリプション、保守・サポートなどの継続的な収益が重要になっている。
このストック型収益の拡大は、業績の安定性を高めるうえでも重要だ。
また、2025年の製品売上高は26億8900万ドルで前年比9.3%増だった。ハードウエア販売も成長しているものの、サービス収入の伸びの方が大きい。フォーティネットが「機器メーカー」から「継続的に利用されるセキュリティプラットフォーム企業」へ移行していることが分かる。
そして、今後の成長を考えるうえで欠かせないのがAIだ。
AIは企業の生産性を高める一方、新たなセキュリティリスクも生み出す。生成AIを利用したフィッシング、AIによって自動化された攻撃、ディープフェイク、悪意のあるコード生成など、サイバー攻撃側もAIを利用し始めている。
一方、守る側もAIを活用できる。膨大な通信データから異常を発見したり、攻撃パターンを分析したり、セキュリティ担当者の対応を支援したりすることが可能になる。
フォーティネットはAIを活用したセキュリティ機能を製品群に組み込み、AIを攻撃と防御の両面から重要な技術と位置付けている。2025年にはAIを活用した「FortiAI」関連の機能強化も進めており、セキュリティ運用の自動化・効率化が今後の重要テーマとなる。
さらに興味深いのが、セキュリティとネットワークの融合だ。
企業がクラウドやリモートワークを利用するようになると、「ネットワーク」と「セキュリティ」を別々に管理することが難しくなる。通信を速くするだけではなく、安全性も同時に確保する必要があるからだ。
フォーティネットは、この領域で「Secure Networking」を掲げている。セキュリティ機能とネットワーク機能を一体化することで、企業がよりシンプルにITインフラを管理できるようにする戦略だ。
2026年第1四半期の業績では、売上高は18億8000万ドルで前年同期比14%増、製品売上高は7%増、サービス売上高は17%増となった。また、2026年3月末時点のRPO(残存履行義務)は前年比24%増の93億ドルとなっている。
RPOは将来売上につながる契約残高を示す指標の一つであり、サブスクリプション型ビジネスの拡大を見るうえで注目できる。
もちろん、リスクもある。サイバーセキュリティ市場にはPalo Alto Networks、CrowdStrike、Zscalerなど、強力な競合企業が多数存在する。市場の変化が速く、企業が求めるセキュリティ対策も年々変化するため、継続的な研究開発が欠かせない。
また、サイバー攻撃そのものが高度化することで、セキュリティ企業に求められる責任も大きくなる。万が一、製品やサービスに重大な脆弱性が発生すれば、顧客企業だけでなく同社の信用にも影響する。
それでも、長期的な視点ではサイバーセキュリティ市場そのものが拡大する可能性は高い。クラウド、IoT、5G、AI、デジタル化などが進めば、企業や社会のネットワークへの依存度はますます高まる。ネットワークが重要になるほど、それを守るセキュリティへの投資も必要になる。
特にAI時代には、「AIを導入する企業」と「AIを攻撃に利用する犯罪者」の双方が増える可能性がある。企業はAIを活用しながら、同時にAIを悪用した攻撃から自社のデータやシステムを守らなければならない。
その意味でフォーティネットは、単なるファイアウォールメーカーではなく、AI・クラウド・ネットワーク時代のデジタルインフラを守る企業として捉えることができる。
今後の投資ポイントは、サービス収入やRPOの成長が続くか、SASEやSecure Networkingがどこまで拡大するか、そしてAIを活用したセキュリティ製品が新たな成長ドライバーになるかだろう。
サイバー攻撃は、企業がデジタル化する限りなくならない。むしろAIによって攻撃手法が高度化すれば、守る側の技術も一段と重要になる。「攻撃される可能性がある限り、守るための投資は続く」――この構造を考えれば、フォーティネットはデジタル社会の成長を陰から支える有力なセキュリティ企業の一つといえる。
まとめ――4社から見える「デジタル社会を支える企業」の強さ
今回取り上げた4社は、事業内容こそ大きく異なりますが、共通しているのはデジタル化が進む社会を裏側から支えていることです。
アンシスはシミュレーションによって製品開発を効率化し、ペロトンはデジタルコンテンツとフィットネス機器を融合させ、ファイサーブは決済や金融システムを支え、フォーティネットは企業ネットワークをサイバー攻撃から守っています。つまり、AIやデジタル技術そのものを提供する企業だけでなく、AI・デジタル化が広がることで需要が増える周辺企業にも成長機会が存在するのです。
特に今後は、AIの普及によって企業活動そのものが変化すると考えられます。製品開発ではAIとシミュレーション、金融ではAIと決済、セキュリティではAI同士による攻防、個人向けサービスではAIを活用したパーソナライズなど、さまざまな領域で新しい市場が生まれる可能性があります。
NASDAQ100には、こうした世界の変化を先取りする企業が数多く存在します。今回の4社はその一例にすぎません。「有名企業だから投資する」のではなく、「どんな社会変化を取り込もうとしている企業なのか」に注目することが、個別銘柄を見るうえで重要といえるでしょう。




