
監修者:市川雄一郎
GFS校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長
オニツカタイガー分社化から見える、アシックス再評価の本質を徹底解説
はじめに
アシックスという会社に対して、いまだに「ランニングシューズに強い日本のスポーツ用品メーカー」というイメージを持っている人は多いと思います。
もちろんそれは間違いではありません。
ただ、今のアシックスをそのイメージだけで見ると、かなり実態を見誤ります。
なぜなら、2025年のアシックスは、売上高が8,109億円、営業利益が1,425億円、営業利益率が17.6%まで上がり、売上・営業利益ともに4年連続で過去最高を更新したからです。しかも会社は2026年についても、売上高9,500億円、営業利益1,710億円、営業利益率**18.0%**を見込んでいます。これは単に「よく売れている靴会社」の数字ではありません。むしろ、**ブランド力、価格決定力、DTC、グローバル展開、ラグジュアリー化まで含めた“収益性の高いブランド企業”**へ変わってきている数字です。
今回のYahoo!ニュース記事のベースになっているのは、ロイターが伝えたオニツカタイガー事業の分社化です。アシックスは2026年6月10日、オニツカタイガー事業を2027年1月1日付でOT GROUPへ承継する会社分割を行う方針を正式発表しました。会社はその理由として、オニツカタイガー事業が近年、地理的拡大とブランド認知向上によって急成長しており、より独立した運営体制にすることで意思決定の迅速化とブランド特性に合った競争力創出を狙うと説明しています。
ロイターによると、オニツカタイガーの2025年売上は1,365億円で前年比43%増、利益率は38%近くと、アシックスの5つの主要カテゴリーの中でも最も高い水準でした。背景には、レトロスニーカーブーム、欧州での需要、そして訪日観光客需要の強さがあります。つまり今回の分社化は、業績不振事業の切り離しではなく、あまりに好調な事業をさらに伸ばすための再編です。
このニュースが面白いのは、アシックスがいま、
パフォーマンススポーツブランドとしての強さ
と
オニツカタイガーというラグジュアリー・ライフスタイルブランドの強さ
の両方を持ち始めていることを示しているからです。
つまり、今のアシックスは単なるスポーツ用品メーカーではありません。
機能性ブランド
と
ファッション性ブランド
の二本柱を持つ、日本ではかなり珍しいグローバルブランド企業へ変わりつつあります。
この記事では、
今回のオニツカタイガー分社化は何を意味するのか
アシックスはなぜここまで強くなったのか
投資家はどこを評価すべきか
逆に、どこにリスクがあるのか
を、包括的に解説していきます。
結論を先に言うと、今回のニュースは単なる組織再編ではなく、
アシックスが“スポーツメーカー”から、“高収益のグローバル複合ブランド企業”へ進化していることを市場に示した出来事
だと考えるべきです。
第1章 今回のニュースは何が起きたのか
オニツカタイガー分社化の本当の意味
2026年6月10日、アシックスは、オニツカタイガー事業をOT GROUPという100%子会社へ承継する会社分割を実施する方針を発表しました。効力発生日は2027年1月1日予定です。さらに、各国の地域子会社の中にあるオニツカタイガー事業も、OT GROUP傘下へ再編する方針だとしています。
この発表文を読むと、会社側の狙いはかなり明確です。
アシックスは、オニツカタイガー事業について、近年のグローバル成長が加速し、直営店拡大を中心に**「ラグジュアリーライフスタイルブランド」**としての地位確立を進めてきたと説明しています。
そのうえで、分社化によって
意思決定を速くする
ブランド特性に合った競争力を高める
事業別の業績可視化と経営責任を明確にする
としています。
ここで大事なのは、これは守りの再編ではなく、攻めの再編だということです。
企業が不採算事業を切り出すときにも分社化はありますが、今回のケースは逆です。
オニツカタイガーは伸びすぎるほど伸びており、アシックス全体の中で、より独立した意思決定が必要なほど大きくなっている。
だからこそ切り出す。
ロイターも、アシックスが分社化を考える背景として、
オニツカタイガーが利益成長の重要ドライバーになっていること
を強調しています。
つまり市場は今回のニュースを、ネガティブではなく、
「強いブランドをもっと強くするための組織変更」
として見る可能性が高いです。
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第2章 そもそも、なぜアシックスはこんなに強くなったのか
アシックスの強さは、単に“最近スニーカーが人気だから”では説明できません。
数字を見ると、かなり構造的に強くなっています。
2025年通期では、売上高8,109億円、営業利益1,425億円、営業利益率17.6%でした。売上は前年比19.5%増、営業利益は42.4%増で、利益率も2.8ポイント改善しています。しかも、売上・営業利益ともに過去最高を4年連続で更新しています。
このペースは、成熟した日本企業としてはかなり異例です。
さらに2026年第1四半期も非常に強いです。
アシックスは2026年Q1に、売上高2,702億円、営業利益607億円を記録し、営業利益は前年同期比36.5%増、利益は47.2%増で、いずれも過去最高となりました。会社は、全カテゴリー・全地域で売上が伸びたと説明しています。
