
はじめに
フェラーリ株が急落した今回のニュースは、単なる新型車発表の失敗として片づけるには重い出来事です。Reutersによると、フェラーリが2026年5月26日に初の完全EV「Luce」を公開したあと、ミラノ市場では株価が一時 8.4%安、米国市場でも 5.1%安となりました。批判の中心は、5人乗り・4ドア寄りの構成や外観デザインが、従来のフェラーリらしいスポーツカー像から離れすぎているという点でした。元フェラーリ会長のルカ・ディ・モンテゼーモロ氏が「伝統への裏切り」とまで表現したことも、市場心理をさらに冷やしました。
ただし、投資家として本当に見るべきなのは、「EVが不評だった」という一点ではありません。
もっと重要なのは、フェラーリという極めて高く評価されてきた会社が、なぜこのタイミングでここまで強く売られたのか、そしてこの下落は一時的な感情反応なのか、それとも中長期の評価修正の始まりなのかです。Reutersは2025年10月にも、フェラーリが長期計画とEV技術を公開した際、株価が 16%超下落 したと報じています。つまり市場はすでに一度、「フェラーリのEV化」に対して強い警戒感を示していました。今回の急落は、その疑念が再燃した形でもあります。
一方で、フェラーリの業績そのものは直近まで非常に強いです。公式の2026年第1四半期決算では、純売上高は 18.48億ユーロ、EBITDAは 7.22億ユーロ、EBITDAマージンは 39.1% で、会社は2026年通期ガイダンスも据え置いています。Reutersも2026年2月、フェラーリが2025年の新モデル投入と2026年のEV投入を背景に、2026年の中核利益成長を少なくとも 6% 見込むと報じています。つまり、株価は揺れても、本業の利益創出力まではまだ崩れていません。
この会社を理解するには、歴史も重要です。フェラーリは2015年10月21日にNYSEへ 1株52ドル で上場し、その後Fiat Chryslerからの分離を完了して独立上場企業となりました。投資家は当初から、フェラーリを単なる自動車メーカーではなく、ラグジュアリーブランド企業として高く評価してきました。だからこそ、今回のEVショックは「新車の人気不人気」以上に、ブランドの定義そのものが揺らぐのではないかという恐怖として受け止められやすかったのです。
今回の記事では、
フェラーリ株はこれまでどう上がり、どこで崩れたのか
フェラーリという会社はなぜ高く評価されてきたのか
初の完全EV「Luce」は何が問題視されたのか
今後の回復期待はどこにあるのか
そして投資家は今のフェラーリをどう扱うべきか
を、かなり丁寧に整理していきます。
結論を先に言うと、今回の急落は、短期的にはデザインとブランド違和感への市場の拒絶ですが、より本質的には、フェラーリが“内燃機関の神話”から離れてもなお高い価格決定力を維持できるのかという問いを突きつけられた出来事です。業績や受注残はまだ強く、即座に悲観一色になる局面ではありません。ですが、フェラーリが今後もプレミアム評価を保つには、「EVでもフェラーリである」と顧客と投資家の両方を納得させる必要があります。そこが、これからの最大の勝負どころです。
第1章 今回の株価急落で何が起きたのか
まず事実関係から整理します。
Reutersによると、フェラーリは2026年5月26日に初の完全電気自動車「Luce」を公開しました。価格は 55万ユーロ(約64万ドル)、元Appleのジョニー・アイブ氏率いるLoveFromがデザインに関与した4ドア寄りのモデルです。しかし公開直後、市場の反応は冷たく、株価はミラノで一時 8.4%安、米市場でも 5.1%安となりました。批判は主に、外観が従来のフェラーリらしい官能的なスポーツカーではなく、サルーンやファミリーカーに近い印象を与えたことに集中しました。
この反応は、単なるデザイン論争ではありません。
フェラーリのブランド価値は、希少性と官能性、そして「他の車とは別物」という感覚に支えられています。今回のLuceは性能面では十分に高く、AP通信によると 0-100km/h 2.5秒、航続距離530km超 とされますが、市場が嫌がったのはスペックではなく、それが本当にフェラーリなのかというブランド認識のほうでした。ラグジュアリーブランド株は、数字よりもブランドの物語で評価される面が強いため、この種の違和感は株価にすぐ反映されやすいです。
