
スマートシティ関連銘柄に注目――行政と民間がつくる「未来の街」
AIやIoT、5G、クラウド、ビッグデータなどのデジタル技術を活用し、交通、エネルギー、防災、行政、医療、住宅など都市のさまざまな機能を効率化する「スマートシティ」が注目されている。背景にあるのは、人口減少や高齢化、都市部への人口集中、自然災害の激甚化、脱炭素化など、日本の街が抱える多様な課題である。限られた人材や財源で都市サービスを維持・向上させるためには、データを活用した効率的な都市運営が欠かせなくなっている。
スマートシティの実現には行政と民間企業の連携が重要だ。自治体が地域の課題や政策の方向性を示し、IT・通信企業がデータ基盤やAI技術を提供し、建設・不動産企業が街や建物を整備する。さらに、自動車やエネルギー、交通など幅広い業種が参加することで、都市全体をつなぐ仕組みが構築されていく。スマートシティを支える代表的な上場企業として日立製作所、NEC、三菱地所などに注目し、それぞれが持つ技術や都市開発のノウハウから、次世代の街づくりを考えていく。
| 企業名 | 証券コード | 主な関連分野 | スマートシティでの位置付け |
|---|---|---|---|
| 日立製作所 | 6501 | AI・IoT・社会インフラ | 都市データ、交通、エネルギー、行政DXなど |
| NEC | 6701 | AI・通信・行政DX | 都市OS、顔認証、行政、交通、防災など |
| NTT | 9432 | 通信・ICT・データ | 通信インフラ、都市データ、地域DXなど |
| NTTデータグループ | 9613 | IT・システム開発 | 行政、交通、金融など幅広い都市DX |
| KDDI | 9433 | 5G・IoT・通信 | 5G、IoT、MaaS、地域DXなど |
| 三菱地所 | 8802 | 不動産・都市開発 | 丸の内・大手町などでデジタルを活用した街づくり |
| 三井不動産 | 8801 | 不動産・都市開発 | 柏の葉などでスマートシティ型の街づくり |
| 大林組 | 1802 | 建設・都市インフラ | スマートビル、都市インフラ、エネルギーなど |
| パナソニックHD | 6752 | エネルギー・住宅・IoT | スマートハウス、蓄電池、エネルギー管理など |
| トヨタ自動車 | 7203 | モビリティ・都市開発 | 「Woven City」を中心とした次世代都市づくり |
スマートシティとは何か? 民間企業と行政がつくる「次世代の街」の現在地
「スマートシティ」という言葉を耳にする機会が増えている。AIやIoT、5G、ビッグデータなどの先端技術を活用して、暮らしやすく、効率的で、持続可能な街をつくる取り組みである。もっとも、スマートシティは単に街中にセンサーを設置したり、行政手続きをオンライン化したりすることを意味するものではない。交通、エネルギー、防災、医療、教育、行政、商業など、都市を構成するさまざまなサービスをデジタル技術でつなぎ、住民の生活の質を高めることが大きな目的となっている。
背景には、日本が抱える都市の課題がある。少子高齢化や人口減少が進む一方、大都市では交通混雑やエネルギー消費、災害への備えなどが課題となっている。地方では、公共交通の維持や医療・買い物など生活サービスへのアクセス確保が問題になっている。こうした課題に対して、限られた人員や財源だけで対応するのには限界がある。そこで、データとデジタル技術を活用して都市運営を効率化しようという発想がスマートシティにつながっている。
例えば交通分野では、鉄道やバス、タクシー、自転車、カーシェアなどの移動手段をデータでつなぎ、利用者が目的地まで最適なルートを選べるようにするMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)が代表例である。高齢者や車を運転できない人にとって、公共交通をより便利に利用できる環境を整えることは、地域の暮らしやすさを大きく左右する。さらに、交通量のデータを分析して信号を最適化すれば、渋滞の緩和やCO2排出量の削減にもつながる。
