
中東情勢の悪化で店頭から消え始めたナフサ由来商品。ピジョンのベビーカー生産終了も含めて、企業収益と株式市場にどう波及するのかを投資家目線で解説する
第1章 はじめに:これは一部業界の混乱ではなく、日本企業の利益体質を揺さぶる話である
Yahoo!ニュースで
「『いよいよマズイかな』 緊迫する中東情勢 店頭から消えたナフサ由来商品 シンナーやエンジンオイルの棚は殆ど“空” 政府と現場に生じる“ズレ”【福岡発】」
という見出しを見ると、最初は「塗料店や整備工場の話かな」と受け取りやすいです。
しかし、投資家目線で見ると、このニュースの本質はそこではありません。
本当に重要なのは、ナフサ不足が“素材の問題”にとどまらず、製造、流通、建設、日用品、食品包装、ベビー用品、自動車部品まで幅広く利益を削る可能性が出てきたことです。
Reutersは2026年4月、ナフサやナフサ由来品に依存する日本企業の間で、供給混乱がすでに現場レベルで広がっていると報じました。
記事では、接着剤、シンナー、塗料などの調達難が起きており、政府は「当面4カ月分のナフサ在庫がある」と説明する一方、現場では受注停止、値上げ、納期調整が進んでいると伝えています。
ある業界調査では、シンナーが「通常どおり入手できている」と答えた企業は**2.7%**にとどまったとも報じられました。
しかも影響は、いわゆる化学業界だけではありません。
Reutersは2026年5月、カルビーがインク調達難のため、ポテトチップスやフルグラなど14商品をモノクロ包装へ一時切り替えると報じました。
背景には、インクの原料にもナフサ由来素材が使われており、日本はナフサの約**40%**を中東から輸入していることがあります。
つまり、ナフサ不足は「石油化学製品の原料不足」で終わらず、消費者が日常で手に取る食品のパッケージにまで影響を及ぼし始めています。
さらに、あなたが挙げたピジョンの件も非常に象徴的です。
ピジョンは2026年5月14日、ベビーカーおよびバウンサーの生産を2026年内で終了し、在庫がなくなり次第販売も順次終了すると公表しました。
会社は理由として、原材料費の高騰と物流コスト上昇が続き、品質を維持しながら安定供給を続けることが極めて困難になったと説明しています。
FNNも、対象はベビーカーとバウンサーあわせて23品目で、2025年のベビーカー販売台数は約2万5,000台だったと報じています。
つまり今起きているのは、
中東情勢悪化 → 原油・ナフサ供給不安 → 素材・部材不足と価格上昇 → 企業の調達難と採算悪化 → 値上げ・減産・生産終了 → 消費者向け商品や企業収益への波及
という流れです。
投資家にとって重要なのは、この連鎖を「一時的な原材料ニュース」として流さないことです。
これは、企業の売上成長よりも先に、利益率を静かに壊すタイプのリスクだからです。
この記事では、このテーマを投資家目線でかなり丁寧に整理します。
ナフサとは何か、なぜ日本企業はこんなに影響を受けるのか、どの業種が危ないのか、どんな企業が価格転嫁しやすく、どんな企業が苦しみやすいのか、そして株式市場ではどう考えるべきか。
結論を先に言うと、今のナフサ問題は「素材業界の局地戦」ではありません。
むしろ、日本企業のサプライチェーンの弱さと、低マージン体質を一気にあぶり出すマクロリスクとして見た方が自然です。
【重要】免責事項
投資判断の最終責任: 本記事で紹介している銘柄やセクター、分析内容は、情報提供および学習の啓発のみを目的としており、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、必ずご自身の判断と責任で行ってください。
成果の非保証: 過去のデータや予測は、将来の投資成果を保証するものではありません。市場環境の変化により、資産が減少するリスクがあります。
情報の正確性: 2026年時点の情報に基づき作成されていますが、その正確性や完全性を保証するものではありません。最新の業績やニュースは、必ず各企業のIRサイトや一次資料でご確認ください。
損失の補償: 本記事の内容に基づいて被ったいかなる損害(直接的・間接的を問わず)についても、筆者は一切の責任を負いません。
監修者:市川雄一郎
GFS校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長