しかも今回の急落は、完全な初回ショックではありません。
Reutersは2025年10月、フェラーリが長期計画とEV技術の詳細を公開した際、株価が 16%超 下落し、時価総額で 135億ユーロ を失ったと報じました。このとき市場が嫌がったのは、EV技術そのものより、長期目標が期待より保守的に見えたことと、EV戦略の説明がブランドの未来像として十分に刺さらなかったことでした。つまり市場はすでに一度、「フェラーリのEV化はうまくいくのか」と疑問を投げていたわけです。今回のLuceへの失望は、その疑問が視覚的に再確認された場面とも言えます。
足元の株価水準を見ても、フェラーリ株は決して“安くなり続ける弱い銘柄”ではありません。
5月26日時点のファイナンス情報では、NYSE上場のRACEは 329.91ドル で、当日 5.27%安 でした。これは確かに大きな下げですが、フェラーリはそもそも高いプレミアムを与えられてきた銘柄です。Barron’sも今回の急落に際し、株価は過去12カ月で 27%下落 していたと整理していますが、それは逆に言えば、以前の期待値がかなり高かったことの裏返しでもあります。
要するに、今回の急落は「業績急悪化に対する売り」ではなく、ブランド不安に対する評価修正です。
ここを見誤ると、今回の下落の意味を取り違えます。短期的にはセンチメントの悪化ですが、中長期で重要なのは、このブランド不安が実際の受注や価格決定力の弱さにまで波及するかどうかです。
第2章 フェラーリはなぜここまで高く評価されてきたのか
フェラーリが投資家から特別な扱いを受けてきた理由は、自動車会社なのに「台数」より「ブランド」と「ミックス」で利益を作ってきたからです。
フェラーリの2025年通期決算では、純売上高は 71億ユーロ超、EBITマージンは 29.5%、産業フリーキャッシュフローは 15億ユーロ超 でした。しかも会社は、需要は「非常に堅調」で、受注残は 2027年末まで 積み上がっていると説明しています。普通の自動車メーカーなら、販売数量や価格競争、在庫調整が大きなテーマになりますが、フェラーリは希少性を守ることで、売り急がずに利益率を高く維持するモデルを確立してきました。
このモデルは、上場後の株価上昇にもつながりました。
Ferrari Corporateによると、IPO価格は2015年10月21日の 52ドル でした。そこから今回の急落後でも株価は 329.91ドル であり、長期で見れば依然として大きな上昇です。もちろん途中には上下がありますが、市場はフェラーリを「高級車メーカー」ではなく、エルメス的な供給制御ができるラグジュアリー企業として評価してきたからこそ、この長期上昇が成り立ちました。
フェラーリの決算資料でも、その強みは明確です。
2026年第1四半期リリースでは、「Another quarter of strong mix」と題して、価格・ミックス・パーソナライゼーション・スポンサーシップが利益を支えたことが強調されています。つまり、フェラーリの利益源泉は単なる車両販売ではなく、高価格モデルの構成比と顧客一人当たり売上の積み上げにあります。これがあるから、一般的な自動車株よりずっと高いバリュエーションが許されてきました。
さらに、フェラーリは生産台数を意図的に絞ることで、顧客にとっての“手に入りにくさ”そのものを価値に変えてきました。
Reutersの2026年2月記事でも、受注残が2027年末まであることをCEOが示し、2026年も新モデル投入でコア利益成長を見込むと報じられました。これは、「需要に応じてたくさん売る」のではなく、「欲しい人が多くても供給を管理する」戦略が続いていることを意味します。だからフェラーリは、普通のEVメーカーや量産高級車メーカーと同じ土俵では見られにくいのです。
投資家がフェラーリを高く評価してきたのは、この希少性モデルが極めて強かったからです。
ただし、今回のEVショックは、そのモデルに対して「EVでも同じ希少性が保てるのか」という初めて本格的な疑問が突きつけられた局面でもあります。つまり、今回の急落は、単なる新車不評ではなく、フェラーリの評価プレミアムそのものに対する問いとして見る必要があります。
第3章 フェラーリの歴史を投資家目線で振り返る
