
バークシャー・ハサウェイが日本の商社を選ぶ理由|最新動向と投資の本質を解説
第1章:はじめに —— 世界が注目する「バフェット×日本商社」の構図
「投資の神様」と称されるウォーレン・バフェット(Warren Buffett)氏が率いる米国の投資・保険持株会社バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)。そのバークシャーが日本の5大総合商社(伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅)の株式を大量取得し、段階的に買い増しを続けているニュースは、世界中の金融市場に巨大な衝撃を与えました。
かつて日本株市場は、海外の機関投資家から「成長性の薄い市場(Value Trap=割安のまま放置される罠)」と見なされる局面が少なくありませんでした。しかし、バフェット氏が日本の大手商社群に巨額の資金を投じたことで、世界中の投資家の目線は一変しました。
本稿では、「なぜバークシャーは日本の総合商社を選んだのか」「これまでの経緯と最新の保有状況」「総合商社という日本独自のビジネスモデルの強み」、そして「私たちがこの大型投資から学べる金融・投資のの本質」について、初心者にも理解できるよう体系的にわかりやすく解説します。
監修者:市川雄一郎
GFS校長。CFP®。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。 グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。
日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、講演依頼、メディア出演も多数。著書に「投資で利益を出している人たちが大事にしている 45の教え」(日本経済新聞出版)
公式X アカウント 市川雄一郎@お金の学校 校長
第2章:バークシャー・ハサウェイとウォーレン・バフェットとは?
日本の商社との関係性を紐解く前に、まずは「バークシャー・ハサウェイ」という企業と、その指揮を執ってきた「ウォーレン・バフェット」という人物について基礎的な概念を整理しておきましょう。
【バークシャー・ハサウェイの構造】
┌─────────────────────────────┐
│ バークシャー・ハサウェイ │
└──────┬────────────┬────────┘
│ │
┌───┴────┐ ┌───┴─────┐
│ 傘下の事業会社 │ │ 株式投資ポート │
│ (保険・鉄道・ │ │ フォリオ │
│ エネルギー等) │ │ (アップル、 │
└────────┘ │ 日本の5大商社等)│
└─────────┘
1. ウォーレン・バフェットとバリュー投資の哲学
ウォーレン・バフェット氏は、世界で最も成功した投資家の一人です。彼の投資スタイルは「バリュー投資(割安株投資)」と呼ばれます。
バリュー投資とは、単に株価が下がっている企業を買うことではありません。「企業が本来持っている本質的価値(Intrinsic Value)」に対して、「市場でついている株価」が割安であると判断した際、長期的な視点でその企業の株を購入し、保持し続ける手法です。
バフェット氏の教えには、次のような名言があります。
「株式市場は、短期的な投票機(感情で動く)だが、長期的な計量器(企業の価値で動く)である。」
「理解できないビジネスには投資しない。」
2. バークシャー・ハサウェイという存在
バークシャー・ハサウェイは、元々は繊維メーカーでしたが、バフェット氏が買収した後に保険業を中心とした複合企業(コングロマリット)へと変貌を遂げました。
保険事業で集まる保険料(フローティング・キャッシュ=事故等の支払いに備えて預かっている現金)を原資とし、優れた企業をまるごと買収するか、あるいは株式市場で割安な株を買うことによって、数十年間にわたり驚異的なリターンを叩き出してきました。
・投資で収入を得たい、資産を増やしたい YES or NO
・リスクはできるだけ抑えたい YES or NO
・投資先の見極め方を知りたい YES or NO
・成功している投資家と接点が欲しい YES or NO
・物価上昇への対策には投資が必要と考えている YES or NO
第3章:日本の「総合商社」という独特なビジネスモデル
バークシャーの投資対象となった「5大商社」とは、具体的に以下の5社を指します。
伊藤忠商事
三菱商事
三井物産
住友商事
丸紅
世界的には「商社(Trading Company)」という業態は極めて珍しく、日本独自の進化を遂げたビジネスモデルと言えます。
1. ラーメンからロケットまで:トレーディングから事業投資へ
歴史的に商社は、自国に資源が少ない日本において、原料を輸入し、製品を輸出する「貿易仲介(トレーディング)」を中心に成長してきました。しかし、単なる仲介手数料(口銭)ビジネスは、インターネットの普及や物流の効率化によって収益性が低下していきました。
そこで現代の総合商社は、「事業投資会社」へと劇的な変貌を遂げました。
トレーディング業務:石油・天然ガス・鉄鉱石・食料などの調達・流通。