これだけ強い理由は、大きく四つあります。
1. パフォーマンスランニングが強い
アシックスの土台は、依然としてパフォーマンスランニングです。
2024年の中期計画アップデートでも、会社はPerformance Running Footwearで世界No.1ブランドを目指す方向を改めて掲げています。これは単なるスローガンではなく、同社のブランド戦略の核です。
ランニングは、スポーツカテゴリーの中でもグローバルで市場が大きく、継続購買が起きやすく、機能性差別化もしやすい。
この土台があるから、アシックスは値崩れしにくいのです。
2. SportStyleが伸びている
会社は中計アップデートの理由として、SportStyleとOnitsuka Tigerの著しい進展が営業利益拡大を牽引していると明記しています。
つまり、スポーツ用の本流だけでなく、スポーツスタイル、すなわち普段履き・ファッション寄りの市場でもブランドが伸びている。
この二重構造が、アシックスの成長をかなり強くしています。
3. DTCと単価改善が進んでいる
中計アップデートでは、粗利率改善の背景として、
エントリー価格商品の比率低下
値引き販売比率の低下
ASICS.COM中心の質重視DTC成長
が挙げられています。
これは非常に重要です。
売上が伸びるだけでなく、安売りを減らしても売れるブランドになっていることを意味するからです。
4. 地域分散が効いている
同じ資料では、日本、北米、欧州、大中華圏、東南アジア・インドなど、複数地域で成長が進んでいることが示されています。
つまりアシックスの強さは日本国内だけではありません。
グローバルブランドとしての広がりがあり、それが為替追い風も含めて利益に乗りやすい構造になっています。
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第3章 オニツカタイガーは、なぜそんなに特別なのか
今回のニュースの主役は、やはりオニツカタイガーです。
では、なぜここまで特別な存在になったのでしょうか。
ロイターによると、オニツカタイガーの2025年売上は1,365億円で、前年比43%増でした。しかも利益率は38%近くで、アシックス5カテゴリーの中でも最高水準です。
普通のアパレルやスポーツ用品企業で利益率38%は、かなり高いです。
これは単なる売上成長ではなく、ブランドの質そのものが高いことを示しています。
なぜそこまで利益率が高いのか。
一つは、オニツカタイガーがラグジュアリー・ライフスタイル寄りの戦い方をしているからです。
アシックス自身も、オニツカタイガーを「luxury lifestyle brand」と位置づけています。
つまり、機能性スポーツブランドとして価格競争に巻き込まれるのではなく、ブランドストーリー、デザイン、店舗体験、直営店戦略、訪日需要を使って、高単価・高粗利を実現しているのです。
もう一つは、時流との相性です。
ロイターは、オニツカタイガーの成長背景として、
レトロスニーカーブーム
欧州需要
訪日観光需要
円安
を挙げています。
つまり、ブランド自体が強いだけでなく、今の消費トレンドに非常に乗りやすい位置にいるのです。
「日本発」「レトロ」「ミニマル」「ファッション性」という要素が重なり、スポーツブランドの文脈を超えて評価されています。
投資家目線で言うと、オニツカタイガーの価値は、単に売れていることではありません。
アシックスの中に、ナイキのランニングと、ラグジュアリースニーカー的な別人格が同居している
ことです。
これは非常に強い。
なぜなら、一つの会社の中に、
機能で勝つブランド
と
感性で勝つブランド
の両方があるからです。
第4章 では、今回の分社化は株式市場にどう映るのか
今回のオニツカタイガー分社化は、市場に対して三つのメッセージを出していると思います。
1. オニツカタイガーの価値を明確化したい
アシックスは再編の目的として、事業ごとの業績可視化や経営責任の明確化を挙げています。
これは投資家向けに言い換えると、
「オニツカタイガーの価値を、もっとはっきり見せたい」
ということです。
これまでアシックス全体の中に埋もれていた収益性や成長力が、分社化によってより見えやすくなるなら、市場はその価値を再評価しやすくなります。
2. ブランドごとの経営スピードを上げたい
急成長ブランドにとって、一番怖いのは組織の重さです。
ロイターでも、組織が大きくなると承認が増えて意思決定が遅くなる、といった市場関係者のコメントが紹介されています。
つまり分社化は、単なる経理上の整理ではなく、成長ブランドのスピードを守るための手です。
これはポジティブに映りやすいです。
3. アシックス全体が“複数ブランド経営”へ進化していることを示した
従来のアシックス像は、「アシックスブランド中心の会社」でした。
でも今回の動きは、
ASICS
Onitsuka Tiger
を別々に最適化し、それぞれを伸ばす方向です。
これは、企業評価として「単一ブランド企業」よりも「ブランドポートフォリオ企業」へ近づくことを意味します。
市場がここをどう評価するかは今後の焦点ですが、少なくとも戦略の解像度は上がります。
第5章 アシックスの将来性はどこにあるのか
アシックスの将来性を考えるとき、私は大きく三つあると思います。
1. 収益性のさらなる改善
会社は2026年に営業利益1,710億円、営業利益率**18.0%**を見込んでいます。