エネルギー分野でもスマートシティとの関係は深い。住宅やオフィス、商業施設などの電力使用量を把握し、AIなどを活用してエネルギー消費を効率化するほか、太陽光発電や蓄電池、電気自動車などを組み合わせて地域全体でエネルギーを有効利用することも考えられる。再生可能エネルギーの導入拡大や脱炭素化が求められるなか、エネルギーを「つくる」「ためる」「使う」を一体的に管理することは、これからの都市づくりにおいて重要なテーマとなる。
防災も重要な領域である。河川の水位、雨量、道路の状況、人の流れなどをセンサーやカメラで把握し、災害発生時に迅速な情報提供につなげる仕組みが考えられる。例えば、大雨による浸水リスクをリアルタイムで把握し、住民への避難情報や自治体の初動対応に活用できれば、被害の軽減につながる可能性がある。日本は地震、台風、大雨など自然災害が多い国だけに、デジタル技術を活用した防災はスマートシティの重要な役割の一つである。
では、スマートシティは誰がつくるのだろうか。ここで重要になるのが行政と民間企業の役割分担である。行政は、地域の課題を把握し、都市計画や規制、公共サービスなどを通じて全体の方向性を示す役割を担う。一方、民間企業は、通信、IT、建設、不動産、エネルギー、モビリティなど、それぞれの専門分野で技術やサービスを提供する。行政だけでも、民間企業だけでも実現は難しく、官民連携が基本となる。
行政にとってスマートシティは、単なる「デジタル化」ではない。住民の利便性を高めながら、行政サービスの効率化や地域経済の活性化、災害への対応力向上などを実現するための都市政策である。例えば自治体が地域の交通課題を把握し、民間の交通事業者やIT企業と連携して新しい移動サービスを導入するケースが考えられる。また、公共施設のエネルギー使用量をデータ化し、省エネ設備を導入することで、行政コストの削減を目指すこともできる。
民間企業にとっては、新たな事業機会が生まれる。通信会社なら5GやIoTの通信基盤、IT企業ならデータ分析やAI、建設会社ならスマートビルや都市インフラ、不動産会社ならスマートシティ型の街づくり、自動車会社なら次世代モビリティといった具合である。つまりスマートシティは、一つの業界だけで完結するテーマではなく、多数の産業を横断する巨大な市場になり得る。
実際、日本でもさまざまな地域でスマートシティの取り組みが進められている。都市開発会社が新しい街区を整備し、そこに通信、エネルギー、交通、住宅、商業などのサービスを組み合わせるケースもある。トヨタ自動車が静岡県裾野市で進める「Woven City」は、その象徴的な取り組みの一つであり、自動運転や次世代モビリティ、AIなどを活用した未来の街づくりを目指している。
ただし、スマートシティには課題もある。最大のポイントの一つが、個人情報やプライバシーの取り扱いだ。街中のセンサーやカメラから大量のデータを収集すれば、便利になる一方で、誰がどのデータを取得し、何のために利用するのかという問題が生じる。住民から信頼されるためには、データの利用目的や管理方法を明確にし、安全性を確保する必要がある。
また、デジタル技術を導入すれば必ず住民が便利になるとも限らない。高齢者などデジタル機器の利用に不慣れな人がサービスから取り残される「デジタルデバイド」への配慮も必要だ。スマートシティの本質は、最新技術を導入することではなく、その技術を使って住民の生活をどう良くするかにある。技術ありきではなく、地域の課題から逆算して仕組みを設計することが重要なのである。
投資という観点から見ると、スマートシティは非常に裾野の広いテーマである。日立製作所、NEC、NTT、NTTデータグループ、KDDIといったIT・通信企業だけでなく、三菱地所や三井不動産、大林組などの都市開発・建設企業、パナソニック ホールディングスのような電機企業、トヨタ自動車のようなモビリティ企業まで関連してくる。スマートシティが進展すれば、都市インフラ、データ基盤、エネルギー、交通、住宅など幅広い分野に需要が波及する可能性がある。