第2章 そもそもナフサとは何か──なぜこれが止まるとこんなに広く困るのか
投資家でも、ナフサという言葉に日常的に詳しい人はそう多くありません。
ただ、このニュースを理解するには、まずここを押さえる必要があります。
ナフサは、原油を精製する過程で得られる石油製品の一つで、主に石油化学製品の基礎原料として使われます。
Reutersが2026年3月と4月に報じた記事では、ナフサはプラスチックや樹脂、塗料、接着剤、シンナー、インクなどの基礎素材の製造に不可欠だと説明されています。
つまりナフサそのものを消費者が買うことはほとんどありませんが、ナフサ由来の素材は私たちの生活のあらゆる製品に入り込んでいます。
ここが非常に重要です。
原油価格のニュースは分かりやすいですし、ガソリン価格の上昇も体感しやすいです。
しかしナフサは、もっと深いところで効きます。
例えば、
- 自動車部品の樹脂
- 建築用配管や断熱材
- 塗料やシーリング材
- 印刷インク
- 食品包装フィルム
- ベビー用品の成形部材
- 日用品のボトルやキャップ
- 工業用接着剤や溶剤
などです。
つまりナフサが不安定になると、最終製品が何であっても、その裏で使う材料の調達が乱れやすくなります。
しかも日本はこの面でかなり脆いです。
Reutersは、日本がナフサの約**40%を中東から輸入していると伝えています。
また、原油輸入全体で見ると、日本は中東依存度が極めて高く、2026年4月のReuters Tankan記事では、日本は石油供給の95%**を中東に依存していると説明されました。
つまり、ホルムズ海峡封鎖やイラン戦争の長期化のような事態は、日本にとって単なる海外ニュースではなく、基礎原料の供給問題そのものです。
さらに厄介なのは、ナフサ不足が起きると、最終製品メーカーがすぐに代替できるわけではないことです。
金属や食品の一部なら調達先変更が比較的しやすいこともありますが、樹脂、接着剤、塗料、インク、溶剤のような化学素材は、品質や生産ラインとの相性、認証、規格の問題があり、簡単に切り替えられません。
だから企業は「不足しても他で買えばよい」では済まないのです。
Reutersが伝えたように、政府は代替輸入先の拡大を進めていますが、現場ではすでに受注停止や納期調整が起きており、政府の説明と現場感覚のズレがはっきり出ています。
投資家目線でこの構造が重要なのは、ナフサ問題が単なるコスト増ではなく、
数量の制約と納期の混乱
まで引き起こすからです。
コスト増だけなら値上げで吸収できる企業もあります。
しかし「そもそも材料が足りない」「一部製品の受注を止める」「供給時期が読めない」となると、売上そのものも落ちやすくなります。
つまりナフサ不足は、売上と利益を両方傷つける可能性があるのです。
第3章 なぜ今、影響が大きくなっているのか──中東情勢悪化とサプライチェーンの“中間詰まり”
今回の問題を「原油高ニュース」と同じ感覚で見ると、本質を外します。
今の影響が大きい理由は、単に価格が上がっているからではなく、供給網の中間で詰まりが起きているからです。
Reutersは2026年4月15日、ナフサ依存企業の現場で起きていることとして、
- 受注停止
- 値上げ
- 納期の延期
- 生産調整
が広がっていると報じました。
この時、政府側は「国内には4カ月分のナフサ在庫がある」と説明していましたが、経済産業相の赤沢亮正氏も、問題は一次原料そのものより中間サプライチェーンの目詰まりだと認めています。
つまり、原料タンクに在庫があることと、現場で欲しい製品が普通に届くことは別なのです。
これは投資家にとって非常に重要な論点です。
「政府が在庫は十分と言っているから問題ない」と思ってしまうと、企業業績の変化を読み損ねます。
企業が必要としているのはナフサそのものではなく、ナフサを元にした塗料、溶剤、樹脂、インク、接着剤、部品素材です。
これらのどこかが詰まれば、最終製品メーカーは止まります。
つまり、企業収益に効くのは“原料在庫の有無”ではなく、中間製品が予定通り届くかどうかです。
さらに、中東情勢の悪化はエネルギー価格だけでなく、物流にも効きます。
Reutersは、イラン戦争とホルムズ海峡封鎖により、世界の石油供給の約**20%**が影響を受けていると報じました。
このため、ナフサ由来原料の国際調達が不安定になり、企業は代替調達を迫られています。
しかし代替調達は通常、
