
ナスダック100を彩る「医療×AI半導体」の注目4銘柄
米国を代表する株価指数の一つが「ナスダック100」です。ナスダック市場に上場する非金融企業のうち、時価総額の大きい企業を中心に構成され、テクノロジーだけでなく、ヘルスケアや消費関連など幅広い成長企業が組み入れられています。2026年8月時点でナスダック100は100社で構成され、テクノロジー、一般消費財、ヘルスケアなどが主要セクターとなっています。
今回取り上げるのは、その中でも特徴的な4社です。バイオ医薬品大手のアムジェン(AMGN)、手術支援ロボット「da Vinci」で知られるインテュイティブサージカル(ISRG)、AI向けHBMなどで注目されるメモリ半導体大手のマイクロン・テクノロジー(MU)、そして半導体製造装置を手掛ける**ラムリサーチ(LRCX)**です。実際、Nasdaqが公表する構成銘柄資料にも、ISRG、LRCX、MUなどが掲載されています。
4社に共通するキーワードは「技術革新」です。アムジェンは新薬開発、インテュイティブサージカルはロボット手術、マイクロンはAI時代に不可欠な高性能メモリ、ラムリサーチは最先端半導体の製造工程を支えています。つまり、表面的には異なる業種に見えても、それぞれが次世代の産業や社会を支える技術を持つ企業なのです。
ナスダック100というと、NVIDIAやMicrosoft、Apple、Amazonなど巨大IT企業に目が向きがちですが、その成長を別の角度から支えている企業にも注目することで、米国株投資の新たな視点が見えてきます。
| ティッカー | 企業名 | 主な事業 | 注目テーマ | 投資ポイント |
|---|---|---|---|---|
| AMGN | アムジェン | バイオ医薬品 | 新薬・バイオテクノロジー | 新薬開発力と大型製品による安定収益。肥満症治療薬候補「MariTide」にも注目 |
| ISRG | インテュイティブサージカル | 手術支援ロボット | 医療×ロボット | 「da Vinci」を世界展開。手術件数増加と消耗品収入による継続成長が強み |
| MU | マイクロン・テクノロジー | メモリ半導体 | AI・HBM・データセンター | AI向け高性能メモリ「HBM」の需要拡大が追い風。メモリ市況の変動には注意 |
| LRCX | ラムリサーチ | 半導体製造装置 | AI・半導体設備投資 | エッチング・成膜装置に強み。AI半導体の高性能化・複雑化が装置需要を押し上げる可能性 |
アムジェン(AMGN)――バイオ医薬品の巨人が挑む「次の成長ステージ」
米国のバイオ医薬品大手として知られるアムジェン(NASDAQ:AMGN)は、1980年創業の老舗バイオ企業です。現在では、循環器、骨疾患、炎症、がん、希少疾患など幅広い領域で医薬品を展開し、世界約1700万人の患者に製品を届けるグローバル企業へと成長しています。2025年には売上高が前年比10%増の367億5100万ドルとなり、営業利益は25%増の90億8000万ドル、純利益は89%増の77億1100万ドルと、好調な業績を記録しました。
アムジェンの特徴は、単に新薬を次々と発売する企業ではなく、バイオ医薬品の研究開発力を武器に、既存薬の適応拡大と次世代製品の育成を同時に進めている点にあります。2025年には18製品が過去最高の売上高を記録し、年間売上高10億ドルを超えた製品も14品目に達しました。さらに13製品が2桁成長を達成しています。
代表的な製品の一つが、高コレステロール血症治療薬「Repatha(レパーサ)」です。RepathaはLDLコレステロールを低下させ、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスク低下を目指す薬剤で、2025年の売上高は約30億ドル、前年比36%増となりました。2025年には米FDAによって適応範囲が広げられ、従来よりも幅広い患者への使用が可能になったことも成長材料です。
2026年に入ってもRepathaの勢いは続いています。アムジェンの2026年第1四半期資料では、Repatha、骨形成促進薬「EVENITY」、重症喘息治療薬「TEZSPIRE」がいずれも20%以上の売上成長を示しました。特にRepathaについては、LDLコレステロールの管理目標を達成できていない患者が世界に多数存在するとされ、さらなる市場浸透が期待されています。