スマートシティは、未来のSFのような話ではなく、すでに始まっている都市づくりの考え方である。人口減少、高齢化、災害、脱炭素、交通問題といった課題が複雑化するなか、行政と民間企業がデータや技術を共有しながら地域を運営する重要性は今後さらに高まるだろう。重要なのは「スマートな街をつくること」そのものではなく、そこに暮らす人が安全で便利に、そして持続的に暮らせる環境をつくることである。行政の政策力と民間企業の技術力をどう組み合わせるのか。スマートシティの成否は、その官民連携の設計にかかっていると言えるだろう。
日立製作所とスマートシティ――デジタル技術で「街そのもの」を変える社会インフラ企業の挑戦
スマートシティという言葉から、AIやIoTを駆使した未来的な街を想像する人は多いだろう。だが、実際のスマートシティは、単に新しい技術を導入した街を意味するものではない。交通、エネルギー、行政、防災、医療、産業など、都市を構成するさまざまな仕組みをデジタル技術でつなぎ、住民の生活をより便利で安全、効率的なものにしていく取り組みである。こうした分野で存在感を発揮しているのが、総合電機大手の日立製作所である。
日立製作所の特徴は、家電メーカーというよりも、ITと社会インフラを組み合わせた「社会イノベーション事業」を幅広く展開している点にある。鉄道、電力、産業、ビル、行政など、都市を支えるさまざまな領域に事業基盤を持つため、スマートシティとの親和性が高い。スマートシティでは、一つのシステムだけで都市全体を変えることはできない。交通、エネルギー、建物、人の移動、行政サービスなどを連携させる必要がある。その点で、複数の社会インフラを手掛けてきた日立の強みが生きてくる。
例えば交通は、スマートシティを考えるうえで重要な分野だ。都市には鉄道、バス、自動車、タクシー、自転車などさまざまな移動手段が存在する。これらの情報をデータとして把握し、AIなどを活用して分析できれば、混雑の緩和や運行効率の向上、利用者の利便性向上につなげられる。日立は鉄道関連システムやITサービスを長年手掛けており、鉄道を単独のサービスとして捉えるのではなく、都市全体の交通ネットワークの一部として考えることができる。
エネルギー分野でもスマートシティとの接点は大きい。再生可能エネルギーの普及や脱炭素化が進むなか、電力を「どれだけ使ったか」だけでなく、「いつ、どこで、どのように使うか」をデータで把握することが重要になっている。住宅やオフィス、工場などの電力需要を分析し、エネルギーを効率的に利用できる仕組みを整えることで、都市全体の省エネにつながる可能性がある。日立が持つITや制御技術、社会インフラ分野の知見は、こうしたエネルギーマネジメントとの相性が良い。
さらに、スマートシティに欠かせないのがデータの活用である。都市には膨大なデータが存在する。鉄道の利用状況、道路の混雑状況、電力消費量、施設の稼働状況、気象情報、防災情報など、その種類は非常に多い。これらを個別に管理するだけでは、都市全体の課題を把握することは難しい。そこで重要になるのが、異なる分野のデータを連携させ、都市運営に役立てる考え方である。
日立は、こうしたデータ活用を支えるデジタル技術を幅広く展開している。企業や自治体が保有するデータをつなぎ、分析し、意思決定に役立てることは、スマートシティの基盤そのものと言える。例えば、交通データとイベント情報を組み合わせれば混雑予測に役立てられる可能性があり、気象情報や河川データと地域情報を組み合わせれば防災対策にも活用できる。データを単に集めるだけでなく、異なるデータを組み合わせて新しい価値を生み出すことが、デジタル時代の都市づくりでは重要になる。
一方、スマートシティは民間企業だけで完成するものではない。行政の役割も非常に大きい。道路、上下水道、公共施設、防災、福祉など、都市には自治体が担う領域が数多く存在する。自治体が地域の課題を把握し、必要なサービスやデータ基盤の方向性を示し、そこに日立のような民間企業が技術やシステムを提供する。こうした官民連携がスマートシティを実現するうえで重要になる。