フェラーリの歴史は、ブランドの物語そのものが企業価値を作ってきた歴史でもあります。
エンツォ・フェラーリによる創業以来、この会社は“速い車を作る会社”であると同時に、“レースと情熱の象徴”としての物語を積み上げてきました。その結果、上場してからも投資家はフェラーリを単なる自動車セクターで見るのではなく、ブランド資産の塊として見てきました。2015年の分離上場は、そのブランド価値をFiat Chrysler全体から切り出して独立評価させる意味が大きかったと言えます。SECの目論見書や分離関連資料でも、Ferrari分離はFCA再編の中核イベントとして扱われています。
上場後のフェラーリは、比較的教科書通りに「高級ブランド株」として成長してきました。
無理な台数拡大はせず、限定車や特別仕様、パーソナライゼーション、高価格帯の維持で利益率を高める。市場がそれを信じたからこそ、フェラーリは自動車株離れしたバリュエーションを享受できました。実際、2025年通期では売上7.1bnユーロ超、EBITマージン29.5%、産業FCF15億ユーロ超と、量産車メーカーとしては非常に高い収益性を示しています。
ただし、この歴史には新しい転換点が来ています。
それが電動化です。フェラーリは2022年時点では2030年ラインアップのうちEV比率を40%とする計画を示していましたが、2025年10月時点のReuters報道では、2030年の構成目標は 40%内燃機関、40%ハイブリッド、20%EV と整理されており、以前よりも慎重なトーンが強まりました。加えて、2台目のEVは少なくとも2028年まで延期されたともReutersは報じています。つまりフェラーリは、EVへ進む意思はあるものの、ブランド毀損を避けるために、業界の中ではかなり慎重に電動化している会社です。
この慎重さ自体は、必ずしも悪いことではありません。
むしろフェラーリにとっては、急いでEVへ全面移行するより、ブランドを壊さずに高価格・高収益を保つほうが重要です。ただ、市場はその慎重さを「ブランドを守る賢さ」と見る一方で、「EV時代の答えをまだ出せていない弱さ」とも見ます。歴史的に強いブランドほど、時代の技術転換で“正解の出し方”が難しくなる。その典型例が今のフェラーリです。
「投資の勉強を何からやっていいかわからない」「投資で資産を作りたい、収入を増やしたい」
そんな時は無料で視聴できるオンライン講座「GFS監修 投資の達人講座」をまずはお試ししてください。
投資の達人になる投資講座は、生徒数50,000人を超え講義数日本一の投資スクールGFSが提供する無料オンライン講座です。プロの投資家である講師が、未経験者や苦手意識がある人でも分かるように、投資の仕組みや全体像、ルールを基礎から図解を交えて解説します。
投資の勉強をなるべく効率よく始めたい人は、ぜひ一度ご視聴ください。
≫初心者でも資産形成を学習できる無料オンラインセミナーはこちら
第4章 今回のEV「Luce」は何が問題視されたのか
今回のLuceに対する批判は、大きく三つあります。
一つ目はデザイン、二つ目はブランドの一貫性、三つ目は市場需要への不安です。
まずデザインです。
Reutersは、Luceが「4ドアのファミリーカー的」構成で、従来のフェラーリの高性能内燃機関スポーツカーから大きく離れていると伝えました。批判はSNS上でも強く、The GuardianやAPも、外観が“フェラーリらしくない”と受け止められたことが株価下落につながったと報じています。ここで大事なのは、デザインが“醜い”かどうかより、フェラーリのブランド記号と一致して見えなかったことです。ラグジュアリー株では、このズレが極めて大きな意味を持ちます。
二つ目はブランド一貫性です。
Reutersによると、元会長のモンテゼーモロ氏はLuceを「伝統への裏切り」と表現しました。もちろんこれは象徴的な発言ですが、投資家にとって重要なのは、ブランドの内側にいた人物すら違和感を口にしたことです。フェラーリは“何を作る会社か”がはっきりしているから強い会社でした。そのため、初の完全EVが“新しい市場を開く挑戦”と受け取られるより、ブランドの外へはみ出したように見えたことが、センチメントを悪化させました。
三つ目は需要不安です。