もう一つ注目されるのが「TEZSPIRE」です。重症喘息などを対象とする生物学的製剤で、2025年の売上高は15億ドルまで拡大し、前年比52%増となりました。さらに慢性副鼻腔炎などへの適応拡大が進められており、一つの薬剤を複数の疾患領域へ展開することで、製品価値を高める戦略が取られています。
一方、アムジェンを語るうえで見逃せないのが「MariTide(マリタイド)」です。肥満症治療薬として開発が進む次世代候補で、GLP-1受容体を活性化しながらGIP受容体を阻害するという特徴を持つ抗体ペプチド複合体です。2026年には複数の第3相試験が進行しており、肥満症だけでなく、糖尿病や心血管疾患、心不全などへの展開可能性も検討されています。
肥満症治療薬市場は、近年の医薬品業界でも特に注目される巨大市場です。デンマークのノボ・ノルディスクや米イーライ・リリーなどが先行するなか、アムジェンがMariTideによってどこまで存在感を高められるかは、今後の株価を考えるうえでも重要なポイントとなりそうです。
もっとも、アムジェンにはリスクもあります。大型医薬品を抱える製薬企業にとって避けられないのが、特許切れとバイオシミラー、後発品による競争です。例えば骨粗しょう症治療薬「Prolia」は2025年の年間売上高こそ前年を上回りましたが、2026年には複数のバイオシミラーによる競争激化で売上高の減少が加速すると会社側は予想しています。
また、炎症性疾患治療薬「Enbrel」も価格低下などの影響を受けています。2025年第4四半期の売上高は前年同期比48%減となっており、アムジェンがいかにして成熟製品の減収を新しい成長製品で補うかが重要になっています。
そのため同社は、研究開発への巨額投資を続けています。2025年の研究開発費は約73億ドル。さらに米国のノースカロライナ州、オハイオ州、プエルトリコなどで製造能力の増強にも投資しています。研究開発から製造までを自社の強みとして構築することで、新薬の上市後に世界規模で供給できる体制を整えています。
株主還元もアムジェンの魅力の一つです。2025年には年間51億ドルの配当を実施し、四半期配当を前年比6%増額しました。2025年まで14年連続で年間配当を増やしている点も、成長株というより「成長と還元を両立する大型製薬株」として注目される理由でしょう。
さらに、アムジェンは2025年に60億ドルの債務を返済するなど、財務面の改善にも取り組みました。大型のM&Aによって成長分野を取り込んできた同社にとって、今後は新薬開発だけでなく、投資と負債、配当をどうバランスさせるかも重要な経営課題になります。
アムジェン株を見る場合、短期的な株価だけで判断するのではなく、「成熟薬の減収を新薬がどこまで補えるか」という視点が重要です。Repatha、TEZSPIRE、EVENITYなどが成長を続ける一方、ProliaやEnbrelなどには競争激化による逆風があります。そして、その先には肥満症市場を狙うMariTideがあります。
つまりアムジェンは、巨大な既存事業から安定したキャッシュフローを生み出しながら、次世代の大型医薬品候補へ投資する「新陳代謝型」のバイオ医薬品企業といえます。2025年の売上高は367億ドルを超え、2026年も複数の成長製品が伸びています。
今後の投資ポイントは、①RepathaやTEZSPIREなど主力成長薬の拡大、②ProliaやEnbrelなど成熟製品の特許・競争リスク、③MariTideを中心とする肥満症パイプライン、④研究開発投資の成果、⑤配当を含む株主還元――の5点です。
「巨大製薬企業だから安定」というだけではなく、既存薬の特許切れという宿命と、新薬開発による成長を同時に見極める必要があるアムジェン。特に肥満症治療薬市場が世界的に拡大するなか、MariTideが次の大型成長ドライバーへ育つかどうかは、今後のAMGNを考えるうえで大きなテーマになりそうです。
インテュイティブサージカル(ISRG)――手術支援ロボット「ダヴィンチ」で医療の未来を切り開く