特に日本では、人口減少と高齢化によって自治体の職員や財源が限られる地域が増えている。すべての行政サービスを従来と同じ方法で維持することが難しくなるなか、デジタル技術を活用して業務を効率化する必要性は高まっている。行政手続きのデジタル化だけでなく、道路や公共施設の維持管理、防災、地域交通などにもデータを活用できれば、限られた人材をより重要な業務に振り向けることが可能になる。
また、日立のスマートシティ関連事業を考える際には、海外市場も見逃せない。世界各国で都市化が進み、交通渋滞、エネルギー問題、環境問題などへの対応が求められている。日本で培った鉄道や社会インフラ、デジタル技術のノウハウを海外の都市課題に展開できれば、新たな事業機会につながる。特に都市交通は、人口増加や都市集中が進む新興国を中心に需要が見込まれる分野である。
もっとも、スマートシティには課題もある。大量のデータを扱う以上、サイバーセキュリティや個人情報保護への対応が不可欠だ。また、システムを導入すること自体が目的になってしまえば、巨額の投資に対して十分な効果が得られない可能性もある。都市ごとに人口構成や産業、交通事情が異なるため、地域の課題に合わせた設計が求められる。
その意味では、日立の強みは単純に「AIに強い」「ITに強い」ということだけではない。鉄道やエネルギーなどの社会インフラを長年手掛けてきた経験と、デジタル技術を組み合わせられる点にある。リアルな都市インフラとデジタル空間の双方に関わることができる企業だからこそ、スマートシティという巨大なテーマとの接点が生まれる。
スマートシティは、人口減少、脱炭素、防災、交通、行政DXなど、日本が抱えるさまざまな課題を一つの都市政策として考える動きでもある。その実現には自治体、住民、大学、スタートアップ、大企業など、多様なプレーヤーの協力が欠かせない。その中で日立製作所は、ITと社会インフラをつなぐ立場から、都市のデジタル化を支える企業として存在感を高める余地がある。
投資テーマとして見ても、スマートシティは一つの業界に限定されない。通信、IT、建設、不動産、電機、自動車など多くの企業に波及する可能性がある。そのなかでも日立製作所は、社会インフラとデジタルの両方を手掛ける点が特徴的だ。これからの都市が「建物や道路をつくる」だけでなく、「データを使って都市を運営する」方向へ進むほど、日立が培ってきた技術やノウハウが生きる場面は増えていくだろう。スマートシティの進展は、日立製作所にとっても社会インフラ企業からデジタル社会を支える企業へと進化する大きな機会になりそうだ。
≫ 無料講座:お金のプロが教える「初心者が毎月収入を得る投資の始め方」
NECとスマートシティ――AI・生体認証・データ活用で実現する「つながる街」の未来
「スマートシティ」は、AIやIoT、5G、クラウドなどのデジタル技術を活用し、交通、行政、防災、エネルギー、医療など都市を構成するさまざまなサービスを効率化する街づくりである。人口減少や高齢化、災害対策、脱炭素化など、都市が抱える課題が複雑になるなかで、その重要性は年々高まっている。こうしたスマートシティの実現に向けて、IT・通信企業として幅広い技術を持つNEC(日本電気)は重要な役割を担う企業の一つだ。
NECの特徴は、企業向けITサービスだけでなく、自治体や官公庁、通信、社会インフラなど、社会そのものを支える領域で長年事業を展開してきた点にある。スマートシティでは、単に便利なアプリを一つ導入するだけでは十分ではない。住民の情報、交通状況、公共施設、災害情報など、都市に存在するさまざまな情報を安全に扱い、それぞれのサービスを連携させる必要がある。そのため、行政や社会インフラ分野でシステム構築の実績を持つNECとの親和性は高い。
スマートシティを支える重要な技術の一つが「顔認証」などの生体認証である。NECは顔認証技術で世界的にも知られており、本人確認や入退場管理、空港などのさまざまな場面で技術を展開している。スマートシティにおいても、本人確認をスムーズに行える仕組みは重要だ。例えば、公共施設への入場、行政サービスの本人確認、イベント会場での認証などに生体認証を活用できれば、利用者の利便性を高められる可能性がある。
