
雪国が育てた技術と発想――新潟から世界へ羽ばたく個性派上場企業
新潟県といえば、日本有数の米どころや日本酒、豪雪地帯、美しい日本海などを思い浮かべる人が多いだろう。しかし、この地は古くから「ものづくり県」としても発展し、世界市場で活躍する企業を数多く生み出してきた。厳しい自然環境の中で培われた技術力や粘り強い企業文化は、建設機械、住宅設備、食品など幅広い分野で独自の強みを発揮している。
今回紹介するのは、「空気を売る」と称される建設機械メーカーのAIRMAN、日本の暖房文化を支えてきたコロナ、そして新潟県民のソウルフード「もも太郎アイス」で知られるセイヒョーである。一見すると共通点のない3社だが、いずれも地域に根差した技術や発想を武器に、全国、そして世界へ活躍の場を広げてきた企業ばかりだ。新潟だからこそ生まれた企業の物語を通して、この県が持つ産業の奥深さと底力に迫ってみたい。
| 企業名 | 証券コード | 本社 | 面白いポイント |
|---|---|---|---|
| AIRMAN | 6364 | 燕市 | 「北越工業」から社名変更。コンプレッサ・発電機・高所作業車を手掛け、世界100か国以上へ展開する”空気を売る”企業。 |
| コロナ | 5909 | 三条市 | 社名の由来は感染症とは無関係。石油ストーブやエコキュートのパイオニアとして、日本の住環境を支えてきた。 |
| ユキグニファクトリー | 1375 | 南魚沼市 | 旧・雪国まいたけ。人工栽培まいたけを普及させ、「きのこ」で東証プライム市場に上場するユニークな食品企業。 |
| 岩塚製菓 | 2221 | 長岡市 | 高級米菓メーカー。台湾食品大手・旺旺(Want Want)グループとの資本提携でも知られる。 |
| セイヒョー | 2872 | 新潟市 | 新潟県民に親しまれる「もも太郎アイス」のメーカー。地方発のソウルフードを全国へ発信している。 |
| オーシャンシステム | 3096 | 三条市 | スーパーや業務スーパー、食材宅配「ヨシケイ」などを展開し、「食」の総合インフラを目指す企業。 |
| 日本精機 | 7287 | 長岡市 | 自動車・オートバイ向けメーターで世界トップクラスのシェアを持ち、多くの自動車メーカーへ製品を供給している。 |
| 有沢製作所 | 5208 | 上越市 | プリント基板材料や航空宇宙向け複合材料など、高機能素材を手掛ける隠れたハイテク企業。 |
| 田辺工業 | 1828 | 上越市 | 化学・半導体・医薬品工場などのプラント設備工事を得意とし、日本のものづくりを支えるエンジニアリング企業。 |
| ブルボン | 2208 | 柏崎市 | 「ルマンド」「アルフォート」などの人気菓子を展開するほか、保存食や宇宙日本食の開発にも取り組んでいる。 |
日本海と雪が育んだものづくりの王国――歴史・文化・絶景から読み解く新潟県の魅力
日本海に面し、本州で最も長い海岸線を持つ新潟県は、日本有数の米どころとして知られている。しかし、その魅力は農業だけにとどまらない。古くから北前船が行き交う交易の拠点として栄え、豪雪という厳しい自然環境を克服しながら独自の産業を発展させ、現在では世界に誇るものづくり企業を数多く輩出している。豊かな自然、歴史ある港町、伝統文化、そして世界に通用する技術力が共存する新潟県は、日本の縮図ともいえる奥深い魅力を持つ地域である。
新潟県の歴史は古く、縄文時代にはすでに人々が生活していたことが遺跡から明らかになっている。古代には越国(こしのくに)の一部として発展し、その後、越後国と佐渡国に分かれた。特に戦国時代には、「義」の武将として知られる上杉謙信が春日山城を拠点に勢力を拡大し、新潟県は全国の歴史の舞台となった。現在でも上越市には春日山城跡が残され、日本百名城にも選ばれている。毎年開催される「謙信公祭」では、戦国絵巻さながらの武者行列が再現され、多くの観光客を魅了している。
江戸時代になると、新潟は北前船の寄港地として大きく発展した。北海道や東北、日本海沿岸、そして大阪を結ぶ物流ネットワークの中継地点となり、多くの物資と文化が集まったのである。現在も新潟市の「みなとぴあ(新潟市歴史博物館)」では、港町として栄えた当時の歴史を学ぶことができる。また、佐渡島では江戸幕府の財政を支えた佐渡金山が栄え、日本最大級の金銀山として日本の近代化にも大きく貢献した。2024年には「佐渡島の金山」がユネスコ世界文化遺産に登録され、世界からも注目を集める観光地となっている。
