
【今年度の春闘で大手企業の賃上げ】「賃上げTOP企業は建設業界が独占」その裏にある業績、賃上げの持続性、そしてロボット活用まで含めた未来を徹底解剖する
監修者:市川雄一郎
GFS校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長
「ことしの春闘、大手企業の賃上げ額」というニュースを見ると、多くの人はまず全体平均に目が行きます。
実際、経団連の2026年春季労使交渉・大手企業業種別回答状況の第1回集計では、主要23業種248社を対象とする集計のうち、金額が判明した103社ベースで、月例賃金の引き上げ額は平均1万9964円、賃上げ率は5.46%でした。これは比較可能な近年の中でもかなり高い水準です。しかも業種別に見ると、情報通信が8.28%でトップ、建設が7.63%で2位となっており、建設業の賃上げの強さがかなり目立っています。さらに建設の回答・妥結額は4万3922円で、金額ベースでも非常に大きいです。
この「建設が上位に来た」という事実は、かなり重要です。
なぜなら、建設業は長い間、きつい・危険・人手不足・低い生産性といったイメージで語られやすく、「賃上げで先頭を走る業界」という印象は強くなかったからです。ところが今は、春闘の数字において、建設業が情報通信に次ぐ高水準の賃上げ業種として浮かび上がっています。経団連の担当者も、人手不足感の大きい業種の上昇率が目立ったと説明しており、建設の高い賃上げは偶然ではなく、構造的な人材争奪戦の表れと読むのが自然です。
では、建設業界は本当にそれだけの賃上げを支えられるほど儲かっているのでしょうか。
結論から言えば、足元の大手ゼネコンの業績はかなり強いです。たとえば鹿島の2026年3月期は、売上高3兆672億円、営業利益2407億円で、ともに大きく伸びています。大林組も2026年度予想として、連結売上高2兆9450億円、営業利益1800億円を見込んでいます。大成建設は2026年3月期業績予想を上方修正し、純利益見通しを1670億円へ引き上げました。さらに業界媒体の集計では、スーパーゼネコン5社合計の2026年度売上高見通しは約12兆300億円、前期比約5.3%増とされています。つまり、少なくとも大手建設会社に関しては、「苦しいのに無理して賃上げしている」というより、足元の利益改善と受注環境を背景に賃上げ余力があると見る方が正確です。
ただし、ここで話を終えると浅いです。
本当に面白いのは、その高い賃上げが一過性なのか、それとも建設業界の構造変化の始まりなのか、という点です。さらに、建設業界はこれからロボットや自動施工、遠隔施工、AI活用によってどう変わるのか。賃上げと省人化は矛盾するのか、それとも両立するのか。国土交通省はすでにi-Construction 2.0の下で、2040年度までに少なくとも省人化3割、生産性1.5倍を目指しています。つまり今の建設業界は、賃上げだけでなく、人手不足をきっかけに産業構造そのものを変えようとしている段階にあります。
この記事では、
春闘で建設業が上位に来た意味、
なぜ建設業で賃上げが必要なのか、
スーパーゼネコンの足元の業績、
今後の建設需要の見通し、
建設ロボットと自動施工が現場をどう変えるのか、
そして投資家は建設業界をどう見るべきか、
をかなり丁寧に整理します。
結論を先に言うと、建設業界は今、**「人が足りないから賃金を上げる業界」から、「人が足りないからこそ高単価化・選別受注・自動化を進め、利益も賃金も上げていく業界」**へ移ろうとしています。
だから、建設の高い賃上げは単なる景気の良さの反映ではなく、産業の生き残り戦略の一部として見るべきです。
そして、この流れが続くなら、建設業界は「地味で古い業界」ではなく、インフラ、再開発、災害対策、半導体工場、データセンター、ロボット化を巻き込む成長テーマとして再評価される可能性があります。
第1章 春闘で建設業の賃上げが高かったのは、何を意味するのか
数字のインパクト以上に、「建設が採用競争で本気になっている」ことが重要