事業投資業務:鉱山開発、発電プラント、コンビニエンスストア(ローソンやファミリーマート)、ヘルスケア、ITインフラなど、世界中の現場に自ら資金と人材を送り込み、事業運営に関与して利益を得る。
2. 世界に類を見ない「分散投資ポートフォリオ」
総合商社の強みは、その多様性(ダイバーシフィケーション)にあります。
例えば、エネルギー価格(石油や石炭)が暴落した時期でも、食料事業やIT事業、インフラ事業が下支えをして利益を維持できます。企業の中に「多様な事業の集まり」が存在するため、まるで「ひとつの会社自体が世界経済に投資する優れた投資信託のような構造」をしているのです。
第4章:これまでの経緯 —— 発覚から買い増しへの軌跡
バークシャーと日本の商社との関係は、突然始まったわけではありません。数年の歳月をかけて、極めて綿密に、かつ淡々と進められてきました。
【時系列で見るバークシャーの日本商社投資】
2019年頃 :バークシャーが水面下で日本商社株の取得を開始
2020年8月 :バフェット氏の90歳の誕生日に「5大商社株の約5%取得」を電撃発表
2022年〜2023年:保有比率を約6%〜7%台へ段階的に拡大
2023年4月 :バフェット氏が来日。商社首脳陣と対談、「買い増し」を示話
2024年〜2025年:上限とされていた「10%未満」の上限撤廃方針を表明、10%超えへ
2025年5月 :株主総会にて「今後50年売却しない」旨の発言
2026年 :グレッグ・アベル新体制下でも追加買い増しが判明、主要各社で10%超へ
1. 2020年8月:市場を揺るがした電撃発表
2020年8月31日、バフェット氏の90歳の誕生日に、バークシャーは日本の5大商社(伊藤忠、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅)の株式を、それぞれ約5%ずつ取得したことを公表しました。
当時はコロナ禍の真っ只中であり、世界経済の先行きが不透明だった時期です。日本株市場全体が低迷していた中でのこの発表は、「日本の商社にこれほどの価値があったのか」と、世界中の投資家を驚かせました。
2. 2023年4月:歴史的来日と「追加買い増し」の意向
2023年4月、バフェット氏は約12年ぶりに来日しました。商社各社のトップと直接面会し、信頼関係を深めるとともに、日本経済新聞などのメディア取材に対して「保有比率を将来的に最大9.9%まで引き上げる可能性がある」と言及しました。この来日劇は「バフェット・フィーバー」を引き起こし、外国人人投資家による日本株買いの大きな引き金となりました。
3. 2025年〜2026年:保有比率10%超えと「50年持ち続ける」宣言
当初、バークシャーは「各社の承認なしに10%以上の株式は取得しない」としていましたが、商社各社との良好な関係を背景に、方針をより柔軟に変更しました。
2025年のバークシャー年次株主総会にて、バフェット氏は退任を控えたCEOとして臨み、商社株について「私が去って50年後であっても、後継者が同じように保有し続けているだろう。この投資には何の懸念もない」という趣旨の発言を残し、半世紀単位での長期保有姿勢を明示しました。
さらに、バフェット氏から経営を引き継いだグレッグ・アベル(Greg Abel)新CEOのもとでもこの戦略は揺らぐことなく継承されています。2026年公表のレポートや関連開示によると、伊藤忠商事、三菱商事、三井物産などの主要商社におけるバークシャーの保有比率はすでに10%を超過しており、投資総額は数十億ドル(数兆円規模)に達しています。
第5章:なぜバークシャーは日本の商社を選んだのか?(5つの本質的理由)
投資の神様が日本の総合商社に魅了された理由は、金融・投資の理論から見ても非常に理にかなっています。主な理由は以下の5点に集約されます。
理由①:圧倒的な「割安感(低PER・低PBR)」と高い配当利回り
投資を始めるときに必ず学ぶ指標にPER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)があります。
PER(Price Earnings Ratio):企業の利益に対して株価が何倍まで買われているか(低いほど割安)。
PBR(Price Book-value Ratio):企業の解散価値(純資産)に対して株価が何倍か(1倍未満は解散した方がマシと言われるほど割安)。
バフェット氏が買い始めた2019〜2020年当時、米国の主要IT企業(アップルやマイクロソフト等)のPERが25〜30倍以上、PBRが数倍〜十数倍で取引されていたのに対し、日本の総合商社はPERが6〜8倍前後、PBRが1倍を大きく割り込む(0.6〜0.8倍程度)という極端な放置状態にありました。
それにもかかわらず、毎年安定した配当金(配当利回り4%〜6%以上)を出していたため、バフェット氏にとっては「金の卵を産む鶏が安値で売られている」状態に見えたのです。
理由②:円建て社債(円建て調達)による「無リスク・金利差益 arbitrage」の神業
この投資が「伝説的」と評される最大の理由は、その資金調達の手法にあります。
通常、米国の投資会社が日本の株を買う場合、米ドルを日本円に両替して買います。しかしこれでは「為替リスク(円安・ドル高になると損をするリスク)」が発生します。
バフェット氏はどうしたでしょうか?