- コストが高い
- 納期が長い
- 品質調整が必要
- 供給量が十分でない
という問題を抱えます。
だから「別ルートに切り替えたから解決」とはならないのです。
加えて、Reutersの2026年4月14日のReuters Tankanでは、日本の製造業景況感が3年超ぶりの大幅悪化となり、化学セクターの景況感指数は**+21から-8**へ急落しました。
これは、素材産業の現場がかなり深刻にこの問題を見ていることを示します。
もし素材産業が苦しくなれば、その下流にいる自動車、住宅設備、日用品、食品包装なども時間差で影響を受けます。
つまり、今はまだ「点」で起きているように見える調達難が、セクター横断で広がり始める初期段階として見るべきです。
投資家目線では、こういう局面で最も危険なのは、
「素材の話だから川上だけだろう」
と軽く見てしまうことです。
実際には、中間サプライチェーンが詰まる時、最も読みにくいのは川下の収益です。
なぜなら、最終製品メーカーの決算には、しばらく“在庫でしのぐ期間”があるからです。
そのため株価が先に動くこともありますし、逆に決算で急に出ることもあります。
今のナフサ問題は、その“時差爆弾”のような性格を持っています。
第4章 どの業種が危ないのか──素材株より、むしろ「素材をたくさん使う会社」が危ない
ナフサ不足のニュースを見ると、投資初心者はまず「化学株が危ないのかな」と考えがちです。
もちろんそれは一面では正しいです。
しかし実務的には、むしろ注意すべきなのは、素材そのものを売る会社より、素材を大量に使うのに価格転嫁しづらい会社です。
Reutersの4月15日記事では、TOTO、旭化成、関西ペイントなどが例として挙がり、受注停止、納期調整、値上げなどが起きているとされました。
これは化学・住宅設備・塗料といった「素材に近い」分野の影響です。
ただ、本当に投資で怖いのは、その先の川下です。
例えば、
- 住宅設備を組み込む住宅メーカー
- 塗料や接着剤を使う建材メーカー
- 樹脂部品を使う自動車・部品メーカー
- インクや包装材を使う食品メーカー
- プラスチック成形品を使うベビー用品メーカー
などです。
彼らは直接ナフサを買っているわけではなくても、部材コスト上昇や納期遅延を通じて利益を削られます。
ここで重要なのは、価格転嫁力です。
原料高に強い企業と弱い企業の差は、ブランドや独占力の有無でかなり決まります。
値上げしても売れる企業なら、利益率の毀損を抑えられます。
しかし、競争が激しく、価格に敏感な消費財メーカーや下請け色の強い部品メーカーは、値上げが難しいです。
そういう会社ほど、材料費上昇を自分で飲み込みやすくなります。
ピジョンの事例はまさにその象徴です。
ピジョンは公式発表で、ベビーカーとバウンサーの生産・販売終了について、
原材料費の高騰や物流コストの上昇が続く中、品質を維持しながら安定供給することが極めて困難
と説明しました。
これは単なる一時休止ではなく、事業継続の採算ラインが崩れたことを意味します。
ベビー用品は価格競争もあり、値上げだけでは吸収しにくい。
だから最終的に「撤退」という判断になったと読むのが自然です。
また、Reutersは2026年4月28日に、トヨタ系サプライヤーがイラン戦争によるナフサ・アルミ・プラスチック・シンナー高騰で利益圧迫を受けていると報じました。
アイシンはアルミ高だけで約150億円のマイナス影響、デンソーは不確実なリスクとして最大450億円の利益影響を見込んでいます。
しかも記事は、シンナー不足が特に深刻で、塗装工程が止まれば自動車生産そのものに響くと指摘しています。
つまり、自動車のような巨大産業でも、ナフサ由来原料不足は「部分的な困りごと」ではなく、生産ライン停止リスクにまでつながるのです。
投資家が注目すべきなのは、素材会社かどうかではありません。
むしろ、
ナフサ由来原料の比率が高いのに、値上げしにくく、代替調達しにくく、在庫バッファも小さい企業
が危ないです。
こうした企業は決算短信に「原材料価格高騰」「物流費増」「一部製品の供給調整」といった言葉が出始めた時に、一気に利益率が悪化しやすいです。
今は、そうした候補をセクター横断で洗い出す局面だと言えます。
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第5章 ピジョンのベビーカー生産終了は何を意味するのか──これは“象徴的な撤退”である