新潟県といえば、やはり「米」の存在は欠かせない。日本一ともいわれるブランド米「コシヒカリ」は、魚沼地方を中心に栽培され、その品質は国内外で高く評価されている。昼夜の寒暖差、豊富な雪解け水、肥沃な土壌という条件が揃っているからこそ、甘みと粘りのある米が育つのである。米どころであることは、日本酒文化の発展にもつながった。県内には80を超える酒蔵があり、全国でも屈指の酒どころとして知られる。淡麗辛口と呼ばれる新潟の日本酒は、全国の日本酒ファンから高い支持を集めている。
豪雪地帯という厳しい環境も、新潟ならではの文化を育んできた。冬には山間部で数メートルもの積雪を記録する地域もあり、雪国ならではの生活の知恵が今なお受け継がれている。雪室(ゆきむろ)と呼ばれる天然の冷蔵施設はその代表例であり、雪の冷気を利用して農産物や食品を保存する伝統技術として再評価されている。また、豪雪は豊富な水資源を生み、農業や発電、工業用水としても重要な役割を果たしている。厳しい自然は決してマイナスではなく、新潟県の産業を支える大切な資源なのである。
観光地としても、新潟県は多彩な魅力を持つ。世界遺産となった佐渡島では、たらい舟体験や金山跡の見学、美しい海岸線を楽しめるほか、トキの保護活動でも知られている。越後湯沢は川端康成の小説『雪国』の舞台として有名であり、東京から上越新幹線で約70分というアクセスの良さから、多くのスキー客や温泉客が訪れる。苗場や妙高などのスキーリゾートは国内外から高い人気を誇り、近年では外国人観光客の利用も増加している。
また、新潟市は日本海側最大級の都市として発展しており、美しい萬代橋は国の重要文化財にも指定されている。毎年夏に開催される長岡まつり大花火大会は、日本三大花火大会の一つに数えられ、直径約650メートルにも及ぶ「正三尺玉」や「フェニックス花火」は全国から訪れる観客を圧倒する。日本一長い信濃川の河川敷を舞台に繰り広げられる壮大な花火は、新潟を代表する風物詩である。
新潟県には、思わず誰かに話したくなるトリビアも数多い。例えば、日本一長い川である信濃川の河口は新潟市にあり、県内では「信濃川」、長野県では「千曲川」と名前が変わる。また、新潟県は全国有数のチューリップ球根の産地としても知られ、春には色鮮やかな花畑が広がる。さらに、燕市と三条市は世界的な金属加工の産地であり、海外の高級レストランでも使用されるカトラリーや包丁を数多く生産している。近年ではアウトドア用品やキャンプギアなどの製造でも高い評価を受け、「メイド・イン・燕三条」は世界的なブランドとなっている。
このような歴史や風土は、新潟県を代表する数々の上場企業にも受け継がれている。世界中の工事現場で活躍するコンプレッサメーカーのAIRMAN、暖房機器のパイオニアであるコロナ、自動車メーターで世界トップクラスのシェアを誇る日本精機、そして「ルマンド」や「アルフォート」で知られるブルボンなど、それぞれが地域の技術や文化を土台に独自の成長を遂げてきた。燕三条の金属加工技術や豊かな水資源、真面目で粘り強い県民性が、新潟県を「ものづくり県」として発展させてきたのである。
新潟県は「米どころ」「雪国」というイメージだけでは語り尽くせない。戦国武将・上杉謙信の歴史、日本海交易で栄えた港町、世界遺産となった佐渡島、豪雪が生み出した豊かな自然、そして世界へ羽ばたくものづくり企業。これらが絶妙に融合しているからこそ、新潟県は訪れても学んでも面白い地域となっている。自然の恵みと人々の知恵が育んだ新潟県は、これからも日本を代表する「食」と「技術」と「文化」の発信地として、多くの人々を魅了し続けるだろう。
世界中の工事現場で活躍する「空気を売る」新潟企業――AIRMANが支える社会インフラの舞台裏
「空気を売る会社」と聞いて、どのような企業を思い浮かべるだろうか。目に見えず、普段は意識することも少ない空気を商品として世界中へ届ける企業が、新潟県燕市に本社を構えている。それが東証プライム市場に上場するAIRMAN(証券コード6364)である。2024年までは「北越工業」という社名で知られていたが、ブランド名として長年親しまれてきた「AIRMAN」を正式な社名に変更した。一般消費者にはあまり馴染みがない企業かもしれない。しかし、道路工事やビル建設、トンネル工事、鉱山開発、災害復旧など、世界中の建設現場ではAIRMANの機械が日々稼働している。まさに「縁の下の力持ち」として社会インフラを支える存在なのである。