米国の医療機器メーカー、インテュイティブサージカル(NASDAQ:ISRG)は、手術支援ロボット「da Vinci(ダヴィンチ)」で世界をリードする企業です。一般的な製薬会社とは異なり、同社は医師が行う外科手術をロボット技術によって支援する「ロボット支援手術」という成長市場を開拓してきました。AIやロボティクスがさまざまな産業に広がるなか、医療分野でもロボットの活用が進んでおり、インテュイティブサージカルはその代表格として注目されています。
同社のビジネスモデルを理解するうえで重要なのが、単純に「高価な手術ロボットを病院に販売する会社」ではないという点です。病院にda Vinciを設置すると、手術のたびに専用の器具やアクセサリーなどが使用されます。そのため、システムの設置台数が増えれば増えるほど、その後の手術件数に応じて継続的な収益が積み上がる構造になっています。
実際、2025年の売上高は約101億ドルと、2024年の約84億ドルから21%増加しました。da Vinciによる手術件数は約315万件で、前年比18%増。さらに、手術器具・アクセサリーの売上高は19%増の約60億ドル、手術システム売上高は26%増の約25億ドルとなりました。2025年末時点で世界に設置されたda Vinciの台数は約1万1106台に達しています。この「設置台数の増加→手術件数の増加→消耗品・器具の売上増」という循環こそ、インテュイティブサージカルの強さです。しかも、システムの利用率も上昇しており、2025年には1台当たり年間300件強の手術が行われました。ロボットを導入した病院で実際の利用が増えていることは、同社の事業拡大を支える重要な要素です。
現在の成長をけん引しているのが、最新世代の「da Vinci 5」です。従来型から機能を大幅に強化した新型システムで、150以上の改良が盛り込まれています。2025年には870台のda Vinci 5が設置され、前年の362台から大きく増加しました。2026年1月には米国で一部の心臓手術への使用についてFDAの510(k)クリアランスを取得しており、従来よりも活用領域が広がる可能性があります。
2026年に入ってからも勢いは続いています。第1四半期の売上高は27億7000万ドルで前年同期比23%増。da Vinciの手術件数は16%増加し、システム設置台数は1万1395台に拡大しました。第1四半期には431台のda Vinciが設置され、そのうち232台がda Vinci 5でした。
さらに第2四半期には、世界のda Vinci手術件数が前年同期比15%増加し、468台のda Vinciシステムを設置。そのうち246台がda Vinci 5でした。6月末時点のda Vinci設置台数は1万1710台に達し、前年同期比12%増となっています。
インテュイティブサージカルのもう一つの成長領域が、肺などの診断・治療を支援する「Ion(アイオン)」です。これは気管支鏡を利用して肺の奥深くまでアクセスするロボット支援システムです。2025年のIonによる手術・処置件数は約14万4100件と前年比51%増加しました。2026年第2四半期もIonの手術件数は前年同期比36%増と、高い成長率を維持しています。
同社の潜在力を考えるうえでは、海外市場も重要です。2025年のda Vinci手術件数は米国だけでなく海外でも大きく伸び、米国外の手術件数は23%増加しました。海外でのda Vinci手術件数は年間110万件を超えています。2026年3月にはイタリア、スペイン、ポルトガルで販売代理店を買収して直接事業展開に切り替えるなど、欧州市場での基盤強化も進めています。
日本市場も今後の注目ポイントです。日本ではロボット支援手術の普及が進んでおり、保険適用の対象となる術式が拡大してきました。病院側にとってロボット導入の経済性が改善すれば、da Vinciの設置台数や手術件数の増加につながる可能性があります。実際、同社自身も2026年のシステム設置台数に影響を与える要因として、日本を含む各国での追加的な診療報酬・償還の動向を挙げています。
