11月IPO注目ランキング!AI・SaaS・ペット医療で飛躍を狙う3社を徹底分析

11月IPOに注目!AI・DX・ペット医療で成長を狙う3社

2026年11月のIPO市場では、これからの成長産業を象徴するような企業が登場する。今回注目したいのが、11月2日に上場予定のMabGenesis(653A)、11月5日のLTV-X(655A)、11月6日のestie(658A)だ。

3社の事業内容は大きく異なる。MabGenesisは犬・猫などのペット向け抗体医薬を中心とする創薬企業、LTV-Xは顧客管理やマーケティング、業務効率化を支援するクラウドサービス企業、estieは商業用不動産のデータ基盤とAIを活用して不動産業務の高度化を目指す企業である。共通しているのは、既存産業にテクノロジーを持ち込み、新しい市場や業務効率化の可能性を追求している点だ。

特にestieは、不動産市場に蓄積される膨大な情報を「Vertical Data」として構造化し、さらに不動産業務に特化したAIへと発展させようとしている。2018年の創業以来、不動産事業者の意思決定や業務効率化を支援してきた同社にとって、今回の上場は成長を加速させる重要な節目となる。

LTV-Xが掲げるのは、企業が抱えるさまざまな業務課題をクラウドで解決するというアプローチだ。顧客管理やマーケティングオートメーションだけでなく、ふるさと納税や在庫管理などにもサービスを展開し、「一つの巨大なサービス」ではなく、業界や業務ごとのニーズに対応する複数のSaaSを積み上げる成長戦略が特徴となる。

一方、MabGenesisはバイオテクノロジーという異なる領域から成長を目指す。ペットの家族化や長寿化を背景に、犬・猫の疾患に対する高度な治療への需要が期待されるなか、抗体医薬という先端技術を動物医療へ応用する。創薬は成功すれば大きな事業価値につながる反面、研究開発や承認の成否によるリスクも大きく、一般的なIT企業とは異なる視点からの分析が必要になる。

つまり、この3社は「AI・データ」「クラウド・DX」「バイオ・創薬」という、2026年以降の市場を考えるうえで重要なテーマをそれぞれ代表するIPO候補といえる。IPOでは初値の動向に注目が集まりやすいが、本当に見るべきなのは、その企業がどの市場で成長し、どのように利益を生み出そうとしているのかという点だ。3社のビジネスモデル、成長性、収益力、リスクを比較することで、11月IPOの魅力と注意点を探っていきたい。

企業名証券コード上場予定日上場市場主な事業・テーマ注目ポイント
MabGenesis(マブジェネシス)653A2026年11月2日東証グロースペット向け抗体医薬・創薬犬・猫の抗体ライブラリーを活用した創薬。国内外の動物薬企業との共同研究・導出に注目
LTV-X655A2026年11月5日名証ネクストSaaS・DX・顧客管理「LTV-100構想」を掲げ、顧客管理や業務効率化など複数のクラウドサービスを展開
estie658A2026年11月6日東証グロース不動産×データ・AI商業用不動産データを基盤に、不動産業務のDXやAI活用を推進

データとAIで不動産業界を変える――東証グロース上場を控えるestie(658A)の成長力に注目

不動産業界では、物件情報や賃料、入居企業、所有者、取引履歴など、膨大なデータが日々生まれている。一方で、こうした情報は長らく業界内に分散し、担当者の経験や人脈、個別に作成されたExcelなどに依存する場面も少なくなかった。高額な資産を扱う不動産ビジネスだからこそ、データをいかに集約し、分析し、意思決定につなげるかが競争力を左右する。

こうした課題に対して、テクノロジーを武器に挑戦しているのがestie(エスティ)である。同社は2018年12月に設立され、オフィスを中心とする商業用不動産のデータ基盤を構築してきた。現在では、オフィスだけでなく物流施設、賃貸住宅、J-REIT、所有者情報などへ対象領域を広げ、不動産事業者の調査・分析から案件管理、取引、運営まで幅広い業務を支援している。