Reutersは2025年6月、フェラーリが2台目のEVを2028年以降に遅らせた背景として、高性能ラグジュアリーEVへの持続的需要が乏しいと報じました。Luceは1台目であり、ある意味では象徴的モデルですが、市場が見ているのは「この先、本当にフェラーリEVが継続的に売れるのか」です。価格は55万ユーロと極めて高く、しかもEV市場全体が価格競争や中国勢の台頭で難しくなる中、フェラーリが高価格を維持できるかは未知数です。つまり今回の批判は、単なる“見た目の不満”ではなく、需要とブランド戦略への不安まで含んでいます。
ただし、ここでフェラーリ側の論理も理解しておく必要があります。
Reutersの動画記事では、フェラーリはLuceを「世代交代の技術シフト」への賭けとして位置づけ、エンジンサウンド再現などを含めて“フェラーリらしさ”を残そうとしていると伝えています。つまり会社は、自分たちがブランドを壊しているとは考えていません。むしろ、新しい顧客層、たとえば中国やシリコンバレーの富裕層まで含めて、新しいフェラーリ像を作ろうとしているのです。今回の株価下落は、その新しい像を市場がまだ受け入れていないことの表れです。
第5章 足元の業績は本当に悪いのか
ここで冷静に確認しておきたいのは、足元の決算自体は悪くないどころか、かなり強いことです。
Ferrariの2026年第1四半期決算では、純売上高 18.48億ユーロ、EBITDA 7.22億ユーロ、EBIT 5.48億ユーロ、希薄化後EPS 2.33ユーロ でした。会社は通期ガイダンスも据え置いており、2026年通期で純売上高は 約75億ユーロ、EBITDAマージンは 39%以上、EBITは 22.2億ユーロ以上、希薄化後EPSは 9.45ユーロ以上 を見込んでいます。これは、今回の株価急落が“足元業績悪化”ではなく、ほぼ完全に“将来への不安”で起きていることを示します。
2025年通期も強かったです。
Ferrariの2025年通期リリースでは、売上は 71億ユーロ超、EBITマージンは 29.5%、産業FCFは 15億ユーロ超。しかも需要は「very solid」で、受注残は2027年末まであると説明されています。 Reutersも2026年2月、フェラーリが新モデル投入と今後のEV投入を背景に、2026年の中核利益成長を少なくとも6%見込むと報じました。つまり、会社の営業基盤は今も非常に健全です。
この意味で、今回の急落は投資家に二つの見方を迫ります。
一つは、「ブランド不安はあるが、本業が強いなら押し目」と考える見方。
もう一つは、「ブランド不安こそが将来の収益性を壊す前兆」と考える見方です。
前者なら今回の下落は買い場に見えますし、後者なら高評価修正の始まりに見えます。いずれにせよ、足元決算だけを見て弱気になる局面ではありません。むしろ、高収益ブランド企業に対する将来期待の揺れとして捉えるべきです。
第6章 フェラーリ株価の推移をどう見るべきか
フェラーリの株価推移を考えるうえで、まず押さえるべきなのは、IPOが 52ドル だったことです。
現在のRACEは急落後でも 329.91ドル であり、長期で見れば非常に大きな上昇を遂げています。つまりフェラーリ株は、今回の急落だけを切り取ると弱く見えますが、上場以来の大きな成功例であることに変わりはありません。市場は長く、フェラーリを“台数を追わない高収益ラグジュアリー株”として評価してきました。
ただし、直近1年で見ると流れは変わっています。
Barron’sによると、今回のLuce公開前の時点でも、フェラーリ株は過去12カ月で 27%下落 していました。さらにReutersは2025年10月に 16%超の急落 を報じています。つまり市場は、2025年後半から一貫して「フェラーリの次の成長物語」に不安を抱いてきたことになります。今回のEV不評は、そのトレンドに拍車をかけた形です。
この株価推移からわかるのは、フェラーリがこれまでのように“無条件で右肩上がり”と見られるフェーズではなくなったことです。
以前は、高い利益率、希少性、限定供給というわかりやすい魅力がありました。
しかし今は、EV化という大きな技術転換の中で、「その魅力が次世代でも通用するのか」が試されています。
だから株価は、過去の業績だけではなく、未来のブランド像に対して大きく揺れるようになっています。