一方、投資対象として見た場合には注意すべき点もあります。第一は、株価の評価です。インテュイティブサージカルは高い成長力と市場シェアを背景に、一般的な医療機器メーカーと比較して高いバリュエーションが意識されやすい銘柄です。業績が好調でも、市場の成長期待を下回れば株価が調整する可能性があります。
第二は競争です。手術支援ロボット市場は成長性が高いことから、医療機器メーカー各社が参入を進めています。特に世界最大級の医療機器市場である米国だけでなく、中国などでも競争環境が変化しています。2026年第2四半期には、中国における競争環境や産業政策などがIonのシステム設置に影響したと同社が説明しており、今後も地域ごとの競争や規制には注意が必要です。
また、医療ロボットは「ロボットを売れば終わり」という製品ではありません。医師が操作方法を習得し、病院が手術体制を整え、実際の手術で継続的に利用される必要があります。その意味で、インテュイティブサージカルが長年にわたって蓄積してきた医師・病院とのネットワークや教育体制、膨大な手術実績は大きな競争力となっています。
2026年1月には、da Vinciを利用して手術を受けた患者が世界累計2000万人を突破しました。2025年だけでも310万人超の患者がda Vinciによる手術を受けています。これは単なる販売台数以上に、同社のプラットフォームが医療現場に浸透していることを示す数字です。
インテュイティブサージカルを投資対象として見る際には、「ロボット」という話題性だけでなく、①da Vinciの設置台数、②1台当たりの手術件数、③da Vinci 5への世代交代、④器具・アクセサリー売上、⑤Ionの成長、⑥海外市場の普及、⑦競合企業との競争、という複数の指標を確認することが重要です。
同社は2026年の世界のda Vinci手術件数について、2025年比13~15%増を見込んでいます。すでに巨大な設置基盤を築いているにもかかわらず、手術件数が2桁成長を続けていることは大きな魅力です。
AI、ロボット、医療という3つの成長テーマを兼ね備えるインテュイティブサージカル。da Vinci 5の普及や手術対象領域の拡大、海外市場の成長が進めば、同社は「手術ロボットメーカー」から「外科医療のプラットフォーム企業」へと、さらに存在感を高める可能性があります。高い期待が株価に織り込まれている点には注意が必要ですが、世界的な外科医不足や低侵襲手術への需要拡大を背景に、長期的な成長ストーリーを描きやすい米国医療関連株の一つといえるでしょう。
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マイクロン・テクノロジー(MU)――AI時代の「記憶装置」を握る半導体メーカー
米国の半導体メーカー、マイクロン・テクノロジー(NASDAQ:MU)は、DRAMやNAND型フラッシュメモリなどを手掛ける世界有数のメモリ半導体企業です。これまでメモリ半導体は、景気やパソコン・スマートフォン需要の影響を受けやすい「市況産業」というイメージが強い分野でした。しかし現在、生成AIの急速な普及によって、その位置付けが大きく変わりつつあります。
AIを動かすためにはGPUやCPUだけでなく、大量のデータを高速に読み書きするメモリが不可欠です。特に生成AIの学習や推論では、処理するデータ量が急増しており、メモリの容量と帯域幅がシステム全体の性能を左右するようになっています。マイクロンはこうした変化を「メモリが単なる部品から戦略的資産へ変わった」と説明しており、AI時代の恩恵を大きく受ける半導体企業の一つとなっています。
現在、マイクロンの成長を語るうえで欠かせないのが「HBM(High Bandwidth Memory)」です。HBMは、複数のメモリチップを積層することで、従来のDRAMよりも非常に広い帯域幅を実現する高性能メモリです。AIアクセラレーターが膨大なデータを処理する際に重要な役割を果たすため、AIデータセンターの拡大とともに需要が急増しています。
マイクロンは2026年3月、次世代AI向けのHBM4について量産出荷を開始したと発表しました。NVIDIAの次世代プラットフォーム「Vera Rubin」向けに設計された36GB・12層品で、帯域幅は2.8TB/sを超え、従来世代のHBM3Eから帯域幅を大幅に向上させています。さらに48GB・16層品のサンプルも顧客に出荷しており、AI半導体の高性能化に合わせてメモリ容量を拡大しています。