ピジョンのベビーカー生産終了は、投資家がかなり真剣に見るべきニュースです。
なぜなら、これは単なる一商品整理ではなく、コスト環境の変化が事業継続判断を変えた象徴的な事例だからです。
ピジョンは2026年5月14日付の公式資料で、2026年内をもってベビーカーおよびバウンサーの生産を終了し、在庫がなくなり次第、順次販売も終了すると発表しました。
理由としては、
原材料費の高騰
物流コストの上昇
が続き、今後も高品質を維持し安定供給することが極めて困難になったため、と明記しています。
FNN報道では、対象は合計23品目で、2025年のベビーカー販売台数は約2万5,000台だったとされています。
ここで投資家が考えるべきなのは二つです。
一つは、ピジョンのようなブランド力のある会社でも、外部コスト上昇を吸収しきれないカテゴリーがあること。
もう一つは、企業は必ずしも値上げで守るのではなく、撤退で守ることがあるということです。
これが非常に重要です。
一般に原材料高の局面では、「値上げできる会社が強い」と言われます。
それは正しいです。
しかし現実には、カテゴリーによっては値上げしても需要が維持できないことがあります。
また、品質安全性が重要なベビー用品では、安価な代替素材へ簡単に切り替えにくい。
そのため、ピジョンは無理に継続して利益率を削るより、撤退を選んだわけです。
これは企業としては合理的ですが、投資家にとっては「事業ポートフォリオがコスト環境で変わる」ことの典型例です。
さらに象徴的なのは、ピジョンが4月にはまだ新型ベビーカーの発売ニュースを出していたことです。
4月9日付の公式リリースでは、A形ベビーカー「Runfee Lino’n9」の新発売が案内されていました。
つまり、たった数週間の間に状況が急転したわけではなく、継続を模索したが、最終的に外部環境の厳しさが勝ったと読むべきです。
この経緯は、他企業にも十分起こり得ます。
今は“売れているから続ける”ではなく、“売れていても採算が合わないならやめる”判断が増えやすい局面なのです。
投資家目線では、ピジョンのこの判断は「悲観材料」だけでなく、「経営の規律」と見る余地もあります。
不採算化しやすい分野を早めに切るのは資本効率の面ではプラスです。
ただし、同時に、原材料と物流コストの上昇がそれだけ深刻であることも示しています。
つまり、このニュースは一社固有の話で終わりません。
“次に同じ判断を迫られる会社はどこか”
を考える材料です。
第6章 カルビーのモノクロ包装はなぜ重要なのか──「まだ売れている」時に起きる初期症状
ピジョンのニュースが“撤退”の象徴なら、カルビーのモノクロ包装は“初期症状”の象徴です。
これも投資家にはかなり重要です。
Reutersは2026年5月、カルビーがポテトチップス、かっぱえびせん、フルグラなど14商品について、2026年5月25日からモノクロ包装へ一時切り替えると報じました。
理由は、ナフサ由来素材を使うインクの供給不安に備えて節約するためです。
つまり、商品そのものはまだ売れるし作れる。
しかし、周辺資材の不安で“通常の形では供給しにくくなってきた”わけです。
この事例が投資家にとって重要なのは、企業の問題がいきなり決算数値に出るとは限らないことを示しているからです。
カルビーは商品を止めたわけではありません。
売上が急減したわけでもありません。
でも、ブランド企業があえてパッケージ変更という目立つ手段を取るということは、調達環境がかなり不安定になっているサインです。
こういう動きは、利益率悪化の前触れとして読むことができます。
包装インクが足りないなら、代替調達コストや生産切替コストがかかる可能性があります。
パッケージの見栄え低下がブランドイメージに影響する可能性もあります。
短期の売上にはすぐ響かなくても、企業は徐々に余分なコストを払うことになります。
これが素材ショックのやっかいなところです。
決算書に「ナフサ不足により利益急減」とはすぐ出なくても、現場では先に異常が起きているのです。
この意味で、カルビーの事例は投資家に
“供給は続いているが、いつもの形では続けられない”企業がこれから増えるかもしれない
という視点を与えます。
まだ売上が維持されていても、ブランド、包装、品質、納期のどこかに歪みが出始めた会社は、後から利益率に傷が出やすい。
だから、こうした初期症状を軽く見ない方がいいです。