すでに2025年で17.6%まで来ているので、さらにもう一段高収益化する計画です。
スポーツ用品企業としてこれはかなり高い水準です。
つまり、アシックスの将来性は「もっと売上を増やす」だけではなく、より利益率の高い会社になることにもあります。
2. SportStyleとOnitsuka Tigerの二本柱
会社は中計アップデートで、SportStyleとOnitsuka Tigerを成長ドライバーと明示しています。
パフォーマンスランニングだけに依存しない。
これは大きいです。
スポーツ市場が景気や競技人口の影響を受けても、ライフスタイル・ファッション側で成長余地を取れるからです。
3. グローバルDTC強化
アシックスは、値引き依存を減らしつつ、ASICS.COMを軸とした質重視のDTC成長を進めています。
DTCが強くなるということは、
粗利率改善
顧客データ蓄積
ブランドコントロール強化
につながります。
スポーツメーカーが強くなるときの王道に入ってきています。
第6章 それでも注意すべきリスクは何か
良い話ばかりではありません。
アシックスにも当然リスクがあります。
1. オニツカタイガー依存が強まりすぎるリスク
オニツカタイガーが強すぎるのは魅力ですが、逆に言えば、期待がそこへ集中しやすいです。
もしレトロスニーカーブームが鈍化したり、訪日需要が弱くなったり、ラグジュアリー化戦略が想定通り進まなかったりすると、市場は敏感に反応しやすいです。
高収益ブランドほど、少しの鈍化でも株価に効きやすいです。
2. 関税・為替・地政学リスク
2026年第1四半期の資料では、売上・利益は大きく伸びた一方、会社は米国関税の影響が粗利率に出ていることに言及しています。
これは無視できません。
アシックスはグローバル企業なので、為替や関税、サプライチェーン分断の影響を受けます。
円安が追い風になる面もありますが、それだけではありません。
3. 期待の高さそのもの
アシックスはすでにかなり強い会社です。
だから市場の期待も高い。
2026年第1四半期後、SGI Europeは「過去最高Q1なのに、通期見通し据え置きで株価が下落した」と報じました。
つまり、良い決算を出しても、期待がそれ以上なら売られることがある。
強い会社ほど、ここは難しいです。
第7章 投資家はアシックスをどう見るべきか
投資家としてアシックスを見るとき、私は「スポーツ用品株」としてだけ見るのはもったいないと思います。
今のアシックスは、
高収益のパフォーマンスブランド
急成長するスポーツスタイルブランド
ラグジュアリー化が進むオニツカタイガー
を持つ会社です。
つまり、アシックスは
ナイキやアディダスのようなグローバルスポーツブランド文脈
と
ラグジュアリースニーカー・ファッション文脈
の両方で見られる余地があります。
この“二重評価”は非常に面白いです。
普通のスポーツメーカーは、競技市場の成長だけで語られがちです。
でもアシックスは、ファッション、インバウンド、直営店体験、ブランドストーリーの価値でも語れる。
ここに、今の再評価の本質があります。
一方で、短期では期待先行の反動もあり得ます。
良い会社だから、いつでも買いやすいわけではありません。
投資家としては、
業績の質
OT分社化後の見え方
DTCの進展
スポーツブランドとしての競争力維持
をセットで追うのが大事です。
おわりに
今回のオニツカタイガー分社化のニュースは、見方によっては単なる組織再編に見えるかもしれません。
でも実際には、それ以上の意味があります。
アシックスは2025年に売上8,109億円、営業利益1,425億円、営業利益率17.6%という高水準を達成し、2026年もさらに成長を見込んでいます。
その中でオニツカタイガーは、売上1,365億円、前年比43%増、利益率38%近いという、グループでも際立った存在になっています。
つまり今回の再編は、問題事業の整理ではなく、強すぎる事業をもっと強くするための再編です。
そしてそれは、アシックスが「高性能なスポーツシューズの会社」から、「複数の強いブランドを持つ高収益グローバル企業」へ変わってきたことを示しています。
今回の結論を一言でまとめると、
アシックスのニュースの本質は、オニツカタイガー分社化そのものではなく、アシックスがパフォーマンススポーツとライフスタイル・ラグジュアリーの両方で戦える会社に進化していることにある。投資家にとっては、単なるスポーツ用品株ではなく、ブランドポートフォリオ企業として再評価できるかが最大の論点
ということです。
【重要】免責事項
投資判断の最終責任: 本記事で紹介している銘柄やセクター、分析内容は、情報提供および学習の啓発のみを目的としており、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、必ずご自身の判断と責任で行ってください。
成果の非保証: 過去のデータや予測は、将来の投資成果を保証するものではありません。市場環境の変化により、資産が減少するリスクがあります。
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損失の補償: 本記事の内容に基づいて被ったいかなる損害(直接的・間接的を問わず)についても、筆者は一切の責任を負いません。
監修者:市川雄一郎
GFS校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長