AIRMANの主力製品は、エンジンコンプレッサ、エンジン発電機、高所作業車である。この中でも特に象徴的なのがコンプレッサだ。コンプレッサとは空気を圧縮し、高圧の空気を作り出す装置である。その圧縮空気は、削岩機やエアハンマー、塗装機器、配管工事用工具など、数多くの機械を動かす動力源となる。電気が使えない屋外工事や山間部の工事では、圧縮空気こそが作業を支えるエネルギーとなるため、建設現場では欠かせない存在だ。
例えば道路工事でアスファルトを砕く作業を思い浮かべると分かりやすい。作業員が持つ大型の削岩機は、自ら動力を持っているわけではなく、コンプレッサから送られる圧縮空気によって力強く作動している。つまりAIRMANは「空気を売っている」のではなく、「空気をエネルギーに変えて提供する会社」なのである。普段は目立たないものの、その技術がなければ多くの工事は成り立たない。
もう一つの主力製品がエンジン発電機である。建設現場では送電線が整備されていない場所も多く、電源を確保できないケースが少なくない。そんな場所で活躍するのが可搬式発電機である。照明、クレーン、電動工具、通信設備など、あらゆる機器へ安定した電力を供給することで工事を可能にしている。また、大規模災害が発生した際には、避難所や病院、通信基地局などへ緊急電源を提供する重要な役割も担う。地震や豪雨など自然災害の多い日本では、AIRMANの発電機が復旧活動の最前線で活躍する場面も珍しくない。
さらに近年需要が拡大しているのが高所作業車である。電柱工事、外壁補修、橋梁点検、看板設置、街路樹の剪定など、高い場所で安全に作業を行うためには欠かせない機械だ。人手不足が深刻化する建設業界では、安全性と作業効率を同時に高められる高所作業車への需要が高まり続けている。AIRMANはこうした社会課題を解決する製品群を幅広く展開し、国内外で存在感を高めている。
AIRMANの強みは、日本国内だけにとどまらない。現在では100を超える国と地域へ製品を輸出し、海外売上高比率も高いグローバル企業へと成長した。北米やアジア、ヨーロッパ、中東、アフリカなど世界各地の建設現場でAIRMANブランドの機械が稼働している。特にインフラ整備が進む新興国では、道路、橋梁、空港、港湾など大型プロジェクトが数多く進められており、その需要を取り込んできた。
世界市場で評価される理由は、高い品質と耐久性にある。建設機械は炎天下や極寒、砂漠、豪雪地帯など過酷な環境で使用されることが多い。そのため、壊れにくく、長時間安定して稼働することが求められる。AIRMANは長年培ったエンジン制御技術や静音設計、省エネルギー技術を武器に、高品質な製品を提供してきた。特に騒音を抑えた低騒音型コンプレッサは都市部の工事現場でも高く評価され、日本メーカーならではの品質が世界市場で競争力となっている。
実はAIRMANが本社を置く新潟県燕市は、日本有数のものづくり地域として知られている。隣接する三条市と合わせた「燕三条地域」は、金属加工や精密機械、工具、洋食器などで世界的な知名度を持つ産業集積地だ。江戸時代から続く金属加工技術が受け継がれ、高度な加工技術を持つ中小企業が数多く存在している。AIRMANもそうした地域産業の恩恵を受けながら成長してきた企業の一つであり、高品質な部品調達や優れた技術者の確保という面で大きな強みを持っている。
2024年には、長年親しまれてきたブランド名「AIRMAN」を社名に採用した。海外では以前からAIRMANブランドの知名度が高く、「北越工業」よりもAIRMANのほうが認知されていたことが背景にある。企業ブランドと社名を一致させることで、グローバル市場での認知度向上を狙ったのである。近年、日本企業でもブランド名へ社名変更する例が増えているが、AIRMANもその流れを象徴する企業となった。
建設業界では、脱炭素化や電動化への対応も重要なテーマとなっている。AIRMANもハイブリッド機や電動機械の開発、省燃費性能の向上、排出ガス規制への対応など、環境負荷を低減する製品開発を積極的に進めている。世界各国で環境規制が強化される中、環境性能は今後さらに競争力を左右する重要な要素になるだろう。