このHBM事業の成長は、業績にも表れています。2025年度には、HBM、高容量DIMM、サーバー向けLP DRAMを合わせた売上高が100億ドルに達し、前年度から5倍以上に拡大しました。なかでも2025年度第4四半期のHBM売上高は約20億ドルに達しています。AIデータセンター市場が急拡大する中で、マイクロンはメモリメーカーから「AIインフラを支える企業」へと変貌しつつあります。
そして2026年度に入ると、その勢いはさらに加速しました。2026年度第3四半期の売上高は414億6000万ドルと過去最高を更新。前年同期の93億ドルから大幅に増加し、調整後1株利益は25.11ドルとなりました。営業キャッシュフローも253億9000万ドル、調整後フリーキャッシュフローは183億ドルに達しています。
会社側は2026年度第4四半期について、売上高500億ドル±10億ドル、粗利益率約86%、調整後EPS31ドル±1ドルという非常に強い見通しを示しています。メモリ価格の上昇とAI関連需要が重なり、かつての「メモリ不況になれば業績が急悪化する企業」というイメージから、大きく変化していることが分かります。
マイクロンが注力するのはHBMだけではありません。AIデータセンターでは、GPUに接続されるHBMだけでなく、CPUなどを支えるサーバーDRAM、大容量SSDなど、さまざまなメモリ・ストレージ製品が必要になります。同社はHBM、DRAM、NAND、データセンターSSDを組み合わせた幅広い製品群を展開しており、AIデータセンターのメモリ階層全体を取り込もうとしています。
特にAIの「推論」処理が増えていることも追い風です。これまでは巨大なAIモデルを学習させるためのGPU需要が注目されてきましたが、今後は企業や個人がAIを実際に利用する推論処理が大量に発生します。AIエージェントや長いコンテキストを扱うサービスが普及すれば、必要となるメモリ容量も増える可能性があります。マイクロンは、AIの学習から推論への広がりによって、メモリとストレージの重要性がさらに高まるとしています。
顧客との長期的な関係も変化しています。マイクロンは2026年6月時点で、データセンター、コンシューマー、自動車などの顧客との間で16件の「Strategic Customer Agreements(SCA)」を締結したと発表しています。AI向けの高性能メモリでは供給能力が重要になるため、顧客側も将来の供給を確保する必要があります。こうした契約が増えれば、メモリメーカーにとっても従来より需要を見通しやすくなる可能性があります。
さらに注目したいのが、マイクロンの次世代製品です。HBM4に続く「HBM4E」は2027年の量産を予定しています。加えて、AIデータセンター向けの256GB DDR5 RDIMMや、低消費電力のSOCAMM2なども開発・量産が進んでいます。AIサーバーの高性能化に伴って、一つのサーバーに搭載されるメモリ量が増加すれば、HBM以外の製品にも成長余地が生まれます。
日本との関係も見逃せません。マイクロンは日本で最先端DRAMの生産能力を強化しており、2025年度には日本の拠点に業界初となるEUV装置を導入しました。米国のアイダホ州やニューヨーク州、台湾、シンガポールなどにも生産・組立能力を拡大しており、世界的な半導体供給網を構築しています。
一方で、投資対象としてマイクロンを見る場合には注意点もあります。最大のポイントは、メモリ半導体が依然として「市況性」を持っていることです。AI需要が強くても、競合他社が一斉に設備投資を増やせば、将来的に供給過剰となり、DRAMやNANDの価格が下落する可能性があります。メモリメーカーは設備投資負担が大きいため、需要と供給のバランスが利益率を大きく左右します。
また、HBM市場では韓国のSKハイニックスやサムスン電子などとの競争があります。AI半導体市場が拡大すればするほど、高性能HBMをめぐる競争も激しくなるでしょう。さらに台湾を含むグローバルな生産体制を持つことから、地政学リスクやサプライチェーンの問題も無視できません。直近では台湾の労使関係をめぐるリスクも報じられており、世界規模の生産拠点を持つ企業ならではのリスクにも注意が必要です。