彼は日本の金融市場で「円建ての社債(バークシャー社債)」を発行して日本円を調達しました。当時、日本の金利は超低金利(0.5%〜1%程度)でした。
【バフェット氏の魔法のような資金スキーム】
① 日本の市場で円建て社債を発行し、低金利(例:1%)で日本円を借りる
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▼
② その借りた円で、高い配当を出す日本の商社株(配当利回り 例:5%)を買う
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③ 差し引き「+4%」の利ざや(利回りの差額)が手元に残る!
(自身の手持ち資金をほとんど使わずに利ざやを獲得)
自国の資金を危険にさらすことなく、日本の低金利を活用して配当収入を得るという、教科書通りかつ完璧な金融スキームを構築したのです。
理由③:ビジネスの「多様性」とバークシャーとの親和性
前述の通り、総合商社は石油・金属などの資源から、食料・流通・電力・ITに至るまで事業が多岐にわたります。
これは、バークシャー自身が保険、鉄道、エネルギー、製造業などを傘下に持つ「コングロマリット」である点と構造が極めて似ています。バフェット氏にとって商社のビジネスモデルは、「自分が最も得意とし、リスクを的確に評価できる領域」だったのです。
理由④:株主還元(増配・自社株買い)への意識改革
日本の企業は長年、「現金を内部留保として溜め込み、株主に還元しない」と海外投資家から批判されてきました。
しかし、東京証券取引所(東証)による「PBR1倍割れ企業への改善要請」やコーポレートガバナンス改革の波に乗り、大手商社は経営方針を劇的に転換しました。
累進配当(減配せず、維持または増配を続ける方針)の導入
積極的な自社株買い(市場に出回る株式を買い取って消却し、1株の価値を上げる)
商社経営陣が資本効率(ROE=自己資本利益率)を重視する姿勢を強めたことは、株主を第一に考えるバフェット氏の理念と合致しました。
理由⑤:優秀な経営陣と世界中に広がるネットワーク
バフェット氏は「ビジネスのモデルが優れていること」と同等に、「経営陣が誠実で優秀であること」を重視します。日本の総合商社には、世界各地の政財界に太いパイプを持ち、リスク管理を徹底しながらグローバル投資を行える優秀な人材が集まっています。バフェット氏はインタビューでも、商社各社の経営陣に対する深い敬意と信頼を繰り返し口にしています。
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第6章:最新情報 —— 2025年〜2026年の動向と今後の展望
現在、この「バークシャー×日本商社」の関係性は新しいフェーズに入っています。
1. 新最高経営責任者(CEO)グレッグ・アベル体制への移行
ウォーレン・バフェット氏からバトンを受け継いだグレッグ・アベル新CEO体制のもとでも、日本株(商社株)への投資戦略方針に変調はありません。アベル氏はエネルギー部門のトップを務めてきた人物であり、商社が手掛ける電力・インフラ・資源分野の価値を誰よりも理解しています。株主への手紙(株主書簡)においても、日本商社への投資がバークシャーにとって極めて有益な資産であることが改めて強調されています。
2. 単なる「株式保有」から「事業連携」への進化
当初は純投資(配当や値上がり益目的)の意味合いが強かったこの投資ですが、近年では「バークシャー傘下の事業会社と、日本の総合商社との共同事業・ビジネス提携」へと進化しつつあります。
例えば、以下のような領域での協業が模索・推進されています。
脱炭素・クリーンエネルギー分野:水素・アンモニアサプライチェーンや再生可能エネルギー事業。
物流・サプライチェーン分野:北米やアジアにおける産業インフラの共同開発。
保険・金融分野:リスクマネジメントにおける協力。
商社側にとっても、バークシャーの巨大な信用力と資金力背景を活用できるため、双方にとって強力なシナジー(相乗効果)が生まれています。