もっとも、顔認証の活用には個人情報やプライバシーへの配慮が欠かせない。スマートシティでは、人や車の動きをデータとして把握する場面が増えるため、「どのようなデータを収集し、何のために使うのか」を明確にする必要がある。技術的に高度であることだけでなく、住民から信頼されるデータ管理を実現することが、スマートシティの普及において重要な条件となる。
NECが強みを発揮できるもう一つの分野が、自治体向けのデジタル化である。行政は住民票、税、福祉、子育て、防災など、住民生活に直結する大量の情報を扱っている。これらをデジタル化し、自治体内部の業務を効率化するだけでなく、住民がスマートフォンなどから簡単に行政サービスを利用できるようになれば、生活の利便性は大きく向上する。
例えば、引っ越しをした住民が複数の窓口を回らなくても、オンライン上で必要な手続きをまとめて行えるようになれば、住民側の負担を減らせる。自治体側にとっても、紙の書類や窓口対応を減らすことで、職員がより専門性の高い業務に時間を使えるようになる。人口減少によって自治体の人手不足が深刻になるなか、行政DXはスマートシティの重要な構成要素となっている。
防災分野でもデジタル技術の活用余地は大きい。日本は地震、台風、豪雨、洪水などの自然災害が多い国であり、災害発生時には迅速な情報収集と情報伝達が求められる。河川の水位、気象情報、道路状況、避難所の混雑状況などをデータとして集約できれば、自治体の意思決定や住民への情報提供を迅速化できる可能性がある。
ここでもNECのようなIT企業と行政との連携が重要になる。行政が保有する防災情報と、民間企業が持つAIやデータ分析技術を組み合わせることで、災害時の状況把握を高度化できる。さらに、平時からデータを蓄積しておけば、過去の災害や地域特性を分析し、避難計画や防災施設の配置などに生かすことも考えられる。
交通もスマートシティにおける重要テーマである。都市では鉄道、バス、自動車、自転車などさまざまな移動手段が存在しており、それぞれのデータを連携できれば、交通渋滞の緩和や公共交通の利便性向上につながる可能性がある。AIによって交通量を分析し、混雑が予想される時間帯や場所を把握することも、効率的な都市運営につながる。
さらに、スマートシティでは「都市OS」と呼ばれる考え方も重要になる。これは、交通、行政、防災、エネルギーなど、分野ごとに存在するデータやサービスを連携させるための基盤である。個別のシステムがバラバラに存在していては、都市全体のデータを有効活用することは難しい。NECのように複数の行政・社会インフラ分野にシステムを提供してきた企業にとって、こうしたデータ連携基盤は重要な事業領域となる。
一方で、スマートシティの構築には行政と民間企業の協力が不可欠だ。自治体は地域の課題や住民ニーズを把握し、都市政策やルールづくりを担う。一方、NECのような民間企業は、AI、クラウド、認証、データ分析、ネットワークなどの技術を提供する。さらに、交通事業者、不動産会社、建設会社、電力会社などが参加することで、都市全体を横断したサービスが実現しやすくなる。
NECにとってスマートシティは、これまで培ってきた官公庁・自治体向けシステム、通信、AI、生体認証、セキュリティなどの技術を横断的に活用できるテーマである。単一の商品を販売するのではなく、複数の技術を組み合わせて都市全体の課題を解決することができれば、継続的なデジタルサービスにつながる可能性もある。
今後、人口減少や高齢化が進めば、行政サービスや公共交通、地域医療などを現在と同じ形で維持することが難しい地域も増えていく。そこで重要になるのが、データを活用して限られた人材や資源を効率的に配分する考え方である。スマートシティは「未来の街」の話であると同時に、人口減少社会を乗り切るための現実的な手段でもある。