一般消費者がAIRMANという名前を目にする機会は決して多くない。しかし、高速道路や鉄道、空港、ビル、工場、発電所、防災施設など、私たちの暮らしを支えるあらゆるインフラ整備の現場では、AIRMANの機械が静かに働いている。道路工事で聞こえる削岩機の音の裏には、圧縮空気を送り続けるコンプレッサがあり、停電時には発電機が人々の生活を支え、高所では作業車が安全を守っている。目立つことはなくても、社会に不可欠な存在であり続けているのである。
新潟県燕市から世界100を超える国と地域へ、「空気」という見えない力を届けるAIRMAN。その本質は、空気そのものを売る会社ではなく、「社会を動かすエネルギー」を提供する企業と言えるだろう。華やかな最終製品ではなく、その裏側を支える技術で世界市場を切り拓いてきたAIRMANは、日本のものづくりの底力を象徴する存在なのである。
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社名で誤解された会社、それでも日本の暖房を支え続ける――コロナが歩んできた「暮らし」を温めるものづくり
「コロナ」という社名を聞くと、多くの人は新型コロナウイルスを思い浮かべるだろう。2020年以降、この名前は世界中で感染症を連想させる言葉となり、企業としても大きなイメージの変化を経験した。しかし、新潟県三条市に本社を置くコロナ(証券コード5909)は、感染症とはまったく関係のない、日本を代表する住宅設備・暖房機器メーカーである。創業から80年以上にわたり、日本の冬の暮らしを支え続け、「石油ストーブ」「石油ファンヒーター」「エコキュート」などの分野で数々の革新を生み出してきた企業だ。
コロナの創業は1937年。当初は暖房機器メーカーではなく、金属加工を中心としたものづくり企業としてスタートした。第二次世界大戦後、日本が高度経済成長へ向かう中で、家庭用暖房機器の需要が急速に拡大することを見据え、石油燃焼機器の開発へ本格参入した。当時の日本では、木炭や薪による暖房がまだ一般的だったが、石油ストーブの普及によって家庭の暖房事情は大きく変わることになる。その変化を牽引した企業の一つがコロナだった。
現在では冬になると石油ファンヒーターや石油ストーブは当たり前の存在だが、1960~70年代には画期的な製品だった。灯油を燃料とすることで強力な暖房能力を発揮し、寒冷地でも部屋全体を効率よく暖められる。特に豪雪地帯である新潟県では、厳しい冬を乗り切るために暖房機器は生活必需品であり、その環境の中で培われた技術は全国へと広がっていった。まさに雪国だからこそ生まれた技術と言えるだろう。
コロナの最大の強みは、単なる暖房機器メーカーではなく、「住まいの快適性」を総合的に支える企業へ進化してきた点にある。その象徴がエコキュートである。エコキュートは空気中の熱を利用してお湯を沸かすヒートポンプ給湯機で、少ない電力で効率よく給湯できる省エネルギー機器として知られている。電気料金の安い深夜電力を活用できることや、二酸化炭素排出量を抑えられることから、日本の脱炭素政策とも相性が良く、現在では多くの住宅へ導入されている。
コロナはこのエコキュートの普及にも早くから取り組み、暖房だけではなく給湯分野でも存在感を高めてきた。さらにルームエアコン、除湿機、温水暖房システムなど住宅設備全体へ事業を広げ、「家全体を快適にする企業」へと成長している。
そして2020年、新型コロナウイルスの世界的流行は、同社にとって予想もしなかった試練となった。社名が感染症と同じ「コロナ」であったため、SNSなどでは「コロナが売れている」「コロナを買った」など、本来とは異なる文脈で社名が使われることも少なくなかった。一部では企業イメージへの影響を懸念する声も上がったが、コロナは社名変更を選ばなかった。
そもそも「コロナ(Corona)」とはラテン語で「冠(かんむり)」を意味する言葉であり、太陽の外側に見える光の輪「コロナ」や、王冠を意味する英語の語源でもある。企業名としては「業界の王者を目指す」「輝く存在になる」といった前向きな願いが込められており、感染症とは何の関係もない。長年築き上げてきたブランドへの誇りがあったからこそ、社名を守り続けるという決断をしたのである。