経団連の第1回集計で、建設の賃上げ率は7.63%でした。 トップの情報通信8.28%に次ぐ水準で、全体平均5.46%を大きく上回っています。回答・妥結額も4万3922円と、平均の約2倍に近い水準です。これは単に「高い」で済ませるには大きすぎる差です。
この数字の読み方で大切なのは、建設業界が景気に乗って気前よく賃上げした、という単純な話ではないことです。
建設はもともと、人手不足が極めて深刻な業界です。国土交通省の2026年4月の参考資料集では、建設業就業者数は477万人で、ピーク時から約30%減っています。さらに、日本建設業連合会の統計では、2024年時点で建設業就業者のうち**55歳以上が約37%、29歳以下が約12%**となっており、高齢化が著しく進んでいます。つまり、建設業界の賃上げは「余裕があるから上げる」だけでなく、上げなければ人が来ないし残らないという切実な事情が背景にあります。
しかも、建設業の人手不足は単に現場作業員の数の問題ではありません。
施工管理、設計、土木、設備、専門工事、重機オペレーターなど、熟練性が高く、経験がものを言う仕事が多い一方で、若年層の流入は十分ではない。時間外労働規制も強まり、昔のように「長時間労働で埋める」ことも難しい。だから賃上げは、福利厚生や働き方改革と並ぶ採用・定着の最低条件になっています。連合の2026春闘中間まとめでも、賃上げが当たり前の社会へ進む一方で、中東情勢などによる不透明感の中でも、人材確保のため高水準の賃上げを維持する必要性が強調されています。
つまり建設業の高い賃上げは、他業種以上に「防衛的」な意味も持っています。
単に景気が良いから配るのではなく、人材を確保しなければ事業そのものが回らないから賃金を上げる。ここが製造業や一部消費関連業種とは少し違います。
この点で、春闘で建設が上位に来ているのは、業界の勢いと同時に、危機感の強さも表しています。
第2章 では、建設業界の業績は本当に強いのか
結論として、大手ゼネコンの足元はかなり良い
賃上げが高い業界でも、業績がついてきていなければ持続性は疑わしくなります。
その意味で、建設業界を見るうえで一番重要なのは、大手の業績がどうなっているかです。
ここはかなり明るい数字が出ています。
鹿島の2026年3月期決算では、売上高は3兆672億円、営業利益は2407億円、親会社株主に帰属する当期純利益は1773億円でした。検索結果に引用された決算短信では、建設事業の進捗と利益率改善が大幅増益の中心だったと説明されています。鹿島の土木事業は大型工事の進捗で売上が増え、営業利益は前期比114.9%増、建築事業も売上増と利益率改善で大きく伸びています。つまり、鹿島は単なる売上拡大ではなく、採算改善を伴った増益を実現しています。
大林組もかなり強いです。
2026年3月期の決算説明資料では、2026年度予想として連結売上高2兆9450億円、営業利益1800億円を示しています。前期実績ベースでも利益水準は高く、資料では有利子負債コントロールや政策保有株縮減も進めています。大林組は受注と施工のバランスを取りながら、価格転嫁や工事採算の改善を進めてきたことがうかがえます。
大成建設も、利益面ではかなり回復が進んでいます。
Reutersは2026年3月30日、大成建設が2026年3月期業績予想を上方修正し、純利益見通しを1670億円へ引き上げたと報じました。背景には不採算案件の減少や工事利益率改善があり、配当見通しも引き上げています。大成建設は過去に大型不採算案件で苦しんだ局面もありましたが、いまはむしろその整理が進み、利益回復局面に入っていると見る方が正確です。
清水建設も回復色が強いです。
ITmediaの決算記事によると、2026年3月期の清水建設は売上高2兆578億円、営業利益1186億円で、完成工事高の増加と国内建築工事の採算改善が背景にあるとされています。2025年中間期の公式決算短信でも、営業利益は前年同期比119.9%増の389億円とされており、採算改善トレンドが明確です。
こうした個社の数字をまとめると、建設大手は「人手不足なのに苦しい」だけの業界ではありません。
むしろ今は、
- 再開発や大型案件が動いている
- 価格転嫁が進みやすくなっている
- 以前の不採算案件が一巡している