そして2026年10月1日、estieは東京証券取引所からグロース市場への新規上場を承認された。上場予定日は11月6日、証券コードは658A。想定公開価格は1,070円で、上場時の発行済み株式数は1,549万3,800株となる予定だ。

estieの最大の特徴は、単なる「不動産情報サイト」ではなく、独自に構築した商業用不動産データを事業者の実務に組み込もうとしている点にある。同社はこのデータ基盤を「Vertical Data」と位置づけ、さらに業界特化型AIである「Vertical AI」を組み合わせる戦略を進めている。

代表的なサービスが、オフィスビルの売買・賃貸に必要な情報を提供する「estie オフィスリサーチ」だ。全国約8万棟、40万フロアの建物情報に加え、募集情報、賃料情報、入居テナント情報などを蓄積し、不動産事業者のマーケット調査や営業活動を支援する。これまでの「人が情報を探す」業務を、データを起点とした意思決定へ変えていく発想である。

さらに、物流施設向けの「estie 物流リサーチ」、賃貸住宅向けの「estie レジリサーチ」も展開する。物流施設では立地選定やテナント営業、金融機関の融資・リース案件などに活用でき、住宅分野では賃料相場の把握、物件査定、バリューアップ分析などを支援する。つまり、estieは「オフィス特化型サービス」から、商業用不動産全体をカバーするプラットフォームへと進化しようとしている。

不動産取引の業務そのものを効率化するサービスも重要だ。「estie 案件管理」では、物件概要書をアップロードするだけで、データ登録やリスト化、地図連携、ステータス管理などを効率化できる。営業担当者が個々に管理していた案件情報を組織内で共有し、分析可能なデータへ変換することで、属人的な業務からの脱却を目指す。

加えて、「estie J-REIT」ではJ-REITが保有する物件について、取引情報やキャップレート、鑑定評価額などを横断的に分析できる。「estie 所有者リサーチ」は所有者情報や取引情報を活用し、物件取得・売却の案件創出を支援する。こうしたサービス群を組み合わせることで、物件を「探す」「分析する」「管理する」「売買する」という一連の業務をデジタルでつなぐことが可能になる。

同社の成長を考えるうえで注目したいのが売上高の伸びである。連結売上高は2024年12月期の約10.9億円から、2025年12月期には約20.8億円へ拡大し、前年比90.3%増となった。さらに2026年12月期の中間期には17.5億円に達しており、前年同期比96.8%の成長となっている。わずか数年で売上規模を大きく拡大させている点は、IPO銘柄として大きな注目材料だ。

もっとも、売上高の急成長だけを見て判断するのは早い。estieはこれまで積極的な事業投資を行っており、2025年12月期の経常損失は約5.4億円、親会社株主に帰属する当期純損失は約12.0億円だった。2026年12月期中間期も経常損益は約260万円の赤字、純損失は約2.8億円であり、最終利益ベースではまだ黒字化していない。

一方で、収益性には変化が表れている。2026年12月期中間期の調整後EBITDAは約1,220万円の黒字となった。調整後EBITDAマージンも0.7%まで改善している。売上高の急拡大に対して固定費の伸びを抑えることができれば、今後は売上成長が利益に結びつきやすくなる可能性がある。

同社の収益モデルを見るうえでは、継続収益の存在もポイントになる。2026年6月末時点でリカーリング契約顧客数は573社、2026年12月期中間期の売上高に占めるリカーリング売上の割合は77%とされている。データやソフトウェアを一度導入して終わりではなく、継続的に利用してもらうことで積み上がる収益が成長を支える構造だ。

ただし、estie自身はARRやMRR、解約率といった一般的なSaaS指標を経営上の目標として設定していない。ソフトウェア利用料だけでなく、顧客企業ごとのデータ基盤構築やシステム実装、専門情報サービスなども事業に含まれるためだ。この点は、一般的なSaaS企業とは異なるestieの特徴として理解しておきたい。