むしろ、この出来事を通じて多くの人が「コロナという会社が実在すること」を知ったとも言える。社名が話題になったことで企業の歴史や製品を知る人も増え、「石油ストーブのコロナだったのか」と再認識されたケースも少なくなかった。
コロナが本社を置く新潟県三条市は、燕市と並び「燕三条」として知られる日本有数のものづくり地域である。江戸時代から金属加工技術が発展し、現在でも工具や刃物、調理器具、産業機械など世界に誇る製品を生み出している。コロナもその産業集積の中で成長してきた企業であり、高い加工技術や品質管理の文化が製品づくりに受け継がれている。
また、豪雪地帯である新潟県だからこそ、「暖房機器は命を守るインフラ」という意識が強い。寒さの厳しい地域では、暖房が止まることは生活に直結する問題である。そのためコロナは耐久性や安全性を最優先に製品開発を続けてきた。長期間使い続けられる丈夫さや、厳しい環境でも安定して動作する品質は、多くの利用者から高い信頼を得ている理由の一つである。
近年はカーボンニュートラルへの対応も重要なテーマとなっている。石油暖房機器は環境負荷の観点から課題も指摘される一方、寒冷地では依然として高い暖房能力が求められるため、簡単に代替できるものではない。コロナは燃焼効率の向上や省エネルギー化を進めるとともに、エコキュートやヒートポンプ技術を強化することで、環境と快適性の両立を目指している。
一般消費者にとって、コロナの製品は決して派手な存在ではない。しかし、冬の寒い朝に部屋を暖め、家族が温かいお風呂に入り、安心して暮らせる毎日を支えている。その価値は、目立たないからこそ大きい。暮らしに欠かせないインフラを支える企業とは、まさにコロナのような存在なのである。
新型コロナウイルスという未曽有の出来事によって、思いがけず世界中から注目を集めることになったコロナ。しかし、その歴史を振り返れば、社名以上に語るべきものが数多くある。雪国・新潟で磨かれた暖房技術、日本の高度経済成長を支えた石油ストーブ、省エネ時代を切り拓いたエコキュート、そして暮らしを快適にする住宅設備の数々。コロナとは、単なる社名ではなく、日本の住環境を長年支え続けてきた技術と信頼のブランドなのである。
「もも太郎アイス」だけじゃない――新潟の夏を冷やし続けるセイヒョーの挑戦
新潟県民に「もも太郎」と聞くと、多くの人が思い浮かべるのは昔話の主人公ではない。赤いパッケージに包まれた氷菓「もも太郎アイス」である。しかも、このアイスには桃が入っていない。イチゴ風味でありながら、なぜか商品名は「もも太郎」。県外の人にとっては不思議に思えるこの商品こそ、新潟市に本社を置く東証スタンダード市場上場企業・セイヒョー(証券コード2872)の代表商品である。全国的な知名度は決して高くないが、新潟県では世代を超えて愛されるソウルフードを生み出し、冷凍食品や氷菓を通じて地域の食文化を支えてきた企業である。
セイヒョーの創業は1916年。100年以上の歴史を持つ老舗企業であり、社名の由来は「製氷」にある。その名の通り、当初は天然氷や製氷事業からスタートした。当時は家庭用冷蔵庫が普及しておらず、氷は食品保存や飲料を冷やすための貴重な生活インフラだった。やがて冷凍技術や冷蔵設備が発展すると、セイヒョーは氷だけではなく、アイスクリームや冷凍食品へと事業を拡大し、新潟県を代表する食品メーカーへと成長していった。
そんなセイヒョーを語る上で欠かせないのが、「もも太郎」である。発売から半世紀以上が経った現在でも、新潟県内では夏の定番商品として圧倒的な人気を誇る。最大の特徴は、桃味ではなくイチゴ味であることだ。名前だけを見れば桃風味を想像するが、実際にはシャリシャリとした食感のイチゴ風味の氷菓である。このギャップが県外ではしばしば話題となり、「桃が入っていないのに、なぜ『もも太郎』なのか」という疑問がSNSなどでも繰り返し取り上げられてきた。
その由来には諸説あるが、発売当時は「桃太郎」という名前が子どもたちに親しまれ、覚えやすく縁起の良い名称だったことから採用されたとされる。つまり、味を表現した商品名ではなく、親しみやすいブランド名だったのである。こうした背景を知らずに初めて食べた県外の人が驚くことも多く、「新潟あるある」の代表格となっている。