第7章 株式市場ではどう考えるべきか──「恩恵株探し」より「利益率の脆い企業探し」が先
ナフサ問題をテーマ投資として見ると、多くの人は
「じゃあ、どの銘柄が上がるのか」
から考えがちです。
でも今回は、まずその考え方を少し変えた方がいいです。
今の局面で投資家が最初にやるべきなのは、恩恵株探しよりも、
利益率の脆い企業探しです。
理由は単純です。
ナフサ不足や原材料高は、誰かに巨大な追い風を与えるというより、広くコストと供給のストレスをばらまくタイプのショックだからです。
一部の代替素材企業や資源関連に局所的な恩恵はあっても、日本株全体で見ればまずは「何が傷むか」を考えた方が実用的です。
具体的に警戒したいのは、次のような企業です。
- 粗利率が低い
- 値上げしにくい
- 樹脂・溶剤・塗料・包装材の比率が高い
- 在庫回転が早く、調達難がすぐ表面化しやすい
- 代替調達の選択肢が少ない
- 一部部材不足で製品全体が止まりやすい
- サプライヤーの交渉力が強く、自社にしわ寄せが来やすい
こういう会社は、売上成長があっても利益率で急に苦しくなります。
しかも、決算短信では最初「原材料費高騰」「物流費増」といった一般的な表現でしか出ないことも多いです。
投資家は、その背後にナフサ由来の供給不安が潜んでいないかを読まなければいけません。
逆に、比較的強いのは、
- ブランド力があって値上げできる
- 付加価値が高く粗利率が厚い
- 調達の多様化が進んでいる
- 在庫バッファや資金余力がある
- 川上に近く価格決定力を持つ
企業です。
ただし、今回は「絶対安全」な企業を探すより、ダメージを相対的に吸収しやすい企業を探す感覚の方が近いです。
また、株式市場ではこの種の問題は、まず個別ニュースで散発的に表れ、その後にセクター単位で織り込まれます。
今は、ピジョンやカルビーのようなニュースが点で出てきている段階です。
もしこの流れが広がれば、次は
- 住宅設備
- 自動車部品
- 建材
- 日用品
- 食品包装
といった領域の企業に対する見方が厳しくなりやすいです。
投資家は、いままさにその“点が線になるか”を見ている局面だと言えます。
第8章 「政府と現場のズレ」は投資家にとって何を意味するのか
今回のYahoo!ニュースの見出しでとても重要なのは、
「政府と現場に生じるズレ」
という部分です。
これは投資家にとって、かなり重いシグナルです。
政府は在庫やマクロ統計、輸入量、政策対応を見ています。
一方、現場は「明日のシンナーが入るか」「今月の配管材が届くか」「この製品の出荷を続けられるか」を見ています。
この二つは、同じ現象を見ていてもまったく景色が違います。
Reutersの4月15日記事は、このズレを非常に象徴的に伝えています。
政府は4カ月分のナフサ在庫や代替輸入拡大を説明している一方で、現場ではシンナーや接着剤が極めて入手しづらく、受注停止や値上げが起きている。
これは、投資判断において「政府が問題ないと言っているから安心」とはできないことを意味します。
むしろ株式市場では、こうした時は現場の方が先に正しいことが多いです。
なぜなら、企業収益は現場で起きていることに直接左右されるからです。
投資家目線では、このズレは二つの意味を持ちます。
一つは、決算や統計に出る前に個別企業ニュースを重視すべきこと。
もう一つは、政府の安心発言が相場の安心につながるとは限らないことです。
特にサプライチェーン問題では、マクロ在庫とミクロ調達はしばしばズレます。
このズレがある時、株式市場は最初は楽観し、その後に個別企業の利益悪化で慌てて織り込むことが多いです。
つまり、いまのような局面では、投資家はむしろ
政府説明より現場の悲鳴に敏感であるべき
です。
これは非常に実務的です。
もし現場の声が複数業界に広がっているなら、それは単なる一社の弱さではなく、マクロショックの初期段階かもしれない。
今回のナフサ問題では、その条件が少しずつ揃い始めています。
第9章 では、今後どこまで広がるのか──最悪シナリオと現実的シナリオを分けて考える
ここで投資家が持つべきなのは、極端な悲観でも、根拠のない楽観でもありません。
大切なのは、シナリオを分けて考えることです。
現実的シナリオ
最も現実的なのは、ナフサ不足が全面的な生産停止まで広がるのではなく、
一部部材の不足とコスト上昇が長引き、企業ごとに利益率格差が広がる