NECは、AIや顔認証といった先端技術だけでなく、行政や社会インフラを支えるシステムを長年手掛けてきた。だからこそ、スマートシティという大きなテーマでは、技術そのものを提供するだけでなく、行政と住民、企業をデジタルでつなぐ役割が期待される。スマートシティが本格的に普及すれば、都市の「建物」や「道路」だけでなく、そこを動かすデータやシステムの重要性がさらに高まる。AI、生体認証、行政DX、データ連携、セキュリティなどを幅広く手掛けるNECは、こうした「デジタルで動く街」の基盤を支える企業として、今後も注目される存在となりそうだ。
三菱地所とスマートシティ――丸の内から始まる「デジタルで進化する街づくり」
スマートシティというと、AIやIoT、5Gなどの先端技術を駆使した未来都市をイメージしがちである。しかし、スマートシティの本質は、単に最新技術を街に導入することではない。交通、エネルギー、防災、商業、オフィス、行政など、都市を構成するさまざまな機能をデジタル技術でつなぎ、そこに暮らす人や働く人にとってより便利で快適な環境をつくることにある。その意味で、街そのものを開発・運営してきた不動産会社は、スマートシティ時代において重要なプレーヤーとなる。中でも代表格が三菱地所である。
三菱地所といえば、東京・丸の内、大手町、有楽町などの大規模な街づくりを手掛ける総合不動産会社として知られている。丸の内エリアにはオフィスビルだけでなく、商業施設、飲食店、ホテル、文化施設などが集積しており、日々多くの人が行き交う。こうした巨大な都市空間を長期的な視点で開発・運営してきた経験は、スマートシティを考えるうえで大きな強みとなる。
従来の不動産開発では、土地を取得し、建物を建設し、テナントを誘致することが事業の中心だった。しかし、デジタル化が進む現在は、建物を完成させて終わりではない。建物や街の利用状況をデータで把握し、そのデータを活用してサービスを改善していくことが重要になっている。三菱地所のように街全体を長期的に運営する企業にとって、スマートシティは「不動産を売る・貸す」という従来型のビジネスから、「街を継続的に進化させる」ビジネスへと領域を広げるきっかけになる。
丸の内は、その象徴的なエリアといえる。オフィスワーカー、観光客、買い物客、飲食店の利用者など、さまざまな人が集まる街では、人流や施設利用、交通などに関するデータが重要になる。例えば、時間帯や曜日によって人の流れがどう変化するのかを分析できれば、イベント開催や店舗運営、交通対策などに役立てることができる。施設のエネルギー使用量を分析すれば、省エネや脱炭素化にもつなげられる。
さらに、スマートシティでは建物単体ではなく、建物同士、さらには街全体をつなげる発想が重要になる。オフィスビルの空調や照明、エレベーター、電力設備などをデジタル技術によって効率的に管理し、複数の建物や周辺施設の情報を組み合わせることで、都市全体のエネルギー効率を高めることも可能になる。大規模な不動産ポートフォリオを持つ三菱地所にとって、スマートビルの普及は単なる設備投資ではなく、街の運営方法そのものを変えるテーマとなる。
脱炭素化も、スマートシティとの関係が深い。日本では2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、企業や自治体によるCO2排出量削減が求められている。都市部ではオフィスや商業施設などの建物が多くのエネルギーを消費するため、建物の省エネ性能を高めるだけでなく、エネルギー利用をデータで管理することが重要になる。再生可能エネルギーの導入や電力の効率的な利用、蓄電池や次世代モビリティとの連携なども、これからの街づくりの重要なテーマになっていくだろう。
また、スマートシティは「働く場所」のあり方にも影響を与える。テレワークやハイブリッドワークが普及したことで、オフィスに求められる役割は変化している。単に机と椅子を提供する場所ではなく、社員同士の交流やコミュニケーション、新しいビジネスを生み出す場所としての価値が高まっている。ビルの利用状況や会議室の稼働率などをデータで分析すれば、オフィス空間をより効率的に設計することも可能になる。こうした変化は、オフィス街を運営する不動産会社にとって大きな事業テーマとなる。