そして株価については、業績の急成長とともに市場の期待も非常に高まっています。2026年には株価が大きく上昇しており、今後は「AI需要が強いか」だけでなく、「その強い需要が市場予想をさらに上回れるか」が重要になります。決算発表では、HBMの出荷量、DRAM価格、粗利益率、設備投資、フリーキャッシュフローなどを確認する必要があります。
マイクロン・テクノロジーは、AIブームの恩恵を受ける半導体企業の中でも、特に「メモリ」という重要な部分を担う企業です。GPUがAIの「頭脳」だとすれば、HBMやDRAMはその頭脳が大量のデータを処理するための重要な記憶領域といえます。
今後の投資ポイントは、①HBM4の量産拡大、②HBM4Eの2027年量産、③AIサーバー向けDRAMの需要、④NAND・SSD事業の成長、⑤メモリ価格の動向、⑥設備投資と供給能力、⑦SKハイニックスやサムスン電子との競争、の7点です。
これまでのマイクロンは「メモリ市況に左右される半導体メーカー」という側面が強い企業でした。しかしAI時代には、そのメモリそのものがAIシステムの性能を決める重要部品になっています。AIデータセンターの拡大が続く限り、マイクロンには大きな成長余地があります。一方で、現在の高成長がいつまで続くのか、メモリ価格の上昇がどこまで持続するのかという点は慎重に見極める必要があります。
AI半導体の主役はGPUだけではありません。AIを高速に動かすための「記憶」を提供するマイクロン。HBM4からHBM4Eへと技術革新を続ける同社は、AIインフラ投資の拡大を直接的に取り込む銘柄として、今後も半導体市場で存在感を高めそうです。
ラムリサーチ(LRCX)――AI半導体の進化を支える「エッチング」の巨人
米国の半導体製造装置メーカー、ラムリサーチ(NASDAQ:LRCX)は、半導体業界の中でも特に「縁の下の力持ち」といえる企業です。NVIDIAのGPUやマイクロン・テクノロジーのHBMのように完成した半導体が注目される一方、それらを製造するための装置を手掛けるラムリサーチも、AI半導体の進化に欠かせない存在となっています。
同社が得意とするのが、半導体製造工程における「エッチング」と「成膜」です。エッチングとは、ウエハー上に形成された膜などを削り、微細な回路や構造を作り込んでいく工程です。一方、成膜はウエハー上に薄い膜を形成する工程。半導体が微細化・高性能化するほど、こうした工程にはより高い精度が求められます。
ラムリサーチは、こうしたウエハー加工装置を世界中の半導体メーカーに提供しています。同社によれば、現在ではほぼすべての先端半導体が何らかの形でラムリサーチの技術を利用しています。AI向け半導体の需要拡大によって、半導体そのものだけでなく、その製造工程に必要な装置への投資も拡大していることが、同社の成長を後押ししています。
2026年6月期の売上高は232億3269万ドルとなり、前年度の184億3559万ドルから大きく増加しました。そのうち、半導体製造装置などの「Systems revenue」が148億8549万ドル、保守・サービスなどの「Customer support-related revenue and other」が83億4720万ドルを占めています。装置を販売するだけでなく、納入後のサービスや部品、アップグレードなどからも継続的に収益を得られる点が、ラムリサーチの強みです。
特に注目されているのが、AI半導体によって「エッチングの重要性」が高まっていることです。AI向けの高性能チップでは、より多くのトランジスタや複雑な構造を限られた面積に作り込む必要があります。さらにHBMなどのメモリでは、複数のチップを積層する3D化が進んでいます。こうした構造の複雑化は、精密なエッチングや成膜を必要とするため、ラムリサーチのような製造装置メーカーにとって大きな追い風となります。
実際、2026年6月期第4四半期のシステム売上高は42億4985万ドルで、前年同期の34億3763万ドルから増加しました。サービス関連などを含めた四半期売上高は67億2224万ドルに達しています。市場別では、システム売上高の44%をファウンドリー、23%をNANDなどの不揮発性メモリ、23%をDRAM、10%をロジック・その他が占めました。AI向けGPUだけでなく、AIデータセンターを支えるメモリへの投資もラムリサーチの需要につながっています。