- 工事採算の管理が改善している
といった理由で、利益率が回復している局面です。
業界媒体の集計でも、スーパーゼネコン5社合計の2026年度売上高見通しは約12兆300億円、前期比約5.3%増とされています。
つまり、建設業の賃上げは業績の裏付けを一定程度持っています。
第3章 なぜ建設業界は、ここまで利益を改善できているのか
キーワードは「価格転嫁」「選別受注」「不採算案件の整理」
建設業界の利益が良いと聞くと、「公共事業が増えているから」と思われがちです。
もちろん公共投資は重要ですが、足元の利益改善を説明するにはそれだけでは足りません。
より大きいのは、価格転嫁と選別受注です。
建設業界はここ数年、資材価格の上昇と人手不足で極めて厳しい環境にありました。
本来なら利益が圧迫されそうですが、逆にそのことが発注者側にも広く認識され、価格転嫁が以前より進みやすくなっています。連合の春闘方針資料でも、中小企業庁の価格交渉促進月間や労務費転嫁指針への対応が重要論点として扱われており、建設のような受注産業で労務費転嫁が社会課題になっていることが読み取れます。
加えて、ゼネコン側も「何でも取る」より「採算の合う案件を選ぶ」色を強めています。
大成建設や清水建設が典型ですが、過去に大型不採算工事で痛い目を見た経験から、今は採算性をかなり重視しています。Reutersが伝えた大成建設の上方修正も、裏を返せば不採算案件の解消と採算改善が進んだということです。つまり今の建設業界は、売上の量だけでなく、利益の質をかなり強く見ています。
さらに、国内建設市場そのものも比較的底堅いです。
国交省の参考資料集によると、2025年度の建設投資額は約76兆円の見通しです。建設投資は平成22年度に約42兆円まで落ち込みましたが、その後増加に転じています。民間非住宅、インフラ更新、国土強靱化、再開発、半導体工場やデータセンター関連工事など、需要源が一つではないことも支えになっています。
つまり、建設業の利益改善は偶然ではありません。
人手不足とコスト高の中で、
価格転嫁しやすくなったこと
採算重視へ転換したこと
需要が複線化していること
が重なった結果です。
この構造が続くなら、高めの賃上げも一定程度は維持しやすくなります。
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第4章 それでも建設業界の将来に楽観しすぎてはいけない理由
最大の問題は、需要よりも「人が足りないこと」そのもの
ここまで見ると、建設業界はかなり順風満帆に見えます。
ただ、そこまで単純ではありません。
建設業界の最大の制約は、今も昔も人手不足です。
そして、この問題は景気の良さだけでは解決しません。
国土交通省の資料では、建設業就業者数は477万人まで減っており、ピーク時から約30%減少しています。
日本建設業連合会の統計でも、55歳以上が約37%、**29歳以下が約12%**と、年齢構成の偏りが深刻です。
これは単に人が少ないだけでなく、技術継承と現場維持の面で大きな問題です。若手が十分に入ってこなければ、現場を回せる管理人材も技能者も減っていきます。
しかも建設業の人手不足は、賃上げだけでは完全に解決しません。
賃金は重要ですが、若年層から見ると、
- 体力的にきつい
- 天候に左右される
- 地方勤務や長時間移動がある
- 安全リスクが高い
- デジタルな仕事に見えにくい
などのイメージも強い。
だから建設業界は、賃上げと同時に、働き方と現場の見え方そのものを変える必要があります。
ここでロボットや遠隔施工が出てくるのです。
もう一つのリスクは、利益改善が永遠ではないことです。
大手各社は足元で強いですが、2026年度予想では高水準を維持しつつも、会社によっては減益見通しもあります。業界媒体の集計では、清水建設以外の4社は利益面で保守的または減益見通しを出しており、今の改善がピークアウトする可能性も市場は意識しています。つまり、建設株を「人手不足だから永遠に上がる」と見るのは危険です。
したがって、建設業の未来を考える時は、
需要があるかどうか
より、
その需要をこなせる人材と生産性を確保できるか