というシナリオです。
この場合、強い会社は値上げや調達分散で吸収し、弱い会社は撤退・減産・利益悪化で苦しみます。
今のピジョンやカルビーの動きは、まさにこのシナリオの中にあります。
悪化シナリオ
より悪いケースでは、ホルムズ海峡問題や中東情勢が長引き、ナフサ由来素材の供給不安が広い製造業へ波及します。
そうなると、自動車、住宅設備、建設、日用品、食品包装まで影響が広がり、企業決算にもはっきり出やすくなります。
Reutersが示したように、すでに自動車サプライヤーは利益への大きな影響を見始めていますし、Tankanでも化学業界の景況感は急悪化しています。
この場合、日経平均全体というより、素材依存の高い内需製造業から先に見直し売りが強まる可能性があります。
改善シナリオ
反対に改善するなら、代替輸入が安定し、供給網の中間詰まりが徐々に解消し、企業が値上げである程度吸収できるケースです。
この場合、今の問題は「一時的な利益圧迫」で終わり、サプライチェーン対応力の差が評価に置き換わっていきます。
ただ、現時点ではこのシナリオを無条件で採るには早いです。
なぜなら、Reutersや各社発表から見る限り、現場の混乱はまだ収束より拡大の方向が目立つからです。
投資家としては、今の段階で「最悪か、安心か」を決め打ちしない方がいいです。
むしろ、どの企業がどのシナリオに近い位置にあるのかを見極めることの方が大事です。
同じナフサ問題でも、ある会社には一時的な逆風、別の会社には構造的な撤退要因になる。
その差が今後の投資成果を大きく分けます。
第10章 まとめ──ナフサ問題は“地味な素材ニュース”に見えて、実はかなり投資的に重要である
今回のテーマを一言でまとめるなら、こうです。
ナフサ不足は、素材の話に見えて、実際には企業の利益体質・供給力・価格転嫁力を試す大きな選別材料である。
Reutersが伝えたように、ナフサ依存企業ではすでにシンナー、接着剤、塗料などの調達難が起きており、現場では受注停止や値上げ、納期調整が進んでいます。
カルビーは14商品をモノクロ包装に切り替え、ピジョンはベビーカーとバウンサー計23品目の生産・販売終了を決めました。
トヨタ系サプライヤーでも、ナフサ・プラスチック・シンナー高騰が利益を圧迫しています。
つまりこれは、川上から川下へ、静かに広がるサプライチェーンショックです。
投資家がこの局面でやるべきなのは、「関連テーマ株」を単純に探すことではありません。
それより先に、
どの企業が材料高と供給不安に弱いのか
どの企業が値上げと調達分散で耐えられるのか
を見極めることです。
今は、売上成長よりも利益率の持久力が問われる局面です。
また、政府が安心材料を出していても、現場で混乱が広がっているなら、投資家はそのズレを軽視しない方がいいです。
株価は、統計より先に現場の異常に反応することがあります。
今回のナフサ問題は、まさにそのタイプです。
だからこのニュースは、単なる中東情勢ニュースでも、単なる素材ニュースでもありません。
日本企業のサプライチェーンの弱点と、利益率の脆い事業をあぶり出す投資テーマ
として読む価値があります。
そして、この問題が広がるほど、株式市場では「何を持つか」より前に、何を避けるかが重要になってくるはずです。
【重要】免責事項
投資判断の最終責任: 本記事で紹介している銘柄やセクター、分析内容は、情報提供および学習の啓発のみを目的としており、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、必ずご自身の判断と責任で行ってください。
成果の非保証: 過去のデータや予測は、将来の投資成果を保証するものではありません。市場環境の変化により、資産が減少するリスクがあります。
情報の正確性: 2026年時点の情報に基づき作成されていますが、その正確性や完全性を保証するものではありません。最新の業績やニュースは、必ず各企業のIRサイトや一次資料でご確認ください。
損失の補償: 本記事の内容に基づいて被ったいかなる損害(直接的・間接的を問わず)についても、筆者は一切の責任を負いません。
監修者:市川雄一郎
GFS校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
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