セイヒョーには「もも太郎」以外にも、「ビバオール」という根強い人気を誇るアイスがある。ミルクアイスをアイスキャンディーで包み、中央にはジャムを入れた独特の構造を持つ商品で、一度販売終了となった後も復活を望む声が相次ぎ、再発売された経緯を持つ。地域の消費者から寄せられる熱い支持は、全国ブランドの商品にはないローカルメーカーならではの強みと言えるだろう。
また、セイヒョーは氷菓メーカーというイメージが強い一方で、冷凍食品事業も重要な柱となっている。学校給食向けのデザートや業務用冷凍食品の製造も手掛けており、多くの人が知らないうちに同社の商品を口にしている可能性は高い。特に学校給食市場では長年の実績を持ち、安全性や品質管理の高さが評価されている。
さらに近年は、自社ブランドだけでなくOEM(相手先ブランドによる製造)事業も積極的に展開している。大手食品メーカーやコンビニエンスストア向け商品の製造も担っており、高い製造技術と品質管理体制を強みに事業領域を広げている。消費者には企業名が見えなくても、その技術は全国の食品市場を支えているのである。
セイヒョーが本社を置く新潟県は、日本有数の米どころとして知られる一方、豊富な地下水や雪解け水にも恵まれている。氷やアイスクリームを製造する上で、水の品質は商品の味を左右する重要な要素である。新潟の良質な水資源は、セイヒョーの商品づくりを支える大きな財産となっている。また、夏はフェーン現象によって全国でも屈指の暑さとなる日があり、冬は豪雪地帯という寒暖差の大きい気候も、冷たい食品文化を育んできた背景の一つと言える。
食品業界では少子高齢化や人口減少により、国内市場の縮小が避けられない状況となっている。地方メーカーにとっては販売エリアの拡大や新商品の開発が重要な課題であり、セイヒョーも地域ブランドを活用しながら全国市場への挑戦を続けている。近年では「もも太郎」の知名度がSNSやテレビ番組を通じて全国へ広がり、「新潟へ行ったら一度は食べてみたいご当地アイス」として注目される機会も増えている。
また、冷凍食品市場そのものも拡大を続けている。共働き世帯の増加や調理時間の短縮ニーズを背景に、家庭用・業務用ともに冷凍食品への需要は高まっている。冷凍技術は食品ロス削減にもつながることから、持続可能な社会づくりの観点でも重要性が増している。100年以上にわたり「冷やす」技術を磨いてきたセイヒョーにとって、こうした市場環境は新たな成長機会ともなっている。
一般消費者にとってセイヒョーは、「もも太郎アイスの会社」という印象が強いかもしれない。しかし、その実態は製氷から始まり、氷菓、冷凍食品、OEM製造まで幅広く展開する総合食品メーカーである。そして何より、「地域に根ざしたブランド」を100年以上守り続けてきたことこそが最大の強みだろう。全国一律の商品ではなく、新潟の人々が子どもの頃から親しみ、大人になっても変わらず買い続ける商品を持つ企業は決して多くない。
「桃味ではないのに『もも太郎』」。そんな少し不思議なアイスを通じて、新潟県民の思い出と夏の風景を支え続けてきたセイヒョー。派手さはなくても、地域に深く根付き、人々の暮らしの中で愛され続ける企業こそ、地方発上場企業の魅力を象徴する存在と言えるだろう。100年以上培ってきた「冷やす技術」と地域への愛着を武器に、セイヒョーはこれからも新潟の夏、そして日本の食文化を静かに支え続けていくに違いない。
まとめ:地域に根差し、世界へ挑む――新潟企業の底力
AIRMANは世界中の工事現場を支えるコンプレッサや発電機で社会インフラを陰から支え、コロナは雪国で磨いた暖房技術によって日本の暮らしを快適にしてきた。そしてセイヒョーは、「もも太郎アイス」という地域に愛される商品を100年以上培ってきた冷凍・製氷技術とともに守り続けている。
3社に共通しているのは、決して流行を追うのではなく、自社の得意分野を磨き続けることで独自の存在感を築いてきた点である。派手な企業ではないかもしれないが、人々の生活や社会インフラを支える製品やサービスを提供し、それぞれの分野で確かな信頼を積み重ねてきた。
新潟県は豊かな自然や食文化だけでなく、世界に誇る技術力とものづくりの精神を育んできた土地でもある。今回紹介した企業は、その魅力を象徴する存在と言えるだろう。地域で培った技術を世界へ発信し続ける新潟企業の挑戦は、これからも日本の産業を支える大きな力となっていくはずだ。
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