が中心テーマになります。
そしてその答えとして、国や大手各社が本気で進めているのが自動化・ロボット化です。
第5章 建設ロボットは本当に“近い将来”の話なのか
もはや実験段階ではなく、少しずつ本格運用フェーズへ入っている
建設業のロボット化というと、少し未来すぎる話に聞こえるかもしれません。
しかし、国土交通省の資料を見ると、これはもう単なる夢物語ではありません。
国交省はi-Construction 2.0を掲げ、2040年度までの建設現場のオートメーション化を進めています。そこでは、省人化3割、生産性1.5倍が目標とされており、柱は「施工のオートメーション化」「データ連携のオートメーション化」「施工管理のオートメーション化」です。つまりロボットは補助的なおまけではなく、産業政策の中心に置かれています。
さらに2026年4月28日の国交省発表では、2025年度の成果として、**自動施工9件(前年度4件)、遠隔施工41件(前年度21件)**と実施件数が大きく増えたことが示されています。
そして2026年度を「i-Construction 2.0躍動の年」と位置づけ、AI活用、普及拡大、本格運用、さらに原則化をキーワードにするとしています。
これはかなり大きなメッセージです。
つまり、建設ロボットや自動化は、いまや「実証して終わり」ではなく、制度と発注の側から普及を後押しする段階に来ています。
現場レベルでも動きがあります。
鹿島は「鹿島スマート生産」を掲げ、**“作業の半分はロボットと”“管理の半分は遠隔で”**という目標を前面に出しています。大林組も「ロボティクスコンストラクション」を掲げ、人とロボットの協調、デジタルツインを使った新しい建設の形を打ち出しています。これはPR的な表現も含みますが、少なくとも大手がロボット化を単なる研究所ネタではなく、現場の生産システムの一部として位置づけていることは確かです。
鹿島の技術ページでは、プレキャストブロック自動据付システムのように、汎用建機へカメラやロボット技術を載せ、無人化施工よりさらに効率を上げた事例が紹介されています。そこでは、遠隔操作による無人化施工と比較して20%以上の生産性向上が図れたとされています。
つまり、建設ロボットは「人間型ロボットが全部やる」という世界ではなく、まずは
- 繰り返し作業
- 危険作業
- 測量・運搬・据付
- 遠隔で代替できる作業
から自動化が進んでいるのです。
この意味で、近い将来の建設ロボットは「人間の完全代替」ではありません。
むしろ、人手不足で回らなくなる現場を、少ない人数で何とか回せるようにする補完技術です。
ここを誤解すると、「ロボットが来るなら賃上げはいらないのでは」と思ってしまいますが、現実は逆です。
ロボットを使いこなし、遠隔で管理し、データをつなぐには、より高いスキルを持つ人材が必要になります。
だから、賃上げとロボット化は対立ではなく、同時進行で起きる構造変化です。
第6章 ロボットが入ると、建設業の収益構造はどう変わるのか
人件費削減よりも、「施工能力の維持」と「利益率改善」に効く可能性が大きい
建設ロボットの話になると、すぐ「人件費が減るから儲かる」という理解になりがちです。
もちろんそれも一部ありますが、本質はそこだけではありません。
建設業界でロボット化が持つ意味は、
人件費の単純削減
より、
人が足りなくても施工能力を維持できること
にあります。
もし現場を担う人が足りず、受注しても工事を回せないなら、売上も利益も伸びません。
つまり建設業にとって一番怖いのは、需要不足よりも供給制約です。
ロボットや自動施工が入ることで、同じ人数でも施工量を増やせるなら、これは単なるコストダウン以上の価値があります。国交省がi-Construction 2.0で掲げる生産性1.5倍という目標も、まさにこの考え方です。
また、建設ロボットは安全性向上にもつながります。
危険な斜面、災害復旧、重機周り、繰り返し作業など、人が直接入ると危険な場所を遠隔・自動で置き換えれば、事故リスクも減らせます。
現場の死亡事故削減もi-Construction 2.0の重要目標であり、これは単なるコストの話ではなく、現場運営の質の改善です。