一方で、こうした株価の揺れは、裏を返せば“物語の再構築”に成功すれば反発余地も大きいということです。
Reutersの2026年2月記事では、2025年10月の急落後、決算と新モデル期待で株価が 11%上昇 した場面もありました。市場はフェラーリを完全に見放しているわけではなく、「納得できる将来像」が示されれば、再び高く評価する準備はあります。つまり株価推移は、悲観一色というより、期待と不安が激しく入れ替わるフェーズに入っていると見るのが自然です。
「投資の勉強を何からやっていいかわからない」「投資で資産を作りたい、収入を増やしたい」
そんな時は無料で視聴できるオンライン講座「GFS監修 投資の達人講座」をまずはお試ししてください。
投資の達人になる投資講座は、生徒数50,000人を超え講義数日本一の投資スクールGFSが提供する無料オンライン講座です。プロの投資家である講師が、未経験者や苦手意識がある人でも分かるように、投資の仕組みや全体像、ルールを基礎から図解を交えて解説します。
投資の勉強をなるべく効率よく始めたい人は、ぜひ一度ご視聴ください。
≫初心者でも資産形成を学習できる無料オンラインセミナーはこちら
第7章 今後の回復期待はどこにあるのか
では、フェラーリに回復期待はあるのでしょうか。
私は十分にあると思います。
ただし、それは「Luceが大ヒットするから」ではなく、フェラーリがLuceをどうブランド物語の中に位置づけ直せるかにかかっています。
第一の回復期待は、本業の収益力です。
足元の決算は強く、受注残も2027年末まで積み上がっています。しかも2026年通期ガイダンスも維持されています。ブランド不安が短期的にあっても、現実の顧客基盤と価格決定力が大きく崩れていない限り、株価はどこかで業績の強さを見直す可能性があります。高級ブランド株では、センチメントの悪化と業績の崩れが一致しない限り、急落後の戻りが起きることは珍しくありません。
第二の回復期待は、Luceそのものの評価が変わる可能性です。
今は“フェラーリらしくない”という反応が優勢ですが、もし実車体験や富裕層顧客の評価、限定性、パーソナライゼーションの魅力が伝われば、市場の見方が変わる可能性はあります。フェラーリの顧客は一般的な大衆EV市場とは違い、必ずしもSNSの初期反応だけで動くわけではありません。つまり、今の拒絶がそのまま最終需要の失敗を意味するとは限らないです。これは推論ですが、フェラーリの歴史的な顧客層を考えると、十分あり得る見方です。
第三の回復期待は、EV比率を急ぎすぎていないことです。
Reutersが伝える2030年目標では、フェラーリは ICE40%、HEV40%、EV20% を目指しており、全面EV化を急いでいません。これは一見すると市場に弱気と見られましたが、逆に言えば、フェラーリはブランドに合わない速度で変身するつもりはないということです。ラグジュアリーブランドにとって、拙速な変化より、ブランドと顧客の受容に合わせた慎重な変化のほうが、むしろ正しい場合があります。つまり、回復期待は「EVで一気に勝つ」ではなく、複線的なパワートレイン戦略でブランドを守りながら移行することにあります。
第8章 投資家がいま警戒すべき懸念点
もちろん懸念も非常にはっきりしています。
最大の懸念は、EVでブランドを守れない場合、フェラーリのプレミアム評価が縮むことです。
フェラーリは普通の自動車メーカーよりはるかに高い利益率と評価倍率を許されてきました。それは「フェラーリだから」というブランドの魔力があるからです。もしEVでその魔力が弱まり、「高級車メーカーの一社」に近づいてしまえば、業績が多少強くても株価は以前ほど高く評価されにくくなります。今回の急落は、まさにその可能性を市場が意識した動きとも言えます。
次の懸念は、ラグジュアリーEV市場の需要不透明感です。
Reutersは2025年6月、フェラーリが2台目のEVを2028年以降へ延期した背景として、ハイパフォーマンス・ラグジュアリーEVに対する持続的需要の不足を伝えました。これはフェラーリだけでなく、ランボルギーニやポルシェ、マセラティなどでも見られる課題です。つまりフェラーリは、自社の問題だけでなく、高級スポーツEV市場そのものの難しさに直面しています。
また、中国市場も注意点です。