また、同社はM&Aも成長戦略の一つとしている。2025年12月期には住宅新報の株式取得やUPDATA、スペースエージェントの事業譲受などを行い、事業領域を広げた。一方で、取得した事業などに関連してのれんの減損損失を計上しており、2025年12月期の最終赤字拡大につながった。2026年中間期にも子会社化したクラフコに関連するのれんの減損損失を計上している。M&Aによる売上成長と、その後の事業統合・収益化をどう両立するかは、今後の重要なポイントになる。

今回のIPOでは、資金調達額よりも既存株主による売出しの割合が大きいことも特徴だ。公募株式数は5万株に対して、売出しは563万8,800株。さらにオーバーアロットメントによる売出しが最大85万3,300株予定されている。想定価格1,070円ベースでは、OAを含めた吸収金額は約70億円規模となる。

そのため、IPO後の株価を考える際には、単純に「成長企業だから買われる」と考えるのではなく、現在の企業価値にどこまで将来成長が織り込まれているのかを見る必要がある。想定価格ベースの上場時時価総額は約165.8億円とされており、2025年12月期の売上高約20.8億円と比較すると、すでに一定の成長期待が株価に反映されていると考えられる。

一方、estieが挑む市場そのものには大きな可能性がある。不動産は住宅だけでなく、オフィス、物流施設、ホテル、商業施設、データセンターなど、さまざまな産業活動の基盤となる。企業がどこにオフィスを構えるのか、物流拠点をどこに置くのか、どの物件を取得するのかといった判断は、経営戦略そのものともいえる。

だからこそ、物件データを単なる検索情報で終わらせず、AIによる分析や業務自動化につなげることができれば、estieの事業領域は大きく広がる可能性がある。同社は「Vertical Data」と「Vertical AI」を軸に、不動産取引、不動産運営、不動産情報のそれぞれをデジタルでつなぐ構想を掲げている。

特にAIの進化は、estieにとって追い風となる可能性がある。不動産業務では、物件資料の読み込み、マーケット調査、候補物件の抽出、提案書作成、案件情報の整理など、AIとの相性が良い作業が数多く存在する。そこにestieが保有する専門性の高い不動産データを組み合わせれば、汎用的なAIとは異なる「不動産業務に特化したAI」を構築できる余地がある。

2026年10月現在、estieはまさに「不動産テック企業」から「不動産データ・AIプラットフォーム企業」へ転換を進めている段階といえる。東証グロース市場への上場はゴールではなく、データの拡充、サービスの横展開、M&A、AI活用を加速させる新たなスタートになるだろう。

11月6日の上場に向けて、今後の焦点は、第一に高い売上成長率を維持できるか、第二に調整後EBITDAの黒字化を営業利益・最終利益の黒字へつなげられるか、第三にM&Aを含めた事業拡大を効率的に進められるか、そして第四に「Vertical Data×Vertical AI」という独自ポジションをどこまで確立できるかにある。

不動産市場は巨大でありながら、情報の非対称性や業務の属人性が残る領域でもある。そこにデータとAIという新しい武器を持ち込むestie。658Aという新しい証券コードの誕生は、日本の不動産DXが次の段階へ進む象徴となる可能性がある。高成長の裏側にある赤字やM&Aリスクにも目を向けながら、上場後に同社がどこまで「不動産業界の情報インフラ」へ成長できるのか、注目したい。

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顧客の「生涯価値」を高めるクラウド企業――LTV-X(655A)が挑む100のSaaS構想

企業にとって、新規顧客を獲得することは重要だ。しかし、広告や営業活動によって一度顧客を獲得して終わりではない。購入後も継続的に利用してもらい、リピート購入や追加契約につなげることで、顧客1人・1社から得られる収益を最大化することが、持続的な成長には欠かせない。こうした考え方を示す代表的な指標が「LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)」である。

このLTVを社名に掲げ、企業の顧客管理やマーケティング、業務効率化をクラウドで支援しているのがLTV-Xだ。同社は2010年9月に設立され、「世の中の課題をクラウドで解決する」をパーパスとして事業を展開している。2026年9月30日には名古屋証券取引所からネクスト市場への新規上場が承認され、上場予定日は11月5日、証券コードは655Aとなった。