安全性が上がれば、人材確保の面でもプラスですし、事故対応コストや工期遅延リスクの抑制にもつながります。
さらに、ロボットや遠隔施工が進むと、建設業の“賃上げの質”も変わります。
単純作業だけでなく、ロボット運用、データ管理、遠隔施工監督、BIM/CIM連携など、新しい技能を持つ人材がより重要になります。
つまり今後の建設業は、ただ現場人数を増やす産業ではなく、少ない人数で高付加価値の施工を回す産業へ寄っていく可能性があります。
この時、賃上げはコストではなく、高度人材への投資として意味を持ちやすくなります。
したがって投資家目線では、建設ロボットの進展は「人件費が下がるから利益が増える」と単純に見るより、
供給制約で伸び悩みやすい建設業が、成長を維持するためのボトルネック解消策
として見る方が正確です。
これはかなり前向きな材料です。
需要があるのに人が足りない業界にとって、生産性向上技術は売上の天井を押し上げる可能性があるからです。
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第7章 将来的な期待値は高いのか
期待は高いが、「誰が勝つか」はかなり選別される可能性がある
では、建設業界全体の将来期待値は高いのでしょうか。
結論から言うと、構造的な追い風はかなりある一方、企業間格差は広がる可能性が高いです。
追い風としては、まず需要があります。
国交省ベースの見通しでは2025年度建設投資は約76兆円で高水準ですし、建設経済研究所と経済調査会の推計では、2026年度の建設投資総額は名目値で81兆700億円、前年比5.7%増が見込まれています。民間住宅の持ち直し、政府分野の国土強靱化、民間非住宅の設備投資、データセンターや半導体工場など、需要のテーマが複数あります。
また、都市再開発やインフラ老朽化対応も中長期の需要です。
大都市の再開発だけでなく、橋梁、道路、トンネル、上下水道、災害対策など、建設投資は景気循環だけでなく社会資本維持の性格も強い。
このため、単なる民間景気に連動する製造業とは違い、建設需要には政策と社会課題に支えられた底堅さがあります。
一方で、誰でも勝てるわけではありません。
これからの建設業では、
- 価格転嫁できる企業
- 採算管理が上手い企業
- 不採算工事を減らせる企業
- DXと自動化に投資できる企業
- 現場人材を採用・定着できる企業
が強くなりやすいです。
逆に、人手不足を賃上げだけでしのぎ、デジタル化や現場改革が遅れる企業は、需要があっても取り切れない可能性があります。
だから将来的な期待値は、
建設業界全体にはある
けれど、
銘柄選びはかなり重要
です。
春闘で高い賃上げを出せる会社は、裏を返せば利益体質や資本余力がある会社でもあります。
投資家としては、単に「建設は人手不足だから良い」と広く見るのではなく、
賃上げ・利益・自動化投資を同時に回せる会社かどうか
を見た方が良いです。
第8章 投資家は建設業界をどう見るべきか
いまの建設株は「景気敏感株」だけではなく、「構造転換株」として見る余地がある
建設株は長い間、景気敏感株として見られやすかったです。
公共事業や景気に左右され、不採算案件が出ると利益が大きくぶれる。
たしかにその面は今もあります。
ただ、今の建設業界はそれだけではありません。
春闘で建設の賃上げが**7.63%**と高かったのは、人手不足の強さを示しています。
一見ネガティブですが、これは別の見方をすると、価格転嫁力と採算管理が改善している会社は、むしろ高賃上げを出してでも人を確保し、成長余地を取りにいけるということです。
つまり今の建設株は、人手不足に苦しむ受け身の業界ではなく、賃上げと自動化を梃子に構造転換を進める業界として見る余地があります。
また、ロボットやAIが本格運用段階へ入るなら、建設業の評価軸も変わります。
これまでは「現場人数をどれだけ抱えられるか」が強みになりやすかった。
これからは「少人数でどれだけ現場を回せるか」が強みになる可能性があります。