Reutersは今回のLuceについて、中国やシリコンバレーの若い富裕層を狙うと伝えましたが、これは裏を返せば、従来型のフェラーリ顧客だけでは十分なEV需要が読みにくいことを示しています。新しい顧客層を開拓できれば成長余地ですが、狙いがぶれると、既存顧客も新規顧客も取り切れない中途半端なポジションになりかねません。
第9章 投資家はフェラーリ株をどう扱うべきか
では、いまフェラーリ株をどう見るべきでしょうか。
私は、フェラーリは現時点で “壊れた会社”ではなく、“語り直しを迫られている高級ブランド株” だと考えます。
短期で見るなら、今回の急落はかなり強いセンチメント悪化です。
新車公開後の反応がここまで悪いと、しばらくは「EVどうするのか」という見出しで売られやすいです。特に高いプレミアムで買われてきた銘柄ほど、物語が揺らぐと値動きは大きくなります。だから短期では、ボラティリティが高い状態を覚悟する必要があります。
中期で見るなら、ポイントは二つです。
一つは、2026年通期ガイダンスを本当に達成できるか。
もう一つは、Luceに対する顧客反応が市場の初期反応ほど悪くないことを示せるかです。
もし受注やパーソナライゼーション収益が想定より堅調なら、今回の急落はオーバーシュートとして巻き戻される可能性があります。逆に、Luceがブランドの不一致を示すだけで終われば、プレミアム評価の縮小が進みやすいです。
長期で見るなら、フェラーリは依然として魅力があります。
受注残、利益率、フリーキャッシュフロー、ブランド力の蓄積は、簡単には壊れません。
ただし今後の投資判断は、昔のように「フェラーリだから持てばいい」ではなく、EV移行の中でもフェラーリらしい価格決定力を守れるかを見極める投資に変わっています。
つまり、以前よりも“物語を信じる投資”ではなく、“物語が数字にどう現れるかを待つ投資”に近づいています。
おわりに
今回のフェラーリ株急落は、表面的には「初の完全EVのデザイン批判」が引き金でした。
しかし投資家目線で見れば、もっと深い意味があります。
それは、フェラーリがこれまで築いてきた内燃機関・官能性・希少性の神話を、EV時代にも維持できるのかという問いです。Reutersが伝えた一時 8.4%安 という反応は、市場がその問いをかなり重く受け止めている証拠でした。
一方で、フェラーリの業績はまだ強いです。
2026年第1四半期の売上、利益、マージンは高水準で、通期ガイダンスも維持されています。受注残も2027年末まで積み上がっている。つまり、今回の問題は「足元が崩れた」ことではなく、「将来への説明がまだ十分に刺さっていない」ことです。
今回の結論を一言でまとめると、
フェラーリ株の急落は、初の完全EVそのものへの拒絶であると同時に、フェラーリという高収益ブランドがEV時代にも同じ魔力を保てるのかという市場の疑問が一気に噴き出した結果であり、回復期待は十分あるが、そのためにはLuceを“フェラーリらしい未来”として顧客と投資家に納得させる必要がある
ということです。
つまり、いまのフェラーリは、
業績はまだ強い
ブランドはまだ強い
でも市場はその未来像に不安を持ち始めた
という状態です。
投資家としては、ここから先の数四半期で、その不安が単なる過剰反応だったのか、本当の評価修正だったのかを見極める局面に入ったと考えるのが自然です。
【重要】免責事項
投資判断の最終責任: 本記事で紹介している銘柄やセクター、分析内容は、情報提供および学習の啓発のみを目的としており、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、必ずご自身の判断と責任で行ってください。
成果の非保証: 過去のデータや予測は、将来の投資成果を保証するものではありません。市場環境の変化により、資産が減少するリスクがあります。
情報の正確性: 2026年時点の情報に基づき作成されていますが、その正確性や完全性を保証するものではありません。最新の業績やニュースは、必ず各企業のIRサイトや一次資料でご確認ください。
損失の補償: 本記事の内容に基づいて被ったいかなる損害(直接的・間接的を問わず)についても、筆者は一切の責任を負いません。
監修者:市川雄一郎
GFS校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長