LTV-Xの特徴は、特定の業界だけにサービスを提供するのではなく、各業界に存在する個別の業務課題をクラウドシステムによって解決しようとしている点にある。同社が展開する主要サービスには、顧客管理やマーケティングオートメーションを支援する「LTV-Labシリーズ」、ふるさと納税関連業務を支援する「ふるさとLab」、在庫管理を支援する「LTV-Zaiko」などがある。

「LTV-Labシリーズ」は、同社の名前にもつながる中核的なサービスだ。企業が保有する顧客データを活用し、顧客との関係を継続的に管理することで、マーケティング活動や営業活動の効率化を目指す。現在のビジネスでは、単純に「どれだけ商品を売ったか」だけではなく、「一度獲得した顧客が、その後どれだけ企業に価値をもたらすか」が重要になっている。そのため、顧客データを蓄積・分析し、適切なタイミングで情報を届ける仕組みには大きな需要がある。

例えば、EC事業者であれば、初回購入者に対して再購入を促したり、過去の購入履歴に応じて商品を提案したりすることが考えられる。店舗型ビジネスでも、顧客の来店履歴や購入履歴をもとにした販促が可能になる。こうした顧客との接点をデータ化し、継続的な関係を構築することが、LTV向上につながる。

さらに同社は、マーケティングだけでなく、企業の業務そのものを支援する方向へ事業領域を広げている。LTV-Xの事業内容には、クラウドシステムの開発・運営だけでなく、マーケティング戦略の構築・実行支援、コンサルティング、データ分析受託なども含まれる。つまり、単純なSaaS企業というより、「クラウド+マーケティング+データ分析」を組み合わせて顧客企業の課題を解決する会社と捉えることができる。

同社が掲げる成長戦略の中でも特に目を引くのが「LTV-100構想」だ。これは「100のSaaSを世の中に提供する」というミッションであり、さまざまな業界・業務に存在する課題をクラウド化していく構想である。2026年10月時点の従業員数は11人と小規模であることを考えると、一見すると非常に大きな目標にも見える。しかし、逆に言えば、大企業が一つの巨大なシステムを作るのとは異なり、ニッチな課題に対応する複数のクラウドを積み重ねていくことが同社の強みになる可能性がある。

実際、LTV-Xの業績は拡大傾向にある。2024年3月期の売上高は2億9,140万円、2025年3月期は3億5,210万円、2026年3月期には4億4,462万円まで増加した。2026年3月期の売上高は前期比で約26%増となっている。また、当期純利益も2024年3月期の3,618万円から、2025年3月期は5,464万円、2026年3月期には9,754万円まで増加した。売上高だけでなく利益も伸びている点は注目材料だ。

2026年3月期の経常利益は1億4,727万円となり、売上高4億4,462万円に対して高い利益率を確保している。さらに2026年6月までの3カ月間では、売上高1億2,671万円、経常利益5,064万円、当期純利益3,396万円となっている。単純比較には注意が必要だが、上場前から一定の収益力を確立している企業であることが分かる。

今回のIPOでは、想定発行価格が560円とされている。上場時の発行済み株式数は248万4,000株となる予定で、想定価格ベースの時価総額は約13.9億円。公募株式数は36万7,000株、売出株式数は33万3,000株で、オーバーアロットメントによる売出しは10万5,000株が予定されている。吸収金額は約4.5億円と比較的小さく、IPO銘柄としての需給面も確認しておきたいポイントだ。

一方で、LTV-Xを見るうえでは、会社規模の小ささも重要なポイントになる。2026年8月末時点の従業員数は11人であり、大手IT企業と比べれば極めてコンパクトだ。少人数で事業を運営できることはコスト効率の面ではメリットになる一方、100のSaaSを展開するという目標を実現するには、開発体制や営業体制をどのように拡大するかが課題になる。