地域別に見ると、台湾が27%、中国が26%、韓国が20%、日本が9%、米国が9%などとなっています。台湾や韓国には世界有数の半導体メーカーが集まり、中国にも大規模な半導体製造拠点が存在するため、アジア市場の動向が同社の業績を大きく左右します。
AIブームが続く中で、ラムリサーチが力を入れているのが研究開発です。2026年8月には、今後5年間で世界の研究開発ラボネットワークに30億ドル超を投資すると発表しました。実験能力を50%以上拡大することを目指しており、AI時代に必要となる新しい材料や複雑な半導体構造への対応を急ぎます。
さらに8月26日には、米オレゴン州タラティンの研究開発拠点で新たな研究施設の建設を開始しました。約12万平方フィートの施設となり、完成すれば同拠点のクリーンルーム研究スペースは50%以上増える見込みです。2028年の開設を予定しており、先端成膜やエッチング、材料科学などの研究を進める計画です。
こうした積極的な研究開発投資には理由があります。AI半導体は、従来型のCPUやメモリとは異なるアーキテクチャーや材料、複雑な構造を採用するようになっています。つまり「AI半導体が売れる」というだけではなく、「AI半導体を作るための製造工程そのものが難しくなる」ということです。ラムリサーチにとって、この製造難度の上昇はビジネスチャンスになり得ます。
特にHBMは重要なテーマです。マイクロンなどメモリメーカーがHBM4や次世代HBMの量産を進める中、メモリの積層数や構造が高度化すれば、それに対応する製造装置の需要も増える可能性があります。ラムリサーチ自身も、マイクロンとの長期的な協業を通じて、AIを支えるメモリやストレージ、先端パッケージング技術の開発を進めています。
一方、投資対象として見た場合には注意点もあります。最大のリスクは、半導体製造装置業界特有の設備投資サイクルです。半導体メーカーが設備投資を増やせば装置メーカーの業績も伸びますが、半導体需要が減速したり、メーカーが投資を抑制したりすれば、装置需要が急速に落ち込む可能性があります。
また、地政学リスクも無視できません。売上高の大きな割合を台湾、中国、韓国が占めるため、米中関係や輸出規制、半導体産業政策などの影響を受けやすい企業です。特に中国向け半導体製造装置の輸出規制は、今後も同社の業績を見るうえで重要なポイントとなります。
さらに、ASML、アプライド・マテリアルズ、KLAなど、半導体製造装置業界には強力な競合企業が存在します。その中でラムリサーチが強みを持つのは、エッチングや成膜といった特定の工程で高い技術力を持ち、顧客企業と製造プロセスを共同開発していることです。装置そのものだけでなく、顧客の製造工程に深く入り込むことが、競争力の源泉になっています。
足元の業績見通しも強く、2026年9月期第1四半期について同社は売上高81億ドル±4億ドル、粗利益率52%±1%、調整後EPS2.15ドル±0.15ドルを見込んでいます。AI関連投資の拡大が続く中、製造装置メーカーにも強い需要が続いていることがうかがえます。
ラムリサーチを投資対象として見る際には、①AI向け半導体の設備投資、②HBM・DRAMなどメモリ投資、③エッチング・成膜技術の需要、④中国向け輸出規制、⑤台湾・韓国などの設備投資動向、⑥サービス・保守事業の成長、⑦研究開発投資の成果、といったポイントをチェックすることが重要です。
AI関連株というと、NVIDIAのような半導体メーカーやマイクロンのようなメモリメーカーに目が向きがちです。しかし、AI半導体が高性能化すればするほど、そのチップを「どう作るか」が重要になります。ラムリサーチは、その製造プロセスを支える企業です。
AI半導体の進化は、GPUやHBMだけで完結するものではありません。より微細で、より複雑なチップを製造するためには、高度なエッチングや成膜技術が不可欠です。AI投資の拡大を「半導体製造装置」という視点から捉えるなら、ラムリサーチは注目度の高い企業の一つといえるでしょう。