第7章:初心者向け —— この事例から学ぶ「金融・投資知識」の重要性
ここまで読まれた方の中には、「すごい話だけど、大投資家や大企業の話で自分には関係ないのでは?」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、この「バークシャーと日本の商社」のニュースには、個人投資家が資産形成を行う上で必須となる「投資の本質」が凝縮されています。
以下に、初心者が今日から活かせる重要なマネーリテラシーをまとめました。
1. 「みんなが無視している価値」を探す(バリュー投資の真髄)
バフェット氏が商社株を買い始めた2019〜2020年頃、一般の投資家は「日本株は終わっている」「商社は古くさい」と見向きもしていませんでした。
しかし、バフェット氏は周囲の評判や感情に流されず、決算書(財務諸表)をチェックし、「企業の本当の価値(稼ぐ力)に対して、株価が安すぎる」という事実だけを見つめました。
学び:株式投資で成果を出すには、流行り廃りや世間の噂(SNSのトレンドなど)に惑わされず、数字と本質に基づいた客観的な判断をすることが重要です。
2. 「配当(インカムゲイン)」の再投資がもたらす複利効果
商社株の魅力の一つは、安定して支払われる配当金(配当利回り)です。
例えば、年4%〜5%の配当を出す企業の株を持っていれば、株価自体が大きく動かなくても、保有しているだけで毎年定額の現金が入ってきます。その得た配当金をさらに別の投資に回すことで、資産が加速度的に増えていく「複利(ふくり)効果」を得ることができます。
学び:一攫千金を狙う値上がり益(キャピタルゲイン)だけでなく、持っているだけでお金を生み出してくれる資産(インカムゲイン)を持つ意識が、長期的な資産形成を安定させます。
3. リスクを管理する「分散投資」の重要性
総合商社という存在自体が、エネルギー、食品、機械、金属などに事業を分散させているため、特定の業界が不振になっても全体でカバーできる構造になっています。
バフェット氏もまた、商社1社だけに集中投資するのではなく、「5大商社すべてをパッケージのように買い揃える」という手法をとりました。
学び:自分の資産を投資する際も、「特定の1社」「特定の1国」に集中させるのではなく、国や地域、業界を分散させることが、不測の事態から資産を守る最強の防壁となります。
4. 金融リテラシーが「見えないチャンス」を可視化する
バフェット氏が「円建て社債を発行して、商社株の配当との差額で儲ける」という手法を取れたのは、彼自身が「金利」「為替」「社債」「株式」という金融の仕組みを完璧に理解していたからです。
お金知識(金融リテラシー)がないと、世界で何が起きているのかを正しく理解できず、せっかくのチャンスが目の前を通り過ぎても気づくことができません。
第8章:まとめ —— 変化する時代の中で私たちが取るべきアクション
バークシャー・ハサウェイによる日本の総合商社への投資は、単なる一企業の成功物語にとどまりません。日本の市場が持っていた真の価値を世界に証明し、日本企業の経営意識をグローバル標準へと押し上げる歴史的な転換点となりました。
そして、この事例は私たち個人に次のことを教えてくれています。
本質的な価値を見抜く目を養うこと
短期的な市場のノイズに惑わされず、長期的な視点を持つこと
お金や金融の仕組み(金利、配当、分散投資など)を学び続けること
これから新NISA(少額投資非課税制度)やiDeCoなどを活用して資産形成を始めようとしている方にとっても、ウォーレン・バフェット氏と日本商社の物語は、時代を超えて通用する「最高の教科書」です。
まずは身近な企業の決算書を眺めてみたり、経済ニュースで商社の動きをチェックしてみることから始めてみてはいかがでしょうか。金融の知識という武器を手に入れることで、世界の見え方がこれまでとは大きく変わってくるはずです。
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