また、複数のSaaSを展開する戦略には、サービス数を増やすだけでは十分な収益につながらないという難しさもある。各サービスについて顧客を獲得し、継続利用してもらい、サポートやアップデートを行う必要があるからだ。特にニッチな市場を狙う場合、一つひとつのサービスの市場規模が限定される可能性もある。そのため、「100個のサービスを作ること」そのものよりも、「100個のサービスをどれだけ効率的に収益化できるか」が重要になる。

ここでLTVという社名の意味が改めて重要になる。同社のビジネスモデルでは、顧客企業の業務課題を解決し、そのサービスを継続利用してもらうことで関係を長期化させることが重要だ。顧客数を増やすだけでなく、既存顧客へのクロスセルやアップセルを進めることができれば、一社あたりの取引価値を高められる。複数のSaaSを持つことは、この戦略とも相性が良い。

例えば、ある顧客がマーケティング関連のサービスを利用している場合、その顧客に在庫管理など別のクラウドサービスを提供できれば、顧客との接点を増やせる。逆に、サービス同士が独立してしまえば、開発コストばかりが膨らむ可能性もある。今後は「LTV-100構想」を単なるサービス数の拡大ではなく、顧客基盤を横断的に活用できるプラットフォーム戦略へ発展させられるかが注目される。

日本企業では、依然として業務ごとに異なるシステムを利用していたり、Excelや紙などに依存していたりするケースが少なくない。特に中小企業や特定業界では、巨大なERPや高額な業務システムを導入するほどではないものの、業務を効率化したいというニーズが存在する。LTV-Xが狙う「業界ごとの細かな課題」は、こうした市場と相性が良い可能性がある。

生成AIの普及も、LTV-Xにとって追い風となる可能性がある。顧客データの分析、問い合わせ対応、マーケティング施策の立案、業務データの整理など、AIを組み込むことでクラウドサービスの付加価値を高められる領域は多い。今後、LTV-Xが自社サービスにAIをどのように取り込むのか、また複数のSaaSをAIによって横断的につなげられるのかは、中長期的な成長を考えるうえで重要なテーマとなるだろう。

株主構成にも特徴がある。目論見書ベースでは、小村富士夫氏が42.20%、ドコモ・イノベーションファンド2号投資事業有限責任組合が14.14%を保有するなど、特定株主の保有比率が高い。主要株主の動向は、上場後の株式需給や企業経営を考える際に確認しておきたいポイントだ。

今回の上場市場は東京証券取引所ではなく、名古屋証券取引所ネクスト市場である。名証ネクストへの上場は、同社の成長過程における一つの転換点となる。上場によって資金調達の選択肢が広がるだけでなく、社会的な信用力を高め、採用や営業、事業提携などにプラスの効果をもたらす可能性もある。上場予定日は2026年11月5日で、仮条件決定日は10月15日、ブックビルディングは10月19日から23日、公募価格決定日は10月26日と予定されている。

LTV-Xは、売上高が数十億円、数百億円という巨大企業ではない。しかし、2026年3月期に売上高4億円台、当期純利益約1億円を確保しながら、「100のSaaS」という明確な拡大構想を掲げている点は興味深い。特定領域で圧倒的なシェアを狙うのではなく、企業ごと、業界ごとに存在する細かな課題をクラウド化し、それを積み上げていく。これは日本企業のDX需要を取り込む一つの方法といえる。

LTV-Xの今後を見るうえで重要なのは、上場そのものではなく、上場後にどれだけ効率よく事業を拡大できるかだ。サービス数の増加、顧客数の拡大、既存顧客へのクロスセル、AI活用、データ分析などを組み合わせることができれば、「小さなクラウドサービスを数多く持つ会社」から「企業の業務課題を横断的に解決するクラウドプラットフォーム」へ進化する余地がある。

「LTV」という言葉はマーケティングの世界では顧客生涯価値を意味する。LTV-Xという社名には、顧客企業のLTVを高めることだけでなく、自社自身も顧客との長期的な関係を築きながら成長するという意味を重ねることができる。名証ネクストへの上場をきっかけに、「LTV-100構想」がどこまで現実の事業成長につながるのか。2026年11月5日の上場を迎える655Aは、日本のSaaS・DX市場の中でも、その小さな企業規模と大きな成長構想のギャップに注目したい銘柄の一つといえる。