そうなると、ロボット化・BIM/CIM・遠隔施工・現場データ連携へ先行投資している大手は、ただの受注産業ではなく、現場OSを握る企業のような位置づけに近づくかもしれません。
大げさに言えば、ゼネコンは将来的に“デジタル施工プラットフォーム企業”の顔も帯びていく可能性があります。これは投資家にとってかなり面白い変化です。
もちろん、相場的には注意点もあります。
建設株は足元で業績改善が進んでいる分、すでにある程度期待が織り込まれている会社もあります。
また、受注産業である以上、個別案件の不採算や資材高騰の長期化は常にリスクです。
したがって、「建設業界は将来有望だから全部買い」という考え方は危険です。
むしろ、
人手不足対応・価格転嫁・採算改善・ロボット投資を回せる会社
を見極めることが重要です。
まとめ
建設業界の高い賃上げは、一時的な大盤振る舞いではなく、産業の生き残りと進化のシグナルである
2026年春闘の第1回集計で、大手企業全体の賃上げ率は5.46%、引き上げ額は1万9964円でした。
その中で、建設は7.63%、4万3922円と、情報通信に次ぐ高水準でした。
この数字は単なる“景気の良さ”ではなく、建設業界が深刻な人手不足の中で、人材確保を最優先課題としていることを示しています。
一方で、大手ゼネコンの業績は確かに強いです。
鹿島、大林組、大成建設、清水建設などでは、売上や利益が改善し、価格転嫁や採算管理の成果が出ています。
建設投資全体も高水準で、再開発、インフラ更新、国土強靱化、半導体工場、データセンターなど、需要源も複数あります。
つまり賃上げには、一定の業績裏付けがあります。
ただし建設業界の本当の勝負はここからです。
人手不足と高齢化は極めて深刻で、賃上げだけでは追いつきません。
そこで国交省はi-Construction 2.0の下で、2040年度までに省人化3割、生産性1.5倍を目指し、自動施工や遠隔施工、AI活用を本格化させています。大手ゼネコンもロボット施工や遠隔管理を現場へ入れ始めています。
つまり建設業界は今、
高い賃上げを出しながら、人を減らすのではなく、少ない人数で回る産業へ変わろうとしている
のです。
この視点で見ると、建設業界の未来はかなり面白いです。
古い、きつい、危険というイメージが強い一方で、実際には
- 再開発
- 災害対応
- インフラ更新
- 半導体・データセンター需要
- ロボット・AI導入
という成長テーマが集中しています。
そして、春闘の高い賃上げは、その未来へ向けた前提条件でもあります。
人を集め、残し、同時にロボット化を進める。
この両輪が回る会社ほど、これからの建設業界で強くなる可能性があります。
一言でまとめるなら、こうです。
建設業界の高い賃上げは、苦しいから無理して払っているだけではない。 人手不足時代に生き残るために、賃金と生産性を同時に引き上げる産業へ変わり始めた、そのシグナルである。
投資家としては、建設を単なる景気敏感株ではなく、賃上げ・価格転嫁・ロボット化が同時進行する構造転換セクターとして見直す価値があります。
そして今後の焦点は、「建設業界がいいか悪いか」ではなく、その変化を誰が一番うまく回せるかです。
【重要】免責事項
投資判断の最終責任: 本記事で紹介している銘柄やセクター、分析内容は、情報提供および学習の啓発のみを目的としており、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、必ずご自身の判断と責任で行ってください。
成果の非保証: 過去のデータや予測は、将来の投資成果を保証するものではありません。市場環境の変化により、資産が減少するリスクがあります。
情報の正確性: 2026年時点の情報に基づき作成されていますが、その正確性や完全性を保証するものではありません。最新の業績やニュースは、必ず各企業のIRサイトや一次資料でご確認ください。
損失の補償: 本記事の内容に基づいて被ったいかなる損害(直接的・間接的を問わず)についても、筆者は一切の責任を負いません。
監修者:市川雄一郎
GFS校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長