一方、三菱地所のような大手不動産会社がスマートシティを進めるうえでは、民間企業だけでなく行政との連携も欠かせない。都市には道路、公園、公共交通、防災など、民間企業だけでは完結しない領域が数多く存在する。自治体が都市政策や地域課題を示し、民間企業が建物や商業施設、デジタル技術などを活用してサービスを提供する。こうした官民連携によって、街全体の利便性を高めることができる。
特に防災は都市開発において重要なテーマである。大都市では人口や企業が集中しているため、地震や大規模停電などが発生した場合の影響も大きい。建物の耐震性を高めることはもちろん、災害時の情報提供、帰宅困難者への対応、電力や通信の確保など、街全体での防災対策が必要になる。デジタル技術を活用して施設の状況や人の流れを把握できれば、災害発生時の対応をより迅速に行える可能性がある。
さらに、三菱地所のスマートシティ戦略を考えるうえでは、スタートアップや他企業との連携も重要になる。スマートシティは一社だけで完成するものではない。AI、通信、エネルギー、モビリティ、決済、ロボットなど、さまざまな企業の技術を組み合わせる必要がある。不動産会社が街という「リアルな実証フィールド」を提供し、新しいサービスを生み出す企業と連携することで、新たな都市サービスが生まれる可能性がある。
もちろん課題もある。街のデジタル化が進めば、個人情報や人流データなどの取り扱いが重要になる。便利なサービスを実現するためにデータを活用しながら、プライバシーをどう守るのかという問題は避けて通れない。また、デジタル設備への投資にはコストがかかるため、導入した技術が実際にどれだけ都市の価値向上につながるのかを検証する必要もある。
それでも、三菱地所にとってスマートシティは大きな成長テーマとなり得る。これまでの不動産開発では、建物や土地そのものが価値の中心だった。これからは、そこに集まる人、企業、データ、サービスをいかに結び付けるかが都市の競争力を左右する可能性がある。
スマートシティの主役は、必ずしもIT企業だけではない。むしろ、実際に街をつくり、建物を保有・運営し、企業や住民との接点を持つ不動産会社の役割は大きい。丸の内という日本を代表するビジネス街を長年にわたって運営してきた三菱地所は、リアルな都市空間とデジタル技術を融合させることで、新しい都市モデルを生み出す可能性を持っている。これからの不動産業界では「どんな建物を建てるか」だけでなく、「どんなデータとサービスで街を動かすか」が重要になる。三菱地所のスマートシティへの取り組みは、不動産業界そのものがデジタル時代にどう進化していくのかを占うテーマとしても注目されそうだ。
まとめ
スマートシティは、単に最新のデジタル技術を導入した「未来型都市」をつくることが目的ではない。住民の暮らしを便利で安全なものにしながら、人口減少や高齢化、防災、環境問題といった社会課題を解決し、持続可能な都市を実現することこそが本質である。そのためには、行政による政策や地域との調整に加え、民間企業が持つIT、通信、建設、不動産、エネルギー、モビリティなどの技術やノウハウを組み合わせる必要がある。
日立製作所やNECはAI、IT、データ活用などデジタル面から都市を支え、三菱地所は丸の内などの大規模な都市開発を通じて、リアルな街とデジタル技術の融合を進める立場にある。こうした企業に加え、NTT、KDDI、トヨタ自動車、三井不動産、大林組、パナソニック ホールディングスなど、さまざまな業種の企業がスマートシティという一つのテーマでつながっている点も興味深い。
今後、都市の価値は建物や道路などのハードだけでなく、そこから生まれるデータをどう活用し、人や企業、行政をどうつなぐかによっても左右されるようになるだろう。スマートシティはIT業界だけのテーマではなく、不動産、建設、通信、自動車、電機など幅広い産業に成長機会をもたらす可能性がある。官民がそれぞれの強みを生かしながら「街そのものをアップデートする」動きが進むなか、関連企業の取り組みは今後も注目しておきたい。