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ペット医療に「抗体医薬」の新時代――MabGenesis(653A)が挑む世界市場と創薬の可能性

犬や猫などのペットは、単なる「飼育動物」から家族の一員へと位置付けが変わりつつある。長寿化が進む一方、慢性炎症疾患や皮膚疾患、腫瘍など、人間と同じように治療を必要とする病気も増えている。こうしたなか、動物向け医薬品の世界でも、従来の薬剤とは異なる「抗体医薬」への注目が高まっている。

その領域で独自の技術を武器に事業を展開するのがMabGenesis(マブジェネシス)だ。同社は2019年6月に設立され、ペット用抗体医薬品の研究開発を手掛けるバイオベンチャーである。2026年9月28日には東京証券取引所グロース市場への新規上場が承認され、上場予定日は2026年11月2日、証券コードは653Aとなった。医薬品分野の新規上場企業として、ペット医療という成長市場に真正面から挑む点が大きな特徴だ。

MabGenesisの事業を理解するうえで重要なのが「抗体医薬」である。抗体とは、特定の異物やタンパク質などを認識する免疫システム上のタンパク質だ。抗体医薬では、この抗体の性質を利用して、病気の原因となる分子などを狙い撃ちする。人間の医療では、がんや自己免疫疾患などの治療で抗体医薬が重要な存在になっており、MabGenesisはその技術を動物医療へ応用しようとしている。

同社の最大の特徴は、完全犬型・完全猫型の抗体ライブラリーを構築していることだ。自社では「MOURA Library」と呼ぶ抗体ライブラリーを基盤技術として位置付け、高効率のモノクローナル抗体単離技術「IMPACT」を組み合わせている。従来技術では取得が難しい、膜タンパク質のわずかな立体構造の違いを認識する高品質なモノクローナル抗体などの取得を目指している。

ここがMabGenesisを一般的な動物用医薬品会社と区別するポイントだ。単に既存薬を販売するのではなく、新しい抗体を探索し、その抗体を医薬品候補へ育て、製薬企業などへ導出する「創薬型」のビジネスモデルを取っている。成功した医薬品が市場に投入されれば大きな収益につながる一方、研究開発が長期化したり、臨床・承認段階で失敗したりするリスクもある。バイオベンチャー特有の「ハイリスク・ハイリターン型」の事業である。

MabGenesisは、動物用医薬品市場の中でも特に抗体医薬の成長余地に注目している。同社によれば、グローバルの動物抗体薬市場は2032年に1兆円規模になると見込まれている。一方、ヒト抗体薬市場は2023年時点で35兆円規模とされる。つまり、人間の医療で確立されてきた抗体医薬の技術を動物領域へ展開することには、大きな市場開拓余地があると考えられる。

特に魅力的なのが「伴侶動物」と呼ばれる犬・猫市場だ。ペットの家族化が進めば、飼い主が病気の治療にかける費用や、新しい治療法に対する需要も高まりやすい。従来であれば「人間ほど高額な治療は難しい」と考えられた領域でも、ペットを家族と考える人が増えれば、新薬の市場性は変わってくる。

MabGenesisでは、すでにイヌ・ネコのMOURA抗体ライブラリーを完成させ、さまざまな疾患領域で抗体取得を進めている。同社の研究開発は、単独で全てを製品化するというより、製薬企業や動物薬企業などとの共同研究を通じて進める形が中心だ。現在はCeva Santé Animale、MSD Animal Health、日本曹達、共立製薬などとの関係が構築されている。

2026年9月28日時点では、ヒトの臨床試験に相当する動物用医薬品の前臨床段階に7件のプロジェクトが存在する。そのうち4件は、イヌの慢性炎症疾患、ネコの慢性炎症疾患、イヌの皮膚疾患、イヌのリンパ腫に関するプロジェクトで、すでにCeva Santé Animale、Virbac、日本曹達、共立製薬へ導出済みとされる。さらに探索段階では11件のプロジェクトがあり、そのうち10件が国内外の大手動物薬企業との共同研究プロジェクトとなっている。

この「導出」がMabGenesisのビジネスを理解するうえで非常に重要になる。創薬企業が候補物質を発見した後、その候補を自社だけで最後まで開発・販売するには莫大な資金と時間が必要になる。そこで、研究開発力や販売網を持つ製薬企業などに権利を導出し、契約一時金や開発マイルストーン、販売マイルストーン、ロイヤリティなどを受け取る仕組みを構築する。

MabGenesisの2026年3月期の売上高は3億3,754万円だった。その内訳を見ると、共同プロジェクト収入が2億9,891万円で全体の88.6%を占め、自社プロジェクト収入が3,666万円、10.9%となっている。つまり、現時点では自社で完成した医薬品を大量に販売する会社ではなく、研究開発や共同プロジェクト、候補薬の導出などを通じて収益を獲得する段階にある。

売上先も注目したい。2026年3月期には日本曹達が1億3,000万円で売上高構成比38.5%、MSD Animal Healthが9,839万円で29.1%、Ceva Santé Animaleが7,026万円で20.8%を占めた。上位3社だけで売上高の約88%となる。大手企業との共同研究はMabGenesisの技術力を評価する材料になる一方、特定企業への売上依存度が高い点は、投資家が注意しておきたいポイントでもある。

業績は急速に改善している。2024年3月期の売上高は6,616万円、2025年3月期は1億4,445万円、2026年3月期は3億3,754万円へ拡大した。2026年3月期は前期比約133.7%増という大幅な成長である。さらに経常利益は、2024年3月期の1億4,791万円の赤字、2025年3月期の1億352万円の赤字から、2026年3月期には3,643万円の黒字へ転換した。創薬企業として研究開発費を負担しながら、売上成長によって黒字化を実現した点は大きい。

ただし、この黒字化をそのまま安定収益企業への転換と見るのは早い。MabGenesisの収益は、医薬品の販売数量に応じて毎月安定的に積み上がる一般的な事業とは異なる。契約一時金や研究・開発マイルストーンなどのタイミングによって、年度ごとの売上高や利益が大きく変動する可能性がある。実際、2026年6月期の第1四半期は売上高4,185万円、経常損失3,689万円となっており、四半期単位では赤字となっている。

したがって、MabGenesisを見る際には「今期の利益がいくらか」だけでなく、「どのプロジェクトがどの段階まで進んでいるのか」を確認することが重要になる。研究段階から前臨床、臨床、承認、販売へ進むにつれて、契約一時金やマイルストーン収入が発生する可能性がある一方、開発中止などのリスクも存在する。

今回のIPOでは、公募株式数94万700株、売出株式数104万7,200株、公開株数合計198万7,900株が予定されている。上場時発行済み株式数は805万4,700株となる予定だ。公募によって調達した資金は、設備資金、研究開発費、運転資金などに充当される予定で、上場によって得られる資金を今後の研究開発へ振り向ける構図が見えてくる。

また、2026年11月2日の上場を前に、10月13日に仮条件が提示され、10月15日から21日までブックビルディング、10月22日に公開価格が決定される予定だ。現時点では公開価格が決まっていないため、株価指標による割安・割高の判断は今後の価格決定を待つ必要がある。

MabGenesisのもう一つの面白さは、動物用医薬品だけにとどまらない可能性を持っていることだ。同社は人体用抗体医薬の領域にも取り組んでおり、がんや人獣共通感染症など、アンメットメディカルニーズの高い疾患領域を対象としている。現在は膵臓がんを対象に国内の公的研究機関との共同研究も進めているとされる。

もちろん、人間向け医薬品の開発は動物用以上に大きな市場が期待できる一方、開発期間、規制、研究開発費などの負担も大きい。そのため、まずは動物用抗体医薬という比較的明確な市場で実績を積み上げ、それをヒト医療へ広げられるかどうかが、中長期的な企業価値を左右する可能性がある。

投資家にとって653Aの魅力は、単なる「ペット関連銘柄」ではないところにある。ペット市場の成長、抗体医薬という先端技術、国内外の大手企業との共同研究、そして創薬パイプラインという複数の成長要因を持っている。特に、すでに複数のプロジェクトを大手動物薬企業へ導出している点は、創薬ベンチャーとしての事業化能力を見るうえで重要だ。

一方で、創薬企業である以上、研究開発の成否や契約の進捗に業績が左右されるリスクは避けられない。また、現在の売上高はまだ数億円規模で、上位取引先への依存度も高い。今後の企業価値を考えるなら、パイプラインの増加だけでなく、導出案件がどれだけマイルストーン収入やロイヤリティにつながるのか、そして最終的に承認・販売される医薬品を生み出せるのかが重要になる。

MabGenesisは2026年11月2日に東証グロース市場へ上場する。653Aという新しい証券コードの誕生は、日本のペット医療とバイオテクノロジーの接点に投資家の目を向けるきっかけとなりそうだ。ペットが「家族」として扱われる時代が進むほど、高度な医療への需要も拡大する可能性がある。その市場で、犬・猫に特化した抗体ライブラリーという独自技術を武器に、MabGenesisがどこまで創薬パイプラインを育てられるのか。

黒字化という目先の成果だけではなく、共同研究、導出、マイルストーン、そして将来的なロイヤリティという創薬ビジネスの成長サイクルを追いかけることが、653Aを理解するうえで重要になるだろう。小さなバイオベンチャーから、世界の動物医療を変える抗体医薬企業へ――。MabGenesisの上場は、その挑戦の新たなスタート地点となる。

IPOは「初値」だけではない――3社の成長ストーリーを見極める

今回取り上げたMabGenesis、LTV-X、estieは、事業領域こそ異なるものの、それぞれが既存産業の構造変化を成長機会としている点で共通している。MabGenesisはペット医療に抗体医薬という先端技術を持ち込み、LTV-Xはクラウドによって企業の顧客管理や業務効率化を支援し、estieは不動産データとAIによって意思決定の高度化を目指す。

11月2日のMabGenesis、11月5日のLTV-X、11月6日のestieと、3社は短期間に相次いで上場する予定だ。 そのため、IPO市場全体の資金動向や投資家の関心が、それぞれの初値や上場後の株価形成に影響する可能性もある。

ただし、3社を単純に「どの銘柄が初値で上がるか」という視点だけで比較するのは適切ではない。estieのようなデータ・AI企業では、売上成長を維持しながらAIを収益化できるかが重要になる。LTV-Xでは、SaaSの顧客基盤を拡大し、複数サービスを効率よく収益化できるかが焦点となる。そしてMabGenesisでは、研究開発中の候補品をどこまで事業化し、導出やマイルストーン、将来的なロイヤリティへつなげられるかが企業価値を左右する。

また、IPO銘柄には成長期待が株価に先行して織り込まれるリスクもある。特に成長企業の場合、上場時点の業績だけでなく、数年先の事業拡大まで評価されているケースが少なくない。そのため、公開価格や初値だけで判断せず、上場後の決算で売上高、利益、顧客数、開発パイプラインなどが計画通り進んでいるかを継続的に確認することが重要だ。

11月IPOの3社は、「不動産×AI」「企業DX×SaaS」「ペット医療×創薬」という異なるテーマを持つ。それぞれに大きな成長余地がある一方、競争激化、顧客獲得、研究開発、事業投資など固有のリスクも存在する。IPO投資では、話題性だけに飛びつくのではなく、企業が描く成長ストーリーが実際の業績へつながっているかを見極めたい。

2026年11月は、新しい産業の姿を先取りする3社が市場に加わる月となる。初値の値動きに注目するだけでなく、その後の企業成長まで追いかけることで、IPO投資の本当の面白さが見えてくるだろう。

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